著者
小山 充道
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.34-43, 1984-12-30

重度失語症と情動障害を伴う後天性脳障害児1症例(初診時13歳5ヵ月、女子)をとりあげ、言語訓練過程のみならず、患児の情動反応についても検討した。その結果、次のような知見を得た。(1)言語機能の改善には、情動安定が計られることが重要であり、失語症が重度であればあるほど、言語訓練そのものよりも、心理療法的接近が必要となってくると考えられた。(2)病理的人格反応図式(小山:1982)に従えば、患児の情動は当初通過症状群の範畴にあり、言語訓練を通して治療者との関係が深まるにつれて、再適応症状群へと移行していったと考えられた。(3)情動安定を計るために、次のような心理療法的接近が考えられた。家族(特に母親)にも、リハビリテーションチームの一員としての自覚をもたせ、共に言語訓練に参加させた。患児の悲痛な訴えを無条件に聞き入れる一方、患児は思春期前期にあることを考慮して、可能な限り一人前の人格者として接するように努めた。言語訓練は患児の精神生活にリズムを与え、患児にとって、単なる言語機能の改善以上の意味をもっているように思えた。
著者
辰巳 浩隆 黒田 洋生 竹本 靖子 小川 歓 福島 久典 佐川 寛典 植野 茂 白数 力也 神原 正樹 大東 道治 毛利 学
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.403-407, 1994
被引用文献数
14

臨床の場から分離した methicillin-resistant staphylococci (MRS) 8株と標準株4株に対するアクア酸化水の殺菌効果を検索するために, アクア酸化水と対照の消毒剤 (グルタルアルデヒド, 次亜塩素酸ナトリウムおよび塩化ベンザルコニウム) の最小殺菌濃度を測定し, 比較検討した.<br> その結果, 4倍希釈したアクア酸化水では, 標準株の <i>Staphylococcus aureus</i> Oxford 209P と <i>Candida albicans</i> ATCC 10259 の発育が, また2倍希釈液では <i>Staphlococcus aureus</i> Oxford 209P の発育が認められた. しかし, 原液のアクア酸化水では, すべての供試菌株に対して全接触時間とも菌の発育が抑制された. 一方, 対照の消毒剤では, MRS 1株に対する 0.01% 次亜塩素酸ナトリウムの場合を除いて, すべて有効であった.<br> このことから, 原液のアクア酸化水は, 対照の消毒剤と同等あるいはそれ以上の優れた殺菌力を有すると考えられる.
著者
田齊 秀章 平松 和昭 森 牧人 四ヶ所 四男美
出版者
九州大学
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.173-183, 2004-10

近年、流域の物理性がある程度考慮され、集中定数型と分布定数型それぞれの特徴が組み合わされたモデルとして、準分布定数型貯留モデルであるOP-MODELが注目されている。OPMODELは、地下水貯留部の水収支は集中定数型として扱い、地表流出および地下水涵養までを含めた表層および土壌部分は分割されたグリッドごとに分布定数型として扱うという特徴を持つ。すなわち、地下水は集中定数型の特長である単純な構造で表し、流路網を形成する地形や、時空間的に変動する流出寄与域については分布定数型モデルのパラメータで表現される。OPMODELの特長は、DEMから計算される地形指標をもとに、流域表層土壌の空間的な乾湿状態を計算し、地表流の発生を空間的に算定できる点にある。本研究では、御手洗水試験流域(流域面積0.095km2)を対象とし、山地小流域の長短期流出解析におけるOPMODELの適用可能性の検討を行った。7個の未知パラメータの最適値探索には単純GAを用いた。検討の結果、単純GAによる最適値探索で得られたパラメータを使用することで、ハイドログラフの低位部から高水部までを良好に再現可能であり、山地小流域の長短期流出解析にOPMODELが有効であることが明らかになった。なお、本研究で検討したOPMODELでは、流域が乾燥状態にある時に少量の降雨があった場合、計算ハイドログラフに流量の上昇波形が出現しないという問題点が見られた。これは、1.根群域の水収支に用いられた蒸発散位の過大評価、2.流域の表層土層厚は流域内で一様でないにもかかわらず、OPMODELの根群域の計算および関連パラメータは流域内の全グリッドで共通としていること、3.河道降雨の影響、などが考えられたがこれらの点は今後の課題としたい。
著者
板野 稔久
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.325-333, 1998-04-25
被引用文献数
4

HEIFE期間中の中国北西部・乾燥地帯における降雨前後の総観気象状態を本著者による以前の研究(Itano, 1997)の発展としてより詳しく調べた。その結果、この地域では頻繁にトラフの通過がみられ、それに伴って、チベット高原のすぐ北側ではトラフ上に低気圧が次々と形成されることがわかった。この地域の降雨は基本的にそのような東進するトラフによってもたらされる。トラフの通過とともに、標高の高い所では相当量の降雨が観測されるけれども、標高の低い所では必ずしも降雨は見られない。特に, この辺りで標高の最も低い砂漠で降雨が観測されるのは、夏と冬の両季節において雲底下の大気の相対湿度が60パーセントを超えた時だけである。これは、砂漠の境界層が乾燥しているために、そこでの湿度がある程度になるまでは雨粒が境界層内で蒸発してしまって地表面まで届かないためではないかと考えられる。また、この地域で頻繁に総観規模の擾乱通過がみられ、またそれに伴って多くの降雨現象がみられるのにもかかわらず地表面で観測される降雨量が少ないのは、このような雨粒の蒸発によるためもあると思われる。
著者
権丈 善一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.24-46, 1992-06-25

