著者
坂本 和子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.153, 2008

本研究ではデザインの効力を2つの視点から明らかにする。一つは製品デザインに落とし込まれた和テイストがどのようなイメージで規定され、態度や購入意向にどう影響するのかということ。そしてもう一つはそこに異文化コミュニケーションが反映されているのかということである。ここでとりあげる和テイストとは日本の独自性を感じられるイメージ、風合いと解釈し、テイストの具現化したものを色やデザインとして捉えることとする。調査においては現地の学生ではなく国内に在住する留学生と日本人学生を比較することで、異文化適応による原産国テイスト(和テイスト)への評価とデザインの嗜好や購入意向に及ぼす影響、つまり日本人学生との同化傾向がみられるのではないかという仮定により、調査分析を行った。特筆すべきことは留学生と日本人学生が、携帯電話のデザインへの嗜好性や購入意向も同じ傾向であったにもかかわらず、和テイストを感じさせる製品が全く異なっていたことである。
著者
ジャリリナスラバディ サイード 糸井 龍一 ヴァルディマルソン ポール 藤井 光 田中 俊昭
出版者
日本地熱学会
雑誌
日本地熱学会誌 (ISSN:03886735)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.113-121, 2011-07-25
参考文献数
19

サバラン地熱地域はイラン国の東北部に位置し,現在開発が進められている。建設予定のシングルフラッシュ型発電所の分離熱水が有するエネルギーとエクセルギーは生産流体の全エネルギーおよび全エクセルギーのそれぞれ54.8%,41.4%を占める。分離熱水は複合発電および地域熱利用システムに利用することができる。この分離熱水活用のためにシングルフラッシュ型発電所と併せた複合発電システムとしてバイナリー発電を採用した場合のフィージビリティスタディをおこなった。その結果バイナリー発電所の出力として17,151kWが得られた。エネルギーおよびエクセルギーに関する数学モデルを構築し,それをソフトウェアEngineering Equation Solverを用いて解析を行った。その結果,凝縮器と蒸発器において最大のエクセルギー損失が発生し,エクセルギー全損失に占める割合はそれぞれ12.1%,33.4%である。バイナリー発電所のエネルギー効率およびエクセルギー効率は,それぞれ6.25%および34.4%である。さらに,グラスマン図を用いてバイナリー発電所内におけるエクセルギーの全体的な流れを示した。これらの結果より,エクセルギー解析を行うことは生産されたエネルギーを地熱発電所にて最適に利用するうえで有用であることを明らかにした。
著者
佐竹 泰和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>1.背景と目的</b><br>スマートフォンなどのモバイル通信機器が急速に普及するにつれて,公衆無線LANに注目が集まっている.公衆無線LANの特徴のひとつは,これまでインターネットを利用できなかった場所にも接続環境を整備できることである.ADSLや4Gなどのインターネット接続方法は,利用対象者をその契約者とするのが普通であるが,公衆無線LANの場合は,不特定多数の人に利用環境を提供できる.近年では,観光客の利便性向上や災害発生時の情報収集手段など,観光や防災の観点からさまざまな自治体で整備されている.その一方で,訪日外国人観光客の増加や2020年に控えた東京オリンピックを踏まえ,日本政府が訪日外国人観光客を成長戦略の一部としてとらえ,彼らに対する公衆無線LANの整備を進めようとする動きもみられる.<br>しかしながら,公衆無線LANを整備するか否かはその場所のオーナーの裁量に委ねられるため,必ずしも目的に沿って整備が進むとは限らない.そこで本研究では,公衆無線LANの整備地域の空間特性を明らかにする.<br><br><b>2.研究事例地域と研究方法</b><br> 本研究では,山梨県の事業である「やまなしFree Wi-Fi Project」をとりあげる.事業の背景には,2013年の富士山のUNESCO世界文化遺産に登録などによる訪日外国人客の増加がある.こうした状況を踏まえて,山梨県は訪日外国人向けにインターネット接続環境を提供することを目的とした全県規模の公衆無線LANの整備事業を進めた.2012年から進められたこの事業により,公衆無線LANの整備数は事業発足当初の230箇所から2015年8月には1,843箇所にまで増加した.<br> 公衆無線LANの分布を明らかにするために,山梨県およびNTT東日本が公表している公衆無線LANの設置場所をジオコーディングにより地図化した.また,訪日外国人観光客の需要動向を把握するために,山梨県へのヒアリングを行った.<br><br><b>3.結果および考察</b><br> 公衆無線LANの整備状況をみると,山梨県内でも比較的訪日外国人観光客の多い地域に集中しているが,利用場所はその中でも局所的である.山梨県の事業により整備された公衆無線LANを利用するにはIDとパスワードが必要であり,それらを印字したカードを県内11箇所(2014年7月時点)で配布している.2012年7月以降の2年間におけるカードの配布数のうち,最も配布数が多かったのは富士ビジターセンターで総配布数の80.9%を占める.次に配布数の多い施設は富士河口湖観光総合案内所であり,12.4%を占め,富士ビジターセンターと合わせると,公衆無線LANの利用者の9割が富士山麓周辺地域で公衆無線LANを利用していると予想できる.<br> 一方,県北部の八ヶ岳高原周辺地域では国内観光客を意識した公衆無線LAN整備を進めている.また,時系列的に公衆無線LANの設置場所をみると,訪日外国人観光客の大小にかかわらず,もともと公衆無線LANの設置が少なかった地域においても設置数の増加しており,面的な広がりが認められる.<br> このように,「やまなしFree Wi-Fiプロジェクト」は訪日外国人観光客を対象として進められた事業であったものの,訪日外国人観光客による需要は富士山麓周辺地域に限られた需要であり,その他の地域に整備された公衆無線LANは,訪日外国人客ではなく,国内客向けのサービスとなりつつある.<br> 公衆無線LANの利用において訪日外国人観光客と国内観光客が決定的に異なるのは,その他の手段でインターネットに容易にアクセスできるか否かである.その機会に乏しい前者においては,公衆無線LANを通じた情報発信など観光振興の面で効果があると予想できるが,後者においては必ずしも公衆無線LANが必要であるとはいえない.面的に広がった公衆無線LANを活用するためには,訪日外国人観光客だけでなく,国内観光客や地域住民の需要を想定した仕組みづくりが求められる.
著者
栗山 浩一 庄子 康 柘植 隆宏
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

