著者
小井土 彰宏
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.194-209, 2014

合衆国に現在約1,150万人滞在するといわれる非正規移民の社会運動は, 2006年以来急激に台頭し, その後も持続的な潮流となってきた. 一斉検挙や強制送還に反対し, 正規化を求める運動は, 一見すると国民国家の枠内での権利獲得の運動とも思える. だが, この運動は移民と安全保障に関するアメリカ国家の枠組みの根本的再編成というかたちをとって, 新たなグローバリズムが社会に浸透したことへの対抗運動という性格をもっている. 他方, この運動は, 市場原理志向の再編成の結果生み出される経済・社会的な排除の論理に対抗して, さまざまな水準のローカルな規制やトランスナショナルな交渉によるグローバル化の諸影響への抵抗の戦略という性格も合わせもってきた. 本稿では, 移民管理レジームとその作動様式をまず概観し, この新たな統治性の様式の出現の衝撃がどのような運動の行動論理と戦略を生み出すかを分析していく. その一方, グローバルな市場原理の地域社会への浸透に対抗する移民の運動の組織や戦略の特質について, 類型的に整理・分析することで検討していく. 最後に, 2009~10年の現地調査に基づくロサンゼルス郡での2つの対照的な一斉検挙を分析することで, このグローバルな移民統治様式と市場の論理が相互作用しながら移民コミュニティにどのような影響を与えるかを例証していく.
著者
山田 信行
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.179-193, 2014

主として1990年代後半以降, とりわけ先進社会においては, グローバル化のもとで労働運動の再活性化が指摘されるようになり, その1つのタイプとして社会運動ユニオニズムが注目を集めている. 本稿においては, 社会運動ユニオニズムの特徴を確認したうえで, 「コーポレート・キャンペーン」にみられるように, このタイプの労働運動が私的な労使関係に「公共性」をもたせることをその戦術として採用していることに注目する. この労働運動が志向する社会制度の形成・改変にあたって, あらゆる社会勢力に利害関心をインプットする回路を開いている資本主義国家の構造的特質を利用して, 「フォーラム型」労働運動のかたちをとって, 広範かつ継続的な組織連携を戦略として採用していることを強調したい. そのうえで, 資本主義社会における国家との関連において, 「公共圏」概念を再検討し, 社会運動ユニオニズムが, 労働運動としてふたたび「公共圏」 (「労働者的公共圏」) を形成する性格を回復していることを明らかにする.
著者
山田 信行
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.179-193, 2014

主として1990年代後半以降, とりわけ先進社会においては, グローバル化のもとで労働運動の再活性化が指摘されるようになり, その1つのタイプとして社会運動ユニオニズムが注目を集めている. 本稿においては, 社会運動ユニオニズムの特徴を確認したうえで, 「コーポレート・キャンペーン」にみられるように, このタイプの労働運動が私的な労使関係に「公共性」をもたせることをその戦術として採用していることに注目する. この労働運動が志向する社会制度の形成・改変にあたって, あらゆる社会勢力に利害関心をインプットする回路を開いている資本主義国家の構造的特質を利用して, 「フォーラム型」労働運動のかたちをとって, 広範かつ継続的な組織連携を戦略として採用していることを強調したい. そのうえで, 資本主義社会における国家との関連において, 「公共圏」概念を再検討し, 社会運動ユニオニズムが, 労働運動としてふたたび「公共圏」 (「労働者的公共圏」) を形成する性格を回復していることを明らかにする.
著者
小井土 彰宏
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.194-209, 2014

合衆国に現在約1,150万人滞在するといわれる非正規移民の社会運動は, 2006年以来急激に台頭し, その後も持続的な潮流となってきた. 一斉検挙や強制送還に反対し, 正規化を求める運動は, 一見すると国民国家の枠内での権利獲得の運動とも思える. だが, この運動は移民と安全保障に関するアメリカ国家の枠組みの根本的再編成というかたちをとって, 新たなグローバリズムが社会に浸透したことへの対抗運動という性格をもっている. 他方, この運動は, 市場原理志向の再編成の結果生み出される経済・社会的な排除の論理に対抗して, さまざまな水準のローカルな規制やトランスナショナルな交渉によるグローバル化の諸影響への抵抗の戦略という性格も合わせもってきた. 本稿では, 移民管理レジームとその作動様式をまず概観し, この新たな統治性の様式の出現の衝撃がどのような運動の行動論理と戦略を生み出すかを分析していく. その一方, グローバルな市場原理の地域社会への浸透に対抗する移民の運動の組織や戦略の特質について, 類型的に整理・分析することで検討していく. 最後に, 2009~10年の現地調査に基づくロサンゼルス郡での2つの対照的な一斉検挙を分析することで, このグローバルな移民統治様式と市場の論理が相互作用しながら移民コミュニティにどのような影響を与えるかを例証していく.
著者
稲葉 奈々子
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.210-223, 2014

