著者
河本 聡志
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.103-112, 2013-06-01
参考文献数
26

ロタウイルスは,冬季乳幼児嘔吐下痢症の病因ウイルスである.ロタウイルス胃腸炎により,開発途上国を中心に毎年約45万人の乳幼児が死亡している.先進国においても,ほぼすべての乳幼児が感染し,発症する.これまでに,多くのRNAウイルスにおいて遺伝子操作系(リバースジェネティクス系)が開発され,ウイルスゲノムを任意に改変することでウイルス増殖過程や病原性に関する多くの重要な知見が得られてきた.しかしながら,11本もの多分節2本鎖RNAをゲノムとするロタウイルスでは,過去10余年もの間,精力的な開発の試みが行われたにもかかわらず,如何なる成功も報告されていなかった.我々は,ロタウイルス増殖過程および病原性発現機構の研究を分子レベルで展開させることを目的として,ロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の開発を行ってきた.2006年にヘルパーウイルスを用いた系ではあるが,cDNAに由来するゲノム分節を有する組換えロタウイルスを作製することを可能にするリバースジェネティクス系の開発に世界に先駆けて成功した.このシステムを外殻スパイク蛋白質VP4に応用することで,異なる血清型由来の交差反応性中和エピトープをキメラに発現する組換えロタウイルスおよび,ロタウイルス感染性の獲得に重要な役割を果たすVP4上のトリプシン切断領域にフューリン様プロテアーゼ認識配列を導入した組換えロタウイルスの作製にも成功している.本稿では,これらロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の開発とその応用例,そして今後の展望を紹介したい.
著者
錢谷 菜々未 小幡谷 英一 松尾 美幸
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.250-258, 2016-11-25 (Released:2016-11-29)
参考文献数
51

長期にわたる経年により,木材の音響特性や安定性が向上すると言われている。しかし最近になって,それらの変化の一部が,高湿度での吸湿履歴によって解消するような一時的な変化であることが明らかとなった。類似の一時的な現象は,木材を水分存在下で加熱した場合にも認められる。これらの一時的な変化は,木材構成分子の物理エージングに伴う一時的な細孔の閉鎖に起因すると推察される。木製の古楽器や古文化財を保存する際には,経年によって変化した物性が吸湿に伴って回復することを考慮しなければならない。また,熱処理材の実用性能を正確に評価するためには,加熱によって生じる一時的な変化を除外しなければならない。本論文では,木工芸品や木製楽器の品質に関わる木材物性の経年や熱処理に伴う可逆的および不可逆的な変化について概説する。
著者
野島 那津子 Nojima Natsuko ノジマ ナツコ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.34, pp.109-123, 2013

本稿は、病人の「役割」から病の「経験」へと視点を移動する医療社会学の流れについて概観し、その分析枠組みがもつ限界と盲点について考察する。この限界と盲点は、以下の二点に集約される。これまでの医療社会学における慢性疾患研究では、1) 病人役割の取得を半ば自明視しているため、患っているにもかかわらず病人役割を取得できないような疾患を患う人々の経験を適切に説明することができない。2)「 生きられた経験」としての「病い illness」について記述しようとするあまり、患う(suffering)という経験が、「疾患 disease」として現象するプロセスや条件に対して十分な注意が払われない。こうした限界と盲点がもっとも明瞭な形で示されるのは「医学的に説明されない症候群(MUS)」と呼ばれる患いを抱える人々の経験である。本稿では、MUS をめぐる問題から、以下の二点を、従来の医療社会学の盲点を補う視点として提起する。1) 社会は、人がただ「患う」という事態を認めないということ。2) そのために、「診断」は、特定の「患い」が社会的な是認を獲得するためのポリティクスの様相を呈するということ。こうした点から、筆者は「診断」の社会学の重要性を主張する。
著者
野島 那津子
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.3-19, 2015

The purpose of this paper is to investigate the difficulties when suffering from an incompletely medicalized disease and the effects of its diagnosis using the narratives of spasmodic dysphonia sufferers. Spasmodic dysphonia (SD) is a chronic voice disorder. It leads to a characteristic strained and strangled voice (Gündel et al. 2007). Its etiology is unknown and there is no fundamental treatment. In Japan, SD is a rare disease and most physicians have little experience treating it. Few physicians can diagnose SD. In addition, as SD is virtually unknown among the public, its characteristic voice is not perceived as a symptom of a disease, neither by others nor by sufferers themselves. Considering this situation, we can say that SD is an incompletely medicalized disease. While medicalization has been criticized for its aspect of social control and its tendency to individualize social problems, incomplete medicalization has been relatively less discussed and few empirical studies of those diseases have been conducted. In this paper, I focus on SD as an example of incomplete medicalization and examine the problems of incomplete medicalization from sufferer's point of view.Based on interviews with fifteen people suffering from SD, the three main difficulties identified are: an inability to explain their condition and loneliness, inappropriate definition of a SD's unique voice by others, and a visible negative reaction. One common underlying cause for these difficulties is the lack of a definitive diagnosis. Receiving a diagnosis could be an opportunity to reduce those difficulties. Obtaining a diagnosis opens possibilities of refusing incorrect interpretations, providing plausible explanations and disclosing their suffering to others. In the case of SD, I suggest that simply suffering does not constitute a "disease" in our society. Adequate medical diagnosis is a requisite condition for the social existence of the "disease."
著者
野島 那津子 Nojima Natsuko ノジマ ナツコ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.40, pp.87-103, 2019-03-31

