著者
大野 哲也
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.73-90,198, 2008-10-31 (Released:2015-06-06)
参考文献数
23
被引用文献数
1

Many regions in contemporary Japan are struggling to achieve the revitalization of local communities, where depopulation is progressing day by day. Under these circumstances, those communities having a unique culture or nature have discovered the possibility of revitalization through registration as a World Heritage Site. In order to turn their own nature or culture into tourist resources, many such communities are trying to apply for World Heritage registration. The world “heritage” has another important meaning in Japanese society. The policy of the World Heritage Convention is “development through protection”, which is quite different from the policy of “either protection or development” which has been maintained by the Japanese administration. The fact that World Heritage sites became tourist attractions opened up the possibility for development while protecting, without destroying significant culture and nature. Even though Owase City in Mie Prefecture has been registered as a World Cultural Heritage site, there are some people who are still strongly opposed to the registration. Owase has “Yaki-yama”, one of the famous tourist panoramic viewpoints in “Kumano-kodo¯”, registered in 2004 as the World Heritage site “Kii-sanchi no reijo¯ to sankeido¯: Kumano-kodo¯” (Sacred Sites and Pilgrimage Routes of the Kii Mountain Range). Why does Owase maintain its objection despite its problem of depopulation? Taking this question as a starting point, this paper introduces the logic of their protest, while exploring another possibility of local community revitalization based on the arguments accumulated in the field of sociology.
著者
小島 哲
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.58-69, 2012-04-30 (Released:2012-05-25)
参考文献数
59

鳴禽と呼ばれる小鳥類は,言語を学習する人間と同様,「さえずり」という複雑な音声パターンを他個体からの模倣により発達させる。彼らは,あらかじめ耳で聞いて記憶した手本のさえずりの音声パターンに自分自身の音声を一致させるという高度な感覚運動学習を通して,手本とよく似たさえずりを獲得する。このさえずりの感覚運動学習には,Anterior Forebrain Pathway(AFP)と呼ばれる神経経路が中心的な役割を果たしており,近年その機能の解析にともない鳥がさえずりを上達させるメカニズムが急速に明らかになってきている。本稿では,筆者らの研究を含めたAFPに関する最近の研究を概説し,さえずり学習の神経機構および行動戦略に関する最新の動向を紹介する。またAFPは,大脳皮質‐大脳基底核ループと呼ばれる,哺乳類の脳にも存在する神経経路の一部がさえずり学習に特化したものであることから,同ループ経路の複雑な機能を理解する上での非常に良いモデルになると最近言われている。そこで,哺乳類の同ループ経路の機能に重要な示唆を与える鳴禽AFPの最近の研究を紹介し,今後鳴禽AFPの研究が大脳基底核の機能の解明において果たし得る役割と課題についても論ずる。
著者
相田 勇
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大學地震研究所彙報 = Bulletin of the Earthquake Research Institute, University of Tokyo (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.367-390, 1981-09-30

地震断層モデルを波源とする津波数値実験が,東海道沖においても有用であることは,1944年東南海津波の例によって認められた.ここでは数値実験によって,1854年安政東海津波,1707年宝永津波,1605年慶長津波,1498年明応津波の波源断層モデルのパラメータを求めた.いずれも東海道に問題を限って議論される.この中,安政,宝永津波については,かなり信頼度の高いモデルが確定された.しかし慶長,明応津波については,史料の乏しいことなどもあって,信頼度が低いことは否めない.これらの津波の特徴を比較すると,地域によっては明応津波が最も高く,災害予測の面から見落すことのできない津波であると考えられる.また局地モデルによる清水港の陸上遡上計算の結果,防波堤,埋立地などの港湾工事が,津波の高さを軽減するのにかなり効果を持っていることがわかった.また津波危険度の局地性についても,計算上の結果が得られた.
著者
池添 冬芽 小林 拓也 中村 雅俊 西下 智 荒木 浩二郎 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年,低強度の筋力トレーニングであっても疲労困憊までの最大反復回数で行うと,高強度と同程度の筋力増強・筋肥大効果が得られることが報告されている。しかし,疲労困憊までさせずに最大下の反復回数で低強度トレーニングを実施した場合,高強度と同等の筋力増強・筋肥大効果が得られるかどうか,また筋の質的要因に対しても改善効果が得られるかどうかについては明らかではない。本研究の目的は,健常若年男性を対象に低強度・高反復および高強度・低反復の膝関節伸展筋力トレーニングを8週間実施し,1)低強度・高反復トレーニングは高強度と同程度の筋力増強や筋肥大・筋の質改善効果が得られるのか,2)各項目の経時変化に両トレーニングで違いはみられるのかについて明らかにすることである。【方法】対象は下肢に神経学的・整形外科的疾患の既往のない健常若年男性15名とした。対象者を無作為に低強度・高反復トレーニング群(低強度群)と高強度・低反復トレーニング群(高強度群)に分類した。膝関節伸展筋力トレーニングは筋機能運動評価装置(BIODEX社製System4)を用いて,低強度群では30%1RM,高強度群では80%1RMの強度で週3回,8週間実施した。8回の反復運動を1セットとし,低強度群では12セット,高強度群では3セット実施した。介入前および介入2週ごとに1RM・最大等尺性筋力,超音波測定を行った。1RM・最大等尺性筋力測定には筋機能運動評価装置を用い,膝伸展1RMおよび膝関節70°屈曲位での最大等尺性膝伸展筋力を測定した。超音波診断装置(GEメディカルシステム社製LOGIQ e)を用いて,大腿直筋の筋量の指標として筋厚,筋の質の指標として筋輝度を測定した。なお,筋輝度の増加は筋内の脂肪や結合組織といった非収縮組織の増加を反映している。トレーニングの介入効果を検討するために,各項目について分割プロット分散分析(群×時期)を行い,事後検定にはBonferroni法による多重比較を行った。【結果】分割プロット分散分析の結果,1RM・最大等尺性筋力,筋厚および筋輝度のいずれも時期にのみ主効果がみられ,交互作用はみられなかったことから,いずれの項目も2群間で効果の違いはないことが示された。事後検定の結果,両群ともに1RMおよび最大等尺性筋力はPREと比較して2週目以降で有意な増加がみられた。また両群ともに筋厚はPREと比較して4週目以降で有意に増加し,筋輝度は8週目のみ有意に減少した。【結論】本研究の結果,両トレーニング群ともに筋力増強,筋肥大,筋の質の改善がみられ,その変化の程度や経時変化に違いはみられなかったことから,低強度であっても12セットと反復回数を増やすことによって,高強度3セットのトレーニングと同様の筋力,筋量,筋の質の改善効果が得られることが明らかとなった。
著者
鈴木 董 東京大学東洋文化研究所図書室 編
出版者
東洋文化研究所
巻号頁・発行日
pp.265-278, 2008-03-31

