著者
副田 賢二
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.93-108, 2015 (Released:2016-08-02)

満州事変勃発以降『新潮』等の「純文学」の領域では「大衆文学」論が盛んになるが、「北支事変」勃発以降は〈銃後〉が〈前線〉に文学的アウラを「発見」するという言説モードが浮上する。一九三〇年代末には火野葦平や上田広等の「帰還作家」と「純文学」側との応答が「戦争文学」論として展開され、〈前線〉〈銃後〉の接続が擬似的に創出される。更に「帰還作家」の言葉の「空白」にこそあるべき〈理念的文学リテラシー〉が投影されるという転倒した事態が起きる。〈文学〉の生成において〈戦争〉が重要な要素として召喚される歴史的過程をそこに見出すことができる。対して『大衆文芸』等の「大衆文学」の領域では棟田博等の「帰還作家」の戦闘体験が強調され、〈前線〉と読者とのダイアローグ的な言説の構造が浮上する。『サンデー毎日』誌上でも〈前線〉〈銃後〉を超越的に接続する物語や「慰問」言説・表象の中に〈消費的文学リテラシー〉が発動していた。
著者
佐藤 俊光 佐藤 成登志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1256, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】腰痛患者では腹横筋や腰部多裂筋などの体幹深部筋の活動性・持久性の低下が報告されている。腰部安定性を図るエクササイズにはHollowingとBracingの2種類の方法が提唱されている。Hollowingは,腰椎・骨盤を動かすことなく腹部をへこませる方法であり,表在筋群から独立して体幹深部筋の収縮を促すことで腰部の安定性を図る。それに対して,Bracingは,腹部をへこませることなく腹壁の3層である外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋を活動させることで腹部を硬くする方法であり,腹斜筋群を用いることにより安定性を向上させる。以上のエクササイズを用いた研究は,腹横筋を中心とした側腹部筋に着目した報告が多いが,体幹深部筋である腰部多裂筋の働きを見た研究は少ない。そこで本研究の目的は,体幹エクササイズの収縮様式が腰部多裂筋に与える影響を超音波画像および表面筋電図を用いて定量的に比較,検討することである。【方法】対象は整形外科疾患のない健常男性8名(年齢22.6±1.1歳)である。使用機器は超音波画像診断装置,筋電図計測装置一式とした。測定肢位は腹臥位とし,超音波診画像断装置を用いて画像表示モードはBモード,3.5MHzのコンベックスプローブで撮影を行なった。プローブは,第5腰椎棘突起より外側2cmで脊柱と平行に縦に設置した。超音波画像にて第4腰椎-第5腰椎の椎間関節を確認し,皮下組織と椎間関節までの距離を腰部多裂筋の筋厚として計測した。測定中の運動課題は,安静,Hollowing,Bracingの3つとして,各動作時の筋厚を3回ずつ測定し平均値を代表値とした。表面筋電図は第5腰椎および第1仙椎棘突起の外側にて腰部多裂筋に電極を貼付した。解析はサンプリング周波数1000Hz,バンドパスフィルターは20~500Hzで処理し,全波整流した。MVC計測の後,各動作時の%IEMGを算出した。筋厚,筋活動ともに得られたデータを統計学的に検討した。なお,有意水準は5%とした。超音波画像診断装置における多裂筋の筋厚測定の検者内信頼性は,同一測定を3回実施した。得られた結果に対し級内相関係数(以下,ICC)を用いて検者内信頼性を確認した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究に先立ち,対象者には研究内容に関する充分な説明を行い同意を得た。【結果】超音波におけるICC(1,1)は,安静時0.90~0.99,Hollowing時0.91~0.99,Bracing時0.91~0.99であり,それぞれLandisらの分類にてalmost perfect以上の相関を認めた。各運動課題での筋厚は,安静時28.8±1.7mm,Hollowing時29.3±1.6mm,Bracing時31.5±1.6mmとなり,Bracing時は安静時およびHollowing時よりも有意に増加していた(安静時p<0.01,Hollowing時p<0.05)。なお,安静時とHollowing時では有意な差は認められなかった。筋活動では,Hollowing時5.44±0.87%,Bracing時8.17±3.08%となり,Bracing時はHollowing時に比べて,有意に高い値となった(p<0.05)。【考察】腰部多裂筋厚はBracing時において安静時およびHollowing時より有意に増加した。Bracingの収縮様式は等尺性収縮であり,体幹屈曲筋と伸展筋の協調した働きが必要である。腰部多裂筋は腰部背筋群の中で最も強力で最大であると報告されていることから,Bracingによる腰部多裂筋の働きが考えられる。しかし,腰部多裂筋は腰椎伸展に必要な筋出力よりも,腰部の安定性に寄与していると報告されている。つまり,等尺性収縮による関節運動の代償を抑えるための姿勢制御として腰部の安定性に作用したとも考えられる。今回,表面筋電図を用いて腰部多裂筋を計測したところ,Bracing時の筋活動は8.17±3.08%であった。Bracingは十文字に交差している腹斜筋の補強により十分な腰部安定性を提供する。このため強い同時収縮が必要とされることはなく,MVCの5~10%程度の収縮であると報告されている。この報告より,Bracingにおける腰部多裂筋厚の増加は腰部の安定性に働いたと示唆された。また,安静時とHollowing時では筋厚に有意な差を認めなかった。Hollowingの収縮様式は腹横筋を求心性に収縮させる作用があり,腰部多裂筋への直接的な影響はほとんどない。このために腰部多裂筋への筋厚は変化しなかったと考える。しかし,本研究の限界として健常者を対象にしたデータであり実際に腰痛患者に同様の効果が生じるかは明らかではない。今後は腰痛患者を対象にしたデータ計測より詳細な効果を検討していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究により,Bracingは腰部多裂筋厚を有意に増加させる効果があり,腰部安定性への関与が示唆された。腰痛患者をはじめ体幹深部筋の活動性低下に対するエクササイズの一つとなる可能性が示唆されたことから,理学療法学において意義のある研究であると考える。
著者
中谷 奈美子 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.148-158, 2006
被引用文献数
6

