著者
國岡 高宏
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.57-63, 2008-09-30

数学教育がその指導対象としている知識(数学的知識)の本性を明らかにすることは,数学教育学の根本問題の一つである。筆者は,数学的知識の特性を一つずつ拾い集め,それを精査していくという作業を積み重ねるにことで,数学的知識の本性の理解に近づいて行きたいと考えている。本稿では,知識内容とその表現方法の関係に焦点を当てることで,数学的知識の重要な特性として,以下の2点を指摘した。(ア)知識内容とその表現方法は不可分の関係にあり,表現の変更は不可避的に知識内容の変容を伴う。したがって,表現方法の置き換えによる指導教材の平易化は,いつでも行えるわけではない。(イ)表現方法の変更が新たな思考対象の生成と数学的知識の発展を促す。この特性は,数学学習の系統性,階層性に反映されることになるので,数学教育の観点からも重要となる特性である。
著者
保呂 篤彦
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.423-446, 2014-09-30

カントによれば、宗教は人間に幸福への希望をゆるすことに本質がある。しかし、幸福に関する彼の説明は多様で、宗教が希望することをゆるす幸福を彼がいかなるものと考えていたか、必ずしも明確でない。まず彼は倫理学を基礎づける議論において、幸福を「あらゆる傾向性の満足」「自分の存在や状態への完全な充足」と規定し、それが道徳原理を提供しえない旨を論じ、人間が道徳法則遵守の意識に基づいて経験する「自己充足」も「幸福の類似物」でしかなく、これを幸福と混同しないよう警告している。つまり幸福と宗教から道徳を純化しようと努めている。ところが、希望される幸福を論じる段になると、それは「最高善」の第二要素として扱われ、道徳との密接な関係が取り戻される。ここでの幸福も相変わらず「自分の存在や状態への完全な充足」ではあるが、前述の「自己充足」を基に成立するものであり、「傾向性の満足」は捨象される(来世で希望される「浄福」の場合)か、制限される(現世の「倫理的公共体」において希望される「普遍的幸福」の場合)。また興味深いことに、この「最高善」の促進が人類の義務であるにもかかわらず、同時にその実現へ向かう同じプロセスに神の助力が希望されるともカントは考えている。
著者
田中 美香 西田 宗幹 大平 雄一 植松 光俊
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1087-E1087, 2006

【はじめに】早朝や準夜帯における理学療法(以下、PT)の必要性が言われて久しいが、その客観的な効果を検証した報告は少ない。我々は自宅退院後の活動量の増加に伴い疲労感や痛みの訴えを認め、入院中の活動量不足、特に夕食後から消灯までの時間の活動量が低いことを報告した。この問題を改善するため当院でも遅出PTプログラムの実施(以下、遅出PT)を導入した。本研究ではこの遅出PTにより身体活動量がどのように変化するのかを検討した。<BR><BR>【対象および方法】対象は当院回復期リハビリテーション病棟入院女性患者7名(84.4±6.6歳)、Barthel index84.3±7.9点、整形外科疾患2名、脳血管障害3名、内科疾患2名であった。遅出PTの対象は、退院を約1ヶ月以内に控えた患者とし、その実施は週3回、17時~21時とした。夕食前後は移動および整容動作の確認を行い、夕食1時間後の19時頃からセラバンド等を用いた集団体操と、個別トレーニングを組み合わせて実施し20時30分までに終えて、就寝の準備を始めるようにした。<BR> 身体活動量の評価にはベルトにて臍部の高さ腹部中央に装着した携帯型動作加速度装置アクティブトレーサー(GMS社製AC-301)を用い、加速度設定は0.05、0.15、0.2Gの3CHとし、各CHでの総カウント数を身体活動量とした。計測は遅出PT実施前の不特定日と、実施後の遅出PT実施日、1日の17時~21時時間帯で行い、それぞれ1時間毎の時間帯別の比較をした。また、前回報告の退院後在宅活動量との比較も実施した。統計は遅出実施前後の身体活動量の比較にpaired t-test、在宅での身体活動量との比較にunpaired t-testを用い、有意水準1%とした。<BR><BR>【結果】17時~21時までの平均総カウント数の遅出PT実施前・後比較では、それぞれ0.05Gで12173±632→24234±2498、0.15Gで1696±225→4170±2499、0.2Gで473±207→1102±182とすべての加速度領域で遅出PT実施後有意に増加した(P<0.0001)。時間帯別の比較では、19時帯で0.05G、0.15Gで(P<0.001)、0.2G(P<0.0001)、20時帯では全ての加速度領域で実施後、有意に増加した(P<0.0001)。前回の退院時在宅身体活動量との比較では、全てにおいて有意差は認めなかった。<BR><BR>【考察】身体活動量は有意に増加しており、時間帯別比較からも夕食後から消灯時間までの身体活動量を向上させる上で有効であることがわかった。さらに、今回の遅出PTが在宅での身体活動量とほぼ同様の活動量が獲得できたことから、在宅生活に向けての準備として適切であると考えられる。また、遅出PT実施中の患者は笑顔が多く、その参加を楽しみにしている反応から生活の質への効果も推測できた。<BR><BR>
出版者
日経BP社
雑誌
日経ベンチャ- (ISSN:02896516)
巻号頁・発行日
no.199, pp.80-82, 2001-04

