著者
久保田 勝
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.687-692, 2017 (Released:2017-11-01)
参考文献数
12

健診でのスパイロメトリーによる気流閉塞(閉塞性換気障害)の検出は慢性閉塞性肺疾患(COPD)早期発見に重要である。スパイロメトリーを含めた呼吸機能検査の解釈は、被験者の測定値と同じ人種・民族の健常人データから性別・年齢・体格などの要素を独立変数として作成された予測式から算出された基準値との比較による相対的評価によって行われる。そのため、スパイロメトリーの評価には使用されている基準値を理解する必要がある。 日本では2001年に日本呼吸器学会(JRS)が公表した重回帰分析による予測式が広く利用されているが、2014年にJRSは年齢回帰をLMS法により解析した日本人成人の新しいスパイロメトリー基準値と正常下限値(LLN)を作成公表した。今回はこの新基準値を紹介するとともに、COPD早期発見のための気流閉塞診断における問題点を検討する。 気流閉塞の指標である1秒率(1秒量/努力性肺活量:FEV1/FVC)を新基準値と2001年基準値とで比較すると、男女とも新基準値で低下しているが、女性の1秒率LLNは新基準値のほうが大きくなっている。 気流閉塞の定義はスパイロメトリーで1秒率70%未満、COPD診断基準は、気管支拡張薬投与後の1秒率70%未満とされ、「70%未満」の固定値が適用されている。1秒率を新基準値に基づくLLNで検討すると、1秒率LLN 70%は男性60歳、女性70歳に相当する。すなわち、1秒率70%未満を気流閉塞の基準とした場合、高齢者以外は過小診断していることになる。高齢者以外は、1秒率70%以上であってもLLN未満の場合にはCOPDの可能性を疑う必要がある。
著者
倉地 洋輔 枡本 愛 井出 善広 本宮 幸治 政信 博之 大下 ゆり 猪本 祐里 岡本 健 川口 浩太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C1034, 2004 (Released:2004-04-23)

【目的】変形性膝関節症(以下,膝OA)において肥満は症状を進行させる重要な因子である。しかし,減量による膝関節への機械的圧迫の軽減が,疼痛の軽減に効果があるか探った研究は少ない。そこで今回,減量の程度と痛みの改善度が相関するという仮説のもと,一般的治療に平行して減量を目的とした運動療法(以下,Ex.)を行ない,減量と痛みとの関連について検討した。【対象と方法】対象は,2003年1月初めから9月末までの間に膝OAの診断で治療を受け,従来の治療に加え減量を目的としたEx.が2ヶ月間継続できたもの20名(女性17名・男性3名、年齢58.3±10.4歳,身長155.8±6.8cm,体重67.8±8.1kg,OAG-I:15人,OAG-II:3人,OAG-III:2人,BMI肥満度標準:4人,肥満1度:10人,肥満2度:6人)とした。初診時に身長・体重・体脂肪測定およびCOMBI社製エアロバイク75XLを用いた運動負荷試験を行ない,運動処方を作成した。運動負荷強度は40~60%最大酸素摂取量および自覚的運動強度の「ややきつい」レベルの有酸素運動(自転車駆動)とし,運動頻度は週3回,1回につき15~40分間行った。Ex.と平行して物理療法およびROM ex.は全例に行い,ヒアルロン酸ナトリウム関節内注射も1回/週で平均5回施行した。また,消炎鎮痛薬(内服薬)も処方され,栄養士による栄養相談も行なった。痛みの評価として,初診時の主観的な痛みを「10」,全くなしを「0」とし,Ex.開始後2カ月の時点で痛みがどの程度になったか確認した。統計学的検定にはスピアマンの順位相関係数を用い,有意水準は5%とした。【結果】全症例において痛みが軽減し,半減したものは20名のうち17名であった。体重変化率でみると,体重が減少した18名の減少率は-0.1%~-13.5%であり,体重が増加した1名の増加率は2.7%であった。体脂肪率変化率では,体脂肪率が減少した15名の減少率は-1.4%~-22.3%であった。増加した5名では1.2%~12%であった。体重変化率と痛みの改善度の間に相関関係は認められず(ρ=0.33),体脂肪率変化率と痛みの改善度との間にも相関関係は認められなかった(ρ=0.18)。【考察】膝OAによる痛みの原因は種々のものが考えられ。今回,膝関節にかかる機械的な刺激としての重量を減らすことが痛みの軽減につながるという仮説を立てたが,体重減少の割合と痛みの変化とは一致しなかった。今回の調査では,それぞれの介入による疼痛軽減効果を検討することはできないが,SLRなどによる筋運動が膝の痛みを軽減するとの報告もあり,今回,自転車をこぐという膝関節の屈曲・伸展交互運動が膝OAによる痛みの軽減に関与した可能性もある。今後は,各介入方法間の痛みの改善度についても検討を加えていきたい。
著者
本橋 充成
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.23-26, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)

