著者
中村 るみ
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.磁気嵐/サブストームに伴う磁気圏尾部内でのプラズマ流の変動GEOTAIL衛星データを用いた磁気圏尾部内部でのプラズマ流の解析結果を基に,サブストーム、磁気嵐等の擾尾現象に伴う粒子加速の開始領域について議論した。GEOTAILによる、従来より広範囲での観測結果から、加速された粒子が再分配される際に起こる、尾部に向かってのエネルギー解放がどのように進行し、磁気圏構造が変動するかを示唆した論文を発表した。2.磁気嵐時の磁気圏構造と磁気圏尾部に蓄られるエネルギー量の導出GEOTAIL衛星が磁気圏遠尾部境界付近に位置していた期間のデータを用いて、磁気圏尾部のサイズ、磁気フラックス量を求め、磁気嵐/太陽風変動に伴う磁気圏形状と磁気圏遠尾部内に蓄積されるエネルギーの変動を調べた。その結果、磁気圏遠尾部断面の形状が磁気嵐各相での太陽風/惑星空間磁場の圧力の非等方性により変形することや、100Re以遠の磁気圏尾部領域でも、磁気嵐に伴い、磁場のエネルギーの蓄積が、見られることが明らかとなった。本研究テーマについての結果をまとめた論文は現在、印刷中である。3.磁気嵐に伴う高エネルギー粒子フラックスから求めた内部磁気圏構造の変動極軌道衛星SAMPEXの1MeVの電子データを用いて、磁気嵐に伴う内部磁気圏の粒子分布の変動を統計的に調べた。特に、L=2〜8の領域での電子データに見られる急激な減少/増加が、環境流発達に伴う磁場変動が引き起こす捕捉粒子軌道の変化が原因とした場合に、どの程度解釈できるかを、環電流のモデルを使って比較することで考察した。結果については、現在投稿準備中である。
著者
田甫 綾野
出版者
玉川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、家庭科における「触れ合い体験」学習を、家庭科教育における視点からだけではなく、幼児教育の視点からも意義あるものとするためのプログラムの構築を行なった。様々な幼児をめぐる世代間交流の参与観察の分析の結果、「身体的同調性」が高く、「共感性」が高い交流については、互恵性が高く、その後の活動や学びにも影響を与える交流となることが明らかとなった。そのためには、年少者の興味関心が高く、さらには年長者がその活動の魅力やおもしろさを実感し、異なる役割をもつのではなく〈共に活動を楽しむ〉ことが重要であると考察された。
著者
宮脇 さおり
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

近年、ケモカインであるSDF-1(CXCL12)がヒト皮膚において間質、線維芽細胞、表皮細胞などに発現していることが報告されていたが、その生理機能は未知であった。我々はSDF-1が濃度依存性に表皮角化細胞の細胞遊走を促進させることを見出した。さらにその細胞遊走にはEGF受容体の活性化とそれに引き続くERK(p42/44)の活性化が中心的な役割を果たしていること明らかにした。
著者
小張 敬之 木村 みどり 木村 みどり
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ELPcoは、日本ユニシスと協力してLMsを開発してきた。LMsが、iPod等の携帯ツールを利用することにより、e-1earningやm-1earningを可能にし、新しい技術を統合的に利用して学習することが、学生の興味・関心を高め、自立した学習者を養成し、効果的な学習成果をあげている。ネットワークを利用した英語学習において、携帯電話は小さなコンピューターとして機能し、ドリルやテスト、チュートリアルやWeb上でのSocial learningも可能である。我々の研究により、新しい技術を融合したブレンド型の学習を通して、より理想的な指導と学習環境を提供できることが判明した。学習者は現在、モバイルコンピューターの技術発展により、時間と場所を問わずにあらゆるテーマに関する学習ができる。
著者
河野 公一
出版者
東北工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,ロシア極東地域で毎年発生している森林火災の状況を把握するため,衛星画像を用いて7年間分の解析を行った.その結果,焼け跡は4月と10月に多く,また,火災煙は5月に多く検出された.これらの結果の分析から,前年の10月の焼け跡がその後に雪で覆われ,翌年の4月に雪が融けて再び検出されることが分かった.さらに,5月に多く観測される火災煙の発生場所は,前年の10月の焼け跡の多くと一致していることも分かった.提案法ではこれらの情報を複合的に用いることにより,森林火災の発生メカニズムの一つを明らかにした.
著者
田久保 圭誉
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

