著者
立原 祥弘
出版者
北海道東海大学
雑誌
北海道東海大学紀要. 芸術工学部 (ISSN:02884992)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-15, 1992-07-30

1.測定した純金属及び黄銅などの合金の熱膨張率は,温度上昇に比例して直線的に増加しており,熱膨張係数は温度によらず一定の値となっている。これは定義からも明らかな様に,熱膨張係数とは熱膨張率のグラフの傾き即ち微分係数に相当するものであるから,熱膨張率の変化が直線的であればグラフの傾きはどの点でも同じ値となり熱膨張係数は一定の値となる。加熱・冷却においても熱膨張率はほぼ一致した値を示し,可逆的変化であった。また,これら各金属の熱膨張率及び熱膨張係数の値はいずれも融点に逆比例している。以上の点から今回測定を行なった純金属および通常合金の熱膨張は,冒頭で述べているような原子間ポテンシャルの釣合いのもとでの原子の熱振動による膨張であることが分かる。2.インバー型合金の成分である鉄,ニッケル,コバルトはいずれも磁石に吸い付く強い磁性を示す強磁性体で,外部から磁界をかけるとある一定の値に磁化してしまう。これは強磁性体の内部で自発的に発生している自発磁化が,外部磁界の影響で一定方向に揃えられるためであり,このときに微少な体積増加をする。ところがこのような強磁性体を加熱すると自発磁化の強さが減少し始め,ある温度になると消滅してしまう。この温度をキュリー点とよんでおり,このキュリー点と熱膨張の間には密接な関係がある。その関係を図13^6)に示す。ニッケルのキュリー点358℃で熱膨張係数は極大値となり体積が急激に膨張しているが,これは温度上昇にともなう自発磁化の消失(=強磁性の消失)による体積変化を意味し一般に自発体積磁歪と呼ばれている。また,外部から強い磁界をかけることによって強磁性体の磁化の強さはさらに増加し,このときにも体積が変化することが知られておりこの効果を強制体積磁歪という。この値は温度により変化し,キュリー点付近で極大を示す。この効果をニッケル及び白金の濃度変化と対応させると,いずれもインバー特性を示す30%Niおよび26%Pt濃度付近でピークとなり,他の合金に比べて2桁ほど大きな値となっている。我々が測定したFe-Pt合金は56%Ptであるが26%Ptと同様熱収縮を示しており56%Ptにおいても強制体積磁歪の効果が影響していると考えられる。インバー型合金の温度対熱膨張率の関係を見ると,一般的にキュリー点以上の温度では熱膨張率はほぼ直線的に増加し,キュリー点以下では複雑な温度変化をたどるが熱膨張係数は0に近い値となっている。このことからもインバー合金の低熱膨張性は, 強磁性の消失に伴う体積変化,即ち異常熱収縮が生じた結果によるもので,キュリー点以上での熱膨張は原子の熱振動のみが関与しキュリー点以下では熱振動による熱膨張を磁歪による磁気体積効果が打ち消しているものと考えられ,インバー合金はこの自発体積磁歪が他の合金に比べて非上に大きな値を持つのである。この様子をモデル化すると図14^7)の様になるが, この二つの磁歪による磁気体積効果のみで説明がつく訳ではない。次に, インバー特性と合金組成の依存性を調べると,Fe-Ni合金の場合冷却によって生じるγ相(面心立方格子)→α相(体心立方格子)への変態の限界組成はおよそ32%Niでこれ以上の濃度領域ではγ相となっており,インバー特性はγ相の40〜50%Ni付近から現われ限界組成付近で最も強くなり,α相になるとインバー特性も消失する事も知られている。他のインバー合金の場合もインバー特性は結晶構造がγ相(面心立方格子)からα相(体心立方格子)へ変態する相境界付近に現れており,結晶構造との間に何らかの関係が存在するものと思われる。例えばFe-Ni合金の格子定数(原子間距離)の濃度依存性をみると,100%Niから濃度の減少とともに格子定数は直線的に増加するがインバー組成において急減する。この点はちょうど磁気モーメントが減少し強磁性が減少し始める点とも一致している。この一つの原因として,Weiss^8)は面心立方格子中の鉄原子が磁気モーメントの小さい(これを低スピン状態という)反強磁性と磁気モーメントの大きい(高スピン状態)強磁性の対称的性質を持つ2つの電子状態を考え,高ニッケル濃度側では高スピン状態が安定でこれに対して鉄側では低スピン状態が安定であり,温度上昇と共により小さな格子定数を持つ低スピン状態が励起されるため収縮をもたらすと考えた。上記の様にインバー合金などでは数百度程度の温度まで熱膨張率が一定で,かつ熱膨張係数の数値が通常合金に比べ1桁ないし2桁小さくなっており,明らかに異なる傾向を示す。このような低膨張性は一般にインバー特性とも呼ばれており,原子間ポテンシャルに基づく熱膨張の考えのみでは説明できない。また,Fe-Ni合金に代表されるインバー合金はいわゆる強磁性体であり,この磁気的性質にも多くの異常性が見られる事からも独自の研究がなされており,異常熱膨張との関係も調べられている。これらの異常性については
著者
宮崎 茂 大塩 光夫 平尾 邦雄
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京大学宇宙航空研究所報告 (ISSN:05638100)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.1040-1064, 1966-09
被引用文献数
1

