著者
鷲家 勇紀 西川 友章 藤野 槌美
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.286-294, 2013-06-15 (Released:2013-07-31)
参考文献数
20
被引用文献数
4

市販のコーヒー焙煎豆は,通常エージング処理が施されている.エージング処理によるコーヒー抽出液中の揮発性成分量の変化を検証した結果,多くの成分に減少が認められた.マウスに,エージング処理時間の異なる焙煎豆の抽出液を投与したところ,エージング処理をしていないコーヒー焙煎豆に最も高い腸管IgA産生増強効果が認められた.関与する成分は2-methylpyrazine,2,5-dimethylpyrazine,2,6-dimethylpyrazineの3成分であり,何れもエージング処理時間の経過と共に減少する成分であった.以上の結果から,エージング処理をしていないコーヒー焙煎豆は,腸管IgA産生増強効果を有することが分かった.またエージング処理は焙煎豆中の有効成分の減少を招き,腸管IgA産生増強効果を弱めることが分かった.
著者
宮下 秀樹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D2(土木史) (ISSN:21856532)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.104-115, 2013 (Released:2013-10-18)
参考文献数
33
被引用文献数
1

裾花川末流部は,近世初頭に松平忠輝と家臣団により大規模な河川改修が行われているが,これは口碑伝承のみで確かな史料が存在しない.近年の都市開発により,現在の裾花川流域には慶長期の河川構造を確認できる痕跡は少ない.本稿では,地元に存在する江戸時代の古文書と,大正末期の長野市全図で確認できる河道の姿に明治初期の行政文書を加味して,帰納法的に慶長期における煤鼻川開発初期の形態の同定を試みた.その結果,煤鼻川は二線堤構造や霞堤を配置した甲州流の治水技術の流れを汲む工法が用いられていて,甲州系代官衆らにより進められた開発であったと推定できる.同時に旧煤鼻川氾濫地帯に北国街道丹波島・善光寺宿ルートが開設されるともに窪寺堰が開鑿されていることから,これらは治水・利水・街道整備を含めた総合開発であった.
著者
内田 正剛 河添 竜志郎 鈴木 圭 竹内 久美 田尻 美穂
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.109, 2007

【はじめに】<BR> 当事業所は独立型の訪問看護ステーションであり、訪問を通して生活支援のための福祉用具の導入に関わることも多い。今回我々は、身体機能の変化等によりリフト移乗を中止していた症例に対し、吊り具の調整とリフト操作方法の再検討により再導入に至る経験ができた。経緯や吊り具の調整方法などについて若干の知見を得たので報告する。<BR>【症例紹介】<BR> N.O氏、33歳男性診断名:筋萎縮性側索硬化症(H16.6診断)。現病歴:H2歩行困難、筋力低下が徐々に進行、H12呼吸不全となり気管切開、H15人工呼吸器開始、同年呼吸停止し低酸素脳症発症し意識レベルJCS300の寝たきり状態。H17.10.14より全身状態の維持管理を目的に当ステーションの訪問看護・訪問リハビリテーションが開始となった。<BR>【経過】<BR> 訪問開始時の家族の希望として、ベッドからのリフト移乗の再開と訪問入浴時の安全性の確保、介護者の負担軽減のためのリフト使用があった。しかし、リフト使用を中止するまでの吊り下げられた姿勢は座位姿勢に近く、著しい低血圧と頚部のコントロール不良によりそのままでは再開は困難であった。主治医や家族と共に現状でリフト移乗が可能な姿勢の確認をおこなった結果、仰臥位で水平に近く、頭頸部に無理な屈曲を強いらない姿勢であれば可能との結論となった。直接本人で試行ができなことから、事業所内スタッフ間で吊り具の調整方法や手順の確立を図った。結果として脚分離フルサイズ吊り具で水平位に近づくよう長さを調整し、ネックサポートの使用で頸部への負担軽減を図った。また、リフトで吊り上げた際の吊り具の張力が足側へ偏重することを防止するために、両膝窩部にクッションを入れ屈曲位保持させた。H18.1から母親とともに症例への試行を実施し良好な結果となった。その後、訪問時に母親への吊り具装着、操作方法の指導を継続し、H18.3には母親一人でも操作可能となり、ストレッチャーへの移乗や訪問入浴へのリフト使用など生活内へ導入となった。<BR>【考察】<BR> リフトや吊り具等の福祉用具は、対象者の身体機能や用途に合わせ選定、調整、適応する段階付けが必要である。これらは症例の状態変化においても検討調整が繰り返し求められる。生活支援とはその対象者と福祉用具と環境を組み合せてプランニングすることであり、訪問リハビリテーションにおいて我々セラピストは生活の可能性を見出し、実現する役割が求められると考える。
著者
遠藤 秀紀 岡の谷 一夫 松林 尚志 木村 順平 佐々木 基樹 福田 勝洋 鈴木 直樹
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.69-73, 2003
参考文献数
8

