著者
先名 重樹 松山 尚典 神 薫 藤原 広行
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

1.はじめに防災科研では、南関東全域においてボーリングデータ等の地質・地盤資料に基づく初期地質モデルの構築と、そのモデルを基に地震記録と微動観測記録により、物性値(主にS波速度)を調整し、周期・増幅特性を考慮した浅部・深部統合地盤構造モデルの試作を行ってきている。これらは広域地盤モデル構築手法の標準化の取組として、地震本部にて「地下構造モデル作成のレシピ」を構築している。さらに、地盤モデル高度化の検討として、詳細な地盤モデル(詳細地盤モデル)の構築時に必要となる、活断層近傍における地震動評価やモデル作成時の地盤の不整形性の検討および強震動時の非線形特性を評価できる地盤構造モデルの構築等の構築を検討している。本検討では、南関東地域に存在する深谷断層帯・綾瀬川断層帯を例として詳細地盤モデル構築の検討結果について報告する。2.断層帯周辺の既往調査と地質構造の概要深谷断層帯・綾瀬川断層は、地震本部の長期評価見直しで関東平野北西縁断層帯から変更されている。この断層自体の活動度は低いが、連動するとM8クラスの地震が発生すると予測される。深谷断層は、明瞭な重力異常分布境界となっている。なお、深谷断層については杉山・他(2009)により、反射法地震波探査、ボーリング、トレンチ等の調査を行われており、断層の構造や活動性の検討がなされている。反射法探査や既往の反射断面の解釈により、深谷断層から北東側では、基盤岩上面が深度3km付近まで落ちていること、その上に中新世以降の地層が厚く堆積していることが確認されている。深谷断層は、南側の平井断層、櫛引断層と合わせて地質構造の形成過程が検討されている。3.調査概要上記の断層近傍の地盤構造モデルを構築するために、地震観測および微動観測を実施した。観測は断層を挟むように5測線を展開し、単点微動約200m間隔、極小アレイ1km間隔、大アレイが2km間隔で実施している。大アレイの位置には地震観測も実施した。5測線のうち1測線は、杉山他(2009)における反射法地震波探査断面の測線近傍で実施している。なお、断層の北東側は沖積低地、南東側がローム台地で構成されている。(1)地震観測断層近傍の14か所において臨時地震観測を実施した。観測した記録について、フーリエスペクトルを地点ごとにまとめたところ、地震によって異なる特性が確認できるが、地点ごとにスペクトルに一定の傾向が確認出来た。そこで、各地点とのスペクトル比を取ったところ、各地点ともスペクトル比は地震に寄らず安定しており、サイト増幅特性として利用できる。(2)常時微動観測微動観測の結果、単点のH/Vスペクトルのピーク周期は、断層の両側で異なる傾向を示す。断層の落ち側(北東側)では、上がり側(南西側)に比べて、H/Vスペクトルのピーク周期が周期の長い方へシフトする(周波数が小さくなる)傾向が確認出来た。微動探査(アレイ)地点に近い、地震動のR/Vスペクトルと比較したところ、低周波数域のスペクトル特性も調和的であることを確認している。微動アレイ解析で得られたS波速度構造とJ-SHISの深部地盤モデルのS波速度構造を比較すると、地震基盤相当のVs=3.2km層の上面は、今回の結果の方が全体的に約500m程度深くなっている。一方で、Vs=1.5Km層の上面は、断層落ち側で300~500m程度浅くなっている。また、Vs=0.9km層の上面は、断層落ち側で最大で900m程度深くなることが分かった。工学的基盤以浅の地盤構造では、断層落ち側の断層直近でVs=0.3kmないし0.2km以下の層が厚い(十数m)。同様の傾向は、現在作成中の防災科研の南関東地盤モデルでも確認されている。断層周辺のボーリングデータでみると、本数が少ないので、詳細は不明であるが、断層落ち側の断層直近でN値の小さい完新統(粘性土層など)が厚くなっている傾向があるようにみえ、前述のS波速度構造分布と調和的である。4.まとめと今後の検討本研究の結果、断層の落ち側では、上り側に比べて微動のH/Vスペクトルの周波数が小さくなる傾向が明瞭で双方の構造の変化が比較的良く確認でき、観測された地震動のR/Vスペクトルも同様の特性を示すことがわかる。また、深谷断層を挟む両側の地盤では、スペクトル特性、S波速度構造にも相違が明瞭にみられ、ボーリングデータからも判別できることから、この断層においては地震観測記録・微動記録による詳細地盤モデルの構築・検証は十分に可能であることが分かった。今後、地震観測データを用いた、スペクトルインバージョン等による、断層両側の地盤での地震動の増幅特性の定量的な検討および、ボーリングデータから読み取れる地下浅部の地質構成、地質構造や重力探査結果をふまえた浅部・深部地盤の速度構造モデルの作成を試み、観測された地震動の作成した地盤モデルを用いた検証や工学的基盤の不整形性の影響評価を実施する予定である。
著者
小野 文
出版者
関西大学東西学術研究所
雑誌
関西大学東西学術研究所紀要 (ISSN:02878151)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.157-178, 2007-04-01