1964年1月1日から始まって1965年12月31日に至るまての2年間の大陽活動極小期国際観測年には,計11回の電離層荷電位子密度の顛剥が行なわれ,その中には到達高度1000km 上にも及ぶ,3段式のラムダ型ロケットが3機打ち上げられた.電子密度測定には共振探極法およびラングミュア探極法を用い,正イオン密度測定にはイオン・トラップ法および固定電圧のラングミュア探極法を用いた.この論文では測定器の概要と荷電粒子密度の測定詰果および議論を述べてある.
著者
Komai Tomoyuki Hayashi Ken-Ichi Kohtsuka Hisanori
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
Crustacean research (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.33, pp.103-125, 2004-12
被引用文献数
1

Two new species of hippolytid shrimp, Lebbeus elegans sp. nov. and L. polyacanthus sp. nov., are described from the Sea of Japan, at depths of 250-400m. Lebbeus elegans is characterized by the absence of epipods on the second and third pereopods, distinct ventral blade of the rostrum and the rounded fourth abdominal pleuron. Lebbeus polyacanthus is compared with L. antarcticus (Hale, 1941), L. carinatus Zarenkov, 1976, and L. washingtonianus (Rathbun, 1902). Lebbeus polyacanthus differs from the latter three species in the more posteriorly arising posteriormost tooth of the dorsal rostral series and more numerous lateral spines on the meri of the third to fifth pereopods. Examination of the newly obtained material of L. kuboi Hayashi, 1992, enabled us to assess intraspecific variations of the species, including a variation in the development of the pereopodal epipods. Redescription of Lebbeus kuboi is provided and its affinity is discussed. These three species occur sympatrically. A brief note on the taxonomy and distribution of species of Lebbeus is also provided.
著者
駒井 智幸 武田 正倫
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Science Museum. Series A, Zoology (ISSN:03852423)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.77-86, 2004-06
被引用文献数
1

A new species of the hippolytid shrimp genus Lebbeus White, 1847, L. nudirostris, is described from one female specimen collected from the Sagami-Nada Sea, central Japan, at a depth of 250m. A comparison with congeneric species is made. Supplemental information is provided for two recently described species, Lebbeus spongiaris Komai, 2001 and L. tosaensis Hanamura et Abe, 2003, based on the material also from the Sagami-Nada Sea.
著者
屋我 嗣良
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.555-613, 1978-12-01
被引用文献数
2

