著者
笹野 遼平 奥村 学
出版者
一般社団法人 言語処理学会
雑誌
自然言語処理 (ISSN:13407619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.687-703, 2017

<p>日本語二重目的語構文の基本語順に関しては多くの研究が行われてきた.しかし,それらの研究の多くは,人手による用例の分析や,脳活動や読み時間の計測を必要としているため,分析対象とした用例については信頼度の高い分析を行うことができるものの,多くの仮説の網羅的な検証には不向きであった.一方,各語順の出現傾向は,大量のコーパスから大規模に収集することが可能である.そこで本論文では,二重目的語構文の基本語順はコーパス中の語順の出現割合と強く関係するという仮説に基づき,大規模コーパスを用いた日本語二重目的語構文の基本語順に関する分析を行う.100 億文を超える大規模コーパスから収集した用例に基づく分析の結果,動詞により基本語順は異なる,省略されにくい格は動詞の近くに出現する傾向がある,Pass タイプと Show タイプといった動詞のタイプは基本語順と関係しない,ニ格名詞が着点を表す場合は有生性を持つ名詞の方が「にを」語順をとりやすい,対象の動詞と高頻度に共起するヲ格名詞およびニ格名詞は動詞の近くに出現しやすい等の結論が示唆された.</p>
著者
古村 敏明 Toshiaki KOMURA
出版者
神戸女学院大学女性学インスティチュート
雑誌
女性学評論 = Women's studies forum (ISSN:09136630)
巻号頁・発行日
no.30, pp.43-64, 2016-03

本論文、「写真の中の生きる死者:Sharon Olds's The Dead and the Living」では、現代アメリカ詩人Sharon olds の詩集 The Dead and the Livingを題材に、生きているときの死者の写真を見る、という行為の中で感じられる間接的な喪失感とそこから生まれる共感の可能性について考察する。William Shakespeare が Sonnet 18 で表現しているように("So long as men can breathe or eyes can see, / So long lives this, and this gives life to thee")、芸術作品はその作品に描かれたものをその死後も永続させる力を持つ。死者の生前の写真の場合、そこに「芸術的生」(artistic life)と作品の中の対象の実際の死が共存するスペースが生じ、本の中の出来事が常に現在形で表されるのと同様に、死者の生が、過去のものであるだけでなく、現在にも存在し続ける。ただ、それはRoland Barthes, Walter Benjamin, Susan Sontag らの代表的な写真理論で示唆されているように、倫理的な問題を孕む、オーセンティックな主体が失われたものとしてである。 Olds の ekphrasis は、この芸術的生と現実の死を通して、より倫理性の高い共感を作る可能性を模索している。 "Photograph of the Girl" に代表されるように、Olds が描く死者は、写真で失われるオーセンティックな主体性を修復するかのように、その生及び性を主張する。この主体主張による「創られた真実性」(artificial authenticity)とそのフィクション性の認識の中から倫理的な共感が発生しうること、そして、それが喪失の間接性によって隠された、本当の喪失の知覚を可能にするということが、本論文の主旨である。
著者
束原 史華 影山 志保 太田 実 諸岡 信久
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.69, 2017