コーンビーム型CTを用いて,ハダカデバネズミとジャワマメジカの全身を観察し,腹腔壁の構造を検討した。その結果ハダカデバネズミにおいて,薄い腹壁と発達の悪い胸椎および腰椎が三次元画像として確認された。柔軟性のある腹壁は,同種が切歯を用いて掘削を行う際に,土を腹側の空間を利用して体の後方へ送る機能を果たしていることが示唆される。またジャワマメジカでも脆弱な腹壁が観察された。同種の柔軟な腹壁は、消化管で食物の発酵を進めたり,大きい胎子を妊娠したりすることへの適応であると推察された。ジャワマメジカでは肩甲骨の位置が三次元画像上で容易に確認されたが,コーンビーム型CTは同種より大きいサイズの動物において,軟部構造をデジタルデータ上で除去しながら全身骨格を観察するのに適していると考えられる。
著者
湊 圭史 Minato Keiji
出版者
京都
雑誌
総合文化研究所紀要 = Bulletin of Institute for Interdisciplinary Studies of Culture Doshisha Women’s College of Liberal Arts (ISSN:09100105)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.164-182, 2018-07-27

For creators in musical theatre in the United States, William Shakespeareʼs plays have been a great source of inspiration. Early successes in Shakespeare musical adaption like The Boys from Syracuse (1938), Kiss Me, Kate (1948), and West Side Story (1957) are regarded astrue masterpieces in the history of musicals.The Shakespeare craze in U.S. musicals, however, really took hold from the late 1960s, when rock and other new popular genres of music began to change the scene of American musicals. Your Own Thing (1968) and Two Gentlemen of Verona (1971), both based on Shakespearean comedies, are now “rock musical” classics. In the new millennium, the musical world is having another surge of works inspired by Shakespeareʼs works, and the figure of Shakespeare as a playwright also appears in a variety of forms on the musical stage.This paper traces the history of American musicals related to Shakespeare and his works to show how various elements of Shakespearean plays and Shakespeare himself as a liberating figure in popular theatrical culture have been helping creators of musicals deal with the latestcultural and political issues in each new generation.
著者
坂井 健太郎 生長 幸之助 金井 求
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】医薬品候補化合物の構造中にC(sp3)が多いほど臨床段階での開発成功確率が向上することが知られているように、C(sp3)-H官能基化は医薬品開発において望ましい反応形式の一つである。触媒的C(sp3)-H官能基化を実現する手法として近年、可視光レドックス触媒(PC)と水素原子移動(HAT)触媒からなるPC-HAT触媒系が、温和な反応条件、優れた官能基許容性から注目を集めている[1]。既存のPC-HAT触媒系の多くでは化合物中の最も反応性の高いC(sp3)-H結合、つまり、最小の結合解離エネルギー(BDE)を有する結合やヒドリド性の高い結合が変換されていた。化合物依存の反応性ではなく、触媒制御の反応位置選択性を実現する戦略として、特定の結合のBDEを低下させる結合弱化触媒の利用があげられる。結合弱化現象は主に錯体化学の分野で研究されており、触媒的に有機合成に用いられた例は限られている[2,3]。しかも広く研究されている低原子価金属の配位による結合弱化は、酸化的な条件であるPC-HAT触媒系を阻害する恐れがあった。そこで、PC-HAT触媒系によるC(sp3)-H官能基化に適応可能な新規結合弱化触媒の開発に取り組んだ。【結果】モデル反応としてアルコールα位C-Hアルキル化を開発することとし、アルコールの水酸基と相互作用することによって結合弱化が起きる化合物群を探索した。DFT計算を行ったところ、ケイ素化合物がエタノールと5配位のアニオン性シリカートを形成した場合に結合弱化が起きることを見出した。この計算結果を基にケイ素触媒の探索を行ったところ、下図のスピロシラン[4]が新規結合弱化触媒として機能し、PC-HAT触媒系によるアルコールα位C-Hアルキル化を促進することを見出した[5]。(1) (a) Shaw, M. H.; Twilton, J.; MacMillan, D. W. C. J. Org. Chem. 2016, 81, 6898. (b) Capaldo, L.; Ravelli, D. Eur. J. Org. Chem. 2017, 2056.(2) Tarantino, K. T.; Miller, D. C.; Callon, T. A.; Knowles, R. R. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 6440(3) For the precedents of bond-weakening phenomenon used in the cooperation with PC-HAT hybrid system, see: Jeffrey, J. L.; Terrett, J. A.; MacMillan, D. W. C. Science 2015, 349, 1532.(4) Perozzi, E. F.; Martin, J. C. J. Am. Chem. Soc. 1979, 101, 1591.(5) Sakai, K.; Oisaki, K.; Kanai, M. Adv. Synth. Catal. 10.1002/adsc.201901253.
著者
山田 篤美
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.39, pp.6, 2017