シロアリは熱帯を中心に棲息し, 被害も多く, 古くから研究対象として注目されている。大島(1919年)は, Callitris glaucaから抗蟻性成分として油状物を分離した。これが木材の抗蟻性を化学的に取扱った最初のものである。その後, G. N. WolcottやW. Sandermannらは熱帯産材に多数の殺蟻成分が含まれていることを見出した。温帯産の主要樹種の抗蟻値については, 渡辺らにより明らかにされ, そして近藤および佐伯らにより数種の新らしい殺蟻成分が単離同定された。著者は, 亜熱帯に属する沖縄産材の抗蟻性について検討した。まず渡辺らにより提案されたシロアリ簡易試験法を用いて, リュウキュウマツほか17種の沖縄産材に温帯産材のイヌマキおよびスギの2種を加え, 合計20種について抗蟻値を検討した。生物試験は, 一定条件下に供試材をイエシロアリ(生物試験はすべてイエシロアリを用いた)の攻撃にさらし, 供試材の重量減少で表現するのが従来のやり方であるが, 著者は新らしく, 供試昆虫の生体重量減少値で表現する方法を考案し, 従来の方法と平行して行った。供試材の形状は, 小ブロック状のほか, 鉋屑状, さらに木粉状である。これら3種の形状のうち, 木粉状での試験で得られた結果はセンダン, ヘツカニガキジスギ, イヌマキなどで著しい抗蟻性を示し, 沖縄地方での古くからの抗蟻性についての伝承と一致した。このことは構造材の抗蟻性試験法としては木粉状のものを使用するのが適切であることを示すばかりでなく, 長期に亘る構造用材の抗蟻値には化学的要因つまり抽出成分の影響が最も重要なことを示したものである。このような結果にもとずき, センダン及びヘツカニガキの抗蟻性成分について検討した。センダンの抗蟻値は, 樹木の各部で異なり樹皮部>葉部>木部>種実の順であったが, 利用上の観点から, 木部について検討した。センダン材の抗蟻性成分はメタノール抽出物中の中性部に見出され, 活性成分は3群に分けられ, 2個の結晶性成分, 1個はnimbolin A, 他はC_<23>H_<38>O_5の分子式をもつ化合物が抗蟻性成分の主体であることを明らかにした。センダンにつぐ抗蟻性の大きい樹種としてヘツカニガキをとりあげた。その樹木各部での抗蟻値の大きさは, 樹皮部>葉部>木部の順であった。ここではとくに樹皮と木部についてそれぞれ検討した。それらの抗蟻性成分はメタノール抽出物中のアセトン可溶部にほとんど移行し, カラムクロマトグラフィーにより, 抗蟻性成分の主体はクマリン化合物scopoletinとその配糖体scopolinであることを明らかにした。また共存するnoreugeninにも弱い活性があることを認めた。沖縄地域で, 古くから用いられている木材保存技術の1つとして, 海水処理がある。この方法が抗蟻値に及ぼす影響についての解明を試みるため, 海水および27種の塩類を用いて, いくつかの沖縄産材を処理し, その抗蟻性を検討した。その結果, 海水の主要成分であるNaClが特に抗蟻性に大きく寄与していることが明らかになった。さらに各種水溶性無機塩類について検討した結果, HgCl_2,各種バリウム塩, MgCl_2などが抗蟻性の大きい塩類であることを示した。イヌマキは沖縄地方で, 抗蟻性の大きい樹種として重宝がられている。約1225年および2510年経過したイヌマキ古材の木棺を入手し検討した。新材との比較により, ウエザリングの立場から, 抗蟻性の変化を追究した。殺蟻成分であるイヌマキラクトンAはいずれにもなお残存しているが, ウエザリング期間の延長と共に減少しており, 抗蟻値の低下傾向とよく一致していた。すでに述べたように木材のもつ抗蟻性は抽出成分に大きく依存する。そこで, 沖縄産材のうち抗蟻性の大きいいくつかの樹種について, 抽出成分と市販されているいくつかの合成殺虫剤を用いて, プロトゾアとの関係を検討した。沖縄産材からの抽出成分と市販の合成殺虫剤はいずれもプロトゾアを減少させ, とくに大型プロトゾアの減少数と抗蟻値の減少する傾向とがよく一致した。このことはプロトゾアの計測が重要なシロアリ試験法の一つであり得ることを示したものである。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ヘルスケア = Nikkei healthcare : 医療・介護の経営情報 (ISSN:18815707)
巻号頁・発行日
no.378, pp.61-67, 2021-04

実際にSDGsを経営に取り入れるにはどうすべきか。河上氏は、「SDGsの理解」「自施設の取り組みとSDGsの関わりのひも付け」「組織内外への発信」の3ステップを提唱する(図2)。 まず基本となるのはSDGsの正しい理解だ。
著者
四戸 潤弥
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.517-539, 2004-09-30

