著者
後藤 任孝 青木 功
出版者
JAPAN TECHNICAL ASSOCIATION OF THE PULP AND PAPER INDUSTRY
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.41-44, 2009

日本製紙石巻工場は,平成19年に最新鋭の高速オンマシンコーターであるN6マシンを建設,同年11月に営業運転を開始した。また当工場ではこれに先立ち,N6マシンへDIPを供給するパルプ設備として,日産400トンの高白色新聞DIP設備(HDIP―2)を稼動させた。HDIP―2は近年の古紙品質低下にも対応出来るよう,異物やインキ除去に関わる最新の技術を導入したが,特にインキ剥離工程に関しては,今後古紙への混入率増加が予想されるUVインキやトナー印刷物にも対処すべく,相川鉄工株式会社と共同でニーディング力に優れた4軸タイプの新型ニーダー(商品名:UVブレーカー)を開発,HDIP―2の粗選工程に設置した。<BR>UVブレーカーは,従来型ニーダーの代表機器である2軸型ニーダーとの比較においてダート除去率に優れ,特に粗大ダート区分において効果が大きかった。また4軸のそれぞれのローターについて,回転数の違いによるダート除去効果についても実機で確認し,最適な回転数を見極めた。<BR>本報では,新型ニーダーであるUVブレーカーの開発経緯と石巻工場の実機操業によって確認したダート除去効果について報告する。
著者
市川 昌弘 高松 徹 松尾 貴史 岡部 永年 阿部 豊
出版者
社団法人日本材料学会
雑誌
材料 (ISSN:05145163)
巻号頁・発行日
vol.42, no.483, pp.1406-1411, 1993-12-15
被引用文献数
2 2

Rolling fatigue tests were carried out on hot isostatically pressed silicon nitride bearing balls.At three load levels of the maximum Hertzian contct pressure p_<max>=5900,6740 and 7110 MP_a,13 balls each were tested,and the life distribution was studied.It was found that the rolling fatigue life followed approximately a 2-parameter Weibull distribution with the shape parameter of a 〓 1 at each load level.The relationship p^k_<max>L_<50>=const(x〓10) was found between p_<max> and the median life L_<50>.Microscopic observationof flaking was also performed,and two types of flaking were found.One is flaking with the depth of the order of 100μm,and the other is a shallower one.The depth of the former type was found to coincide aproximately with the depth at which the maximum shear stress ocurred.At lower load levels,the former type was dominant.Frequency of appearance of the latter type increased with an increase in load level.Comparing the shape parameter of a〓1 and the exponent of x〓10 mentioned above with those for the cylic bending fatigue of plain specimens of silicon nitride,it was suggested that the mechanism of rolling fatigue of silicon nitride was different from that of cyclic bending fatigue of the same material.
著者
梅澤 克之 笈川 光浩 洲崎 誠一 手塚 悟 平澤 茂一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.625-634, 2007-02-15
参考文献数
18
被引用文献数
5