<p>今日、宝石の王者はダイヤモンドである。しかし、人類 5000 年の歴史を俯瞰すると、長い間、宝石の世界に君臨してきたのはダイヤモンドではなく、真珠であったことが明らかになる。本講演では最上の宝石だった真珠の歴史をダイヤモンドと比較しながら解説する。</p><p>正確を期すると真珠は鉱物ではなく、有機物の一種である。しかし、真珠は伝統的に宝石と見なされてきた。たとえば、 古代ローマのプリニウスは『博物誌』の中で真珠を最高位の宝石のひとつと位置づけている。一方、プリニウスはキュウリの種ほどのダイヤモンドも貴重視していたが、それらは工具としての実用性が評価されたもので、「宝石」としての評価ではなかった。</p><p>古代ローマ人憧れの真珠であったが、その産地は多くはなかった。自然界では海産真珠貝、淡水産真珠貝が多種多様の真珠を生み出してきたが、丸く美しく光沢のある真珠を生み出す貝は、海産のピンクターダ属(genus <i>Pinctada</i>)の真珠貝などに限られていた。ピンクターダ属の真珠貝の中でも、真珠採取産業を成立させるアコヤ系真珠貝(<i>Pinctada fucata/martensii/radiata/imbricata</i> species complex)の生息地は、古代・中世においては、ペルシア湾、インド・スリランカの海域、西日本の海域ぐらいしか知られていなかった。つまり、ヨーロッパ人にとってアコヤ系真珠は、コショウ同様、オリエント世界でしか採れない貴重な特産品だった。</p><p>その状況が一変したのが 16 世紀の大航海時代である。 1492 年、コロンブスはカリブ海諸島に到達し、その 6 年後、南米ベネズエラ沿岸で真珠を発見する。実はベネズエラ沖はもうひとつのアコヤ系真珠貝の産地であった。オリエントに代わる真珠の産地となったベネズエラには征服者、航海者が押し寄せ、略奪と虐殺が繰り広げられた。 16 世紀のヨーロッパは真珠の時代であり、南米の真珠がヨーロッパ王侯貴族のジュエリー、ドレスを飾ったが、その真珠はブラッド・ダイヤモンドならぬブラッド・パールであったのである。</p><p>一方、ダイヤモンドについても、大航海時代になると、インドの王侯の独占が崩れ、流通が増加。 17 世紀以降のヨーロッパではブリリアント・カットが発明され、ダイヤモンドと真珠が二大宝石となっていく。しかし、 19 世紀の南アフリカのダイヤモンドの発見でダイヤの値段が暴落、真珠は再びダイヤモンドよりも希少になった……。 真珠の歴史をダイヤモンドとの関係性の中で考察すると、小さな真珠がもたらした壮大で壮絶な歴史が浮かび上がるのである。</p>
著者
五島 利兵衛
出版者
一般社団法人 日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文報告集 (ISSN:09108017)
巻号頁・発行日
vol.411, pp.147-164, 1990-05-30 (Released:2017-12-25)

This study employs the grid method to examine the design procedure used in the Temple of Parthenon (built 447-432 B.C). The grid method is a new point of view : it has recently been applied in analyzing the design by J. J. Coulton, R. Tobin and K. Horiuchi. This study started by regarding the grid in round number 15 doric feet proposed by Horiuchi as a 1st plan grid (7×15 units) and the grid in intercolumnar units proposed by Coulton as a 2nd plan grid (8×18 units, each unit measures 13 1/8 doric feet). Both grids were also employed to analyze the facade design.
著者
松本 英彦 井原 秀俊 川嶌 眞人 田村 裕昭
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.925-932, 2003 (Released:2005-02-18)
参考文献数
12

Twelve cases of acute injury of the lateral collateral ligament of the ankle were treated conservatively by early mobilization. Weight bearing was allowed as soon as possible. Active exercise and dynamic joint control training were initiated at least by day 5. The mean talar tilt angle and anterior drawer distance showed significant improvement from 9.1° to 1.3° (p<0.001) and 3.5 mm to —0.3 mm (p<0.001) respectively. All cases completely returned to the competitive game level. This early mobilization prevented evils of using plaster. Early mobilization and weight bearing are considered as the method of first choice and provided recovery in range of motion of ankle mobility.