著者
足立 悦男
出版者
島根大学教育学部
雑誌
島根大学教育学部紀要. 教育科学 (ISSN:0287251X)
巻号頁・発行日
no.36, pp.1-20, 2002-12-01

本研究は、「異化の詩教育学」という仮説的な理論の継続研究である。本稿では、前稿「教材編成の理論と方法」(『島根大学教育学部紀要』第34巻)で提示した教材類型の中で、思想型の詩を教材化したときの授業モデル(受容指導)について考察する。思想型の詩とは、読者・学習者に対して、詩の方法によって新しいものの見方・考え方を提示する作品である。全く新しい見方・考え方というのでなくても、子どもたちに対して、慣習的な見方・考え方の見直しを迫るような詩も、この思想型の作品である。子もたちの慣習的な見方・考え方に対して、変容を迫るような詩は、「異化の世界を作りだす詩教育」のすぐれた詩教材である。そして、思想型の詩教材の裾野を広くするためには、思想の概念をできるだけ広くしておく必要がある。と同時に、思想型の詩教材は、これまで研究してきた話者型、存在型の詩と同様に、すぐれた詩の方法(とらえ方)・詩の技法(あらわし方)を内在していなくてはならない。詩の世界に、思想だけをみていく、詩教育におけるテーマ主義(作品のテーマだけで詩教材の価値を決めようとする傾向)を避けなくてはならない、と考えるからである。本研究で取り上げる「魚だって人間なんだ」(草野心平)、「はじめて小鳥がとんだとき」(原田直友)、「チョウチョウ」「アリ」など(まど・みちお)の詩は、いずれも以上のような条件を満たす、すぐれた思想型の作品である。そして、取り上げる授業例は、詩の世界をとおして、アイデンティティ、自立、いのち、などの思想の問題を、子どもたちに発見させていく実践である。本稿で取り上げる事例は文芸研(文芸教育研究協議会)の実践である。文芸研は人間観・世界観を育てる文芸教育を研究課題としているので、思想型のすぐれた実践が多い。
著者
原田 伸一朗
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-11, 2021

<p>近年、バーチャルYouTuber(VTuber)と呼ばれる、生身の人間の姿ではなく、CG アバターの姿を通してインターネット上で動画投稿・ライブ配信などの活動をおこなうエンターテイナーが若年層を中心に人気を博している。本稿は、CG アバターとして表現されるVTuber の「肖像」に対して、その「中の人」が持ち得べき権利について、法理論的根拠を検討したものである。これまでの判例・学説における「肖像権」の理解を確認しつつ、その「権利対象」と「権利内容」の2 つの拡張の必要性・可能性を検討した。第一に「肖像」とは何か、VTuber のCG アバターを「中の人」の「肖像」と法的に捉えられるかどうか、第二に「肖像権」とは何か、第三者によるCG アバターの利用を排除し、また自身が利用し続ける権利を「肖像権」の権利内容に含められるかどうかである。</p>
著者
馬場 淳
出版者
法政大学経済学部学会
雑誌
経済志林 = The Hosei University Economic Review (ISSN:00229741)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.115-136, 2021-03-20

The aim of this paper is to examine the structure and practical transformation of the Family Protection Act (No. 29 of 2013) against domestic violence (hereafter DV) in Papua New Guinea, taking the Melanesian response into consideration. First, I will describe how the Family Protection Act has a comprehensive, namely civil and criminal, legal framework against DV and its components in correspondence with the socio-cultural situation in Papua New Guinea. Second, focusing on actual operation in Manus Province, I will argue the process and reasoning regarding the transformation of the Family Protection Act from its original structure. The point is that the District Court and the police interpret and make use of the Act in relation to other existing measures, such as the Protection Order Rules (2008) and the District Court Act. This study is based on the author’s fieldwork conducted in Manus Province since the Protection Order Rules and the Family Protection Act came into force. The paper can also be considered as a case study for the comparative study of laws against DV in Melanesian countries, showing the Melanesian response to the international human rights regime in general.
著者
和田 一郎
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.63-70, 2021-06-20 (Released:2021-07-26)
参考文献数
8

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,社会の様々な領域に多大な影響を及ぼしている.わが国の政策の特徴を社会福祉や政策科学で活用されるアナロジー(analogy)の視点をもとに検討した.その結果,わが国の統計は実態を表していない,世界基準の政策対応ができない,現場の過酷な負担によりシステムが維持されている,地方自治体が国の政策と異なる方向性が取れる,非専門家が社会を混乱させる,集中投資や支援ができずに結果として他の分野に影響を及ぼすことが明らかになった.これを今回のCOVID-19 対応に適応すると,統計の課題,世界標準の政策対応ができない,政策の目的と手段が混乱する,人の命を軽視する世論誘導の増加,リソース不足により最適な対策が取れず悪化し他の分野に影響を及ぼすなどの課題となった.よって COVID-19 による社会への影響の被害にあった個人へのケアや補償が十分実施されず経済や社会の回復が遅れることが推測された.今後の対応として,一定レベル以上の感染症は災害として対応する,危機管理組織の設立と経験の蓄積,適切な統計情報の運用について提示し,危機になってからではなく普段からの準備を行い被害にあった方々の発見や支援等のシステムも併せて検討すべきと提言した.これらはすべて政治によって解決できるものである.つまりわが国の課題はすべて政治に集約できるため,政治による適切な政策が実行されない限り,現状の国民に過度に負担がかかる社会は長期的に続くと予測した.
著者
吉良 伸一郎 山崎 大作 井田 恭子
出版者
日経BP社
雑誌
日経メディカル (ISSN:03851699)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.44-57, 2007-01

