著者
田中 愼一
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-32, 2007-06-07

明治前期に東京で地主側が本郷区の借地人たちを相手どって下掃除を請求する民事訴訟が起きていた。大審院での判決原本は最高裁判所で,東京控訴裁判所での判決原本は東京大学法学部でかなり前に閲覧できていたが,東京裁判所での判決原本は不明のままであった。この始審判決原文は国際日本文化研究センターの英断によって最近ようやく見ることができ,この論文を完成に導いてくれた。これまで相当な時間を費やしてきただけに感謝の念にたえない。三審とも判決原本を読みえたことで,この民事事件の全体像を再構成し,下掃除をめぐる利害状況を追究してみたのが本論文である。下肥は東京近郊農業地帯の米作や麦作といった最重要の主穀作の主肥となっていたから,近郊農村民が渇望するところであり,下肥材料を入手する下掃除は代金支払いを伴なう経済行為でもあったから,下掃除をさせる権限が不動産をめぐる関係者の間のどの階層に属するかで非和解的な対立が生じることになった。それはまた,都市不動産課税とも関連して込み入った利害状況の展開があり,解明を要すると考えられた。そして,本論文は明治前期東京下肥経済算術をおこなったのである。
著者
堀 弘樹 菅野 秀貴
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.102, no.1, pp.102-8-102-18, 1999-01-20
被引用文献数
2 1

Lazaroidは脂質過酸化反応を抑制し, 活性酸素を消去する作用をもつfree radical scavengerである. ラットを用いて, CDDPの聴器障害および腎障害に対するLazaroidの軽減効果の有無を検討し, さらにCDDPの抗腫瘍効果に対するLazaroidの影響について検討した. CDDP, Lazaroid併用群のCAP閾値上昇はCDDP単独群と比較して有意に軽度であり, 外有毛細胞の障害の程度も明らかに軽度であった. 一方, 両群間の血清BUN値に有意差は認められず, 腎の病理組織学的所見にもほとんど差異はなかった. TGRを指標とした検討で, 両群の間にはCDDPの抗腫瘍効果に差は認められなかった. これらの結果より, LazaroidはCDDPの腎障害に対する軽減効果はないが聴器障害を著明に軽減すること, Lazaroidの併用がCDDPの抗腫瘍効果には影響を及ぼさないことが示唆された.
著者
Yvan Vandenplas Genevieve Veereman-Wauters Elisabeth De Greef Tania Mahler Thierry Devreker Bruno Hauser
出版者
JAPAN BIFIDUS FOUNDATION
雑誌
Bioscience and Microflora (ISSN:13421441)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.111-117, 2011 (Released:2011-11-17)
参考文献数
50
被引用文献数
2 2