造血幹細胞(HSC)はニッチと呼ばれる特殊な微小環境で維持される。本課題ではHSCは骨髄内骨膜近傍領域において低酸素状態で細胞周期を静止期にとどめていることを見出した。また、こうした性質の維持のためには低酸素応答因子HIF-1alphaとその蛋白を破壊するために必要なE3 ユビキチンリガーゼVHLが必須であり、HIF-1alphaが失われるとHSC は老化してストレス耐性を失った。一方、VHL欠損でHSCの細胞周期がより静止状態になったことから、HIF-1/VHL制御系の精密な制御はHSC維持に必須であることが示された。
著者
原 大介
出版者
豊田工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

日本には「中間型手話」呼ばれるタイプの手話があり、一般的には日本手話と日本語対応手話の文法が混ざり合ったものであると言われるが、明確な「混合」は確認できなかった。聴者が使う中間型手話は、音声日本語のフットをリズムの単位として利用する傾向がある。語表出の時間は日本手話よりも30%超長い傾向にあった。取扱い分類辞と道具分類辞の使用比率においては、聴者の中間型手話は、日本手話や手話を知らない日本語話者のジェスチャーにおける使用比率と有意に異なっており物品のどの側面に着目しCLとして表現するかに独自性が見られた。ろう者が使用する中間型手話は、表出方法は簡略されるが日本手話文法に依存する傾向が強かった。
著者
広瀬 慎一
出版者
富山県立大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

富山県高岡市の玄手川(延長3km)は農業用排水路で、効率的な排水処理と、小魚のトミヨや水草のナガエミクリを中心とした生態系の保全の両立を目的として、水路底の80%をコンクリートとする近自然工法で改修された。また、中流部100mには水路底を砂利舗装とした生態系保護区が設けられた。施工前後約10 年間にわたるモニタリングの結果、近自然工法については、湧水は元に戻り、堆砂は適度で、トミヨやナガエミクリなどの生態系は回復した。排水処理のための水草刈りは、やり易くなったとの農家の評価であった。生態系保護区(ワンド)については、植生は近自然工法の本川よりす早く回復し、トミヨは施工前より倍以上の密度となった。また、水路断面の詳細流速分布調査から、水草内領域における流速は、水草外領域の流速の約3割であり、トミヨが長時間遊泳できる流速(巡航速度)が水草内領域で実現されていることがわかった。以上から、近自然工法と生態系保護区(ワンド)を組み合わせたミチゲーション(影響緩和)手法」が排水処理と生態系保全の双方に効果的であることがわかった。
著者
関口 豊三 丸野内 様 吉田 廸弘 山岸 秀夫 岡本 尚 岩倉 洋一郎
出版者
(財)河野臨床医学研究所
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1988

1)、発癌遺伝子の可能性が疑われているヒト成人性T細胞白血病ウイルスHTL-1 tax-1遺伝子を正常骨髄細胞に移入して、これを放射線照射を受けたマウスに注入してキメラマウスを作成し、或いはこのtax-1遺伝子をマウス受精卵に移入を行ってトランスジェニックマウスを作成し、個体レベルにおけるtax-1遺伝子の作用を分析した。サーザン解析によってtax-1遺伝子が検出されたキメラマウスの胸腺、脾では未熟なリンパ球がビマン性に浸潤し、髄質の構造が失われ、T細胞の分化、成熟の抑制が認められた。又、トランスジェニックマウスでは胸腺の萎縮が著明で、発育低下、早死にするものが多く、生長したものでは「悪性リンパ腫の他「肺ガン」,皮膚の「線維肉腫」,末梢神経の「シュワノーム」等の種々のがん発生がみられ、且つこれ等がん組織でtax-1の遺伝子の発現が認められたので、tax-1そのものが発癌遺伝子であることが示された。又、ヒト免疫不全病ウイルス(AIDS,HIV)tatIII遺伝子がTNFの共存下で、HIV遺伝子発現を著明に増強することが見出され、TNFはHIV-LTRの「エンハンサー」を介して作用すること明らかとなった。2)、胸腺の染色体外環状DNAの分析から、これらがT細胞受容体α鎖及ζ鎖遺伝子の再配列の結果、切り出されたものである事が初めて明らかにされた。又、ヒト胃癌由来の発癌遺伝子HST1をヒト第11染色体の長腕(q13-3)に位置付けした。又、これら胃癌で別の発癌遺伝子INT2が同時に増幅していることが見出された。3)、ヒト白血病細胞U937に発癌遺伝子v-mosを移入するとマクロファージに分化することが見出された。又、ヒト小細胞肺癌細胞をビタミンA欠乏状態で培養することによって悪性度の低い腺癌様細胞に分化することが見出された。今后はHIV-tatIII遺伝子移入トランスジェニックマウスの作出を行いAIDSの分析を行う予定である。
著者
本田 光子
出版者
東京芸術大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