「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」は,我が国のICTに関わるサービスやインフラの高度化を図り,世界に日本のICTを発信する最高のチャンスとして期待される。このことを踏まえ,総務省では有識者懇談会を開催し,2020年東京大会以降の我が国の持続的成長も見据えた,2020年に向けた社会全体のICT化の推進の在り方について検討を行ってきた。本稿では,懇談会で策定したアクションプラン及び2020年東京大会に向けた提言と,その中で取り上げた各施策の進捗状況について紹介するものである。
著者
福嶋 聖淳
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.17-22, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)

インターネット上の情報は今日の社会において欠かすことのできないものとなっており,2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)を後世に伝えていくためにも,それらの保存が課題の一つである。国立国会図書館はインターネット資料収集保存事業(WARP)により,東京2020大会に関連する様々なウェブサイトの保存に努めている。ウェブアーカイブに関する国際協力組織であるIIPCにおいても同様に,オリンピック・パラリンピックに関するウェブサイトの保存が図られている。近年は,ウェブアーカイブの研究利用も進められており,オリンピックやスポーツ関連のウェブアーカイブを利用した試みもなされている。
著者
松本 祐一
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.7-11, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)

東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,東京2020大会)期間中,何も対策を行わなかった場合,道路においては大会関係車両や物流車両の増加などで交通状況は厳しくなる見通しである。首都高の渋滞は現況の2倍近くまで悪化,鉄道については,観客の利用等を要因として10%増,また会場周辺駅や近傍路線を中心に局所的な混雑が発生することが予想されている。東京2020大会の輸送を安全・円滑に行うための基本的な考えとして,円滑な大会輸送の実現と都市活動維持との両立に向け,①交通需要マネジメント(TDM),②道路の交通システムマネジメント(TSM),③公共交通輸送マネジメントについて,入念な準備と柔軟な対応及び,レガシーの提起と継承を掲げて,検討・取組を行っている。本稿では,これらの取組について紹介する。
著者
黒田 優香
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.2-6, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)

2018年の訪日外国人数は過去最高を記録し,2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けてさらなる増加が見込まれている。訪日外国人の受け入れ対策が進む中,言語の壁を解消する情報伝達手段としてビジュアルコミュニケーションの活用に期待が高まっている。その中でも,“案内用図記号”は,1964年東京オリンピックにも深く関係していた。本稿は,案内用図記号と東京オリンピック・パラリンピックの関係性に焦点を当てた特集記事である。
著者
南山 泰之
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)

2020年初の特集は「東京オリンピック1964-2020」です。今年は東京オリンピック・パラリンピックが大きな社会的テーマの一つとなることに疑いはなさそうです。ウェブ記事や新聞に留まらず,学術雑誌でも特集テーマが組まれるほど幅広い影響があり,弊誌でも本テーマを取り上げることになりました。本特集では進化する情報技術や標準化技術を用いた取り組みを中心に紹介しつつ,1964年東京オリンピックとの比較も随所に交えながら,多様な角度からオリンピック・パラリンピックに関わる情報へ光を当てていくことを企図しています。このような企画趣旨のもと,今回は5名の方々にご執筆をお願いしました。黒田優香氏(一般財団法人日本規格協会)からは,オリンピック・パラリンピックにおける案内用図記号の活用につきご紹介いただきました。松本祐一氏(東京都オリンピック・パラリンピック準備局)からは,オリンピック・パラリンピック期間における交通網のマネジメントに関する取り組みをご紹介いただきました。渡邉英徳氏(東京大学大学院情報学環)からは,デジタルアース・コンテンツ「東京五輪アーカイブ1964-2020」の制作と活用事例をご紹介いただきました。福嶋聖淳氏(国立国会図書館関西館)からは,国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)によるオリンピック・パラリンピック関連サイト保存の取り組みを中心にご紹介いただきました。本橋充成氏(総務省情報通信政策課)からは,オリンピック・パラリンピックを背景に総務省が推進するICT化アクションプランにつきご紹介いただきました。オリンピック・パラリンピックを支える社会的/文化的なインフラに目を向けると,そこには本特集でご紹介するような思いがけない技術の粋が込められています。本特集が読者の皆様に新たな視点を提供し,東京オリンピック・パラリンピックをより楽しむための一助となることを期待します。(会誌編集担当委員:南山泰之(主査),今満亨崇,渋谷亮介,當舎夕希子)
著者
北川 勲 石津 隆 大橋 一慶 澁谷 博孝
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.120, no.10, pp.1017-1023, 2000-10-01 (Released:2008-05-30)
参考文献数
20
被引用文献数
6 9