アジア古籍保全講演会第3回(平成19年11月20日)開催。この記録集は、東京大学東洋文化研究所が主催したアジア古籍保全講演会(第1回~第3回)について、当日における講演、事例報告、ワークショップ、総合討論の内容を取りまとめたものである。 文中における講演者等の肩書きは、発表当時のものである。
著者
高橋 徹
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.7-16, 2015-06-25 (Released:2016-02-27)
参考文献数
59
被引用文献数
4 10

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は,2011年に中国から報告されたフレボウイルス属のSFTSウイルス(SFTSV)による新興ウイルス感染症で,マダニ媒介性感染症と考えられている.日本国内においては2013年1月に初めての患者が確認されて以来,現在までに100名以上の患者が確認されている.SFTSVは以前から日本に存在し,かつ国内の広い範囲に分布することも分かってきているが,なぜ患者が西日本に偏在するのかは未だ不明である.SFTSの臨床像は,発熱,血小板減少,白血球減少,消化器症状のほかに,筋症状,神経症状,凝固異常など多彩であり,しばしば血球貪食症候群を合併する.病理学的にはウイルス感染細胞の増生を伴う壊死性リンパ節炎が特徴的所見である.急性期の血中ウイルス量や炎症性サイトカインの変動,感染動物モデルによる病態解析の研究も進捗しつつある.本稿では,日本におけるSFTS発見から現在までを概説し,SFTSの臨床および疫学的知見とSFTSV感染についてのウイルス学的知見について総説する.
著者
牧野 幸志 Koshi MAKINO
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.19-36, 2012-02

本研究は,青年期における恋愛と性行動に関する調査研究である。本研究では,まず,現代青年の浮気経験,性経験を明らかにする。その後,浮気経験者への調査により,浮気関係,浮気行動の内容を明らかにする。被験者は,大学生・短大生400 名(男性195 名,女性205 名,平均年齢19.09歳)であった。そのうち,浮気経験者は52 名(男性22 名,女性30 名)であった。調査の結果,現代青年において浮気経験率は全体の13.0%,恋愛経験者における浮気経験率は17.4%であった。性差はみられなかった。また,性経験率は全体で40.5%であった。浮気行動を分析したところ,浮気関係では性的な関係を持つものが多く,浮気相手は同年齢が多かった。浮気の主な理由は,男性では「性的欲求を満たすため」が多く,女性では「相手の魅力」が多かった。浮気回数は,男女ともに1,2 回が多く,浮気が終わった理由は,女性では「恋人への罪悪感」が最も多かった。
著者
河村 正二
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.110-116, 2009 (Released:2009-11-06)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

近年様々な動物において色覚を担う光センサー(錐体オプシン)の解明が進み,動物によりその数や種類や発現パターンが異なることがわかってきた。明度が絶え間なく変動する浅瀬の水環境と森林環境は色覚進化の揺籃地であり,脊椎動物では特に魚類と霊長類が顕著な色覚多様性を示すことと符合する。例えば,魚類のゼブラフィッシュは8種類もの錐体視物質をもち,網膜の領域により発現する錐体オプシンの構成を違えることで,視線の方向によって色覚を違えていると考えられる。これを実現するためのオプシン遺伝子の制御メカニズムもわかってきた。また,中南米に生息する新世界ザルには1つの種内に6種類の異なる色覚型が存在するものが知られており,生息環境と色覚との密接な関連もわかってきている。本稿では魚類と霊長類の錐体オプシンの多様性とその生態学的意味についての最近の知見を紹介する。
著者
飯山 陽
出版者
一般社団法人 日本オリエント学会
雑誌
オリエント (ISSN:00305219)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.113-133, 2003 (Released:2010-03-12)
被引用文献数
1 1