近年,インターネット環境においては,電子入札,電子納税,商業登記申請等の公共サービスや,社外から社内へのリモートアクセス等,不正行為を防止するためにPKI 技術に基づく認証機能を有するサービスが増加しており,そこで使われる証明書の厳密な検証を行うようになってきている.一方,モバイル環境においては,携帯通信事業者網内に閉じたサービスにとどまらず,インターネットを利用して一般のサービス提供者からサービスを享受する機会が急増している.このような状況から,インターネットの脅威がそのままモバイル環境においても成り立つ状況になってきており,モバイル環境においても証明書の利用によるPKI 技術を用いた認証方式の確立は必須であると考えられる.すでにモバイル環境でも証明書の利用が始まっているが,携帯電話端末側でサーバ証明書が失効されていないかを確認する有効性確認は行われていない.モバイル環境においても不正が許されないクリティカルなサービスが今後ますます増加することが予想でき,そのようなサービスでは有効性確認を含む厳密な証明書の検証を行うことが必要である.本論文では,有効性確認を第三者に依頼するCVS 方式に基づいて開発した携帯電話端末の処理時間や通信速度等のモバイル環境特有の制約を考慮したモバイル向け証明書検証システムを提案し,性能,安全性,利便性の観点で評価を行う.In the Internet environment in recent years, services having an authentication function based on PKI technology have been increasing in order to prevent unauthorized activities. Some examples are remote accessing, electronic bidding, electronic payment of taxes and so on. In such services, strict verification of the certificate has become more and more important. On the other hand, in a mobile environment, mobile service using not only service in the mobile carrier net but also the Internet has increased. It is thought that PKI technology is important in a mobile environment in such a situation. Two or more mobile carriers already support PKI technology. But strict verification that confirms whether the certificate was revoked or not is not done. In a mobile environment, it is necessary to carry out the verification of the certificate strictly. In this paper, we propose a certificate validation system for mobility. The system is based on the CVS method. And it corresponds to the peculiar restrictions of mobility and the environments of the processing speed and the transmission rate, etc. of the cellular phone terminal. Furthermore, we evaluate the performance, safety and the convenience of the system.
著者
伊藤 徹
出版者
関西大学東西学術研究所
雑誌
関西大学東西学術研究所紀要 (ISSN:02878151)
巻号頁・発行日
no.44, pp.35-53, 2011-04

本稿は、2010年5月7日ロンドン大学東洋アフリカ学院(School of Oriental and African Studies) での講演のために準備されたテクストに若干筆を加え、論文として仕上げたものである。テクストは、当初日本語で書かれたものを、著者のコントロールのもとで、薄井尚樹博士(シェフィールド大学)が翻訳するというかたちで成立した。本論が問題にしたのは、明治維新以来の日本の近代化を支えた基本的な虚構的言説の交替である。高橋由一の造形活動を支えた国家の神話は、森鴎外にも触れつつ論じたように、明治後半以降旧来の家共同体との連結を失うことによって、空洞化していったが、その後『白樺』 派やその周辺の芸術家・知識人などによって語られた大正期の個人の理念も、同時期の西洋文化の模倣という性格を脱しきれず、昭和期にはまた別な国家という虚構に吸収されていった。新たな神話の形成に参与した日本画家・川畑龍子の作品に見られる国家の過剰な美化は、かえって根を失った人間存在を際立たせている。そうした喪失感は、同時期の保田與重郎の民族的伝統の称揚の背後にも見られるのだが、この批評家と同世代に属する戦後美術の旗手・岡本太郎においても、その「主体性」は、independency と訳されているが、それは人間存在の基盤喪失を際立たせようと意図してのものである。論究は、この喪失によって開かれてくる場所、いってみればindependencyのinが、有用性の徹底化としての近代化の必然的帰結であり、私たち自身に課せられた歴史的問いでもあることを示して、結びとした。
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良自然情報
巻号頁・発行日
vol.521, 1996-07-01

子ダヌキ/タヌキ/磐之媛命陵の池/ホタル/ギギ/コウモリ/サンコウチョウなど/ヤマビル/イタチ
著者
植松 齊 佐藤 幹夫 久保井 榮 池田 勇治 新部 昭夫 大坪 孝之 舛水 康彦 URIU Kiyoto
出版者
Japan Association of Food Preservation Scientists
雑誌
日本食品保蔵科学会誌 = Food preservation science (ISSN:13441213)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.185-192, 1997-07-31
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