新自由主義的な政策に基づく住宅など社会保障の市場化に抗して活動を開始した「DAL (住宅への権利運動)」を中心に, フランスの反グローバリズム運動を分析することが本稿の課題である. 社会保障の市場化は, 社会運動の古いテーマであった再分配の問題をふたたび表舞台に引き出した. 社会保障の市場化によって社会的排除を経験したのは, まず貧困層の移民家族であった. DALの担い手はフランスの旧植民地出身の移民一世が9割以上を占める. DALの運動は, グローバルな規模の構造的不平等を指摘し, 植民地出身者の毀損されたアイデンティティの承認と, 公正な分配を求める運動を連動させて展開する可能性があった. しかし実際には, 新自由主義的な政策が社会の領域をも市場原理で席巻していくことへの異議申し立てとして展開した. 市場経済至上主義に対して「万人にアクセス可能な公共性」を掲げたため, 運動はミドルクラスの支持を得て, 住宅への権利を保障する複数の重要な法律の制定が実現した. そこに植民地主義的な権力関係を問題にするアイデンティティの政治が入る余地はなく, また担い手の移民たちも生活の改善のために勤勉に働く1世で, 「普通の生活」の実現が運動参加の動機であった. 結果として反グローバリズム運動を新自由主義に適合的な行為者が担うという矛盾がみられ, また, 構造的な不平等の是正は実現しなかった.
著者
安藤 丈将
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.239-254, 2014

本稿では, ラ・ビア・カンペシーナ (LVC) を中心とする小農民の運動について考察する. LVCは, 現在のグローバル政治の中で影響力をもつ行為者であるが, いかなるフレームが農民をエンパワーさせ, さまざまな人びとを連帯させているのだろうか.<br>LVCのフレームの特徴は, 第1に, 貧しく, 弱く, 時代遅れと見なされていた小農が, 貧困と排除なき未来を切り開く存在として読み替えられていることにある. このフレームは, 「北」と「南」を横断するかたちでアグリビジネスの支配にあらがう政治的主体を定めることを可能にした.<br>第2に, 小農の争いの中心が文化に置かれていることにある. 「食料主権」というスローガンのもと, 小農が自己の経済的利益だけでなく, 食べ物に関する自己統治を問題にする存在という位置づけを与えられているため, 労働者や消費者も含めた広い支持の獲得が可能になっている.<br>第3に, 小農が知識を分かち合うということである. これは企業による知識の独占とは対極に位置づけられ, 小農は小規模であるがゆえに共存共栄できるという信念を作り出し, 相互の連帯を促進している.<br>最後は, 小農は路上だけでなく, 農場でも抵抗することにある. 少ない資源を有効に利用し, 市場との関わりを限定的にしながら, 自らの労動力を使って生産する. LVCの運動の主体は, この方法を実践している組織された農村の専業農家だけでなく都市の半農を含み, 多様な生産者の層にまで広がっている.
著者
加藤 博 岩崎 えり奈
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.255-269, 2014

エジプトでは, 2011年の「1月25日革命」 (エジプト革命) 以来, 政局は混迷を深め, 逆転に次ぐ逆転, 逆説的展開が繰り返されている. その中で浮き上がってきたのは, 政治の正当性をめぐる街頭での抗議行動 (街頭政治) と選挙での投票行動 (選挙政治) との対立である. 本稿は, この対立に注目し, それぞれの政治行動の担い手を分析することによって, エジプト革命の行方に見通しをつけるために執筆された.<br>依拠するデータは, 2008年から12年までの革命前後において著者たちが独自に実施した4回の意識調査, とりわけ12年における第4回目の意識調査のデータである. このデータを使って, 街頭政治と選挙政治の担い手を分析した結果, 革命後の「民主化」過程で実施された一連の選挙の中で都市住民を中心に「新たな選挙参加者」が形成されたこと, そして, 彼らの投票行動における流動的な性格がイスラム政党の躍進と革命の変質をもたらしたことが明らかとなった.<br>また, この「新たな選挙参加者」の流動的な性格は, 一時的貧困を特徴とするエジプトにおける貧困の構造的な脆弱性に根差していた. つまり, エジプトでは慢性的な貧困層と一時的な貧困層が併存するが, 前者は農村部, とりわけ上エジプト地方に滞留し, 後者は都市部にみられる. そこから, 同じく経済のグローバル化に直面しながらも, 地方住民が投票行動においてブレなかったのに対して, 都市住民はその時々の情勢でブレやすい政治行動パターンを取ることになった.
著者
加藤 博 岩崎 えり奈
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.255-269, 2014