The present article examines the process of how Hieroglyphics and Chinese characters have been studied in parallel. The article includes the author's examination of how the perspective on relationships between Hieroglyphics Studies and Chinese Writing Studies was modified in the 19th century. To begin, we are going to outline several ideas of Sinologists on Egypt-China relation, that are formulated from the 17th century to the 19th century. Secondly, we will examine epistemological obstacles that prevented European Chinese Studies from facing the phonographical aspect of Chinese Writing. Lastly, we are going to analyze the development of Phonological Studies in the 19th century, and remark a similar tendency in Chinese Writing Studies in Europe.
著者
渡邉 研太郎 Kentaro Watanabe
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.9-54, 2009-03-30

第41次南極地域観測越冬隊(第41次越冬隊)は40名で構成され,全員が昭和基地で越冬し,所期の観測をほぼ実施して2001年3月28日,全員無事帰国した.2000年2月1日,第40次越冬隊より基地運営を引継ぎ,翌2001年2月1日に第42次越冬隊へ引き継ぐまでの間,第V期5カ年計画の4年次にあたる観測・設営活動を実施した.設営活動は,昭和基地整備計画(10カ年計画)の9年次として計画された,夏期隊員宿舎の増設,設備更新を主としたものだった.観測系ではみずほ基地滞在による吹雪観測,航空機による基地上空の大気採集や内陸大気観測等を行い,やまと山脈域での隕石探査では50 kgを超す鉄隕石を含む3554個の隕石を採集した.予想外の出来事としては試験的に持ち込んだ10 kWの風力発電装置が7月初頭の大型ブリザードにより倒壊したほか,12月中旬に発電棟内の燃料タンクから軽油が棟外へ漏れる事故があった.
著者
岩下 莞爾 冨田 良二
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会誌 (ISSN:03866831)
巻号頁・発行日
vol.42, no.10, pp.1010-1011, 1988

1988年テレビジョン学会全国大会の中日, 7月21日15時30分より, 東京理科大学記念講堂において, 中国・ネパール・日本の3国友好登山隊のテレビ隊長をつとめられた岩下莞爾氏の特別講演が行われた.氏は本年5月5日, 世界の最高峰8848mのチョモランマ (珠穆朗瑪峰=エベレスト, ネパールではサガルマタ) からの生中継に成功し無事帰国された.ここにその内容の一部を紹介させていただく.
著者
青木 康真 勝山 正則
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>山地流域において基岩層に浸透する降水の割合が比較的高いことが近年研究によって明らかになっている一方で、これらの流出過程はまだ明らかになっていない。本研究では降雨の強度や継続時間に対する応答を明らかにするために滋賀県大津市の桐生試験地において赤外線サーモグラフィを設置し、基岩浸出水の定点観測を行った。2018年9月29,30日において、総雨量40mmの降雨開始30分後に浸出水と周囲の温度差が大きくなる現象が観測された。またその面積は降雨規模が大きい時間帯では広がりをみせることがあり、降雨に対して浸出水が比較的早い応答をしていることが示された。また同ポイントの付近の斜面土層内において、地中の温度変化として飽和側方流の発生が観測された。この飽和側方流の出現は同じく総雨量40mmの降雨イベントに対して降雨開始から20時間ほど時間遅れがあり、20時間ほど観測された後消えた。赤外線サーモグラフィは浸出水の面的な縮小拡大を明らかにする方法として有用である。また、時間・空間分解能の高いデータを得ることで基岩浸出水だけでなく飽和側方流など土壌層中の水の動きを検出できる可能性がある。</p>
著者
佐久間 泰司 百田 義弘 黒須 正明
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.488-497, 2018-06-30 (Released:2018-06-30)
参考文献数
14