本研究は日本産及び米国カリフォルニア産のニホンナシ'二十世紀'について果実品質の比較をしたものである。果実のサンプルはカリフォルニアではフレズノ及びサクラメントより, 日本は鳥取及び長野より各々市場に流通している標準的な大きさの果実を材料とした。<BR>1. 生育期間中の気象条件について, 米国カリフォルニアの最高気温及び平均気温は日本より高かったが, カリフォルニアの最低気温は日本より低い値であった。日本の降雨量はカリフォルニアより高く, 月平均約100-150mmの値を示した。カリフォルニアは生育期間中にはほとんど降雨がみられなかった。日本の湿度はカリフォルニアより高く, 日照量についてみるとカリフォルニアは日本より高い値であった。<BR>2. 日本産とカリフォルニア産果実はほぼ標準的なサイズをサンプリングするよう努力した。日本の階級区分で, カリフォルニア産果実はL, 日本産果実は2Lクラスであった。これらのことから日本産果実は果実重, 縦径及び横径とも僅かにカリフォルニア産果実より高い値であった。D/L値 (果形指数) は日本の値が僅かに高く, 僅かに平たい果実であった。果皮色は日本及びカリフォルニアには差がみられたが, 各々の地域をみると一定の傾向はみられなかった。米国産果実の果肉硬度は日本産果実より著しく高く (フレスノ : 5.55, サクラメント : 4.98, 鳥取 : 2.21及び長野 : 3.00kg/cm<SUP>2</SUP>), で硬度が高くなると著しく搾汁率が低下する傾向がみられた。日本産果実の搾汁率は高い値を示したが, 硬度及び搾汁率に顕著な相関関係は認められなかった。<BR>3. 米国産果実のシュークロース濃度は日本産果実より著しく高い値を (フレスノ : 5.54, サクラメント : 6.42, 鳥取 : 3.05及び長野 : 2.649/m<I>l</I>) 示し, さらにソルビトールも高い値を示した。カリフォルニアの昼夜間の温度較差, 日照量, 降水量など気象条件がシュークロース及びソルビトール集積に影響したものと思われる。グルコース及びフラクトースには顕著な差は認められなかった。<BR>4. 日本産果実のクエン酸濃度は米国より高く, また逆にカリフォルニア産果実のリンゴ酸濃度は日本産果実より高い値を示した。しかし全酸濃度には差は認められなかった。
著者
横田 隆史 大津 金光 古川 文人 馬場 敬信
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告計算機アーキテクチャ(ARC) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.120, pp.81-86, 2005-11-30
参考文献数
5
被引用文献数
4

予測器は一般に対象の過去の挙動をもとにして,可能性のある選択肢のなかから最尤のものを次の状態として「予測」する任を担う.予測器があらかじめ与えられる情報なしに働くならば,予測対象とする系の性質・挙動が予測器の性能となって現れてくるはずである.我々は,系の挙動に見られる偏りやランダムさに着目し,エントロピーを測度として定量化することで,予測器の性能を表現することを試みた.系を2値のマルコフ情報源と考え,その情報源エントロピーを,予測に関して系が持つ情報量と考えた.また,予測器が内部にテーブル構造を持つとき,テーブルエントリごとの使用の多寡からもエントロピーを定義し検討対象とした.予測器の方式によってエントロピー値と予測成功率の間に明らかな相関性が認められる.Predictors are responsible for predicting the next state by means of past events. When a predictor works without any knowledge on the system, its prediction performance should be influenced by statistical characteristics of the system at some level. We focus our viewpoint on randomness in the system behavior and introduce an entropy concept so as to quantitatively measure the system behavior, i.e., randomness. We define information source entropy and reference entropy. These entropy values reveal prediction performance in some prediction methods.
著者
杉山 隆彦
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻比較文化 : 大妻女子大学比較文化学部紀要 (ISSN:13454307)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.46-65, 2002

