著者
深澤 圭太 三島 啓雄 熊田 那央 竹中 明夫 吉岡 明良 勝又 聖乃 羽賀 淳 久保 雄広 玉置 雅紀
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.A15-A28, 2017 (Released:2017-07-19)
参考文献数
21

筆者らは福島第一原発事故による避難指示区域内外を対象とした録音による鳥類のモニタリング調査を2014年より実施している.研究者と地域住民との対話・得られたデータの透明性確保に資することを目的に,モニタリングで得られた音声データを聞き,鳥類組成のデータを作成する参加型イベント「バードデータチャレンジin福島」を2015年に実施した.イベントに際しては,WEBベースの音声再生・種名入力支援ツール「SONO-TORI」,即座に出現種や種判別の進捗状況の可視化を行なうためのシステム「SONO-TORI VIS」を新たに開発し,それらを活用して参加者が楽しみながら録音音声による種判別を進められるよう努めた.当日は定員である30名の参加者が集まり,5つの班に分かれて聞き取り作業を実施した.その結果,計63分の音声データに対して種判別を実施し,23種の鳥類が確認された.作業後のアンケートの結果,参加者の満足度および再訪意欲は高く,これらと参加者間の親睦や鳥類種判別技能の向上とのあいだに高い相関がみられた.今回の取り組みは結果に関する情報共有のありかたや,班ごとに分担する音声データの決め方などについて課題があったものの,録音音声による種判別がイベント形式の市民参加型調査として成立しうる可能性を示したと考えられる.
著者
平松 範子 山本 直樹
出版者
日本白内障学会
雑誌
日本白内障学会誌 (ISSN:09154302)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.106-110, 2016 (Released:2016-06-30)
参考文献数
11

目的:細胞を用いた水晶体再生の基礎検討として, 不死化ヒト水晶体上皮細胞(iHLEC)による三次元水晶体再構築モデルの作製を試みた.方法:iHLECを用いて静置培養した細胞凝集体(静置培養モデル)と静置培養後に回転培養を組み合わせて培養した細胞凝集体(静置・回転培養モデル)のセルブロックから切片標本を作製し, ヘマトキシリン・エオジン染色(H.E.染色), αA-crystalline, βB2-crystalline, type-IV collagen, GAPDHの免疫染色を実施した.結果・結論:静置・回転培養モデルは静置培養モデルに比べて細胞凝集体内部の崩れが軽度で, 細胞密度が高い状態が維持されていた.また, 免疫染色ではαA-crystalline, βB2-crystalline, type-IV collagen, GAPDHも強く発現しており, 回転培養を取り入れることで, より細胞のviabilityが高いモデルを作製することができた.
著者
AOKI Takuma SUNAHARA Hiroshi SUGIMOTO Keisuke ITO Tetsuro KANAI Eiichi NEO Sakurako FUJII Yoko WAKAO Yoshito
出版者
JAPANESE SOCIETY OF VETERINARY SCIENCE
雑誌
Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.77, no.9, pp.1187-1190, 2015
被引用文献数
2

Dynamic left ventricular outflow tract obstruction (DLVOTO) is a common condition in cats and humans. In this case report, a dog is described with DLVOTO secondary to severe intra-abdominal hemorrhage caused by a hemangiosarcoma. The dog was a 9-year-old, 35.7-kg, spayed female German Shepard dog that presented with a history of tachypnea and collapse. A Levine II/VI systolic murmur was present at the heart base. Abdominal ultrasonography revealed a splenic mass and a large amount of ascites. Echocardiography showed a reduced left ventricular diameter and an increased aortic velocity caused by systolic anterior motion (SAM) of the mitral valve apparatus. The heart murmur and the SAM were resolved after treatment including a splenectomy and a blood transfusion.
著者
森本 道孝
出版者
近畿大学経済学会
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.147-164, 2011-03

[概要] 本稿では, 現代アメリカ劇作家サム・シェパードの『埋められた子供』と, デイビッド・ヘンリー・ホワンの『家族礼拝』に登場する男たちが, ガラスなどの表面に自身の祖先の姿を幻視することの意味を, 彼らがアイデンティティに不安を感じており, 自身のルーツをたどろうとしている証だととらえ, 考察する。また, これら二つの劇の共通性や, 白人とアジア系という出自の違う二人の作家間の影響関係についても考える。[Abstract] The purpose of this paper is to examine the male characters in Sam Shepard's Buried Child and David Henry Hwang's Family Devotions. Since they have some anxiety about their own identities, they are haunted by the illusions of their own ancestors which are shown on the surface of the glass. They try to trace their own roots in order to relieve their anxieties. We see a similarity between these two plays and examine whether Shepard, a great white hope, had an influence on Hwang, an Asian American.
著者
伊藤 裕 宮下 和季 中尾 一和
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.95, no.4, pp.634-641, 2006-04-10 (Released:2009-03-27)
参考文献数
7