<br><br>目的 甘酒はアミノ酸などが豊富に含まれ、飲む点滴という異名を持つ日本特有の甘味飲料である。現代の日本では冬に温かくして飲まれることが多いが、江戸時代には夏バテ防止に飲む冷やし甘酒が多かった。しかし甘酒には独特の風味があり甘酒が苦手という人も多くいる。そこで甘酒が苦手な人でも飲めるように甘酒と様々な三次機能を持つ牛乳を混合し飲みやすくした飲料を検討した。この飲料は夏の暑い時期、栄養補給ができるバランスの良い栄養飲料として位置付けることをねらった。 <br><br>&nbsp;<br><br>方法 福島県の太田酢店の甘酒と酪王乳業の普通牛乳を使用し、糖度計(ASONE APAL-1)、pH測定器(HORIBA SENSOR)、K⁺測定器(HORIBA B-731)、Na⁺測定器(HORIBA B-722)、Ca⁺&sup2;測定器(HORIBA B-751)、塩分測定器(HORIBA C-121)を用いた成分検査と官能検査の結果から配合を検討した。また、配合が定まった飲料の添加物についての検討を行った。<br><br>&nbsp;<br><br>結果 甘酒と牛乳の混合比率に関する官能検査では甘酒40%、牛乳60%の比率が最も高評価であった。次にこの比率をもとに試料を水で希釈した所、甘酒20%、牛乳30%、水50%の試料が官能検査では最も高評価であった。この試料の成分分析結果は、Brix 13.8%、pH6.3、Na⁺150 mg/kg、K⁺570 mg/kg、Ca⁺&sup2;110 mg/kg、NaCl 0.02 g/mlだった。次にこの試料にNaClを添加したが、味がくどくなったためCaCl₂に変更し、試料に添加した。その結果CaCl₂添加の試料はNaCl添加の試料よりも後味がさわやかになった。CaCl₂添加試料の成分分析の結果はBrix 11.1%、pH5.5、Na⁺210 mg/kg、K⁺750 mg/kg、Ca⁺&sup2;350 mg/kg、NaClとして0.02 mg/100mlであった。
著者
小坂 浩之 谷下 雅義 鹿島 茂
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.19-31, 2001

<p>港湾計画や船舶の運航形態等の分析に用いる国際海上貨物流動統計は,その特性や精度が示されている必要がある.本研究は,重量とTEUベースで国・地域間の海上貨物流動量を示す統計を対象とし,その現状を示すことを目的とする.国際海上貨物流動量は,荷主や船社の輸送量から直接把握されるのに加え,金額ベースの貿易統計を用いた推計から把握される.そのため,最初に,国連統計局の既存研究である貿易統計から重量ベースの国際海上貨物流動量を推計する手法を検討する.次に,アメリカ,EU,アジア地域の重量とTEUベースの国際海上貨物流動統計の現状を示す.特にアジア地域においては,既存の統計を比較し,その特性と精度を示す.</p>
著者
倉林 義正
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.25-32, 1991

去る1990年11月,ニューヨークの国連本部は,現行の「新SNA」に対してさらに改訂の草案を発表した。SNAは産業連関表や資金循環勘定,さらには国民貸借対照表を含む総合的な国民経済計算のシステムである。その改訂が意味するところは各国の経済・社会政策にとってもきわめて大きな影響を及ぼす。筆者はこの再改訂のさなかの3年有余を国連統計局長として在任され,再改訂に直接関与された。この再改訂の動きを実感のこもった,貴重な体験を含めて,以下に展開する。
著者
岡 裕泰
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p>国連統計部の月間統計情報オンライン(2017年2月17日更新版)による建築統計と人口統計、および国連食糧農業機関の林産物統計(2015年12月更新版)を用いて、2000年から2014年までの各国の年次別建築面積(住宅、非住宅別)、住宅建築戸数、人口と、製材と木質パネルの合計の見かけの消費量(木材消費量)の関係を分析した。住宅建築面積のデータが掲載されている主要国18か国のうち、住宅建築面積のみの一変数によって各年の木材消費量を説明しようとしたときに決定係数が0.6以上になったのは、日本(0.93)の他、トルコ、ロシア、ニュージーランド、フランス等であり、一人あたりの木材消費量が大きい北欧諸国やドイツでは決定係数が低く、住宅建築に関わらない用途の比重が高いことが示唆された。住宅建築面積に比例する成分の割合は日本が88%と際だって高く、ほとんどの国は50%未満であった。住宅建築面積が1m<sup>2</sup>増えるごとの木材消費量の増分は0.1~0.4m<sup>3</sup>/m<sup>2</sup>程度の国が多く、日本は中庸であった。日本の人口あたりの住宅建築戸数は減少傾向にあるが依然としてかなり高く、一戸あたりの面積はやや小さい方だった。</p>
著者
古川 曜子 田路 千尋 中村 芳子 福井 充 伊達 ちぐさ
出版者
武庫川女子大学
雑誌
武庫川女子大学紀要 自然科学編 (ISSN:09163123)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.59-65, 2005
被引用文献数
2