エジプトでは, 2011年の「1月25日革命」 (エジプト革命) 以来, 政局は混迷を深め, 逆転に次ぐ逆転, 逆説的展開が繰り返されている. その中で浮き上がってきたのは, 政治の正当性をめぐる街頭での抗議行動 (街頭政治) と選挙での投票行動 (選挙政治) との対立である. 本稿は, この対立に注目し, それぞれの政治行動の担い手を分析することによって, エジプト革命の行方に見通しをつけるために執筆された.<br>依拠するデータは, 2008年から12年までの革命前後において著者たちが独自に実施した4回の意識調査, とりわけ12年における第4回目の意識調査のデータである. このデータを使って, 街頭政治と選挙政治の担い手を分析した結果, 革命後の「民主化」過程で実施された一連の選挙の中で都市住民を中心に「新たな選挙参加者」が形成されたこと, そして, 彼らの投票行動における流動的な性格がイスラム政党の躍進と革命の変質をもたらしたことが明らかとなった.<br>また, この「新たな選挙参加者」の流動的な性格は, 一時的貧困を特徴とするエジプトにおける貧困の構造的な脆弱性に根差していた. つまり, エジプトでは慢性的な貧困層と一時的な貧困層が併存するが, 前者は農村部, とりわけ上エジプト地方に滞留し, 後者は都市部にみられる. そこから, 同じく経済のグローバル化に直面しながらも, 地方住民が投票行動においてブレなかったのに対して, 都市住民はその時々の情勢でブレやすい政治行動パターンを取ることになった.
著者
伊藤 葉子 木村 恵子
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要. I, 教育科学編 (ISSN:13427407)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.129-136, 1999-02-28
被引用文献数
1 1

本研究では,乳幼児を保育中の親を対象に,「『親になるための教育』として高校生にどんなことを学んでほしいと思うか」,また「特に男子高校生について何を学んでほしいか」についてアンケート調査をおこない,高校生にとっての「親になるための教育」についての議論を重ねていく上での一資料を提示することを目的とした。その結果,以上のことが明らかになった。(1)「『親になるための教育』として高校生にどんなことを学んでほしいと思うか」「特に男子高校生について何を学んでほしいか」の両設問共,父親の回収数が少なく,また,無回答率も高かった。この結果が,乳幼児の父親の高校の保育学習に対する関心の低さによるのかという点については,アンケート調査という評価用具などの検討により,明らかにしていく必要がある。(2)「男女のあり方と性」に関する記述が,両設問共最も多かった。この内容には,結婚する前から子どもをもった後のことまでの男女のあり方にかかわるものが含まれており,特に「命の尊さ」と「性教育・避妊・人工妊娠中絶」という言葉が多く書かれていた。また,母親の回答者数の1/3がこのカテゴリーに関する記述をしており,男女(夫婦)のあり方と性について学ぶことの重要性を感じていることが示された。男子高校生に対しても,母親からの「性教育・避妊・人工妊娠中絶」に関する学習の要望が高い傾向が見られた。(3)「親になる前に培っておくべき資質」「子どもを特つということの意味」に関する記述が多く,「育児に関する知識・技能」に関する記述が少なかったことから,高校生という発達段階を,いわゆる親となるための準備期間としての精神的な成熟を目指す時期と捉えていることが示唆された。同時に,文脈から,乳幼児の親が感じている現代の高校生(若者)の精神的な未熱さへの批判が読み取れた。(4)「子どもと接することに対する心得」「子どもの心身の発達に関する知識」に関する記述内容から,高校の保育学習に対する要望を記述する一方で,日頃,親たちが子育ての中で感じている悩みや不安を同時に表現していることが示された。「男女のあり方と性」に関する記述にも同様の傾向が見られ,特に,母親が父親に対して,子育てをめぐる夫婦のあり方に不満を特っている現状が表出されていた。(5)「子どもと社会」のカテゴリーに含まれる記述がそれ程多く見られなかったのは,本調査対象の母親の就業率の低さと関係していると考えられる。女性の社会進出が進む現在,男女共同参画社会の実現を目指すために,保育環境の整備や社会的支援に関する教育内容について,より検討が必要であると思われる。(6)「育児に関する知識・技能」に関する記述は少なく,「子どもの衣服」という記述は1人も見られなかった。乳幼児の親は,子どもの世話をする上での具体的な知識,例えば食事・衣服などについては,高校という発達段階ではそれ程必要性を感じていないことが示された。(7)具体的な学習方法を提示した記述もかなり多く見られ,保育学習を通して,子どもに触れ合うような機会を持つことへの要望が高いことが示された。また,社会福祉施設など,必ずしも「子ども」に限定せずに,さまざまな実習を通して視野を広げることも,親としての資質を培う一つの方法であることが提示された。
著者
Masashi Kanemoto Hiroko Kuhara Toru Ueda Takahiro Shinohara Takamasa Oda Fumiaki Nakao Toshiaki Kamei Yasuhiro Ikeda Takashi Fujii
出版者
日本循環器学会
雑誌
Circulation Journal (ISSN:13469843)
巻号頁・発行日
vol.78, no.11, pp.2651-2656, 2014-10-24 (Released:2014-10-24)
参考文献数
20
被引用文献数
3 13

