著者
篠田 純雄 斉藤 泰和
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.80-89, 1979-02-01

反応系に含まれる原子をその同位体で置換することによって生じる反応速度の変化(反応速度向位体効果)は,触媒反応機構を考察する上に有用な知見を与える.ここでは,その理論的背景について概説した後,最近の適用例の中で,反応速度向位体効果に基づいてどのような議論がなされているかを述べる.
著者
塩出 貴美子
出版者
奈良大学総合研究所
雑誌
総合研究所所報 (ISSN:09192999)
巻号頁・発行日
vol.19号, pp.92-124, 2011-03

筆者は先に奈良絵本の新たな一例として富美文庫所蔵の「ふしみときは」(以下、富美文庫本と称する)を紹介し、その藤園堂本とほぼ同じであること、一方、挿絵は西尾市岩瀬文庫所蔵の奈良絵本(以下、岩瀬文庫本と称する)と最も親近性があることを明らかにした。ただし、その時点では岩瀬文庫本の全容を把握していなかったが、その後の調査により、その図様の淵源は藤園堂本、さらにはサントリー本にまでさかのぼりうるであろうと考えるに至った。それは、つまり富美文庫本の図様の淵源もそこまで遡り得るであろうということである。本稿では、この点を明らかにするために、上記四作品の図様を比較する。また、併せて詞書あるいは本文と絵との関係を検討し、これらを通じて「ふしみときは」における絵巻と奈良絵本の関係を考察することにしたい。
著者
柳浦 睦憲 茨木 俊秀
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-I, 情報・システム, I-情報処理 (ISSN:09151915)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.3-25, 2000-01-25
被引用文献数
35

組合せ最適化問題に対する効率的な近似解法の一般的枠組みとして, 近年, 遺伝アルゴリズム, アニーリング法, タブー探索法やそれらの変形版など, 様々なアルゴリズムが提案されてきた.これらを総称してメタ戦略あるいはメタヒューリスティクスと呼んでいる.本論文では, これらメタ戦略に現れる様々なアイデアを, 近似解法の基本戦略である局所探索法の一般化ととらえることで, 体系的にまとめる.メタ戦略の一つの魅力は, その手軽さとロバスト性にある.この観点から, 次に, メタ戦略の基本的なアイデアのみで構成したシンプルなアルゴリズムを, 計算実験により比較した結果を述べる.これをもとに, 手軽なツールとしてのメタ戦略の設計指針を与える.そのあと, より多くの手間をかけても, 更に性能の高いアルゴリズムを構成したい場合に有効となる, やや複雑なアイデアについても簡単に紹介する.最後に, メタ戦略の理論的解析の話題にも言及する.
著者
舩山 隆
出版者
東京芸術大学
雑誌
東京藝術大学音楽学部紀要 (ISSN:09148787)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.47-63, 2002

本稿の執筆の直接的な契機になったのは、武満徹の死後、筆者のこの作曲家に関連した二つの仕事からである。一つは、パリ日本文化会館で開かれた音楽祭「武満徹-響きの海へ」(1997年10月1日〜10月14日)の企画構成、もう一つは、『武満徹著作集』全5巻(新潮社、2000年7月)の共同編集の仕事である。本稿は、前者の音楽祭での武満に関するレクチャーの原稿を全面的に加筆訂正したものである。本稿は、以下の4節、1)武満の歩んだ道、2)「響きの海」の思想、3)武満の歌、4)ワーク・イン・プログレスから成っている。武満は、矛盾に満ちた作曲家であり、初期の習作期から晩年に至るまで激しい様式転換を繰り返し、無調時代の作品と不確定性の思想と晩年の豊かな旋律を持つ調性音楽は、互いに相容れない性格を持っている。さらに、そのおびただしい数の「言葉の杖」と称した文章にも撞着が散見される。しかし本稿では、作曲家自身の言説を厳密に再検討し、作品の意味を再考するために、「響きの海」「歌」「ワーク・イン・プログレス」などの一定の詩学的・美学的視点を定め、この作曲家の音楽思想と音楽作品の本質を明らかにしようとした。武満の出世作は1957年の≪弦楽のためのレクイエム≫であるが、そこで提出される「音の河」という思想は、それ以前に執筆されたエッセイに見られる「沈黙」や「歌」や「アメーバー」を発展させたものである。そしてそれは1960年代のミュージック・コンクレートの≪水の曲≫に続き、さらに1970年の≪ウオーター・ウェイズ≫をはじめとする、一連の「水の風景」の音楽に引き継がれていく。そして同じ音楽思想が、ジェームズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』三部作、つまり1980年代の、ヴァイオリンとオーケストラのための≪遠い呼び声の彼方へ!≫、弦楽四重奏のための≪ア・ウェイ・ア・ローン≫、ピアノとオーケストラのための≪リヴァラン≫で、豊かな河と水のイメージの「響きの海」を作り出す。武満は音楽を個別的で閉ざされた固定した「作品」としてではなく、音楽を絶えず相対的で動的な「状態」、すなわち「ワーク・イン・プログレス」として捉え、完結と未完結のあいだを往復していたのである。武満と同時代の音楽、絵画、文学等との関連についても、このような視点から言及した。
著者
柳 繁
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.411-420, 2003-07-25
被引用文献数
2