IT技術を活用した食事調査法が,新しい食事調査法として疫学研究に利用可能かどうかその妥当性と実用性を検討した.妥当性については,本学教員及び学生(女性25名,24.9±7.6歳)を対象として2003年4月下旬から8月下旬に実施した.不連続の2日間を調査日とし,ゴールドスタンダードとして秤量食事記録法(DR)を採用し,デジタルカメラ付携帯情報端末機器法(DC)と同時に実施した.DR法によって全ての飲食物を原則として生状態で秤量し記録した後,飲食物を調理後盛り付けた状態でDCによって撮影し,画像を送信した.両方法の平均値を比較した結果,炭水化物と食物繊維に有意差が認められたが,相関係数は,ナトリウム以外はすべての栄養素等で有意な正相関が示された.DR法は対象者の負担が非常に大きいが,摂取食品を計量する必要がないDC法は,ナトリウム以外は妥当性の高いことが示された.実用性については,都市の男性勤務者(36名,43.2±7.5歳)を対象とした.2003年8月下旬から11月下旬にかけて,1週間のうちに平日を3日間,休日を1日間の合計4日間の食事について,DCを用いて栄養素等摂取量を評価した.対象者36名のうち,1度の調査で4日間の食事を漏れなく撮影できた者は4名しかなかった.残り32名に再調査を行い,最終的に4日間の食事を撮影できたものは22名であった.再調査を行わなければならなくなった原因は,撮影漏れ,撮影ミス,残食撮影漏れ,食品摂取量を推定するための目安である専用ペンを置忘れた状態での撮影,端末不良であった.画像を送信出来なかった原因としては,DC機器の携帯を忘れた,PHSの電波が入らなかった,面倒だった,時間がなかった,人目が気になった,などが挙げられた.DC使用後に実施した質問票では,日常生活上の問題点として,付き合いがしにくい,外食しにくい,旅行しにくい,が挙げられた.本研究の結果より,食事調査法として簡便な方法であると思われたDCが,対象者にとって負担が大きかったと考えられる.個人レベルで平均的な1日の栄養素等摂取量を求めたい場合,DCの複数日の調査は困難であると考えられる.集団の平均値の把握や集団レベルでの比較に利用できる可能性が高いことが示された.
著者
金 基成 小溝 裕一 寺崎 秀紀 濱田 昌彦
出版者
一般社団法人 溶接学会
雑誌
溶接学会全国大会講演概要
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.234, 2008

Ni量を変化させた低炭素鋼溶接金属をTIG溶接したときの凝固過程を放射光を用いた時分割X線回折でその場観察した結果を発表する。同定したδ相とγ相、液相を示すハローパターンからNi量の変化によって凝固モードが遷移することを直接観察した。
著者
保田 淑郎
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.159-173, 1998-06-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
49

