著者
酒井 智宏
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.131-151, 2015-09-30

この論文の目的は、固有名に関する記述主義をサポートする証処とみなされてきた非存在言明のパズルが、実は、記述主義と相反する立場である単称主義をサポートするものであることを示すことである。固有名に関するもっとも素朴でもっとも直観にかなった考え方は、「固有名=個体につけられたラベル」というJ.S.ミルに代表される考え方である。ところが、この考え方のもとでは「ペガサスは存在しない」のような非存在言明がパズルを引き起こすことが知られている。「ペガサス」によって指示される個体についてそれが「存在しない」と述べるのは矛盾でしかないからである。そこで、ラッセルは、自然言語の固有名が実は固有名ではなく偽装された記述であるとする記述主義を唱えた。しかし、クリプキが指摘したように、固有名に関する記述主義には問題が多い。それゆえ、もし可能であれば、ミル説と非存在言明の問題とを両立させることが望ましい。この論文では、非存在言明を文法的注釈とみなす野矢(2002/2006)の考え方と、「切り裂きジャック」のような記述名を「いずれ記述を介さずに対象を指示できるようになることを期待された名前」とみなすRecanati(1993)の考え方を統合し、「PNは存在しない」が「『PNはQだ』は単称命題ではない」(Qは任意の述語)を意味すると考えることで、ミル説と非存在言明の両立が可能であることを示す。「『PNはQだ』は単称命題ではない」という意味記述は単称主義を前提とするため、この意味記述を採用すれば、単称主義のもとで非存在言明のパズルが自動的に解決されることになる。The purpose of this paper is to show that the puzzle of non-existential statements, which has long been considered to support Descriptivism, can in fact be accounted for within Singularism as suggested by J.S. Mill. The Millian view on the semantics of proper names regards proper names as labels for individuals. This view, however, is known to give rise to a puzzle when confronted with a non-existential statement such as "Pegasus does not exist", to the extent that the statement denies the very existence of Pegasus denoted by the subject NP. According to Descriptivism as defended by Russell, this puzzle suggests that alleged proper names in natural language are not proper names in the true sense of the term, but disguised descriptions. Since Descriptivism raises more problems than it solves, however, it is better to find a solution for the puzzle within the Millian framework. By drawing on Noya's (2002/2006) idea that non-existential statements are nothing but grammatical statements on the use of proper names, as well as on Recanati's (I 993) view that de Jure any proper name demands that its referent be thought of non-descriptively, this paper argues that the statement "PN does not exist" means that for any predicate Q, "Q (PN)" fails to express a singular proposition. The fact that this semantic description presupposes Singularism as opposed to Descriptivism suggests that, as against the traditional conception mentioned above, non-existential statements raise no puzzle for the Millian view on proper names.論文 Articles
著者
石井 博章
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.337-343, 1981-07-15

国鉄における旅客サービス・システムの一機能である座席予約においては列車名をキーとする方式がとられているこの場合旅客はあらかじめ時刻表などで希望する列車を調べておかなくてはならない.現在そのシステムを全体的に見なおし機能向上をはかろうという検討がなされており その一環として旅客の希望する時間帯からシステム側で列車を選定する方式の開発が進められている.それは時間帯予約方式と呼ばれているが ここではその問題を一種のネットワーク問題 特に枝の長さが時間の関数で与えられたネットワーク上の経路問題 として取り扱い 問題点を明らかにすると共に それらをマン・マシンにより実用的に解決し 列車選定を行う方式を提案する.この方式は現在の国鉄網の規模にたえうるものであり かつ優等列車ばかりでなく普通列車をも対象にしたきめの細かいサービスが期待できるものと考えられる.
著者
髙梨洋平
出版者
明治大学
巻号頁・発行日
2018

終了ページ : 200
著者
木村 昌臣 鍋田 啓太 大倉 典子 土屋 文人
出版者
横断型基幹科学技術研究団体連合(横幹連合)
雑誌
横幹連合コンファレンス予稿集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.93, 2009

医薬品の使用の安全性は、医薬品に関する医療事故を防止するためのキーとなるもののひとつである。これを担保するため、従来は医薬品の名称・外観が類似したものについての注意喚起や実務に採用しないなどの工夫がされてきたが、このような工夫にも関わらず、実際に事故が起こってしまったことを鑑みるとこれらの工夫だけでは対策として不十分と言わざるを得ない。本来、正しい医薬品を適切に使用するためには、用法・用量が正しいものであるかを使用者に確認させる必要があり、これにより使用の安全が担保されると考えられる。そのためには、各医薬品の用法・用量に関する情報を保持するためのデータベースが必要である。そこで、PMDAから公開されている医薬品添付文書情報のうち、用法・用量に関係する部分に対し、テキストマイニング手法を適用し、これに含まれている情報を抽出し、このデータベースのスキーマ定義に必要な項目を提案することを試みる。