2013年6月,富士山が世界文化遺産に登録されたが,富士山の世界遺産登録は富士山のある富士箱根伊豆国立公園の観光利用に影響を及ぼす可能性がある。そこで,富士山が世界遺産に登録される前後の2012年から2014年の全国の国立公園の訪問行動を分析し,世界遺産登録が各国立公園の訪問行動にもたらした影響を評価することで,世界遺産登録の経済価値を分析する。過去1年間の国立公園の利用回数をたずねるアンケート調査をWeb調査により3年間実施した。3年間累計で7373人から有効回答が得られた。この訪問データをもとにクーンタッカーモデルを用いて分析したところ,富士箱根伊豆国立公園の訪問価値は2012年では一人あたり平均3736円,2013年では7326円,2014年では8218円と上昇傾向にあった。この訪問価値のうち世界遺産登録による影響をDifference-in-Difference推定量を用いて計測したところ,世界遺産登録価値は2013年では2621円に対して2014年では4281円と上昇し,2014年の訪問価値のうち約半分が世界遺産登録の効果であることが示された。
著者
愛甲 哲也 山本 清龍 中島 泰
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p> 自然観光地では、利用者の集中による自然環境と利用体験への影響が問題視されている。山岳地では、植生の荒廃、土壌浸食、し尿処理、混雑への対策が必要とされる。自然環境への配慮、体力や力量に見合ったルート選択、混雑の回避などを促すため、様々な情報提供が行われており、効果的な手法、手段の検証が必要である。</p><p> 富士山では、収容力の研究を経て、登山者数の目安を設定した。週末や祝日の混雑を平準化するため、登山者が集中する日、時間帯、ルートを推測した「混雑予想カレンダー」を、ウェブサイト、登山雑誌、パンフレットなどで周知している。</p><p> 本研究では、混雑予想カレンダーの認知度と、登山者の行動への影響を検証した。2017年と2018年の登山シーズン中に、山梨県と静岡県によって行われたアンケート調査への登山者の回答を分析した。その結果、混雑予想カレンダーを見た登山者は約3分の1で、富士登山オフィシャルサイトが最も多かった。カレンダーを見た登山者の約2割が、登山予定を変更しており、一定の効果がみられた。さらに協力者を増やすには、周知方法や登山者の理解を促す仕組みの検討が必要である。</p>
著者
栗山 浩一 庄子 康 柘植 隆宏
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p>近年,複数の地域で国立公園指定や世界遺産登録が続いている。国立公園指定については,2014年3月慶良間諸島,2016年9月やんばる,そして2017年3月奄美群島国立公園が新たに指定された。一方,世界遺産については2013年に富士山が世界文化遺産に登録され,現在は奄美・沖縄が世界自然遺産への登録を目指している。こうした国立公園指定や世界遺産登録により観光地としての魅力度が高まり,観光客数が増加することが期待されている。本研究では,国立公園指定の前後の観光客の変化を分析し,国立公園指定が観光価値にどのように影響するのかを分析する。全国の一般市民を対象に国立公園の利用についてアンケート調査を2013年から継続して実施し,国立公園指定の前後における公園利用の変化をトラベルコスト法により分析した。その結果,国立公園の指定直後には影響は少ないものの,翌年から観光価値が上昇することが示され,国立公園指定が観光価値に大きな影響をもたらすことが分かった。また国立公園指定は指定された地域だけではなく,周辺の国立公園にも影響することが示された。この分析結果をもとに国立公園の魅力度を改善するための今後の課題について議論する。</p>
著者
杉本 興運 小池 拓矢
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.1015-1031, 2015
被引用文献数
4