筆者は,日本産の本属の種についての検討を1956年に行い,当時の知識と雌雄交尾器の形態から,日本のものはAdoxophyes orana(Fischer von Roslerstamm)であるとした.その後,農業上,園芸上の害虫として本属に属する種が重要視され,特にリンゴとチャをそれぞれ加害するもの(リンゴコカクモンハマキ,チャノコカクモンハマキあるいはコカクモンハマキのリンゴ型,チャ型)について多くの研究者による生態学的,生理学的,形態学的な研究が進められてきた.このような経緯の中で筆者は再び1975年,リンゴを主に加害するリンゴコカクモンハマキにA.orana fasciata Walsinghamの名をあて,チャノコカクモンハマキに対しては種名を決定できぬままAdoxophyes sp.として対応した.ハマキガ亜科の昆虫は明瞭な性的二型を有するが,Adoxophyes属のものも例外ではない.特に,今回新種として記載した2種は顕著な性的二型を示す.また,幼虫期における温度の差,すなわち低温,高温によって成虫の翅の基色や斑紋に変化が生じる.一般的に幼虫期に高温を経験すると成虫の斑紋は明瞭,濃色となる傾向があり,外見では同定が容易ではない.しかし,雄の前翅のcostal foldやその内面の特化した鱗片群,雌雄交尾器などの詳細な形態を比較検討した結果,チャノコカクモンハマキとリンゴコカクモンハマキは形態的に識別可能であり,さらにチャノコカクモンハマキとされていたものには2種が混同されていたことが明らかになった.今回,現在の混乱を避ける意味で日本に分布するものについて一応の整理をおこなったが,今後もさらに総合的な研究が続けられる必要がある.本論文では日本産Adoxophyes属を次のように整理した.1.Adoxophyes orana fasciata Walsinghamリンゴコカクモンハマキ翅は赤色味を帯び,斑紋は乱れている.Costal foldの内部両面には白色で紡錘形の特化した鱗片群を密に有する.バラ科植物を主に寄主とし,北海道と本州とに分布する.2.Adoxophyes honmai sp.nov.(新種)チャノコカクモンハマキ翅は黄土色で光沢があり,斑紋は明瞭である.Costal foldは3種の中ではもっとも狭く,内面には特化した鱗片群はない.主にチャを寄主とし本州西南部に分布する.おそらく四国,九州にも分布すると思われる.3.Adoxophyes dubia sp.nov.(新種)ウスコカクモンハマキ(新称)本種はチャノコカクモンハマキと混同されていた.翅は白っぽく光沢があり,斑紋は明瞭である.Costal holdは3種の中ではもっとも大きく長く,その内面は褐色で紡錘形の特化した鱗片群で裏打ちされている.本州西南部,四国,九州,琉球列島に分布する.本種は本州のネジキとヤブサンザシで飼育,羽化した記録はあるが,本州でチャからは得ていない.
著者
塚本 美恵子
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A, 教育研究 (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.111-133, 1990-03
被引用文献数
1

The purpose of this paper was to clarify the concept of the term "TEKIO" and to report on the result of a survey done on school children who transfered schools. The term "TEKIO" originally used in biology is now commonly used. Although the function of "TEKIO" might be same, the concept or the definition of the term shows delicate shades of meaning depending on the research field. The English term of TEKIO is also different, like "adjustment" in psychology and "adaptation" in anthropology. In addition to these differences, the term "TEKIO" has a lot of synonyms. To make the concept clear and to avoid confusion, the term TEKIO should be used with a definition or an appropriate adjective. The aim of this survey was to determine the length of adjustment time and to identify facilitating factors when children encountered new environments: new schools, new classes and new friends. 29 school transfer children, their teachers and parents were administered questionnaires and later interviewed. Most teachers, 21 out of 29, concluded that these school tranfer children adapted within a couple of months. On the other hand, more than half children (17 out of 29) still preferred their former schools even when 6 months had passed. From an analysis of this survey, the following facilitating factors were identified: (1) prior school transfer experience, (2) parents positive attitude toward new environments, (3) active and outgoing girls in lower grades, (4) children who were given a chance to show their talent or skill among their classmates.
著者
JUNJI HAMAMATSU
出版者
The English Linguistic Society of Japan
雑誌
ENGLISH LINGUISTICS (ISSN:09183701)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.300-319, 1997 (Released:2009-12-24)
参考文献数
29

This study concerns itself with the relation between the suffix of a derived noun and the possibility of NP-internal movement. We will begin with a summary account of Roeper's (1987) study on inheritance of a verb's argument structure to that of its derived noun. Subsequently, three varieties of nominals that involve movement will be investigated from a morphological perspective. With respect to each nominal, the advantage of a morphological approach over semantic explanations will be demonstrated.