昨年度にひきつづき、十七世紀初頭に活躍した絵師、俵屋宗達の主要作品を分析対象とした。本年度の成果の一部は「宗達筆「源氏物語関屋・澪標図屏風」の造形手法」として『東京藝術大学美術学部論叢』7号(2011年刊行予定)に掲載される。「源氏物語関屋・澪図屏風」(静嘉堂文庫美術館蔵)は古典物語を主題とする金地大画面作品として重要な作例であり、もと伝来した醍醐寺に関わる資料が発見されたことで制作年や注文主がほぼ特定され、近年注目を集めている。本研究では、源氏絵および物語の舞台となった住吉を描く関連作例が相次いで紹介されていることをうけ、主に造形面から作品に考察を加えた。論点はモチーフの配置方法、背景の設定、両隻で相似形となる構図であり、相似形の構図が左右隻の入れ替えを可能としていることを指摘した。すなわち物語の順では「関屋図」が右に位置するが、これまで図版掲載や展覧会では左に置かれることが多かったのである。その理由と、どちらの配置をも想定させる造形要素について論じ、宗達の機知的な表現手法を浮き彫りにした。本年度はさらに、昨年調査を行った宗達筆「雲龍図屏風」(フリーア美術館蔵)を中心に、宗達と他の琳派の絵師による水墨画について、「たらしこみ」技法を軸とする分析をすすめた。主に用語が近代以降に定着する様相、技法成立に関する諸説の分析、宗達活躍期とそれ以後の用法の違いについて、現在論考をまとめている。
著者
津止 正敏 斎藤 真緒
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は近隣コミュニティとその動力を焦点化している。従来の堅固で安定的なコミュニティ開発の中核的動力は、階層化を伴いつつ不安定で流動化という変容過程にある。コミュニティ開発を担うボランタリーアソシエーションもNPO等新たな主体も影響力を強めている。開発主体の変容は、「エリア・テーマ・クラス」の三位一体型コミュニティ・タイプから、「エリア」「テーマ」「クラス」それぞれに分離独立あるいはクロスオーバーする複雑なコミュニティ・タイプを不可避としている。
著者
中村 由美子 宗村 弥生 内城 絵美 伊藤 耕嗣 杉本 晃子 鳴井 ひろみ 吹田 夕起子 澁谷 泰秀 浜端 賢次 杉本 晃子 権 美子
出版者
青森県立保健大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,病気の家族メンバーがいる家族へのケアを支援するために,項目反応理論を用いた家族機能尺度の有用性について検討することを目的とした。病気の家族メンバーには、がん患者や介護の必要な高齢者を含んでいた。有効回答を得られたのは195名(男性52名,女性142名)であった。構造方程式モデリング手法(共分散構造分析)を用いてモデルを構築した結果,"家族機能"と"QOL"という2つの構成概念が直接影響を及ぼすことが示された。また,項目を洗練化するために,合計19項目からなる尺度を項目反応理論(IRT)によって分析した。項目反応理論を用いた分析は,項目の洗練化だけではなく家族機能モデルの開発にも有用であった。
著者
沖津 進 百原 新 守田 益宗 苅谷 愛彦 植木 岳雪 三宅 尚
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,本州中部日本海側山地において,高山・亜高山域での最終氷期以降の植物群と環境の変遷史を,湿潤多雪環境の推移および植物地理的な分布要素に基づき整理した植物群の挙動を中心として,固有性の高い植物群落の形成過程に焦点を当てて明らかにし,「乾燥気候が卓越した最終氷期時にも,より湿潤な気候下に分布するベーリング要素植物群が,地形的なすみわけを通じて共存分布していた」との,全く新しい植物群・環境変遷史を提示した.
著者
五島 正裕 坂井 修一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