大学医局の医師引き揚げによる人手不足や納得のいかない警察の介入など、勤務医の労働環境が急速に悪化。病院勤務医が"戦線離脱"して開業に向かい、都市部の病院の基幹部門でも診療機能の縮小、停止の動きが顕在化してきた。 日本の医療を崩壊に導いたものを浮き彫りにするとともに、「再生」へのシナリオを検証する。
著者
大澤 啓亮 白井 克佳 阿部 篤志
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.70, pp.196_3, 2019

<p> 選手の過去から現在までの競技成績の推移は、その後における国際競技力の進捗のモニタリングや設定目標の検討を行う際に有用な情報である。本研究では女子テニス選手のWTAシングルスランキングに着目し、競技成績の評価指標を構築することを目的とする。対象はWTAシングルスランキングにおいて最高順位が上位16位内に入った実績のある選手(85名)とした。上位4位に入った実績のある選手のグループ(Top4)、上位5~8位に入った実績のある選手のグループ(Top8)、上位9~16位に入った実績のある選手のグループ(Top16)の3つに分類し、各年齢においてランキング上位100位までに入った選手数の割合について分析を行った。その結果、各グループにおいて18歳時点で上位100位までに入った選手数の割合が相対的に高く、特にTop4のグループでの構成比率が高かった。この結果は18歳未満の選手が年間に出場できる大会数が制限されていることが1つの要因と考えられるが、18歳時点で上位100以内に入ることが将来的に上位4位に入るための一つの指標となりうることも示唆された。</p>
著者
熊 慧蘇
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国際日本文学研究集会会議録 = PROCEEDINGS OF INTERNATIONAL CONFERENCE ON JAPANESE LITERATURE (ISSN:03877280)
巻号頁・発行日
no.23, pp.47-65, 2000-03-01

Tsûzoku Tô Gensô Gundan (hereafter abbreviated Gundan) is one of the popular military tales, dating from the first half of the early modern period, that are considered to be the forerunners of the genre known as yomihon (books for reading) . According to Tokuda Takeshi, Gundan is based on such histories as Shiji Tsugan (A history of China) but the origins of the work and the various sources on which it draws have not been elucidated at all. [Nihon Koten Bungaku Kenkyûshi Daijiten, Ed. Nishizawa Masafumi, Tokuda Takeshi, Bensei Shuppan, reprinted March, 1999.]However, the present investigation reveals that a principal source for the text is Shiji Tsugan Kômoku, and that other sources include such poems and stories as: Kutôjo, Shintôjo, Chôgonka, Chôgonka-den, Yôtaishin Gaiden, Baihiden, and Kaigen Tenpô Iji. In this study, I clarify which parts of Gundan come from classical Chinese texts and which parts are adaptations on the part of the author. Further, I also point out places in the text where the author has inserted his own interpretations even as he is quoting from classical Chinese sources. In doing so, I try to show how authorial design has shaped the creation of the text--in other words, I try to make clear the methods of translation used in the text.I begin with a discussion of the evidence for the argument that Shiji Tsugan Kômoku is a principal source for the Gundan text. In the first place, there is the fact that Gundan, published in Hôei 2 (1705), appeared after Shiji Tsugan Kômoku (published during the Kanbun era, 1661-1673), and before Shiji Tsugan (published in Kansei 2, 1790). In the second place, of the one hundred forty-eight tales within the complete twenty-volume text of Gundan, there are seventy tales whose titles either exactly mirror, or are made up of partial quotations from, the layout (kô) of Shiji Tsugan Kômoku. In contrast, there are only a few headings in Shiji Tsugan that are similar to those of Gundan, and even those phrases that are similar are usually incorporated into the body of the text. It is thus difficult to imagine that Gundan was extracted from Shiji Tsugan.Next, there is the story of Yô Kihi (Yang Guifei), which appears more often in literary works and unofficial histories than in the official histories of China. Gundan is no exception. In Gundan, the section pertaining to Yô Kihi differs considerably from that found in the historiographical text Shiji Tsugan Kômoku. Rather, it makes use of classical Chinese works such as those listed above, with the further addition of various authorial adaptations. Consequently, the story has been changed from a serious historiographical work to a fictionalized romance.In this way, by skillful arrangement, the author of Gundan has taken classical Chinese histories--which the ordinary person would have found difficult to read--and turned them into entertaining, easy-to-read stories. The prose of doing so, as stated in the preface, is to educate the people in the lessons and “connect benevolence” (seichoku jinjo) of history.
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1089, pp.54-56, 2001-04-30

