10 0 0 0 痴人の愛

著者
谷崎潤一郎著
出版者
改造社
巻号頁・発行日
1925
著者
島薗 進
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.223-245, 2008-09-30

宗教学は近代文明に対するオルタナティブの探究を基本的なモチーフとして抱え込んでいた。宗教は理性の限界や近代社会の抑圧性に悩む人々に、ある種の魅惑を帯びたものとして現れた。だが、他方で宗教研究は宗教批判の中から生まれてきたものでもある。宗教の抑圧性を見抜くことが宗教学の形成と展開の知的動機の一部ともなっている。宗教学は宗教批判と近代批判をともに含み込むことによって先鋭な知の地平を切り開くことができたと考えられる。本稿では宗教批判と近代批判とを結びつけるような視点をもった先駆的思想家として、富永仲基、ディヴィッド・ヒューム、フリードリッヒ・ニーチェを取りあげる。彼らの宗教批判は、いずれも人類史における宗教の重要性を痛切に認識するが故にこそなされている。宗教が人間性に奥深い動因をもち、容易に克服しがたいものであると考えられており、人知の進歩により宗教は衰退してしまうと予見されているわけではない。むしろ理性の限界が強く意識されており、だからこそ宗教は人間性に深く根を張っていると考えられている。宗教を深く理解する必要があるのはまさにその故なのだ。
著者
堀端 章 松川 哲也
出版者
近畿作物・育種研究会
雑誌
作物研究 (ISSN:1882885X)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.11-17, 2017 (Released:2017-12-22)
参考文献数
13

和歌山県の紀の川流域で古くから栽培されてきた薬用のアカジソ遺伝資源を地域の特産品として活用しようとしているが,そのためには類似の特徴をもつ他のシソ品種との間の優位性を明らかにしておく必要がある.そこで本研究では,強いシソ特有の香りを特徴とする和歌山県の在来シソ2系統と,「芳香性」をうたう市販の3品種,および,一般的なチリメンジソ1品種を供試して,形態的特徴および機能性成分含有量の調査を行って,和歌山県の在来シソ系統の遺伝的および商業的優位性の評価を行った.その結果,和歌山県の在来シソ系統はアカジソであったが,「芳香性」シソ3品種はいずれもチリメンジソであった.和歌山県の在来シソ系統は,供試した「芳香性」シソ品種よりも多くの機能性香気成分を含んでおり,この点で商業的有意性が認められた.もう一方の機能性物質である水溶性ポリフェノールの含有量については,生葉では供試した品種・系統間で差がみられなかったが,乾燥葉では品種間差が拡大した.乾燥期間中にも水溶性ポリフェノールの生合成が行われていることが示唆された.
著者
柳 文珠
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.17-29, 2013

本稿は,韓国においてインターネット文化の改善を目的とするインターネット実名制の導入過程について概観し,さらに,デッグル数という量的要素の変化に注目しながら,インターネット実名制の影響に関する考察を行う。まず,選挙掲示板の実名制の導入は,新たな政治参加手段として成長したインターネットの威力に対して警戒を強めた政界の積極的な主導によるものであった。それに対し,一般掲示板の実名制(制限的本人確認制)は,インターネット上で発生した一連の出来事が世間を騒がせるなど社会問題化したことをきっかけに,法的規制の必要性を訴える声が高まったため,比較的世論の支持を受けて導入に至るようになる。次に,インターネット実名制の施行後,韓国におけるインターネット空間にどのような変化が生じているのかを検討するため,ポータルサイトDAUMが提供するニュースに付けられたデッグル数の推移を分析した。その結果,デッグル数は,制限的本人確認制の施行直後と長期的な期間において減少していることが明らかになり,デッグルを用いた意見表明の活発さが萎縮している可能性が示唆された。
著者
鯨井 千佐登
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.174, pp.145-182, 2012-03