今年一月九日、大阪・船場にあるラッキーコーポレーション(以下、ラッキー)の本社では、取引先の幹部などを招いた恒例の新年会が開かれていた。本来は取引先との親睦を深めることが目的だが、今年は雰囲気がやや違った。というのも、昨年秋以降、「ラッキーは年を越せないのではないか」といった噂が業界内で飛び交っていたからだ。
著者
西本 勝太郎 西本 勝太郎
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.103-111, 2006-04-30
被引用文献数
28 45

日本医真菌学会・疫学調査委員会による2002年度の皮膚真菌症調査成績を報告した. 方法および調査項目は前2回 (1991~1992, 1996~1997) に準じ, 全国に分布した皮膚科外来14施設において, 調査用紙にしたがった検索をおこない, 結果を集計した.<br>1. 全施設をあわせた年間の総患者数 (その年における新患数) は72,660名であった.<br>2. 疾患別では皮膚糸状菌症 (全病型を合わせて7,994例) が最も多く, ついで皮膚カンジダ症, 癜風を含むその他の疾患群であった.<br>3. 皮膚糸状菌症の病型別では, 多い順に足白癬4,813例 (男2,439, 女2,374), ついで爪白癬2,123例 (男1,093, 女1,030), 体部白癬497例 (男281, 女216), 股部白癬299例 (男249, 女50), 手白癬248例 (男144, 女104), 頭部白癬・ケルスス禿瘡14例 (男6, 女8) の順であった.<br>4. 足白癬・爪白癬は夏期に, また人口比では主として高齢者に多くみられ, 特に爪白癬は年を追って増加する傾向が見られていた.<br>5. 原因菌別では<i>Trichophyton rubrum</i> が最も多く分離され, 病型別では, 足白癬で<i>T. rubrum</i> 1,431株対<i>Trichophyton mentagrophytes</i> 829株以外, 手白癬, 体部白癬, 股部白癬, 爪白癬で分離株数の約90%は<i>T. rubrum</i> によるものであった. <i>Microsporum canis</i> は16株と減少し, <i>Trichophyton tonsurans</i> が12株分離された.<br>6. 皮膚カンジダ症は755症例が見られ, 間擦疹が347例で最も多く, ついで指間びらん (103例), おむつ部カンジダ症 (102例) の順であった. いずれも高齢者に, 局所の日和見感染として発症した例が多かった.<br>7. 癜風・マラセチア感染症その他を含め220例が見られたが, 施設ごとの症例は少なくまた偏りがあり, 施設や性別などで特徴的な所見は出なかった.
著者
坂本 博康 坂田 年男 井上 光平 浦濱 喜一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.93, pp.135-142, 2006-09-09
被引用文献数
3