本研究の目的は,子どもの反抗行動に対する母親の認知と虐待的行為の関係を,特に子どもの悪意や敵意と捉える「被害的認知」に着目して検討することであった。3〜4歳の子どもを持つ一般の母親270名に調査用紙を配布し,207名から協力を得た(回収率76.7%)。調査は,子どもの反抗に対する母親の認知,虐待的行為,さらに,認知を媒介として虐待的行為に影響を及ぼす要因として母親の育児ストレス,自尊感情,親に対する愛着,母親の就労,子どもの性別について測定された。重回帰分析の結果,予測した先行要因→認知的要因(媒介要因)→虐待的行為のプロセスが確認された。すなわち,虐待的行為に影響を及ぼす母親の認知特性は,子どもに対する否定的認知ではなく,母親の自尊感情の低さや育児ストレスの高さからもたらされる被害的認知であることが明らかにされた。また,先行要因として検討した育児ストレスは,認知の歪みをもたらすだけでなく,虐待的行為に直接正の影響を及ぼすこと,親に対する愛着は虐待的行為に負の影響を及ぼすことが明らかになった。以上の結果から,子どもの養育における母親の認知的要因の役割について議論され,児童虐待ハイリスクの母親に対して,認知の歪みや育児ストレスなどを考慮して介入することの重要性が示唆された。
著者
岡橋 さやか 淺野 真琴 生島 悠貴 諏訪 敏幸 二木 淑子
出版者
ヒューマンインタフェース学会
雑誌
ヒューマンインタフェース学会論文誌 (ISSN:13447262)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.153-162, 2018-05-25 (Released:2018-05-25)
参考文献数
30

Nowadays, Information and Communications Technology (ICT) makes rapid progress in our community life and healthcare support system. Our objective was to explore the effect of tele-rehabilitation on memory impairment after traumatic brain injury. Studies about tele-rehabilitation on memory in adults with traumatic brain injury were reviewed. Four database searches were conducted: MEDLINE, Cochrane Library, CINAHL, and PsycINFO. Of the 523 studies identified in the search, 8 studies (including 2 RCTs) met the inclusion criteria, which involved 207 participants. There were 12 kinds of remote intervention: television assisted controlled prompting, Google Calendar, spaced retrieval training as errorless learning, and so on. A common evaluation index; Community Integration Questionnaire (CIQ) was conducted in two studies. Results from several studies indicated that remote interventions on memory impairment improve the proportion of prospective intentions completed in the patients’ daily life. Further research and meta-analysis are needed based on RCTs.
著者
山下 喬之 田口 光 長津 秀文 西田 徳和 東條 夏也
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.915-923, 2016 (Released:2016-12-22)
参考文献数
19
被引用文献数
4 2

〔目的〕理学療法士養成課程における,統一性や客観性が乏しい実習成績評価の問題点を改善する目的で,養成校と実習施設が教育目標と到達基準を明確に共有できる実習成績報告書を新しく開発する.〔対象と方法〕長期臨床実習で使用する実習成績報告書とする.従来の指導者主観の強い実習成績評価方法を学生の能力を客観的に評価可能なパフォーマンス評価概念のルーブリックを用いて作成した.〔結果〕養成校の教育目標と到達基準を明確に表記したルーブリック成績報告書が完成した.〔結語〕ルーブリックは実習成績のみならず新人教育,人事考課まで幅広く活用することができる先駆的な教育ツールで,今後の切れ目ない理学療法教育文化を構築する基盤となると考えている.