Western medicine has only recently discovered that the intestinal microbiota is a major determinant of the well-being of the host. Although it would be oversimplifying to limit the benefits of breastfeeding compared to cow milk based infant formula to differences in gastrointestinal flora, the impact of the latter has been demonstrated beyond doubt. As a consequence, gastro intestinal flora manipulation with pre- and probiotics added to infant formula or food (mainly milk based products) and/or with food supplements have become a priority area of high quality research. The composition of intestinal microbiota can be manipulated with "biotics": antibiotics, prebiotics and probiotics. Commercialised pre- and probiotic products differ in composition and dose. Major threats to the concept of developing a major role for intestinal microbiota manipulation on health are the commercialisation of products claiming health benefits that have not been validated. Legislation of food supplements and medication differs substantially and allows commercialisation of poor quality food supplements, what will result in negative experiences. Medicinal products can only be advertised for which there is scientific proof of benefit that has been demonstrated with "the same product with the same dose in the same indication". Specificity of prebiotics and probiotics strains and product specificity are of importance, although high quality evidence for this assertion is missing. Dose-efficacy studies are urgently needed. Probiotics are "generally regarded as safe", but side effects such as septicemia and fungemia have sometimes been reported in high-risk situations.
著者
堤 拓哉
出版者
地方独立行政法人北海道立総合研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、雪国に建つ建築物を対象に、稀に起きる豪雪による被害と毎年のように繰り返し起きる日常的な雪の問題の二つを合わせて「建築物の雪害によるリスク」と捉え、雪害の発生確率と発生による損失を統計データの分析から定量化することにより、建築物の雪害によるリスクの評価手法を提案し、これまで検討されていない雪害リスクマネジメントを体系化することを目的とする。研究では、アンケート調査により豪雪地帯で起きている雪害内容を把握した。特に北海道では、敷地内の雪の問題、吹雪による問題が大きなリスク要因となっていることが明らかになった。雪害のリスクを評価する手法として、多変量解析に基づく雪害発生の判別、損失期待値に基づくリスク評価法を検討し、雪害リスクマネジメントのフローを提案した。
著者
田中 秀夫
出版者
京都大學經濟學會
雑誌
經濟論叢 (ISSN:00130273)
巻号頁・発行日
vol.174, no.1, pp.1-18, 2004-07
著者
落合 理 LEMMA Francesco
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度は,GSp(4)の肥田変形においてオイラー系からp進L関数をつくるColeman写像理論について取り組んだ.成果として,適当な条件下で,ほぼ予想した結果を得た.現在結果の細部をタイプしている最中である.GSp(4)のnearly ordinaryな肥田変形は3変数の岩澤代数の上のランクが4のガロア表現である.以前,申請者はGL(2)の肥田変形におけるColeman写像を構成した.GL(2)のnearly ordinaryな肥田変形は2変数の岩澤代数の上のランクが2のガロア表現である.Coleman写像とはこのようなガロア表現の族においてBloch-Katoのdual exponential mapと呼ばれるp進ホッジ理論で大事な写像をp進補間することである.今回得たGSp(4)における結果はこのGL(2)のときの結果の一般化である.その際の手法やアイデアが部分的には使えたが,一方で新しい困難もいくつかある.ランクが大きくなる困難や様々な表現が入り混じる困難があり,また,素朴な概念で切り抜けることができたGL(2)に比べて,代数群や保型表現の一般理論に通じている必要がある.最後に今回の仕事の意義について述べたい.もともと今回の仕事は描いているもう少し大きな岩澤理論の一般化のプロジェクトの一部である.今まで代数群GL(2)に関連した岩澤理論しかなかったので,高次の代数群で岩澤理論を展開していき様々な新しい世界が広がることを期待している.今回の仕事だけ見ても手法的に面白い発展がいろいろ得られたと思っている.
著者
藤山 英樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.17-30, 2007 (Released:2007-08-03)
参考文献数
10