Maslaha has received considerable attention from scholars as a crucial principle which guarantees the developing tendency of Islamic society since the early 20th century. This paper attempts to show its importance in the lslamic legal theory which has been evolved to expand and adapt the established authoritative doctrines in the changing circumstances. Qarafi (d. 684/1285), who is famous for his theory of qawa'id (legal precepts), evolved the concept of maslaha which had been defined as ‘the preservation of the purpose of law (God's legislation)’ by Ghazali to the source of a valid and concrete methodology for creative law findings in his theory of qawa'id. He could legitimate goal-oriented and substantive interpretations by applying considerations of maslaha not only as a criterion to identify a 'illa's suitability but as an indispensable stipulation for some legal principles such as rukhsa (legal license) and sadd al-dhara'i‘(blocking means). Maslaha functions to legitimate his legal theory as a whole which purposes to give mujtahids’ legal methodology to muqallids so as to be depended in their law findings. The origin of maslaha is God, i. e. the prime authority in Islam; thus Qarafi could make use of this concept as the origin of all law findings in structuring his legal theory. Maslaha is the key concept to understand the legal theory and practice in the post-formative period of Islamic jurisprudence.
著者
高橋 友明 畑 幸彦 石垣 範雄 雫田 研輔 田島 泰裕 三村 遼子 前田 翔子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.804-808, 2016 (Released:2017-01-13)
参考文献数
5

我々は,先行研究で腱板機能不全患者は僧帽筋上部線維の過剰な収縮と下部線維の活動低下が肩甲帯筋のアンバランスを生み,それによって腱板の機能不全を引き起こすと述べた。本研究の目的は,我々が行なっている肩甲骨周囲筋のアンバランスを矯正するための『肩甲帯筋トレーニング』の効果を明らかにすることである。対象は肩関節に愁訴のない健常人50例100肩で,下垂位最大外旋位(棘下筋テストの肢位)で男性は5kg負荷,女性は3kg負荷で3秒間保持を3回実施し,同時に僧帽筋の筋活動を計測した。次に肩甲帯筋トレーニングを5秒間2回実施後に前述と同様の方法で筋活動を計測し,トレーニング前後での筋活動量と利き手・非利き手側間での筋活動量を比較した。なお,測定筋は僧帽筋上部・中部および下部線維であり,表面筋電計Noraxon 社製MyoSystem 1400Aを用いて得られた波形を筋活動量として,3秒間の筋活動量積分値を最大随意収縮で正規化した活動量%MVCを算出した.僧帽筋上部線維の筋活動量はトレーニング後が前より有意に抑制されており(p<0.05),僧帽筋中部・下部線維の筋活動量はトレーニング後が前より有意に多かった(p<0.05)。今回の結果から,我々が行なっている肩甲帯筋トレーニングは,肩甲骨周囲筋のアンバランスを改善し,肩甲骨の安定化に寄与している可能性が示唆された。
著者
鈴木 聖子
出版者
University of Tokyo(東京大学)
巻号頁・発行日
2014

審査委員会委員 : (主査)東京大学教授 渡辺 裕, 東京大学教授 古井戸 秀夫, 東京大学教授 佐藤 健二, 東京大学准教授 小林 真理, 神戸大学教授 寺内 直子
著者
上松 恵理子
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.386-388, 2019-04-15

2019年2月,柴山昌彦文部科学大臣は携帯電話やスマートフォンの小中学校への持ち込みを原則禁止していた方針を見直す方向で検討すると述べた.この方針転換は小中学校現場にとってだけでなく,社会全体に衝撃を持って受けとめられた.これは,すでに小学生でもスマートフォンの所有率が上がっていること,これから起こりうる震災などの緊急災害時の連絡手段として有用だということを踏まえてのことだ.世論には賛否両論がある一方,先進国では学習に小学校低学年からBYOD(Bring your own device)で使うという事例もある.スマートフォンを持たせるならば,早急なリテラシー教育が必須となるであろう.
著者
Yuya Suzuki
出版者
Arachnological Society of Japan
雑誌
Acta Arachnologica (ISSN:00015202)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.59-62, 2019-12-20 (Released:2019-12-29)
参考文献数
6
被引用文献数
1

A new species of the genus Wendilgarda is described as Wendilgarda ruficeps sp. nov. from Japan. Both sexes of this species possess a bicolor body: prosoma reddish orange and opithosoma dark grey, which is useful for distinction from other congeners. The male palpal morphology of this species is similar to that of W. sinensis and W. muji, but can clearly be distinguished by the serrated edge on the posterior side of the median apophysis. The female epigyne of this species is similar to that of W. sinensis; however, it shows the smaller invagination on the posterior margin of the epigyne and the wider scape.