目的:一般市民も使用するAEDは,ユーザビリティに配慮すべきである。一般市民に近いと考えられる歯科衛生士専門学校生徒を対象に,AEDのユーザビリティを調査した。方法:参加者に「私が胸を押すので,あなたはAEDを操作してください」と促し,参加者がAEDを操作しショックを行う過程を観察した。その後90分の救急講習を行い,再度,同じ実験を行い比較検討した。6種類(A〜F)のAEDトレーナーを用いた。結果:AEDの蓋の開け方がわからず迷った参加者が,蓋を開けるタイプのAEDを用いた21名中8名いた。AEDの使用を促されてからAEDが心電図解析を始めるまでの時間は,講習により17.0〜66.0秒短縮した。AEDのショックボタンが点滅してからボタンを押すまでの時間は,講習により0.8〜4.8秒短縮した。使用法のガイダンスのアナウンスは機種によりまちまちで,呼吸や脈拍の確認を求める機種もあれば,上半身の衣服を脱がせ絵のとおりパッドを貼れという指示しかしない機種もあった。AEDのパッドを左右逆に貼る参加者が42例中11例にみられた。結論:AEDを一般市民が使用するにはユーザビリティ上の問題点があることがわかった。改善が必要である。
著者
大島 堅一 除本 理史
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.65-77, 2014

<p>電カシステム改革とは,小売り・発電の全面自由化(電力自由化)による競争的な電力市場形成,発送電分離と広域的な系統運用を進めることである。2016年以降,電カの小売りと発電は完全に自由化され,2018~20年をめどに規制料金が撤廃される。電力会社の経営を安定させてきた規制料金がなくなれば,原子力にかかわる事業リスクを,事業者たる電カ会社自身が引き受けるのは,ますます困難になるであろう。</p><p>そこで政府は,3つの柱からなる「事業環境整備論」を打ち出している。この目的は,電力システム改革が完全に実施された後も原子力を維持できるよう,事業者のリスクとコストを軽減し,同民・電力消費者(そして将来の事故被害者)にそれらを負担させるための政策的措置を構築することにある。木稿では,その全体像を素描するとともに,問題点を検討する。</p>
著者
山口 弘雅 吉田 治典
出版者
公益社団法人 空気調和・衛生工学会
雑誌
空気調和・衛生工学会 論文集 (ISSN:0385275X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.105, pp.1-11, 2005
参考文献数
23
被引用文献数
5

京都議定書の発効を受け,国際公約達成に向けた温室効果ガス削減の具体策が重要視される中,空調分野におけるCO_2削減策の一つとして蓄熱式空調システムの利用が注目されている.しかし,特に水蓄熱式空調システムは制御が複雑で,運転計画の自動化も容易ではなく,実際の効率が設計通りではない場合も少なくないと言われている.本研究では,熱負荷予測がなされることを前提として,蓄熱式空調システムの運転をシミュレートするためのモデルを作成し,全蓄熱システムの最適運転法を構築し,それを用いて,最適化の目的関数の違いが蓄熱システム運転に与える影響,熱負荷の予測誤差がシステムの挙動に与える影響等を分析した.
著者
前野 深 中田 節也 吉本 充宏 嶋野 岳人 Zaennudin Akhmad Prambada Oktory
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