ここ数年、私は機会をとらえては「マクロの文学」ということについて書いたり喋ったりしてきた。それは20世紀文学に対する私なりの見方を提出したものではあったが、もちろん私は、20世紀の世界の文学が、そのような単一の尺度で処理し得ると考えていたわけではない。文学が対象とする人間の心の動きや行動様式には、洋の東西を問わず共通するものがありだからこそ、肌の色の違い、言葉の壁、宗教的信条の違い等をそのままにしてなお、「人間」としてたがいに理解しあうことができるのは言うまでもない。ここに着目して私は「マクロの文学」という視点を提出しているのではあるが、同時に、その肌の色の相違、使用する言葉の独自性、信仰様態の差異、あるいは衣食住に見られる基本的な文化の相違が、たがいの意思の疎通を妨げているという面もあるのである。比較文学という比較的新しい分野は、文学の置かれている以上のような両義的側面-世界に通底するものと各国・各人にとっての独自のもの-を同時に掬い上げて、人間と世界を統一的に把握することを可能にしてくれるのではないか。この新たな尺度を援用することで、これまで「マクロの文学」の範疇に入れることを私に躊躇させてきたジョン・スタインベック(John Steinbeck、1902-68)を、うまくその中に融けこませ得るのではないかと気づいたのである。作品の題材、構成、表現上の技法等に対するスタインベックの絶えざる探求の姿勢は、そのことを充分に裏づけていると言ってよい。
著者
合田 正人
出版者
日本哲学会
雑誌
哲学 (ISSN:03873358)
巻号頁・発行日
vol.1990, no.40, pp.73-92, 1990-04-01 (Released:2009-07-23)
著者
西口 公之 松繩 朗 北田 豊文
出版者
社団法人溶接学会
雑誌
溶接学会誌 (ISSN:00214787)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.55-63, 1970-01-25

As stated in the previous paper, there found two kinds of the cathode modes, i. e. the cold and hot cathode modes, in a low pressure arc generated between the graphite electrodes. Consumption of a graphite cathode was quite different in each cathode mode. For example, a carbon vapour stream and spattering from the cathode root were ovserved in the cold cathode mode, while no vapour stream nor spattering was seen in the hot one. The consumption characteristics of a graphite cathode and the corelation to the cathode mode were investigated to clarify the cathode mechanism. Experiments were conducted on an arc with a graphite cathode and a water cooled copper anode under the condition of the current range being 10-120Amp and of the pressure 10-100 Torr of hydrogen and 10-60 Torr of helium and argon. Results obtained in this study are as follows. (1) In addition to the cold and hot cathode modes, a new mode which was termed the plasma cathode mode was distinguished in a C(-)-Cu(+) arc at low pressure, regardless of the kinds of gas. This mode which was featured by a bright sphere in front of the cathode tip (cathode plasma ball) appeared as an intermediate stage of the cold and hot cathode modes. The existence of the plasma cathode mode was clearly recognized in the consumption characteristics of a graphite cathode but hardly detected in the electric characteristics of an arc. (2) A cathode plasma ball expaoded its size with the increase of current or the reduction of pressure. In the plasma cathode mode, it was clearly separated from the arc column by a dark space. When the dark space became undetectable, the hot cathode mode emerged. (3) Under the condition of this experiment, specific consumption rate m_C/I (mg/A min) of a graphite cathode ith the cold cathode mode was as hifih as five times or compared with so the one in the hot cathode. Meanwhile, in the plasma cathode mode, m_C/I was a little higher than that in the hot one. In the cold cathode mode, more than 90% of the consumption was the sublimation of carbon at the cathode root, and the spattering loss was less than 10%. (4) In the cold cathode mode, carbon rather than the ambient gas might be preferentially ionized in the cathode fall region. (5) The transition of the cathode mode was determined by the systematic study of the consumption characteristics of a graphite cathode. In this study, three governing factors of the cathode mode (p, I & V_i), which were mentioned in the previous paper, were clearly proved.
著者
横山 輝樹 ヨコヤマ テルキ Teruki YOKOYAMA
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
2013-03-22