研究ノート本稿の目的は、「論争中の病」の代表格とされる筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に関するNHKのテレビ番組を分析し、ME/CFSがどのようなものとして伝えられてきたか、その病気表象の変遷を明らかにすることにある。分析の結果、ME/CFSは、(1)1990年代には、「女性の弱さ」や「女性の社会進出の代償」として、(2)2000~2010年代前半には、仕事や学校生活でストレスを抱えるすべての「現代人」がかかり得る「現代病」として、そして、(3)2015年には、研究・支援されるべき深刻な「難病」として呈示されていた。こうしたME/CFSの病気表象の変遷は、「異常」の可視化と病気の「脱女性化」という特徴を有している。当初、ストレスや生活に対する女性の心持ちの問題とされていた症状は、次第に「異常」を示すさまざまなデータによって可視化されていった。とりわけ2000年代以降は、患者の脳画像を用いてME/CFSの症状を「脳の機能異常」として説明することが定型化した。また、「異常」の可視化と並行して、当初女性に「特有」の問題とされていたME/CFSは、誰もがかかり得る病気として「脱女性化」されていった。この「異常」の可視化と病気の「脱女性化」は、ME/CFSの表象が深刻な「難病」へと変容することに寄与したと思われる。
著者
脇田 裕久 高木 英樹 Wakita Hirohisa Takagi Hideki
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学 (ISSN:03899225)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.81-88, 1992-02-28

本研究は、打突の機会の一つである出端小手を対象として、仕太刀の動作開始時間・動作時間、右上肢関節角度、竹刀角度、竹刀先端速度を指標とし、熟練者群と未熟練者群の相違点を検討した。その結果、熟練者群は、打太刀の振り上げ動作が開始される前に動作を起こし、打撃動作が小さく、振り下ろし速度が速いため、動作時間が短縮し、打太刀の出端を的確にとらえた打撃が可能である。一方、未熟練者群は、打太刀の動作開始と同時に動作を起こし、振り上げ動作が大きく、振り下ろし速度が遅いため、動作時間が延長し、打太刀の出端をとらえることが困難になることが明らかにされた。
著者
三宅 聡史 加賀 勝
出版者
日本武道学会
雑誌
武道学研究 (ISSN:02879700)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.51-58, 2003-11-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
10
被引用文献数
2

The purpose of this study was to determine characteristic of the “men” striking motion performed by top kendo athletes by comparing to lower level collegiate kendo athletes.It became clear as a result of analyzing the data that men striking motion is divided into two phases: Back-swing (first phase) and Forward-swing (second phase).1. Top kendo athletes extended both shoulders and wrists, and maintained the angle of the body bending forward more than collegiate athletes.2. There was no difference in the Shinai velocity or horizontal velocity of the center of gravity of the body between top kendo athletes and collegiate athletes.3. Flexion velocity of the left wrist in the first phase and extension velocity of the right wrist and both shoulders in the second phase of top kendo players were faster than collegiate kendo athletes.4. In the first phase, top kendo athletes raised both wrists more rapidly than collegiate athletes, after the left wrist moved to the bottom.5. Collegiate athletes moved the wrist to the top and the right wrist moved forward at the last stage of the second phase.6. Top kendo athletes extended the left shoulder more than collegiate athletes in the second phase.7. Horizontal velocity of the right ankle of collegiate athletes decreased in the last stage to the first phase.
著者
伊香賀 俊治 小原 隆
出版者
日経BP社
雑誌
日経アーキテクチュア (ISSN:03850870)
巻号頁・発行日
no.1121, pp.65-67, 2018-06-14

省エネ住宅の普及では近年、快適な住み心地やエネルギーコストの削減効果に加えて、「健康」との関係が注目され始めている。国が後押しする研究も活発だ。第一人者である慶応義塾大学の伊香賀俊治教授に、本誌特設サイト「省エネNext」編集長の小…
著者
中村徳助 著
出版者
盛陽堂
巻号頁・発行日
1924
著者
堀部 安嗣 小原 隆
出版者
日経BP社
雑誌
日経アーキテクチュア (ISSN:03850870)
巻号頁・発行日
no.1097, pp.32-37, 2017-06-08

Interview2016年6月〜17年1月に神戸市で開かれた「里山住宅博inKOBE2016」。同博で堀部安嗣氏は、ヴァンガードハウス「これからの家」の設計を手掛けた。その後も省エネ住宅に力を入れる。その考えを本誌ウェブ特設サイト「省エネNext」編集長の小原隆が聞く。