- 著者
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天野 宏司
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2008年度日本地理学会春季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.252, 2008 (Released:2008-07-19)
近代日本の郵便制度は1871(明治4)年に東京~大阪間での逓送を開始したことに始まり,翌年に全国展開が図られた。さらに1873年には,郵便取扱の独占と全国均一料金に規定される現在の郵便事業の原型が完成した。これに伴い,郵便物を実際に逓送するルート・手段,頻度などを把握・周知するための「郵便線路図」が1872年に作成された。郵便線路は,郵便局の新設や廃止,地域交通体系の変化などにより頻繁に改変されるため,「郵便線路図」もしばしば改変された。いわば,「郵便線路図」は逓信省という,公権力による空間把握の結果を示す。明治政府による,国土空間の把握を振り返ると,迅速測図に始まる地図作製が1880(明治13)年からであり,鉄道ネットワークが形成されるのは1890年代である。「郵便線路図」の作成は,これらに大きく先行するとともに,把握および更新頻度の高い空間情報でもあった。「郵便線路図」には同一年紀のものが複冊存在する。各地の逓信区からあげられた郵便線路の改変情報をもとに,「郵便線路図」原簿が作成されていたためと考えられる。