日本中世・近世「賤民」の権利のなかでも、①斃牛馬の皮を剥いで取得する権利、②埋葬する死体の衣類を剥いで取得する権利、③「癩者」の身柄を引き取る権利がとくに注目される。中世史家の三浦圭一は「牛馬にとって衣裳にあたるのが皮革に他ならない」とのべて、①と②を「同じレベル」で見ようとした。横井清も「皮を剥いでそれを取得することと死体の衣類を受け取ることが無縁なものとは私も思えない」といい、「身に付けている表皮を剥ぎとる権利と行為」をどのように考えるべきかという問題を提起している。一方、③は中世的な権利で、引き取られた「癩者」は「賤民」集団の一員となった。「癩」は「表皮」に症状のあらわれる皮膚の病であるから、③も含めて、「賤民」の権利は身を覆っている「表皮」にかかわるものとして一括して把握すべきかもしれない。こうした斃牛馬や死体の「身に付けている表皮を剥ぎとる権利」や「癩者」に対する監督権の宗教的源泉が、古くは境界の神にあると信じられていた可能性が高い。境界の神とは地境などに祀られていた神々のことで、「賤民」の信仰対象でもあった。本稿の課題は、そうした境界の神の本来の姿を見極めることである。本稿では、古くは境界の神に対する信仰が母子神信仰、とくに胎内神=御子神への信仰を骨子としていたことや、境界の神が月神としての性格を備え、人間の身の皮や獣皮、衣類、片袖を剥いで取得すると信じられていたこと、それゆえ境界の神に獣皮や衣類、片袖を捧げる習俗が生まれたこと、境界の神が皮膚の病の平癒という心願をかなえるだけでなく、それを発症させるとも信じられていたことなどを推定した。つまり、境界の神と「身に付けている表皮」との密接な関係を推定し、また、「賤民」の有した境界の神の代理人としての性格の検証という今後の課題を提示した。
著者
佐藤 祐基
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2013-03-25

本論文では,児童・青年期の気分障害と広汎性発達障害に関する臨床的研究を行った.まず,第1 章では,児童・青年期の気分障害と広汎性発達障害の概要について紹介し,本論文の目的について述べた.第2 章では,小児科発達障害クリニックの中にある児童精神科外来を初診した児童・青年期の大うつ病性障害の症例47 例を対象に,後方視的なカルテ調査を行った.児童・青年期の大うつ病性障害は,広汎性発達障害や不安障害,注意欠如・多動性障害などの併存障害と,相互に密接な関係があることが推察された.特に,従来考えられてきたよりも広汎性発達障害との併存率は高いと思われた.また,大うつ病性障害で受診し,社会的ひきこもりの症状をもつ場合は併存障害に注意して診断を検討する必要があると考えられた.転帰については,1 年以上の治療を継続することが症状の改善に有効であることが明らかとなった.ただし,併存障害がある場合は,ない場合と比べて,症状が改善しづらい傾向があることが示唆された.第3 章では,児童・青年期の双極性障害について,児童期と青年期の比較をしながら,診断や併存障害,経過,および転帰について検討することを目的とした.児童・青年期の双極性障害の症例30 例を対象に,後方視的なカルテ調査を行った.診断については,特定不能の双極性障害が最も多かった.併存障害として,広汎性発達障害が最も高い割合で確認された.転帰については,平均して約2 年7 カ月の治療期間に,半数以上の症例が改善を示した.児童期発症の双極性障害は,広汎性発達障害と注意欠如・多動性障害の併存が多く見られ,躁病相とうつ病相が混合した経過をたどりやすいと考えられた.青年期発症の双極性障害は,不安障害を単独で併存する場合が多く,経過については児童期と比べて躁病相とうつ病相の区別が明瞭となりやすいと考えられた.第4 章では,気分障害と広汎性発達障害を併存した青年期の事例について,筆者が臨床心理士の立場から臨床心理学的援助を行うことで,学校適応が高まった経過について振り返り,効果的な支援について検証することを目的とした.心理面接は週1 回,1 時間という枠組みで,約2 年間に渡って行われた.心理支援を独自に工夫することによって,学校など社会的な場面での適応が改善されるようになった.結論として,第5 章で本論文のまとめを行った.児童・青年期の気分障害は,広汎性発達障害などの併存障害と,相互に密接な関係があることが推察された.児童・青年期の気分障害の転帰については,一定期間の治療を行うことで,半数以上の症例が改善していた.気分障害と広汎性発達障害が併存した場合の実際の支援については,臨床心理学的援助を個人の症状に合わせて行うことによって,社会適応の改善に繋がる場合があることが示された.
著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.78-95, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
34

日本国内の航空旅客数は減少傾向にあり,国や地方自治体が管理する多くの空港は赤字経営が続いている.さまざまな空港利用促進事業が行われるなかで,近年は空港に愛称や通称をつける動きがある.本稿はこの動向を中心に地方空港の運営状態を地理学的に考察することを目的とする.本稿では,地理学における場所論と地名研究,場所のプロモーション研究を参照することで,空港を一つの場所としてとらえている.国内の政治的階層,地理的スケールにおいて中間の位置を占める地方自治体は,下位の地域住民から意見を集約し,決定した名称を上位の国家から公認を取得する形で公式化する.空港名の愛称化の目的は日本全体に対する地方空港の認知度や親しみやすさの向上であり,それに付随して空港で開催されるイベントの目的は地域住民に対するイメージの向上であると同時に空港施設の多目的利用化であるといえる.
著者
織田 涼 服部 雅史 八木 保樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1611, (Released:2017-08-19)
参考文献数
32