SIMDは,ベクトル処理の方式として中心的な地位を占めているが,プログラマビリティに問題があり,複雑化するアプリケーションに対処することができない.本研究は,プログラマビリティと最大性能を両立することを目標とする.Switch-on-Future-Eventマルチスレッディングは,プログラマビリティを犠牲にすることなく,最大で33.5%の性能向上を達成することができる.マルチスレッディングのために生じるレジスタ・ファイルの大型化は,非レイテンシ指向レジスタ・キャッシュ・システムによって緩和することができる.シミュレーションにより,回路面積は24.9%にまで削減できることが示された.
著者
平内 健一
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は蛇紋岩を用いた摩擦実験を行い,沈み込み帯プレート境界における蛇紋岩の存在状態とその流動特性に関する研究をさらに進める目的で,以下のとおり実施した.1.実験はユトレヒト大学設置の熱水回転剪断装置を用いて行い,温度20^~500℃,有効法線応力200MPa,間隙流体圧200MPa,滑り速度0.1^~30μm/sの条件で行った.試料は厚さ約1mmの蛇紋石と石英の混合粉末試料を断層模擬物質(ガウジ)として用いた.2.結果:試料は,温度300^~500℃の条件において,初期の最大摩擦強度後(変位1^~2mm),定常状態に至るまでに著しい歪弱化を示した.弱化の程度は,温度の上昇および滑り速度の低下に伴い増加する傾向が見られた.また,薄片観察の結果,弱化は滑石を伴うboundary(B)shearの発達に起因して起こり,B shearの層厚が増加(最大70μm)するに従ってガウジ全体の摩擦強度が減少していくことがわかった.3.結論:本実験は,前弧マントルウェッジにおいてシリカに富んだスラブ由来の流体が供給されれば,蛇紋石とともに滑石が形成される可能性を示唆する.滑石の生成は不均質で断層境界に平行なB shearとして存在し,著しい歪弱化を引き起こす.定常摩擦強度値は温度と滑り速度に関係するが,これはそれぞれの実験中に溶解したシリカの生成量の違いによって説明できる.滑石は蛇紋石よりも摩擦強度が非常に弱いため,沈み込みプレート境界近傍に形成される薄い滑石層がプレート境界全体のレオロジーを支配すると思われる.
著者
小草 牧子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

本年度の研究は、前年度の基礎研究の総括とその研究分析結果をもとにした構法開発が主であった。基礎研究の総括としては、まず個々に行われている研究を収集しそれらを体系化することがベースとなる。また、遊牧型住居に限らず、自然材料を使用している在来構法についても同様であるが、これらの住居形態は、「原始的住居形態」として位置付けられた上で取り上げられていることが多いため、本研究では、さらにそれを発展させ、住居環境や構法システムなどの評価を行い、現代への技術移転や構法開発に関する研究に展開させた。その際、構築される評価システムは1960年代半ばに生まれたPOEの概念を参考にし、これまでに細分化され試みられた評価方法から、評価項目の検討と評価指数の設定に関して分析し、独自の評価分野と項目、指数設定を行い評価を試み、その結果を構法開発にフィードバックするものであった。発展途上国において、在来構法を応用した経済的、合理的な構法開発を行うためには、構法システムについて考察する必要があり、そのシステム開発においては、これまでの建築生産の変遷を調査、分析することが不可欠であった。建築産業の分野としては、特に大量生産の時代におけるユニット方式、プレファブリケーションによる部品の大型化やBE(Building Element)論について、また、建築家による仮設住宅やアフリカでの住宅提案、軍事用仮設建築について、さらには、UNDROやUNHCRなどの活動報告による、近年の災害時や難民キャンプなどで必要とされる仮設住宅の提案、実験について、それぞれの分野でのデータ収集と分析研究を行った。また、これまでの基礎調査とパイロットプロジェクトを踏まえて、技術移転を利用した学校施設計画と実際の建設活動を行っているが、この構法計画において日乾し煉瓦の開発を行い、環境に適した建築資材の提案を行ったという意味で、途上国の抱える施設不足の解決糸口として評価できるものであり、同時にサスティナブルな開発援助手法を示唆するものとなった。
著者
三好 美織
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