5 0 0 0 OA 青い芒

著者
野口 雨情[作詞]
出版者
ビクター
巻号頁・発行日
1929-09
著者
船戸 奈美子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.204-209, 2019-05-01 (Released:2019-05-01)

マルクーシュ構造は類似構造を有する化合物をまとめて表現する表記手法であり,一つの構造図で多数の化合物を表すことができるため特許での化学物質の記載によく用いられている。しかし,そのマルクーシュ構造の柔軟な表現が,化学的な同一性を判断してトポロジカルにデータを捉えることを困難にし,調査を複雑なものにしている。本稿では世界中の特許をマルクーシュ構造から検索することができるSTNのMARPATファイルを取りあげ,マルクーシュ構造の収録方法,効率よく検索するためのスクリーンやノイズを減らすためのスピンオフといった検索のしくみについて述べる。
著者
常見 耕平
出版者
多摩大学
雑誌
経営・情報研究 : 多摩大学研究紀要 (ISSN:13429507)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.81-92, 2006

本稿は、不動貯金銀行「内規」の研究である。不動銀行の経営理念である「大黒天信仰とニコニコ主義」どのように内規に表現されているかを見た。そこで、他の貯蓄銀行の内規と比較を行った。また、新経済体制下で行われた内規の改定について検討を加えた。
著者
菊池 聡
出版者
地域ブランド研究会事務局
雑誌
地域ブランド研究 (ISSN:18812155)
巻号頁・発行日
no.4, pp.47-78, 2008-12
被引用文献数
1

90年代終盤以降、 「秋葉原」は「おたく」の聖地として、急激に変貌を遂げてきた。この「秋葉原」という地域ブランドの確立は、日本の文化・経済状況の変化がもたらした「おたく」ステレオタイプの変容と拡散に、深い関連があると考えられる。本論文では「おたく」ステレオタイプと「秋葉原」の関連を明らかにするために、大学生(N-368)に対して調査を行い、 1998年の調査と比較した。その結果、ネガティブな「おたく」ステレオタイプが、ややポジティブな方向へ変化してきたことを明らかにした。また「おたく」概念についての自由記述の分析から、 98年の段階ではほとんど見られなかった、 「秋葉原」という表現が、特有のファッションや趣味と結びついて多く出現していることを見いだした。これらをもとに、日本を代表する地域ブランドとなった「秋葉原」の特徴を考察した。Since the end of the 1990s, Akihabara has been radically changed and made into a sanctuary for otakus, establishing "Akihabara" as a placebrand.This is apparently related to the diffusion and transformation of otaku stereotypes caused by cultural and economical changes in Japan.In this study, the questionnaire was first administered to 368 undergraduate students, in order to examine the relationship between the transformation and the diffusion of otaku stereotypes. The data of its research also revealed the relationship between otaku stereotypes and Akihara as a place-brand, then these analyses were compared with the data of the precedent one (Kikuchi, 2000). One of the things this study reveals is that last ten years the negative image of otaku stereotypes has been decreased. Another important change is observed in the analysis of the answerers' free comments on otaku stereotypes. In the new research, the word, Akihabara is frequently used to talk about typical otaku fashions or hobbies though such tendency was not recognized in the 1998 research. Considering these changes, this study further discusses the characteristics of Akihabara as a representative place-brand in Japan.

5 0 0 0 OA 朧月猫草紙

著者
山東京山 作
出版者
山本平吉
巻号頁・発行日
vol.四編, 1842
著者
安藤 朗
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.1, pp.29-34, 2015-01-10 (Released:2016-01-10)
参考文献数
11
被引用文献数
1 3
著者
千 錫烈
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.113-120, 2017-03-01 (Released:2017-03-01)

図書館は不特定多数が利用する施設であり安心安全でなければならない。しかし,近年の図書館では迷惑行為や犯罪行為を行う「問題利用者」が問題となっている。本稿では①リスクマネジメントやリスクアセスメントの策定によるリスク対応の可視化,②利用規則による抑止,③図書館職員のホスピタリティを向上させるサービスコードの3つの方策を示して問題利用者の抑止策について検討していく。さらには実際に問題行動が起きた際の対応策として,遭遇する確率が高い怒った利用者を事例として挙げ,6つの対応スキルについて紹介する。