本論は江戸幕府八代将軍徳川吉宗(在職 一七一六~一七四五)によって実施された武芸奨励を研究対象として、その歴史的意義の解明を課題とするものである。徳川吉宗は後世に「享保改革」と称される幕政改革を実施し、司法・行政・財政改革をはじめとする様々な改革を断行した。吉宗はこうした改革を進めると同時に、当時安逸に流れていた幕臣の気風を引き締めるため武芸を奨励する。吉宗が幕臣の士風刷新の為に武芸を奨励したことは広く知られており、吉宗に関する伝記や概説書の類にあっても言及されるところである。しかし、吉宗による武芸奨励の実態解明を課題に据え、これを正面から取り扱ったものは極めて少ない。歴史学の分野では、吉宗による司法・行政・財政改革などについての研究は盛んであるが、武芸奨励については改革を推進した吉宗の個人像を描く一端として、半ばエピソード的に取り上げられているに過ぎない。他方、武道学の分野では、日本武道の歴史を通史的に述べる際、武道熱の高まった時代として吉宗期が取り上げられている。特に、弓道史にあっては吉宗による歩射儀礼・騎射儀礼の研究と復興についての言及が見られる。こうした武道学に於ける吉宗研究は、今村嘉雄氏の研究によって一定の到達点に達した感があるが、武道学にあっては日本武道の発展を描くという独自の目的によって研究されたものであり、政策としての武芸奨励、即ち武芸奨励策の内実にまで踏み込むというものではない。現状の武道学の成果では、吉宗期を「前時代と比して武芸がより奨励された時代」、「武芸を好む将軍によって武芸が重んじられた時代」という評価に留まらざるを得ず、それは一面で、吉宗による武芸奨励とは、吉宗が将軍である間に限られた、一過性の奨励であったという評価に陥る可能性を含んでいるのである。果たして吉宗期の武芸奨励策とは、その様な評価に留まるものであったのであろうか。本論はこうした武道学に於ける吉宗研究の問題点(及び歴史学に於ける吉宗の武芸奨励に対する等閑視)に対して、実証史学の手法によってその解答のひとつを導き出そうとするものである。そして本論では、将軍拝謁を許された上級の幕臣である旗本で構成された、「五番方」(書院番、小性組、大番、新番、小十人組)と総称される幕府直轄の軍事部隊を取り上げ、これに対する武芸奨励策を分析対象とする。五番方は戦時に於いて幕府の主力部隊としての役割を担う存在であり、太平の世にあって五番方から失われつつある戦闘者としての本分を如何にして維持し、向上させていくかということは、吉宗が将軍になる以前から課題とされながらも未解決のまま吉宗の代に持ち越された問題であった。吉宗の武芸奨励策を俯瞰した時、五番方に対する武芸奨励策こそがその根本を為すものであるということが本論にあって分析対象とする所以である。即ち、旗本の軍事部隊に対する武芸奨励策を研究することの意義は、先行研究の不足点を補うというところに留まるものではない。それは江戸時代に於ける武士というものの存在意義を問うということに他ならないのである。寛永十五年(一六三八)の島原の乱からおよそ百年を経た吉宗期、戦乱から程遠い太平の世にあって武士は次第にその戦闘能力を失いつつあった。その様な時代にあって武芸が奨励されたということは、幕末に至るまで武士から「尚武」の気風が失われなかったこと、また実際の軍事的技量が維持・発展させられこと、また実際の軍事的技量が維持・発展させられたことの要因をなしている。そして、その歴史的意義として、19世紀の国際情勢の下、アジアの諸国が相次いで欧米列強の植民地となっていくなかで、国家の独立を堅持し、軍事の面における日本の近代化を達成していくうえにおいて大きな意義を担うことになった点を指摘する。この様な関心の下、本論では第一章で吉宗期以前に実施された武芸奨励策の限界について取り上げた。武芸奨励策とは吉宗によって始められたものではなく、それ以前から実施されていた。しかし問題は、そうした武芸奨励の掛け声とは裏腹に、五番方にあっては必ずしも実行に移されたとは限らないというところにあった。こうした状況の中にあって始められた吉宗期の武芸奨励策の独自の意義を論じる。第二章では吉宗期に創設された新制度である惣領番入制度を取り上げる。これは旗本の惣領(跡取り)を五番方の一員として召し出すという制度である。本来であれば惣領は家を継いだ後で五番方の一員となる訳であるが、同制度を活用すれば家を継ぐ前に五番方の一員になれた。