Monthly changes of the content-ratio between S-(-)-and R-(+)-hyoscyamine as well as those between S-(-)-and R-(+)-scopolamine in the leaves of Datura metel L. cultivated in the field, were quantitatively analyzed by the use of HPLC with a chiral adsorbent. It was found that S-(-)-isomer was predominant for hyoscyamine and the ratio of R-(+)-isomer gradually increased during the growth, whereas in the case of scopolamine, S-(-)-isomer was the sole one found throughout the cultivation period. The 1H-NMR study in the CD3OD solution has suggested that S-(-)-hyoscyamine (1) and S-(-)-scopolamine (2) take a "face-to-face"conformation between their tropane skeletons and the benzene rings of the tropic acid moieties. In the presence of an equimolar NaOD in the CD3OD solution, the racemization at C-2' of 1 and 2 proceeded more rapidly than the hydrolysis at the tropic acid ester bond, presumably due to the steric hindrance caused by their"face-to-face"conformations. In the D2O and H2O solutions, on the other hand, the racemization and the hydrolysis of 1 proceeded smoothly, while those of 2 did not occur. It has been supposed that these individual reaction manners are ascribable in considerable extent to the different basicity of N atom in each tropane skeleton of 1 and 2 and to stronger intramolecular hydrogen bond occurring between the carbonyl oxygen at C-1' and the hydroxyl group at C-3' in the tropic acid moiety of 1.
著者
石井 敦士
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

小児交互性片麻痺(AHC)は生後早期の異常な眼球運動で発症することが多く、1歳半までに発作性の片麻痺を呈す。また、てんかんや多彩な不随意運動を随伴症状とする。特異的検査所見はなく、治療法も確立されたものはない。我々はAHC責任遺伝子を同定することを目的に、次世代シークエンサーでの全エクソーム解析をAHC患者8名に対して施行した。その結果、8名全員でATP1A3遺伝子にミスセンス変異をヘテロ接合で認めた。両親に変異は存在せず、ATP1A3遺伝子のヘテロ接合での新生ミスセンス変異がAHCを引き起こすことが解明できた。また、遺伝子型と表現型解析によりE815K変異患者では有意な相関を認めた。
著者
元木 崇裕 佐々木 征行 石井 敦士 廣瀬 伸一
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.133-136, 2016 (Released:2016-03-26)
参考文献数
12

症例は3カ月の女児. 生後数日より発作性の異常眼球運動と姿勢の異常を不定期に認めていた. 左右の眼球が発作性に別々に外転位や眼振を繰り返していた. また片側性のジストニア姿位も認めていた. この特徴的な左右非対称性異常眼球運動およびジストニア姿位より小児交互性片麻痺 (alternating hemiplegia of childhood ; 以下AHC) を疑った. ATP1A3遺伝子解析を行いAsp801Asn変異が確認された. AHCは左右不定の片麻痺発作を繰り返す非常にまれな疾患である. 多くは生後6カ月以内に発症するが, 初発症状として見られるのは片麻痺発作ではなく異常眼球運動や全般性強直けいれんであることが多い. AHCの異常眼球運動の特徴として左右非対称性の眼転位や眼振があげられる. AHCは各種検査で特徴的な所見を示さず, 片麻痺発作発症前は確定診断が困難である. 近年はflunarizineの運動発達退行を防ぐ可能性も示唆されており, 早期診断がより重要となる. 左右非対称性の異常眼球運動が新生児期や乳児期早期に認められた場合はAHCを積極的に疑い, 遺伝子解析を考慮すべきである.
著者
榊原 良太
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.105-113, 2014-05-01 (Released:2014-09-11)
参考文献数
71
被引用文献数
1 3

Emotion regulation has been the center of the attention for a few decades, contributing to, for example, the understanding of the relation between emotion and well-being. However, criticisms and reconsiderations of self-report scale, which have played an important role in emotion regulation studies, haven't been thoroughly done. Therefore, on the basis of Gross's process-model, the present paper reviewed the existing scales of “attention deployment,” “cognitive change,” and “response modulation,” which are the three points of the emotion regulation process. In particular, the uniqueness and problems of each scale are referred when necessary. The limitation of the present paper and future view of emotion regulation studies in general are discussed in conclusion.