科学的素養の内実は、科学そのものの知識のみならず、現実社会で必要とされる問題解決や科学的手続きに関わる能力と態度をも含むものであり、それらを総合的に運用することのできるコンピテンスとして捉えられる。学校教育において科学的素養を育成するために、小学校から高等学校まで方向性を一にした一貫性あるカリキュラムの作成、評価規準の具体化、実際的で多様な文脈を基盤とした児童・生徒を主体とする探究的な学習活動の導入、及び教員に対する情報提供と支援が必要である。また、学際的な学びを実現するため、既存の教科の枠組みをこえた新たなカリキュラムを検討する必要がある
著者
稲見 華恵
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究では、宇宙の星形成を支配する高光度赤外線銀河について多角的・統計的・定量的に調査した。特に、日本の「あかり赤外線天文衛星」および米国の「スピッツアー赤外線宇宙望遠鏡」を駆使したことにより、新しいエネルギー源診断法の確立とスターバースト銀河における物理化学状態を明らかにした。特に、本研究のサンプルは、近傍宇宙のLIRGsを網羅したものであり、初めて均質かつ統計的なデータを用いることによりLIRGsの全体像を捉えた。本研究員が筆頭研究者として取得した、あかり衛星の2.5-5μm帯の近赤外線分光データを利用し、新たなエネルギー源診断の手法を確立した(図1)。この波長帯では、スターバーストを示唆するダスト粒子・多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbon,PAH)の輝線が3.3μmに、星形成率の指標となる水素原子の再結合線が4.05μmにあり、さらに、AGNに起因する高温の塵からの熱放射(連続光)を観測することができる。スピッツアー宇宙望遠鏡には、この波長帯を分光観測する装置がないために、この情報を得ることは一切できない。特に3.3μmのPAH輝線は、将来ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられた際に、非常に重要な役割を持つ。次に短い波長にあるPAH輝線は6.2μmであり、赤方偏移が4以上の遠方銀河では、望遠鏡の観測可能波長帯の外側(長波長側)にシフトしてしまい、観測が不可能になるためである。この成果により、遠方銀河にも応用することができる新しいエネルギー源診断法を初めて確立することができた。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の時代には、この業績は非常に重要になることが期待されている。これに加え、4.05μmの水素再結合線の等価幅を調べることにより、銀河を構成する星の年齢を明らかにした。この輝線と3.3μmのPAHダスト放射の放射強度比からは、近傍宇宙にあるLIRGsの電離度も調べることができた。近傍LIRGsの性質をこのように網羅的に調査した研究は初めてであり、これらの成果は高赤方偏移の銀河を調査するための基準点となる。
著者
菊地 和也
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

私の研究は政治経済学(political economics)と呼ばれる政治学と経済学の学際的分野に属する。主な研究目標は、政党と投票者の間に、政治的情報の非対称性が存在する場合に、政党がどのような公約を掲げるかを明らかにすることであった。現実の選挙では、政党は政策決定において重要な情報を私的調査機関や官僚を通じて得るため、投票者よりも豊富な知識を持つ傾向がある。こうした状況を記述するために不完備情報ゲームを構築し、そのベイジアン均衡を分析をした。論文Kazuya Kikuchi (2010), "Downsian political competition with asymmetric information : possibility of policy divergence"(ジャーナルに投稿済み)では、政党が完備情報を持つ一方、投票者は不完備情報を持つ状況を分析した。別の論文Kazuya Kikuchi (2011), "Privately informed parties and policy divergence," Global COE Hi-Stat Discussion Paper Series 160では、Kikuchi(2010)のモデルを、政党は完備情報を持たず、状態変数に関する私的シグナルを受け取る状況に拡張した。いずれのモデルにおいても、政策乖離を伴う均衡、すなわち二政党が異なる政策を公約として選択するベイジアン均衡が存在することが示された。さらに、前者の論文のモデルでは政策乖離を伴う均衡がHarsanyiとSeltenの意味で一様完全であり、後者の論文のモデルではベイジアン均衡自体の個数がある意味で少ないことが示された。これらは、情報非対称性の下での政策乖離を伴う均衡に注目することに、一定の正当性を与えるものと解釈される。