著者
田口 勇
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.355-372, 1991-11-11

人類の鉄使用のスタートは隕鉄から造った鉄器に始まったと現在考えられているが,これまでこの隕鉄製鉄器について自然科学的見地からの総括的な研究調査は行われていなかった。これらの隕鉄製鉄器を総括的に調査し,鉄の歴史のスタート時点を明らかにすることを目的として本研究を実施した。すなわち,隕鉄について隕鉄起源説,隕鉄の成因,隕鉄の分類,南極隕鉄,隕鉄の特徴などを詳細に調査した。さらにこれまでに発見された隕鉄製鉄器を国外と国内に分けて調査した。国外では古代エジプトの鉄環首飾り,古代トルコの黄金装鉄剣,古代中国の鉄刃戈と鉄刃鉞などを,国内では榎本武揚が造った流星刀などを調べた。さらに代表的な隕鉄であるギボン隕鉄(ナミビア出土)から古代でも可能な条件下でナイフを試作した。以上から,人類が鉄鉱石を還元して鉄を得た時期より,はるかに古くから人類は隕鉄から装飾品,武器などを造っていたことがわかった。隕鉄は不純物が少ない場合,低温度(1,100℃以下)でも加熱鍛造性はよいが,不純物が多い場合,加熱鍛造性はわるい。隕鉄の加熱鍛造性を支配している,主な元素としては,硫黄とりんが挙げられる。なお,造ったナイフは隕鉄固有の表面文様(変形したウィドマンステッテン組織による)を有したが,もともとの孔が黒い‘すじ’として残った。
著者
友田 明美
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.11-18, 2017 (Released:2018-10-31)

近年の脳科学研究の進展により,ヒトの脳の成熟のプロセスが緩徐に進行することがわかってきた. 例えば,前頭前皮質の成熟は20代後半まで進行する.一方で,感情と報酬感を制御している大脳辺縁 系の発達は,まだ前頭前皮質が未熟な10歳頃に始まる思春期にホルモン量が増えて成熟が促される. ヒトの脳は胎児期,乳幼児期,思春期に爆発的に成長するが,その時期は脆弱な時期でもある.とく に10代の若者では感情を司る大脳辺縁系と衝動的行動を抑制する前頭前皮質の成熟がミスマッチして いるからだ.すなわち,この不均衡のために前頭前皮質が未熟な10代の少年たちは危険な行動に走り がちだが,一方で環境が適切に整えられれば,それに素早く適応することも十分に可能な「脳の可塑 性(脳領域間のネットワークを変更することによって環境に応じて変化できる)」も考慮できる.現代 では,思春期の開始年齢は世界的に早まる傾向にあることが知られており,世界的に長くなってきて いる不均衡期間にある少年の脳を理解することは脳の可塑性の視点からも重要で,今後の脳科学研究 の大きな課題でもある.
著者
木村 祐哉 山内 かおり 川畑 秀伸 木村 祐哉 山内 かおり 川畑 秀伸 木村 祐哉 山内 かおり 川畑 秀伸
出版者
日本動物看護学会
雑誌
Animal nursing
巻号頁・発行日
vol.15-16, pp.1-5, 2010-11

動物看護師の労働状況とメンタルヘルスの現状について把握するための予備的研究として、現役で勤務している動物看護師を対象に質問調査を実施した。調査はウェブを介して行い、 32名の回答を得た。有効回答は31名であり、そのうち15名(46.8%)は心と身体の健康調査表(STPH)の抑うつ尺度得点が高く、うつ病の可能性があると判断された。同得点による抑うつ傾向は未婚者よりも既婚者で強かったD過去に思い描いていた動物看護師像と現在の自己認識像が乗離している者でも抑うつ傾向は強く、そうした禿離を防ぐために職業教育や求職活動のあり方を再考する必要性が示唆された。また、自由記述からは「ワーク・ライフ・バランスの未達成」や「人間関係での苦労」、 「労働条件に関する不満」などが問題として指摘された。

11 0 0 0 OA 玉葉

著者
藤原兼実 著
出版者
国書刊行会
巻号頁・発行日
vol.第一, 1907
著者
石田 寛明
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.819, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
2

銅触媒を用いたアジド–アルキン環化付加(CuAAC)反応は,2001年にK. B. Sharplessによって提唱された「クリックケミストリー」で中心を担う反応である.本反応は基質選択性と反応性が高く,生体直交型反応として応用され,生物学的プロセスの研究を可能にする有用な手法である.一方で,in vivoへの適用は銅触媒の毒性が問題になるうえ,様々な生体分子が複雑に存在する細胞内で,高い選択性で反応を進行させることが課題となる.この背景のもと Clavadetscherらは,新たに開発した不均一系触媒を用いて CuAAC反応を行い, 抗腫瘍活性化合物の初のin vivo合成を達成したので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Kolb H. C. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 40, 2004–2021(2001).2) Clavadetscher J. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 55, 15662–15666(2016).
著者
伊藤 耕一郎
出版者
関西大学十院生協議会
雑誌
院祭新常態2020
巻号頁・発行日
pp.15-42, 2021-03-11