今年3月10日、渋谷東急3、新宿シネマミラノなど東京都内の5つの映画館で、1本の映画が公開された。香港製のアクション映画「東京攻略」だ。トニー・レオン、ケリー・チャン、イーキン・チェン…。
著者
曽田 直樹 堀 信宏 大場 かおり 山田 みゆき 長谷部 武久 石田 裕保 河合 克尚 藤橋 雄一郎 田島 嘉人
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第23回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.O007, 2007 (Released:2007-11-02)

【目的】股関節内旋筋及び外旋筋は、股関節を回旋させる以外の機能として歩行時に同時収縮による安定性の役割や遠心性収縮による制御としての役割などがある。そのため両筋群の筋出力の優位性を把握することが必要である。股関節内外旋筋出力の優位性は、一般的に外旋筋出力の方が高いとされている。しかし、股関節伸展位(解剖学的肢位)での報告が多く、関節角度や姿勢変化に応じた筋出力の優位性についての報告はまだない。適切な評価や治療を施行するためには、異なる肢位での筋出力の優位性を把握することは重要であると考える。そこで今回、運動肢位の違いによる股関節内旋筋と外旋筋の筋出力の優位性について若干の考察を加え報告する。 【対象】対象は、下肢に既往のない健常な成人84名とした(平均年齢22.5±4.7歳、平均身長168.3±7.2_cm_、平均体重61.7±9.8_kg_)。全員には、本研究の趣旨を十分説明した上で同意を得た。 【方法】運動課題は最大等尺性股関節内旋・外旋運動とし、股関節屈曲位(椅坐位)と股関節伸展位(背臥位)での条件で筋出力の測定を行った。その際、股関節内外旋中間位・外転10°膝関節90°屈曲位とした。筋出力の測定には、バイオデックス社のシステム3を使用し、各条件でそれぞれ1回測定した。測定は3秒間行い、測定間には10秒間の休息を入れた。代償動作の防止のために、ベルトにて体幹、骨盤、大腿骨をシートに固定した。両上肢は座面両端の手すり、あるいは支柱を把持した。測定順序は、ランダムに行った。統計処理は対応のあるt検定を用い、有意水準は1%未満とした。 【結果】股関節伸展位での内旋筋出力は58.9Nm、外旋筋出力は74.8Nmであった。また股関節屈曲位での内旋筋出力は98.2Nm、外旋筋出力は80.6Nmであった。伸展位では外旋筋出力、屈曲位では内旋筋出力が有意に高い値を示した。 【考察】今回の測定では股関節屈曲位と伸展位では内外旋筋出力の優位性が逆転する結果となった。要因として肢位が異なることにより股関節内外旋に参加する筋が異なることが伺えた。一般的に股関節内旋筋の主な動筋は、小殿筋前部線維・中殿筋前部線維・大腿筋膜張筋であるが、KAPANDJIらによると梨状筋は股関節屈曲60度以下では外旋筋,60度以上では内旋筋として働くと報告している。またDelp SLらは大殿筋上部線維・中殿筋後部線維・小殿筋後部線維・梨状筋は伸展位では外旋筋として働き屈曲位では内旋筋として働くと報告している。つまりこれらの筋作用の逆転が今回の結果に大きく関わったと思われた。
著者
藤村 哲哉
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1271, pp.163-166, 2004-12-13

「敗軍の将、兵を語る」に掲載ですか。まあ、そうですね。そういう話が来るんじゃないかと思っていたんですよ。でもしょうがないよね、これは。映画配給会社のギャガ・コミュニケーションズがこうなった責任は全部自分にあるわけですから。過去のいい時にも取り上げてもらったわけですし、今回は出ないわけにはいかない。一連の経緯をお話しするのは、私の責務だと思っています。
著者
原岡 敦子
雑誌
史論
巻号頁・発行日
vol.10, pp.707-718, 1962
著者
渡邉 佳子 Watanabe Yoshiko
出版者
学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻
雑誌
GCAS report = 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報 (ISSN:21868778)
巻号頁・発行日
no.2, pp.36-56, 2013

日本の行政機関等における公文書の管理は、歴史的に見て、国の政治制度と密接に関わりながら変遷して来た。1885年、太政官制度から内閣制度への移行という政府機構の大きな変革があった。この時、内閣と各省に記録局が設置される。行政に合理性と効率化が求められる中で、この記録局は、従来の業務を引き継ぎながら、記録の編纂保存について新たな方法を築いて行った。本稿では、内閣に設置された内閣記録局を中心に、政治制度の変革期における記録局の位置付けや業務に視点をあて、新たな内閣制度の中で、この記録局が何を目指そうとしたのか、そして、その活動の結果として現在に何が残されたのかについて考察する。論文