本稿では,利得が確率変数となっている囚人のジレンマ状況での,「開放的関係」と「閉鎖的関係」の相互補完的なメカニズムを明らかにする.「開放的関係」では,個々のプレイヤーはランダムにマッチングされ,1回限りのゲームを繰り返すことになる.「閉鎖的関係」では,ゲームの相手は固定され,協力行動が繰り返されると仮定する.結論としては,どちらか一方の関係しかないときよりも,両関係が存在し,相互間でダイナミクスが存在するときに,社会的効率性の向上が示された.すなわち,「開放的関係」において,社会の多様性が維持され,「閉鎖的関係」において,その望ましい関係が短期で終わらずに保護され,かつダイナミクスによって選択過程が果たされることによって,内生的な利得の向上が実現する.ただし,選択過程が機能するには,ランダムな「閉鎖的関係」の解消確率が十分に小さくなければならない.これまでは,開放的な社会関係(「一般的信頼」)と閉鎖的な社会関係(「コミットメント」)が対立的にとらえられてきた(山岸 1998).しかしながら,現実的にはその双方が社会に存在し,佐藤(2005)も示すように,それらは補完的に作用し,社会の効率性の向上に双方が寄与できるのである.
著者
佐藤 慶太
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、カントの概念論の固有性を明らかにするために、「概念」の取り扱いに関してカントがカント以前の哲学者とどのように対決し、どのようにそれを乗り越えていったのかを検証した。研究は、『純粋理性批判』の「純粋理性の誤謬推理について」、および「純粋悟性概念の図式論について」に焦点を絞って行った。「誤謬推理」章を取り上げた研究に関しては、『哲学』第60号掲載の論文と、11月に行われた日本カント協会第34回学会のワークショップでの発表において、その成果をまとめている。この研究において明らかとなったのは、カントの概念論における「徴表(Merkmal)」の重要性である。上記の論文および研究発表において示されたのは、「徴表」という概念に着目して「誤謬推理」章を読解すると、カントの「概念論」の固有性のみならず、カントの形而上学構想の変遷の意味を理解する手掛かりも得られる、ということである。そのほか、カントの論理学講義の内容と、『純粋理性批判』との関連の明確化も併せて行ったが、この点でも意義があったといえる。「図式論」を取り上げた研究の成果は、9月に行われた実存思想協会・ドイツ観念論研究会共催シンポジウムにおいて発表することができた。この発表においては、カントの「図式」がデカルト以来の近世哲学における「観念」をめぐる論争の系譜に位置づけられること、またこのような系譜への位置づけおこなうことではじめて、「図式論」章の役割が明確になることを示した。また上記の二つの研究を含む課程博士論文「カント『純粋理性批判』における概念の問題」を京都大学に提出し、11月24日付で学位を取得した。
著者
鈴木 誠
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成21年度は平成20年度の検討をさらに推し進めるとともに,時刻同期機構の開発,無線センサノード向けマルチコアCPUの設計,地震モニタリングシステムの開発を行った.1.時刻同期機構の開発これまでの無線センサネットワーク向けの時刻同期機構は,時刻同期誤差の確率的な相関を考慮しておらず,誤差がホップ数に対して指数関数的に増大してしまうという問題があった.本研究では,時刻同期補正手法をFIRフィルタとしてモデル化し,誤差を増幅させる原因を特定し,新たな誤差補正手法を開発することで,ホップ数に対する誤差の増大を線形に抑えることを可能とした.また,誤差分布について検討を行い,ホップ数と時刻同期間隔の情報のみから時刻同期誤差を推定する手法を開発した.2.無線センサノード向けマルチコアCPUの設計現存する無線センサノードは,無線通信,計算処理,サンプリングなど,複数のタスクを1つのCPUで並列実行しており,スケジューリングの不確定性に伴う測定誤差の増大,パケットロスの発生などの問題が生じる.この問題の解決に向けてはマルチコアCPUによってタスクを分散させることが必要となる.本年度はマルチコアCPUの設計において重要となるコア間通信アーキテクチャの初期的設計を行い,無線センサネットワークの実際のアプリケーションにおいてコア間のデータ通信量を評価することで,設計の妥当性を示した.3. 地震モニタリングシステムの開発平成20年度および今年度に開発したネットワーク基盤技術を利用して,地震モニタリングシステムの開発を行った.ルーティングプロトコルなどの実装を行い,秋葉原ダイビルに8台構成で設置し,20個程度の実地震の取得に成功した.
著者
宇都宮 潔 橘 成一 齊藤 道成
出版者
プロジェクトマネジメント学会
雑誌
プロジェクトマネジメント学会誌 (ISSN:1345031X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.13-16, 2009-02-15

組織がパフォーマンスを発揮するためには,メンバは勿論,チーム/組織として行動し,成果を上げることが重要である.そのためにはメンバが学習し,知(経験)を蓄えるように,チーム/組織としても学習し,知(経験)を蓄えていくことが極めて重要となる.しかしながら,チーム/組織における学習の方法は一律ではなく,各組織において試行錯誤しているのが現状と思われる.そこで,本稿では,チーム/組織がパフォーマンスを向上させるために,本組織において試行的に実践している取組みを紹介する.
著者
加藤 雅人 川野邊 渉 高橋 裕次 稲葉 政満 半田 正博
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