1 0 0 0 OA 群書類従

出版者
巻号頁・発行日
vol.第38-39,
著者
矢内 真理子 Mariko Yanai
出版者
神戸女学院大学女性学インスティチュート
雑誌
女性学評論 = Women's studies forum (ISSN:09136630)
巻号頁・発行日
no.30, pp.65-90, 2016-03

「デイジー~3.11女子高生たちの選択~」(漫画:ももち麗子、原作:小林照弘、草薙だらい、信田朋嗣)は講談社の少女マンガ誌『デザート』に連載された作品である。本作品は原発事故後の福島の高校に通う4人の高校3年生の卒業までの1年を描いている。「デイジー」が他の原発事故を題材にした作品と異なり評価できる点は2点ある。第1に本作品は架空の人物が登場するフィクションだが、作者が福島の学生などに取材した内容に基づいて構成していること、第2に少女の日常生活に及ぶ事故の影響を、少女マンガの最大の特徴である登場人物の細やかな心の動きを用いて描いていることであり、それゆえ本稿では本作品を分析の対象とした。困難な局面において主人公たちが進路決定、職業選択を行う経緯を、地域社会をどう意識しているか、事故前と比べて地域社会との結びつきが強化されているかという視点から分析した。その結果、いずれの登場人物も「福島のために」貢献したいという動機を持って進路選択をしていること、事故前と比べて明らかに地域への意識が高まっていることが明らかになった。登場人物たちは一見、自らの意思で職業選択を行い、メディアで表象されてきた旧来のジェンダー像とは異なった主体的な生き方が描かれているようにも見える。一方で、モラトリアムの時期を持たずに地域のための働き手として、大人としての役割を期待されているとも捉えることができる。家庭とは、子どもにとっていつでも見守られていて、外の世界で危険があれば帰ることができる「安全基地」であるという。それは家庭だけでなく、地域と人間においても同様のことが言えるのではないか。原発事故によって「安全基地」の揺らいでいる状況が、少女の地域社会への結びつきを精神的にも、肉体的な身の置き所としてもより強めていると指摘できる。Daisy: High School Girls' Choices after March 11 (Manga: Momochi Reiko: original: Kobayashi Teruhiro, Kusanagi Darai, and Nobuta Tomoji) is a series that appeared in the shojo-manga magazine Dessert (Kodansha Ltd.). It depicts four high school seniors attending school in Fukushima over a one-year period after the power plant accident. Two aspects differentiate Daisy from other works dealing with the accident and make it suitable for analysis. First, although it is a work of fiction, the content is based on actual interviews of students in Fukushima. Second, the impacts of the accident on the characters' lives are depicted through subtle changes in the characters' emotional states, which is a hallmark of shojo-manga.The manga was analyzed from the standpoint of the characters' views of the local community in the context of choosing life courses and careers, and whether the characters' connections ti the local community strengthened or weakened after the accident. All characters chose life paths motivated by the desire to "help Fukushima" and had greater interest in their communities after the accident. On the one hand, the characters are depicted as proactively choosing career paths and life styles that differ from gender stereotypes. On the other hand, this may also be interpreted as an expectation that the characters move quickly into their roles as adults to better their community without the usual moratorium. Families function as secure bases to protect children at all times, and to which children can return when they encounter dangers in the outside world. Perhaps the same can be said of communities and people as a whole, In a context where secure bases have been shaken by the accident, it appears young girls' ties to local communities as settles in both emotionally and physically have strengthened.

1 0 0 0 OA 南撰要類集

出版者
巻号頁・発行日
vol.[86] (第二十八ノ二) (非人、弾左衛門、穢多之部),
著者
平井 宏幸 長谷見 雄二 安井 昇 木村 忠紀 山本 幸一
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会構造系論文集 (ISSN:13404202)
巻号頁・発行日
vol.73, no.625, pp.489-495, 2008-03-30 (Released:2008-10-31)
参考文献数
5

Fire resistance tests have been conducted to develop wooden floor-beam assemblies of 45 minutes fire resistance for design loading conditions based on Japanese traditional post and beam construction. The tests were initiated with a 2m x 3m floor specimen consisting of six 1m x 1m small specimens of different specifications including four designs with beams exposed to the lower floor and two designs with ceiling panel beneath the beam to verify the integrity and thermal penetration through the floor panels. Beams to bear with the standard loading for domestic use and assemblies for 45 minutes standard fire exposure were then designed with the vertical deflection as the temporary index for compliance with the fire resistance standard. Large scale loaded fire tests were conducted on two designs, one with bare beam and another with ceiling panel, resulting in the achievement of 45 minutes prevention of flame and thermal penetration or buckling.
著者
本望 修
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.93-98, 2015-01-01