&emsp;This study examines tourist behavior in the Mt. Fuji area in terms of distance traveled by tourists, and clarifies differences in types of tourist and their movements based on distance traveled. Moreover, it describes the social impact of the area's recognition as a UNESCO World Heritage site on the behavior of tourists. Tourism in the Mt. Fuji area began as Fuji Tohai, which means &ldquo;climbing for worship&rdquo; in the Edo era, and was popularized by subsequent tourism development. At present, the Fuji area is a tourism region that provides opportunities for sightseeing, leisure, and recreational activities, such as exploring and staying in the Fuji Five Lakes region, to visitors who live in or near urban and metropolitan areas. By analyzing the results of a questionnaire survey given to domestic individual travelers who use private cars, we found that their behavior is characterized by differences related to travel distance, although most of them share the common purpose of experiencing natural landscapes during their travels. Neighborhood residents tend to visit for daily leisure activities, whereas visitors from distant places tend to make overnight trips and visit only major tourist attractions. This shows the nature of the concentric model, which means that travel distance influences the behavior of tourists, their perceptions, and frequency of trips, and vice versa. However, we simultaneously discovered a distortion in this model, which is caused by the locality of the Mt. Fuji area. Tourism in the Mt. Fuji area currently faces changes resulting from the significant social impact of the area's recognition as a World Heritage site: Tourism demand is increasing, especially among persons who live in more distant places, which means foreigners living abroad in this study, and local residents are working to develop tourist areas and touring routes, focusing on World Heritage. Tourist behavior, such as perception and movements, have gradually changed in parallel with social and environmental changes.
著者
大下 優介 八木 敏雄 平林 幸大 石川 紘司 江黒 剛 逸見 範幸
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.752-756, 2020

2013年6月に富士山が世界遺産に登録されて以降訪日観光客が増加しそれに伴い救急受診される症例臨床の現場で経験される.しかし,旅行者がどのような病態で受診されているのかの詳細な報告は無い.本研究の目的は,訪日旅行客の受診内容を調査し,今後の対策を検討する事である.2015,2016,2017年度に当院に受診された訪日旅行客をretrospectiveに調査した.それぞれの年度に受診された患者総数は154人,149人,171人であった.平均年齢は36歳(0-89)であり,男性223人・女性251人であった.受診時間は平日の一般診療時間内が205人(43.2%)であり,269人(56.8%)は夜間や休日祝日の受診であった.受診の原因となった疾患は感冒などの内科系疾患が168例,骨折や脱臼などの外傷が166例,膀胱炎や尿路結石などの泌尿器科系疾患が22例,不正性器出血などの婦人科疾患が21例で,小児科受診が64例であった.また来院時CPAが1例にあった.近隣住民であれば翌日まで経過を見ることも可能な症例も旅程のため,夜間の受診を余儀なくされている状態であった.一般的に入院精査を行っていたと考えられる症例も移動の予定などのため再診予定も立てられず応急処置のみとなっている症例もあった.海外からの訪日外国人の受診状況を調査した.夜間休日であっても,さまざまな疾患で受診されておりGeneralistとしての対応が求められている現状であった.今後さらに外国人旅行者が増えると考えられ,その対策は急務である.
著者
栗山 浩一
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.28-39, 2016