「難しい式がたくさん出てくる」.これが信頼性理論に対する殆どの方の印象だと思います.また,一般的に用いられる用語と信頼性用語のギャップも気になります.この点に注意しつつ,本稿では信頼性評価のための数学モデルのさわりの部分を紹介し信頼性理論への橋渡しにしたいと思います.
著者
鈴木 保志 神崎 康一 川上 好治
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.528-537, 1993-11-01
被引用文献数
4

中国地方の1925年植栽のヒノキ人工林において, 1987〜1988年に間伐率約50%で優勢木を伐出したときの伐出後の林分の事後経過の調査を行った。伐出による被害は残存木の18%に生じていた。1993年の再調査までに台風害と雪害もあって, 24%が消失した。根についた傷の深さについては悪化する傾向を示したが, 直径成長は伐出被害木と被害木との間に有意な差は認められなかった。残存林分の成長の分析には材積年成長を樹幹表面積で割った値を指標として用い, 対照林分に比べて間伐後の成長は遜色がないことが確認された。
著者
前田 啓朗
出版者
広島大学
雑誌
広島外国語教育研究 (ISSN:13470892)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.109-116, 2005-03-31

This paper investigates two ways in which the English proficiency of students at Hiroshima University is measured: the TOEIC Bridge Test and the TOEIC Test. By administering two different forms of the TOEIC Bridge Test to participants, its test-retest reliability is confirmed. Correlation analyses between scores on the listening and reading sections show that the two sections reasonably measure different components of English proficiency. TOEIC Bridge Test scores were compared with TOEIC Test scores, using correlation analyses and regression analyses. As a result, it is shown that the two kinds of test scores correlate almost linearly, and that the estimation formulas can be used with caution to convert the two kinds of scores.
著者
杉山藤次郎 著
出版者
金桜堂
巻号頁・発行日
1887
著者
岩本 佳子
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.282-309, 2010-03

遊牧民の歴史研究において、定住化という現象は各地で見られてきたが、その要因や内容について明らかにされてきたとは言い難い。本稿では、法令集、租税台帳といった財務帳簿から、史料を作った行政側の遊牧民認識に主軸をおいて一六世紀前半の中央アナトリアに位置するボゾク県を対象として、遊牧生活を送っていた遊牧民が同地に急速に定住化していった理由を明らかにする。同時代のボゾク県では、行政側がボゾク県の住民を遊牧生活に従事する「遊牧民」から村に定住し農耕に従事する「農民」として扱うようにその認識が変化した。そのために、ボゾク県住民から徴收される諸税の大半が農耕に関連する税に移行し、部族集団から村単位で地域の区分がなされるに至り、村の大幅な増加を生んだ。すなわち、同地での「定住化」には住民を遊牧民ではなく農民として認識するようになったという行政側の認識の変遷が大きく寄与していたのである。
著者
吉田 真吾 加藤 尚之
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.231-246, 2005-12-25 (Released:2010-03-11)
参考文献数
44
被引用文献数
1

This paper reviews studies on the relation between the eventual earthquake size and its rupture nucleation size. Although a large number of studies have been made in order to find whether the seismic nucleation phase depends on the eventual earthquake size or not, this subject is still in controversy. Several recent papers have reported that the duration of the seismic nucleation phase scales with the final rupture size, and that the scaling relation can be explained by rupture nucleation models. These studies suggest that larger preslip occurs before a larger earthquake. On the contrary, other papers have reported that the seismic nucleation phase is independent of the earthquake size; earthquakes of all sizes initiate in a similar manner. Adding to these existing studies, we perform a numerical simulation of sliding behavior on a fault assuming two asperities of different sizes. The result shows that when the rupture of the small asperity triggers the rupture of the large asperity, short term preslip occurs at the small asperity, and the magnitude of the preslip does not depend on the eventual earthquake size. However, intermediate-term aseismic slip which occurs around the main asperity depends on the eventual earthquake size.