有賀文八郎は明治維新の数ヶ月前に生まれた。彼は幕藩体制崩壊後の明治に生きる人間として、新しい日本人の教育の基礎を基督教と確信して基督信者となった。その後、インドのボンベイでイスラームの実際を目撃し、後にイスラームに改宗する。イスラームとの出会いから四十年間、一神教の比較研究を行い、三位一体説に疑義を抱き、イスラームが日本に最も適当な宗教であると確信し、六十歳を機に実業界を引退し、イスラーム伝道に余生を捧げた。彼は短期間に信者を獲得したが、同時に彼のイスラーム解説書は日本の他のオリエンタリストのそれと比較して異彩を放っている。それは結果的にイスラーム法学の法判断(フトワ)によって日本の実情に合うイスラームを人々に伝えたからだ。彼は日本のイスラーム法学の先駆として位置づけられる。
著者
守屋 以智雄
出版者
金沢大学
雑誌
金沢大学文学部地理学報告 (ISSN:0289789X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.137-152, 1997-03-18

The geomorphology and evolutions of 20 Quaternary volcanoes in Italy have been studied. The Quaternary volcanoes are divided into 5 types - 11 stratovolcanoes, 4 caldera volcanoes (Vulsini, Latera, Sabatini,
著者
洗 幸夫
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.112-115, 1996-12-25

ハエはハエ目(双翅目)Dipteraに属する昆虫の総称で,一般に,ハエ,アブ,ブユ,カなどと呼ばれる昆虫の仲間で,世界中には25万種はいると推定されている。本当の意味でのハエはハエ目環縫群(Cyclorrhapha)に属するもので,日本からは約50科, 3,000 種が記録されている。しかし,その95%は人間の生活に関与していないもので,衛生害虫と考えられるものは約10科,数十種だけである。そのうち,イエバエ(Musca domestica L.)はイエバエ科(Muscidae)に属するハエで,幼虫はゴミなどの有機廃棄物に発生し,成虫になってから好んで家屋内に侵入する習性があるため,室内でよくみられる衛生害虫である。イエバエは成長が早く,25℃の場合は卵から成虫になるまでの日数は13〜14日だけで,温度が高くなると,日数はさらに短くなる。人口密度が高く,経済活動の活発な都市では大量なゴミを排出し,イエバエの生育に好条件がそろっているといえる。1965年6〜7月に夢の島,1989年秋に東京湾ゴミ埋立地で大発生したハエによる騒動の主はこのイエバエであった。本稿は著者が走査電子顕微鏡でイエバエの微細形態を観察し,成虫の複眼,単眼および触角の部分をまとめたものである。諸賢の研究に参考資料として役立てば幸いである。
著者
松田 緝
出版者
札幌大学
雑誌
経済と経営 (ISSN:03891119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.87-109, 1974-10-31
著者
シンドラー アルフレッド・N
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1454, pp.122-125, 2008-08-25

2006年6月に東京・芝の港区民住宅に設置されていた当社製のエレベーターで死亡事故が起きてから、2年以上が経過しました。 事故直後から、製造会社としての当社の事故責任を問い、対応を批判する報道が続きました。その結果、当社製エレベーターの日本での新規受注はこの2年間で1件もなく、我々の日本におけるビジネスは壊滅的な状況にあると言っても過言ではありません。
著者
荻野 経子 扇内 秀樹 保母 敏行 荻野 博
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.37, no.9, pp.476-480, 1988-09-05
被引用文献数
1

歯が象げ質中のアスパラギン酸(残基)のラセミ化反応を利用する年齢推定法において,一連の分析操作過程をより深く理解することはより正確な分析を行うために重要と考える.本実験では特にD/L比の測定に直接影響を及ぼすと思われる歯が象げ質の酸加水分解過程について検討した.実験には年齢既知のヒトの第三大きゅう歯(歯冠部象げ質)を用い,酸加水分解条件のうちの酸濃度,温度,時間について速度論的に,かつ分解条件の変動による推定年齢への影響について検討した.その結果,既報で設定した加水分解条件(6M HC1,100℃,6時間)を用いる場合,酸濃度,時間がそれぞれ±0.5M,±0.5時間変化してもほとんど影響しないことが明らかになった.