森林など自然資源に対する市民の要求が利用価値から非利用価値まで拡大したことで,森林の環境サービスの受益者は地域住民だけではなく一般市民にまで広がっている。本研究は,林業経済学分野における市民参加研究を展望するとともに,市民参加や受益者負担の事例を見ることで,自然資源管理に一般市民の意見を反映するための課題を明らかにする。市民参加に関しては,世界遺産に指定されている知床と富士山における訪問者管理を検討し,一般市民の意見を適切に管理計画に反映することの重要性を示した。受益者負担については,滋賀県造林公社の下流費用負担と神奈川県の水源環境保全税を市民の観点から分析し,一般市民の森林に対する要求の変化に対応可能な柔軟な費用負担制度が必要であることを示した。これまでの森林政策では消費者や市民などの需要サイドよりも林業関係者などの供給サイドが優先されていたが,今後は市民の視点から森林政策を評価することが必要である。
著者
山田 太造 井上 聡 山家 浩樹
雑誌
じんもんこん2019論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.3-10, 2019-12-07

本論文では,歴史データを対象に,史料データの収集・蓄積・分析・提示・提供といったデータ流通基盤の整備を目的とし,史料や派生する歴史データを蓄積していくために構築を進めたデータリポジトリと,そこに蓄積したデータを分析し提示・提供していくための手法について述べる.
著者
七沢 潔 Nanasawa Kiyoshi
出版者
法政大学サステイナビリティ研究所
雑誌
サステイナビリティ研究 (ISSN:2185260X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.71-89, 2015-03

Four years have passed after Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant (NNP) accident, now people seems to lose their interests in the situation, as if they met "the half-life of memory." A number of TV documentary programs featuring the accident has decreased from 166 in 2011 to 109 in 2013. This study examines the pressures from the authorities upon journalists which eventually lead the public indifference by illustrating four cases of media coverages on issues: (1) radiation contamination, (2) "voluntary evacuees", (3) effects on people and (4) investigation on the accident. The first case reports that three staffs were warned by NHK after participating in NHK's documentary series "Collaborating to create a radioactive fallout contamination map," and an argument over the series by the NHK management committee. The second case shows that "voluntary evacuees" from Fukushima is not much featured on TV since it is against the government's policy. Third, this report analyzes a case which a group of nuclear energy scientists and technicians submitted a protest to Chairman of NHK regarding a TV program on low level radiation effects. Fourth, a case of Asahi Shimbun's "Yoshida Transcripts," the journalists severely criticized and the article over the transcripts has been retracted. In conclusion, the author emphasize the necessity of sustainable efforts to keep society's memory of Fukushima nuclear accident despite the headwind towards journalism. 福島第一原発事故から4年が経ち、人々の事故への意識は「記憶の半減期」を迎えている。メディアの報道姿勢にもそれが顕れ、2011年度には166本あった原発事故関連のテレビのドキュメンタリー番組が2013年度は約3分の2の109本に減少した。本稿では急速な意識の風化の背後にある権力による直接的、間接的「操作」の事例を(1)放射能汚染、(2)「自主避難」、(3)人体への影響、(4)事故プロセスの検証、をテーマとしたテレビ、新聞の報道を中心に検証した。(1)では『ETV 特集 ネットワークでつくる放射能汚染地図』のシリーズ6本目放送後に1年9カ月の「空白」があった背景として番組スタッフが NHK から「厳重注意」となったこと、NHK 経営委員会であった番組をめぐる議論を紹介。(2)については「自主避難」が「国の方針に背く行為」であるからか全国放送の番組化がほとんどなされなかった事実をあげ、(3)については原子力科学者・技術者が連名でNHK会長に送った『追跡!真相ファイル 低線量被ばく 揺らぐ国際基準』(2011年12月28日放送)への抗議の手紙を事例に、「避難者の帰還」を目指す国の政策に批判的な報道への圧力を分析、子どもの甲状腺ガンが増えている事実をテレビが番組化しようとしなかった背景を明かした。(4)では、「吉田調書」のスクープをした朝日新聞の記者たちが「記事取り消し」の汚名を着せられた事例を分析、原発報道に吹く政治的な逆風とそれに負けない粘り強い報道が必要であることを指摘した。