ここでの関心は,これまで日本の社会保障政策がスカンジナビア諸国に代表されるヨーロッパの小国よりも消極的であった原因を探るとともに,現在の高福祉国家がこれからも高福祉政策を継続する蓋然性,および,今後の日本の社会保障政策が急激に積極化する蓋然性を確かめることにある。分析にはキャメロン・モデルを発展させた"社会保障と経済政策"モデルを利用する。キャメロン・モデルは,先進資本主義諸国のなかでもヨーロッパの小国の多くが,他の先進資本主義諸国よりも公共経済の規模の大幅な増加を経験した現象を説明するものであり,"社会保障と経済政策"モデルは,キャメロン・モデルを社会保障と経済政策との関係に引きなおしたものである。そして,この社会保障と経済政策モデルにもとづく限り,現在の高福祉国家群はこれからも高福祉政策をとり続ける可能性が高いこと,および,今後の日本の社会保障政策が急激に積極化する可能性は低いことを,本稿では予測する。
著者
高岡 宏行
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.9-14, 2008
被引用文献数
3

マレー半島のキャメロンハイランドにおいて採集されたGomphostilbia亜属ceylonicum種群に属するブユの新種を,雄成虫と蛹の標本をもとに記載し,新種名Simulium (Gomphostilbia) hoiseniを与えた.本種は,ceylonicum種群に属する既知種のうち,蛹の呼吸管が6本である点,インドネシアから記載されたS. (G.) kamimuraiおよびS. (G.) rosemaryaeの2種およびタイから記載されたS. (G.) udomiに類似する.しかし,これら類似種とは蛹の呼吸管の分岐方法で容易に区別される.
著者
寺下 隆夫 小田 耕平 河野 又四 村尾 沢夫
出版者
公益社団法人日本生物工学会
雑誌
醗酵工学会誌 : hakkokogaku kaishi (ISSN:03856151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.55-57, 1981-01-25

To confirm the promoting effect on fruit-body formation of basidiomycetes of Streptomyces-pepsin inhibitor (S-PI), a production-scale test was carried out with Pleurotus ostreatus. The best addition-time and concentration of S-PI were at temeprature-shift down and 2.5μg/ml, respectively, which agreed with those obtained in the laboratory. Under these conditions, high quality mushrooms were obtained consistently with 2.6-fold higher yield than in the control (control yield 50.7g/bottle ; yield with 2.5 μm/ml of S-PI, 131g/bottle). Furthermore, this promoting effect of S-PI was constant throughout all seasons.
著者
倉光 晃子 趙 慶恩 園山 繁樹
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.159-171, 2008-03-25
被引用文献数
1

本研究は、無発語の広汎性発達障害児1名に対して、PECS(写真カード交換式コミュニケーションシステム)訓練を行い、機能的なコミュニケーション行動の形成と拡大への効果について検討した。生態学的アセスメントによって、家庭での対象児が要求行動を生起しやすい状況を把握し、訓練場面を設定した。PECS訓練は、対象児の家庭において母親が訓練者となって実施された。訓練手続きについては、写真カードと文シートを用いた要求行動を課題分析して、各段階の行動が着実に形成されるように配慮した。対象児は、比較的短期間でカードを用いて欲しいものを要求する行動を獲得した。また、家庭における非訓練場面においてもPECSを利用した要求行動の般化や、訓練者でない父親に対するPECSを利用した要求行動の生起が確認された。今後の課題として、家庭場面や食事の文脈以外の状況において、PECSを利用した要求行動の般化を検証する必要性が示唆された。
著者
横澤 誠
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.87, no.5, pp.433-439, 2004-05-01
被引用文献数
4

情報技術の進展により,社会の仕組みや経済活動も次第に変曲点を迎えつつあることが明らかになっている.国の政策や企業活動の場では「ユビキタスネットワーク社会」とも呼ばれる,新しい社会パラダイムは,有線系のネットワークインフラよりもむしろ,無線通信技術を中心としたコミュニケーション技術(以下,ユビキタスコミュニケーション技術)により支えられるものである.Always Best Connected (いつでも最良の状態でネットワークに接続されている)を担保するとともに,情報技術が生活のスタイルや,ビジネスのスタイル,そして働き方のスタイルを変化させるためには,無線通信技術の持つ柔軟で身近な部分からのネットワーク化を可能とする性質が,今後も重要な役割を持つことになるだろう.無線通信技術の進展に伴って,近い将来,人々のライフスタイル,ワークスタイル,そして企業のビジネススタイルはことごとくITインフラをベースとするものに変ってゆくと思われる.いつでも,どこでも,だれでも,何でもがつながる環境により,情報のあり方そのものも大きく変りつつある.この過程は,次の三つのステップで進行するだろう.(1)今後数年で,ITを使うことのできる人の数,場面の数の増え方が最大となると考えられる.IT利用に一定の「数」が必要なビジネスモデルが,次々に現実化してくるだろう.(2)RFIDやセンサと,それらを制御するソフトウェアやネットワークの働きにより,ネットワーク仮想空間が現実世界と協働するようになる.(3)人間の知的活動を高め,企業全体の知的活動をサポートする技術が台頭する.今後ユビキタスコミュニケーションの研究開発については,自律性,完全性,社会性を重視した新しい発想に向かうと考えられる.