Background:This study evaluated whether measuring prothrombin time (PT) using particular reagents of interest predicted apixaban-associated anticoagulant activity in Japanese patients with non-valvular atrial fibrillation (NVAF).Methods and Results:Two reagents, Shinplastin Excel S and Coagpia PT-N, were used to evaluate PT under apixaban therapy. From June 2013 to February 2014, 103 NVAF patients were recruited, and PT was measured at 3 time points: (1) anytime in the outpatient clinic, (2) at peak, and (3) at trough. In spike-in experiments using pooled citrated normal human platelet-poor plasma with these PT reagents, apixaban prolonged PT values in a concentration-dependent manner. PT values significantly correlated between both reagents (r=0.97) in outpatients. PT values in outpatients taking 5-mg apixaban bid were significantly prolonged and had wide inter- and intraindividual variability. Peak values were significantly higher than trough values, with both values higher than normal. The dose change of apixaban from 5 mg bid to 2.5 mg bid in outpatients halved the degree of PT prolongation in each NVAF patient.Conclusions:The PT value measured by these specific reagents can predict apixaban-associated anticoagulant activity, although there is significant interpatient variability. (Circ J 2014; 78: 2651–2656)
著者
向井 理恵
出版者
徳島大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

不活動状態や無重力状態で引き起こる廃用性筋萎縮からの回復を助ける食品成分に関する研究を行った。実験動物に筋肉の萎縮を誘導し、そのあとにプレニルフラボノイドを混合した飼料を与えることで骨格筋の回復状況を評価した。プレニルフラボノイドを与えることで、骨格筋の萎縮からの回復の程度は改善した。作用メカニズムとしてフィトエストロゲン活性が寄与する可能性が示唆された。今回の成果は筋萎縮によって引き起こされるQOLの低下を改善する可能性がある。
著者
金井 勇人
出版者
埼玉大学国際交流センター
雑誌
国際交流センター紀要 (ISSN:18816479)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.15-24, 2009-03

話し手が、他人の談話を引用してそこに登場する自分自身を表現するとき、指示語を使用することがある。そのとき、どのような指示語を選択するだろうか。このような興味を抱いたのが、本稿の執筆の動機である。本稿では、「-いつ」系の指示語(こいつ、そいつ、あいつ)を取り上げて考察を行う。これらの指示語は、引用した他人の談話内で、どのように選択されるのだろうか。結論を述べると、引用された談話内では、自身を指すのに「こいつ」「あいつ」が専ら用いられる。一方、「そいつ」は用いられない。これは、コソアの(非)直示性に関わっていると考えられる。また、「こいつ」と「あいつ」では、話し手の伝えたいニュアンスが異なる。
出版者
研究社出版
巻号頁・発行日
1996