薬事法に基づき自己培養骨髄間葉系幹細胞を医薬品(細胞生物製剤)として実用化するべく,医師主導治験を実施している。これまで,前臨床試験(GLP試験)を完了し,GMP(good manufacturing practice)で細胞製剤(治験薬)を製造し,2013年3月より医師主導治験(第III相,二重盲検無作為化試験,検証的試験)を医薬品承認審査調和国際会議のgood clinical practice基準に基づいて実施中である。本稿では認知機能向上の可能性について言及する。
著者
本望 修
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.8, pp.574-579, 2011-08-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
37

われわれは,1990年代初期から,各種細胞(幹細胞を含む)を用いた神経再生治療へ向けた基礎研究を継続してきた.近年は,骨髄間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)をドナー細胞とした神経再生研究に注目し,MSCは経静脈内投与で脳梗塞に対して著明な治療効果が認められるという基礎研究結果を多数報告してきた.これらの基礎研究結果に基づき,2007年1月より自己血清で培養した自己MSCを脳梗塞亜急性期の患者に対して静脈内投与を行い,安全性と治療効果について検討した.
著者
本望 修
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.11-24, 2016-01-01

筆者らは1990年代初頭から脳梗塞や脊髄損傷の動物モデルに対して各種幹細胞をドナーとした移植実験を繰り返し行っている。なかでも,有用なドナー細胞として骨髄間葉系幹細胞に注目し,経静脈的に投与することで著明な治療効果が認められるという基礎研究結果を多数報告してきた。現在,自己培養骨髄間葉系幹細胞を薬事法下で一般医療化すべく,治験薬として医師主導治験を実施し,医薬品(細胞生物製剤)として実用化することを試みている。脳梗塞は,2013年2月に治験届を提出し,医師主導治験(第Ⅲ相)を開始している。脊髄損傷は,2013年10月に治験届を提出し,医師主導治験(第Ⅱ相)を開始している。数年後を目途に薬事承認を受けることを目指している。
著者
森田 智慶 本望 修 山下 敏彦
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.366-371, 2017-04-25

はじめに 本邦の脊髄損傷患者の年間発生数は5,000〜6,000人と言われており,総数は10万人を超える.その発生機序は,直達外力による脊髄組織の圧挫である一次損傷と,出血・浮腫・炎症などによる壊死や損傷神経線維の脱髄・軸索損傷などの二次損傷が関与すると考えられている1).今日の標準治療は,脊椎の整復固定術・除圧術といった手術療法や,リハビリテーションが一般的である.メチルプレドニゾロンの大量投与療法は,その有効性が疑問視され,また種々の重篤な合併症が散見されることから,2013年のガイドラインにおいて「推奨しない」と記されている2).一度受けた脊髄の損傷そのものを修復し得る治療法はいまだ存在せず,現在も患者は大きな後遺症を抱えたまま,その後の生活を余儀なくされている. われわれは1990年代から,脊髄損傷の実験的動物モデルを用いて,各種幹細胞をドナーとした再生医療研究を精力的に行ってきた.なかでも,脊髄損傷のみならず,脳梗塞やパーキンソン病など,他の多くの分野の再生医療研究において有用性が高いと注目されており,臨床応用が大いに期待できるドナー細胞として骨髄中に含まれる間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)に着目した.われわれは,急性期から亜急性期の脊髄損傷動物モデルに対し,骨髄由来のMSCの移植実験を行い,良好な機能回復が得られたことを報告した1,3).これらの基礎研究結果に基づき,2013年11月には,脊髄損傷患者に対する医師主導治験を実施しており,再生医療等製品としての薬事承認を目指している. 本稿では,われわれがこれまでに行ってきた急性期から亜急性期,さらに慢性期の脊髄損傷に対するMSCを用いた再生医療研究の最新の知見と,現在本学で施行している自家MSC移植療法の医師主導治験の概要について述べる.
著者
本望 修
出版者
日本脊髄外科学会
雑誌
脊髄外科 (ISSN:09146024)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.248-250, 2016 (Released:2017-01-31)
参考文献数
3
著者
平元 奈津子
出版者
公益社団法人 広島県理学療法士会
雑誌
理学療法の臨床と研究 (ISSN:1880070X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.15-20, 2018

ウィメンズヘルス理学療法は、女性のライフステージに応じた健康問題に対して実施される。 特に妊産婦においては、妊娠・出産に伴い、様々な身体変化やそれに伴うと考えられる身体症状を有することが多い。身体症状のうち腰痛、骨盤帯痛、尿失禁等の運動器に関連した症状を有する妊産婦に対して、現在の日本では積極的な理学療法介入がされていないのが現状である。 これらの女性に対する理学療法を実施する際に、問診で症状の原因となる妊娠、出産に関する背景を探ることが重要である。妊娠、産後の経過、分娩の様式、抱っこや授乳等の育児に関する動作等、より詳細に情報収集することで、治療や予防に展開することができる。妊産婦の理学療法は特殊領域と理解されがちであるが、基本的な問診にウィメンズヘルスの内容を追加し、治療や予防ではそのリスク管理を十分に行うことができれば、通常の理学療法で十分対応できる。