スメル火山はインドネシアの中でも最も活動的な火山の一つであるが,噴火履歴については不明な点が多く,活動が活発化した際の推移予測のための基礎データは十分に揃っていない。近年では5-7年毎に比較的規模の大きな火砕流を伴う噴火が発生しているが,過去には噴煙柱を形成する大規模な噴火も発生している。また1884年以降,大規模なラハールが少なくとも5回発生しており,このうち1909年噴火では東方35 kmに位置するルマジャン市が甚大な災害を被った経緯もあり,周辺地域では火山災害も懸念される。本研究では地質学的・岩石学的解析,年代測定,文献調査をもとにスメル火山の噴火履歴および噴火様式・推移の特徴を明らかにし,噴火推移予測のための事象系統樹を作成することを目的としている。スメル火山の主に南東から南西麓,北麓で行った地質調査の結果,山頂または山腹からの比較的規模の大きな爆発的噴火に由来する降下火砕堆積物と火砕流堆積物が複数存在することやそれらの発生年代が明らかになった。11世紀以降現在までは山頂からの安山岩質マグマによる噴火が主体で,このうち15-16世紀頃の活動では南西側に厚い降下スコリアを堆積させ,一連の活動により発生した火砕流がこの地域の遺跡を埋没させた。この時期の堆積物の層序構築には,13世紀のリンジャニ火山噴火に伴う広域テフラも年代指標として重要な役割を果たしている。一方,山腹噴火を示す地形や堆積物が多数存在するが,これらは3-11世紀頃の玄武岩質マグマによる活動によるもので,溶岩流出に続いて爆発的噴火へ移行し山腹でも火砕丘を形成する活動があったことがわかった。またこの時期には山体北側の火砕丘や溶岩流の活動もあったと考えられる。3世紀以前には安山岩質マグマによる爆発的噴火が山頂から発生した。山頂噴火は少なくとも過去およそ2000年間は安山岩質マグマに限られる。このようにスメル火山の活動は,19世紀以前には現在の活動を大きく上回る規模の噴火が繰り返し発生したこと,山腹噴火が噴火様式の重要な一形態であること,安山岩質マグマ(SiO2 56-61 wt.%)と玄武岩質マグマ(SiO2 46-53 wt.%)のバイモーダルな活動により特徴付けられることなどが明らかになった。一方,山体形状や火口地形,溶岩流/ドームの規模の把握は,火砕流の規模やその流下方向を推定する上で重要であるため,衛星画像やドローンによる画像・映像をもとに現在の山体地形の特徴や火口状況を把握し,また過去の火口位置とその移動方向や開口方向の変化についても整理を進めている。噴火事象系統樹は,近年の山頂での繰り返し噴火に加えて,地質学的解析から明らかにした過去の大規模噴火や火口形状や位置についても考慮したものにする必要がある。
著者
レフ・パヴロヴィッチ・マトヴェーエフ
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会号
巻号頁・発行日
vol.54, pp.20-21, 2003

オリンピックや世界選手権大会など、世界のひのき舞台で日本選手は目を見張るような活躍を示しています。しかしスポーツ界全体の流れから見れば、まだまだ世界の壁は厚いように思えます。今回の講演では、旧ソ連時代から現在に至るまで息長く選手養成問題に取組み、多くの業績をあげて理論面で世界をリードしてきたマトヴェーエフ博士をお招きし、これまで科学的なアプローチが困難とされてきた長期トレーニングの課題と展望についてお話ししていただくことになりました。同博士が提唱した『ピリオダイゼーション(周期化)』の理論をはじめとし、『目標-モデル化理論』や『スポーツ・フォーム(長期にわたってベストコンディションを維持すること)』などの概念についてわかりやすく解説してもらいます。講演の中心課題はつぎの3点です。1)マクロサイクルの最終目標とする競技会においてねらうべき自己記録をどう設定するか。2)「スポーツ・フォーム」の変動をどうコントロールするか。3)マクロサイクルを構成する基本要素をどうモデル化するか。