それは、第一に収入の面で恩恵が存在した。同制度によって惣領が五番方の一員となった旗本家には、当主に与えられる家禄の他に惣領に与えられる役料というふたつの収入源が確保された。第二にそれは昇進の面でも恩恵があった。しかし同制度を通じて五番方の一員となるには、事前に課される武芸吟味を勝ち抜く必要があった。旗本惣領は同制度によってもたらされる恩恵を獲得するために、武芸に励み、武芸吟味に備えたのである。制度的に構成された恩恵を伴った武芸奨励策というべきものであった。第三章では将軍が自ら五番方の武芸の腕前を観閲する武芸上覧と、五番方を率いる番頭(隊長)が部下に対して実施した武芸見分を分析した。武芸上覧と武芸見分は、いずれも吉宗が将軍になる以前から幕府に於いて実施されていたものであるが、武芸見分の実施命令は五番方にあって無視されがちであった。これに対して吉宗は、武芸見分が五番方内部で実施されているかどうかを、武芸上覧を繰り返すことで自らが確認し、武芸見分実施の徹底を図った。武芸上覧に参加するということは子々孫々に至るまで内外に喧伝すべき名誉を得る手段でもあり、半ば強制的ではあるものの武芸に励むことは五番方の面々にとっても有意義なことであった所以を明らかにする。第四章では中絶状態にあった将軍の狩猟を吉宗が再興し、組織的な軍事調練としての意味を持つ次元にまで狩猟を昇華させた過程を論じた。獲物を追い出し、追い込んでいく勢子の役割を、五番方をはじめとする幕府の軍事部隊に担当させるという問題が本章の主題である。狩猟が軍事調練の役割を果たしていたということはこれまでも指摘されているところであるが、本論ではその実態に立ち入り、吉宗が年月をかけて完成させていった狩猟を通じた組織的軍事調練の形成過程を解明する。当初は勢子のやり方すら知らない者がほとんどであったが、吉宗は狩猟を繰り返すことによって徐々に勢子を担当する幕臣を鍛え、最終的には騎乗して獲物を追う騎馬勢子を務めるほどの水準に達し、号令に基づいて組織的に展開し得る大規模かつ高度に統制された旗本軍団の形成に成功する。三十年という長期間にわたって実施された吉宗の旗本五番方への武芸奨励とはこの様なものであり、それは吉宗没後も模範として継承されつつ、幕末の外圧・政情不安の中で国家の独立を堅持し、軍事面に於ける日本の近代化を達成していく上に於いて大きな意義を担うことになったのである。
著者
中山 豊男 平良 盛三 池田 昌人 芦澤 広 織田 実 荒川 勝雅 藤井 節郎
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Chemical and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.117-125, 1993-01-15 (Released:2008-03-31)
参考文献数
15
被引用文献数
5 10

By developing 6-amidino-2-naphthyl 4-guanidinobenzoate (I, FUT-175) as a basic structure, its various derivatives were synthesized and their inhibitory activities on trypsin, plasmin, kallikrein, thrombin, C1^- and C1s^- as well as on complement-mediated hemolysis were examined. The protective effect of these compounds on complement-mediated Forssman shock was also examined in guinea pigs. 6-Amidino-2-naphthyl 4-[(4, 5-dihydro-1H-imidazol-2-yl)amino]-benzoate (41, FUT-187) was found to be a suitable compound for oral administration with anti-complement activity superior to that of compound I.