筆者の研究では、2017年頃から、それまでは個別に活動していた精神世界関係者が霊性にかかわる目的のために集い、協働のため組織化するという動きが確認されるようになった(伊藤2020:13-19)。したがって本論文では、これらの新しい形態を「霊性にかんする協働組織」と名づけて、その実態を分析してみたい。筆者が接触を持つことができた協働組織は、会員が広範囲にわたってLINEやFacebookなどのSNSを通して交流し、神社や地域の聖地などを活動拠点にしている。その地域に密着した世話人が存在しているが、世話人は協働組織の統括者ではなく、人々が集うための場所を提供したり、連絡関係の中心となっているだけで、あくまでも「世話人」の域を超えていない。これらの協働組織は、「聖地の保守管理」や「金星のエネルギーを地下に落として地上を安定させる」などの具体的な目的を持って集まっており、この目的さえ同じであれば、その技法や思想背景は問われない。一例をあげれば、チャネリングを行う会員であってもハイアーセルフとのチャネリング、守護天使とのチャネリング、先祖霊とのチャネリングなど対象は違っており、またタロットであっても使用するタロットの種類が違ったり、同じ種類のタロットであっても扱い方が違うなど、同じ精神世界の中で技法や思想が全く違う者同士が集まっている。また、これらの協働組織は、新型コロナウィルス感染症対策に関しては行政の方針に対して概して批判的であり、定期的に集まってヒーリングやリーディングのために対面で接触することに抵抗を持たず、平常時と同程度の換気はするが感染防止のための換気を行うこともない。その姿勢を特徴づけるものの1つに「マスクを着用しない」ということがある。公共交通機関に乗ったり、コンビニエンスストアなどの店舗に行く時の為にマスクは所持しているが、これは「周囲を怖がらせないため」、「反社会的にみられないため」であり、いずれの協働組織においても自分たちの集まりでは、誰一人としてマスクを着用していない。さらに彼らは、「ワクチン接種」にも反対しており、集まった際にはいつも「ワクチンを打ってはいけない」ことと「ワクチン開発には裏がある」ということについて論じ合っている。一方、同じ霊性を扱っていても、宗教団体では、神道における鈴紐の撤去や手洗場の閉鎖、キリスト教会における礼拝の取りやめやオンライン化、讃美歌を歌わないなど、徹底した感染対策がなされている。本論文は霊性にかんする協働組織への現地調査を中心に、精神世界関係者がコロナ禍をどのように捉えているのかを明らかにすることを目的とし、その上で宗教団体との比較を通して、現代における両者の思想の違いについて論じたものである。
著者
布目 寛幸
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.491-500, 2008-12-10 (Released:2009-02-25)
参考文献数
17

Recently, “Nijiku” sports motion theory has been proposed and is being widely disseminated for many types of sports events including association football (soccer). It appears that this theory has some scientific basis for improving performance in sports. However, as the theory did not follow the necessary procedures, to date, its scientific validity has never been examined. This paper was designed to precisely examine the scientific validity of the “Nijiku” sports motion theory in relation to soccer from the viewpoint of science philosophy and biomechanics. Falsifiability is an important concept in science. However, only a few objective data—the ground reaction force of the supporting leg during soccer kicking and the peculiar motion referred to as “unfasten knee” motion—were demonstrated in the related literature with incorrect interpretation, and there were no falsifiable data to prove the existence of “Nijiku” during sports actions. Thus, it has been considered that the “Nijiku” sports motion theory runs contrary to the principle of science. Moreover, there are many misleading descriptions, particularly with regard to the effect of gravity. As a result, it can be considered that the “Nijiku” sports motion theory is classified as a “pseudoscience” labeled inaccurately or misleadingly portrayed as science. Scientific counterarguments to stimulate debate on these matters by the proponent and/or supporters are expected.

11 0 0 0 OA 愛知県統計書

著者
愛知県総務部統計課 編
出版者
愛知県
巻号頁・発行日
vol.昭和21年, 1949

11 0 0 0 OA 愛知県統計書

著者
愛知県総務部統計課 編
出版者
愛知県
巻号頁・発行日
vol.昭和22年, 1949
著者
相馬 和将
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.130, no.9, pp.68-97, 2021 (Released:2022-09-20)

本稿は、中世後期にしばしばみられる公家衆や将軍家庶流の子弟が室町殿の猶子となって寺院に入室する現象(猶子入室)の意味を検討したものである。 猶子入室は、これまでの研究において、室町殿による「寺院統制策」の一環として理解されてきた。しかし、実際には入室先の寺院や出身母体たる公家衆の側からの申請によってなされた事例が多いことを明らかにし、その背景として、室町殿猶子になることで有利な待遇を得られたことや、門跡の後継にふさわしい「貴種」が払底していたという中世後期の社会状況があったことを指摘した。 また、猶子入室は王家や摂関家の猶子をはじめ、各身分階層において確認でき、室町殿猶子だけを取りあげて室町殿による「寺院統制策」であると評価することは難しいとしたうえで、王家猶子の微増と室町殿猶子の減少が相関関係にないことも論じた。 さらに、室町殿猶子の数量や、猶子の出身家門に着目したとき、義満・義持期は足利庶流を猶子にした事例が大半で、公家からの申請も二条流だけに限られていた。しかし、義教期・義政期は、猶子申請する家門が幅広い階層にわたっていたことから、将軍家の尊貴性・貴種性・権威が格段に上昇しており、特に義政期は猶子からみたとき、政治的には不安定ながらも、将軍家権威が最高潮に達していたと評価した。足利将軍家は「貴種」だから寺院・公家社会から猶子申請されたのと同時に、寺院・公家社会から猶子申請される構造が将軍家の権威をさらに上昇・固定させたものと考えられる。 最後に、本稿の要約と戦国期への展望を示し、門跡・出身家門・室町殿のつながりの分析は中世後期を考察するうえで不可欠の視座であることを述べ、その一例が猶子入室という現象だったことを指摘した。