原発性アルドステロン症は高血圧患者全体の5%以上を占めると報告され, その中に画像検査では検出できないマイクロアデノーマが少なからず含まれている可能性が指摘されている. 高血圧患者全例において原発性アルドステロン症を疑い, スクリーニング検査として血漿レニン活性, 血漿アルドステロン濃度, 尿中アルドステロン一日排泄量の評価とスピロノラクトン負荷を行い, 原発性アルドステロン症が確定的であれば3mmスライス副腎CTを撮影し, さらには局在診断と病型鑑別のため入院下で副腎静脈サンプリングを含めた精査を行う. 原発性アルドステロン症の治療はアルドステロン過剰分泌が片側性か両側性かにより異なるので, 画像検査と副腎静脈サンプリングによる局在診断が重要である.
著者
Nojima Hisashi Arimatsu Yui Fujii Masahiro Murata Susumu Ichikawa Hakuhiro Fujii Shohei Morimoto Naoto
出版者
広島大学大学院文学研究科考古学研究室
雑誌
Hiroshima University bulletin of the Department of Archaeology
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-31, 2016-09-30

いわゆる「鉄芯」入り青銅剣(バイメタル青銅剣)とされてきた広島大学考古学研究室所蔵資料についての再調査を行う。バイメタル青銅剣は、紀元前800~1200ごろ年にカスピ海南部の山岳地帯において出現する金属器で、鉄利用の初期の様相を明らかにするうえで重要である。西アジア北部地域における鉄製利器の祖型として、鉄製棒状部品を内蔵する青銅剣(「鉄芯」入り青銅剣)の存在が指摘され、編年・機能研究が行われてきた。しかし、当該資料はおそらく現代において改変された青銅柄鉄剣であったことが判明した。他機関所蔵品の知見も加味すると、研究対象の多くに同様の可能性があり、「鉄芯入り」青銅剣を前提に導かれたこれまでの知見や議論は根本的な見直しを迫られることになる。紀元前2000年紀の終わりにカスピ海周辺に出現する「鉄芯入り」青銅剣が実は青銅柄鉄剣であったわけであり、それ以前に鉄製利器の導入期といった、より原初的な初期鉄器の実態がある可能性が高くなる。今回の再調査はそうした研究の脆弱性を露呈し、西アジアにおける初期鉄器時代の議論を転換する結果となった。
著者
伊藤 幸郎
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.25-31, 2002
参考文献数
7

20世紀末から医学界に流行したEBMは、複雑な現実世界に決定論的因果関係を求める代わりに、着目する集団に見られる諸現象の特性を確率論的な関係として明らかにする。EBMは19世紀に起こった実証主義に端を発する方法論で、帰納論理に基づいているから、その結果はだれでも納得するエビデンスとして示される。EBMは医療の標準化に役立ち、臨床医学の予言が確率的でしかないことをわれわれに自覚させるという点で意義がある。従来の機械論的生物医学とEBMとは科学的医学の車の両輪である。しかし科学は人生の価値や意味に中立的で、確率論的な予測を提供するのみである。EBMは人生にとって価値あることのために利用すべき道具なのだ。
著者
森本 道孝
出版者
近畿大学英語研究会
雑誌
Kinki University English Journal = 近畿大学 英語研究会 紀要 (ISSN:18827071)
巻号頁・発行日
no.5, pp.67-78, 2010-01-01

サム・シェパードの『地獄の神」のラストシーンでは、エマがただ一人舞台に残り、家に起こった危機を夫に知らせるためにポーチのベルを鳴らす。彼女の意思に反し、家の中はウェルチによってアメリカへの愛国心を示すもので満たされていくが、これはアメリカ国民が知らぬうちに愛国心を強要されている状況をも示す。この劇のタイトルはプルトニウムの語源である地獄神プルートを示すが、この物質の持つ見えざる浸透力はアメリカ国民に蔓延しているアメリカ国家の持つ力への盲目的な信念の忠実なメタファーとなっている。作中でヘインズが言うように、個人と国家の問題の境界は消失し、エマのベルはアメリカ国民の現状への警鐘の役目を担っている。これらの点から、この劇をもってシェパードがより視野を広げ、政治的視点をこれまでより明確に示していることを指摘したい。近畿大学非常勤講師