人の快・不快などの感情や気分を簡便に計測したいという要望はいろいろな分野から出されている.本報告は,人の単一の感情や気分が直接的に顔の表情に表れている場合について,顔画像の正準相関分析法を用いて計測する方法を提案している.本方法の顔画像の取扱い手法には,固有顔と同列のimage-basedの方法を用い,これに人が顔画像を観察する際の注視特性を組み込んだ方法を利用する.また,人の感情および表情のモデルにはラッセルの感情円環モデルを採用し,不快一快および沈静一覚醒の2座標軸で各顔画像を主観評価したデータを用いる.女性22名の4種類(笑,怒,泣,鷲)の表情を含む顔画像のデータベースを用いて行った数値実験結果を示し,本提案手法の有効性を述べる.A convenient measuring method for human's feeling or affect of comfortableness and/or uncomfortableness is required from various fields of research, manufacturing and business. This report discusses a measuring method based on the canonical correlation analysis scheme under the assumption that one's feeling or affect is directly reveals on his/hers facial expression. Our image processing technique is an image-based method like eigenface method, enhanced by eyes' gazing property upon human faces. Employing Russel's circumplex model of affect as a model of facial expression, each facial image is subjectively evaluated on the two coordinates of un-comfortableness -comfortableness and composure- excitement. We show results of numerical experiments carried out by using facial expression database of 22 female subjects covering four affections including joy, anger, sadness and surprise, and describe availability of the proposed method.
著者
真覚 健
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HIP, ヒューマン情報処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.525, pp.31-36, 2004-12-09

口唇裂・口蓋裂者の表情分析から、笑顔表出時には鼻の変形や口元の歪みが目立だなくなることが示された。このことを踏まえて、顔部品の検出において笑顔がどのような影響を及ぼすのか、大学生を被験者に3つの実験を行った。実験1では、単独提示される中立顔または笑顔中にドットがあるかないかの判断を被験者に求めた。実験2では、同時提示同異判断課題によって顔中のドットの検出における笑顔の影響について検討した。両実験とも顔中のドットの検出は笑順において遅くなることが示された。実験3では、目・鼻・口の拡大変化の検出における笑顔の影響を検討した。その結果、笑顔中では目の拡大変化が検出されにくくなることが示された。これらの結果から、顔部品の検出において笑顔は抑制的な影響を及ぼすと結論づけることができる。
著者
香川 亘 胡桃坂 仁志 横山 茂之
出版者
日本結晶学会
雑誌
日本結晶学会誌 (ISSN:03694585)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.119-123, 2003-04-30 (Released:2010-09-30)
参考文献数
17

The Rad52 protein and its homologs play critical roles in eukaryotic homologous recombination. In the present study, we have determined the crystal structure of the N-terminal, homologouspairing domain of Rad52. The structure revealed an undecameric ring that has an exposed groove essential for DNA binding. Amino acid residues inside the groove are directly involved in DNA binding as evidenced by mutational analyses.
著者
山口 清次 長谷川 有紀 小林 弘典 虫本 雄一 PUREVSUREN Jamiyan
出版者
島根大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

成人には無害でも小児に対して健康被害を起こす薬剤が知られている。そこで、培養細胞とタンデムマス質量分析計を用いるin vitro probe acylcarnitine(IVP) assayという方法を応用して、小児に対する薬物等の脂肪酸β酸化に対する毒性を評価するシステムを確立した。アスピリン、バルプロ酸などは、脂肪酸代謝の脆弱な細胞でβ酸化障害が増強された。ベザフィブレートはβ酸化異常症の代謝を改善した。