本研究は,意図されない情報の想起を介した検索容易性の逆説的効果が,処理資源を要するプロセスであるという仮説を検証した。二つの実験では,全参加者に他者の行動リストを呈示して記銘を求めた。行動リストには,後で行う判断の肯定事例と否定事例が含まれており,肯定事例だけを1個(容易)または4個(困難)想起することを求めた。実験1では,二重課題法を用いて想起課題中にかかる認知負荷を操作した。負荷が小さいと,肯定事例の想起が困難な時に想起内容に反する判断がなされ,意図しない否定事例の想起がこの効果を媒介することが示された。しかし負荷が大きいと,この媒介パタンが観察されなかった。実験2では,課題遂行への動機づけ(認知欲求)の強い参加者だけが,意図されない想起を介した検索容易性効果を示した。これらの結果は,困難さが促す事例想起の方略が努力を要する処理であることを示唆する。肯定事例の想起が困難であると,連合記憶内の事例が網羅的に走査され,この走査の過程で意図せず想起された情報に基づいて判断が形成されると考えられる。
著者
太田亮著
出版者
角川書店
巻号頁・発行日
1963
著者
杉浦 滋子 Shigeko Sugiura
出版者
麗澤大学大学院言語教育研究科
雑誌
言語と文明 : 論集 (ISSN:21859752)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.33-53, 2012-03

日本語で比況、例示、推量の用法をもつ「~みたいだ」は「~を見たようだ」が文法化した形式である。先行研究はその過程での形式が変化したこと、及び名詞以外の品詞の語に付くようになったことを指摘しているが、用法の広がりとして捉えるべきであること、用法の広がりにおいて意味の再解釈があることを指摘した。

10 0 0 0 OA 客者評判記

著者
式亭三馬 作
出版者
鶴屋金助[ほか2名]
巻号頁・発行日
1811

滑稽本。横本1冊。もと上中下3巻を合綴したもの。式亭三馬作、歌川国貞(1世)画。刊記に「文化八辛未年正月二日開市」とあり、「正本所」として塩屋長兵衛・鶴屋喜右衛門・鶴屋金助の3軒が並ぶ。題名の「客者」の読みは、内題がすべて「かくしや」、見返しに添付の包紙が「きやくしや」(掲出本は表紙欠。別本の表紙も「きやくしや」)で、一般の事典類等には「かくしや」で通じている。特に乞うて八文字屋自笑の序文を掲げているように、八文字屋刊行の役者評判記の体裁と内容を模して、歌舞伎の観客を位付けして評判するという内容で、資料の乏しい観客研究においてよく用いられる。役者評判記仕立てのパロディという点では烏亭焉馬の洒落本『客者評判記(きやくしやひやうばんき)』(安永9年[1780]刊)が先行するが、こちらは対象が遊客と岡場所で、挿絵も忠実に役者評判記を模する。対して本書は、開口の挿絵こそ「西川祐信のむかしゑにならふて」とするが、本文の挿絵ではパロディを離れて、観客の諸相を活写している。三都見物の区別から、贔屓定連、芝居好、見功者、芝居通、訳知り、役者きどり等、様々な客層の種別が対話形式によって評判されてゆく。巻末の広告によれば、以上3巻は初編の位置づけで、「惣客者目録」にみえて本文に記載のない「実悪の部」以降は、残編に予定されていたようだが未刊。(児玉竜一)(2016.2)
著者
渡辺 満久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.734-749, 1989-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
69
被引用文献数
2

北上低地帯は,その西縁を逆断層に限られる典型的な構造性の内陸盆地であり,鮮新世以降に奥羽山地から分化してきたと考えられる.北上低地帯は活断層,第四系基底面の形状,および地質構造によって, O-typeの地域 (同低地帯の北部と南部)と hypeの地域 (中央部)とに分類される. O-typeの地域では,新第三系,第四系基底面,および第四系 (厚さ数丁十程度以下)に東方へ緩く傾斜する構造が認められる.この地域の西縁部は,活断層がきわめて直線的であることから,比較的高角の逆断層で限られると推定される. I-typeの地域では,第四系基底面は西縁の活断層系に向かって数度以内の傾斜で一方的に傾き,第四系の層厚は奥羽山地では 200m以上に達する.西縁部には東へ凸な多数の活断層線が認められることから,低角の逆断層から成る複雑な断層系が形成されていると考えられる. これらの構造的な特徴と,半無限弾性体に対する食い違いの理論に基づく計算結果から想定される地震時の地殻変動,および地殻とマントルの非弾性的な性質に起因して地震後に現われる地殻変動とを比較した.その結果,西縁断層系への傾動が認められる 1-typeの地域では,断層活動によって低地が奥羽山地から分化してきたと結論した. 0-typeの地域に認められる構造を得るには,地表で確認できる断層活動以外の要因を想定する必要がある.