紙文化財の修理技術は、工程、手法、道具、材料が様々であり、同じ作業や材料、道具でさえ用語が異なっていることがある。本研究では、これらの用語を調査して分類することにより、紙文化財およびその修復技術という無形文化財に対する共通理解を深めることを目的として行った。最初に調査票の作製を行い、その後情報収集を行った。データベースの検討を行い、htmlの試作を行った。また蓄積した情報を修復用紙の選択に応用した。
著者
堀内 賢志
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究の目的は、ロシア極東地域開発とそれに伴うロシアとアジア太平洋諸国との関係の発展の分析である。APEC首脳会議開催に向けたウラジオストク開発は、金融危機の影響にも拘わらず、開発体制の整備と大幅な予算増を伴い実現された。エネルギー分野では石油・天然ガスパイプライン建設などの施策の実現によりアジア太平洋諸国との関係が強まり、地域協力枠組みの発展も期待される。他方、国家財政の予算投入に頼った大規模インフラ整備中心の開発プログラムが持続的かつ自立的な地域発展につながらないなどの問題も明るみになった。ロシアの極東地域開発は特に2013年半ば以降、新たな開発体制と方向性の下で引き続き推進されている。
著者
青木 隆朗
出版者
早稲田大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

量子光学的手法による連続量量子情報への応用を目指し、光ファイバーベースでの新しい直交位相成分スクイーズド光発生法の検討を行った。具体的には、超短パルスを用いた従来の直交位相成分スクイーズド光発生法に対して、現在の連続量量子情報技術の主流である連続光を用いた多モード量子エンタングルメントの生成・制御技術との整合性を重視し、光ファイバーに直接結合したシリコンチップ上モノリシック微小共振器を用いた連続光励起での直交位相成分スクイーズド光の発生に関する理論的検討と、共振器設計の最適化、さらに高Q値微小共振器の作製技術の開発を行った。特に、本手法による直交位相成分スクイーズド光の発生には高いQ値と同時に小さなモード体積を持ち、さらに共振スペクトルの測定結果からモード次数を同定できる共振器の開発が必要である。そのような条件を満たす共振器として微小球共振器に着目し、シリコン基板上にモノリシックに作製することで直径20μm以下の極微小球共振器に対して10^8オーダーのQ値を達成した。WGM型共振器のQ値は放射損失、物質の散乱・吸収による損失、表面の凹凸による散乱や不純物による外因性損失等で決まり、究極的には放射損失によって上限が定められる。本研究で達成したQ値は、直径20μm以下の極微小球共振器としては従来の値を1桁以上改善するものであり、放射損失によって決まる理論限界に肉薄するものである。また、共振器を使わずに光ファイバーで直接、光と物質の強い相互作用を実現できるナノファイバーデバイスを開発した。
著者
藤坂 菊美
出版者
徳島大学
雑誌
四国歯学会雑誌 (ISSN:09146091)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.61-74, 2007-06

Genetic competence in S. mutans is regulated by a quorum-sensing system mediated by a competence-stimulating peptide (CSP). CSP encoded by the comC gene is involved in competence for genetic transformation and biofilm formation. The quorum-sensing system in S. mutans involves four gene products encoded by comC, comD, comE and comX. The comC, comD and comE genes encode a CSP precursor, its histidine kinase sensor protein, and a cognate response regulator, respectively. The loci of comC and comDE lie adjacent on the chromosome. comX encodes a sigma factor, however little is known about the influence that the quorum-sensing system has on the pathogenicity of S. mutans. It is of interest to verify the roles of the quorum-sensing system in S. mutans for its ability to form a biofilm. To test this hypothesis, S. mutans wild-type strain UA159 and its knockout mutants, which were defective in comC, comD, comE and comX mutant, were examined for their ability for initial adhesion, glucan synthesis and invasion into dentinal tubles. The initial adhesion ability of S. mutans cells to saliva-coated hydroxyapatite was decreased in comD and comE mutant strains. This result shows that the quorum-sensing system already has an influence on initial biofilm formation to be adherent or the early phase of carious formation. The proportions of water-insoluble glucan synthesis in all mutant strains were less than the wild type. The proportions of water-soluble glucan adhering to dentin slices in all mutant strains were also less than in the wild type. The total dose of three kinds of glucan composition decreased in all mutant strains. The expansion rates of dentinal tubules by comC, comD, comE and comX mutant increased more than by the wild type when cultured in brain heart infusion for 24 days. This study demonstrated that the quorum-sensing system may play a crucial role in initial adhesion, glucan synthesis, biofilm formation and invasion to dentinal tubules of S. mutans.