著者
村尾 和哉 クリストフファンラールホーフェン 寺田 努 西尾 章治郎
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.1068-1077, 2010-03-15

ウェアラブルコンピューティング環境では小型の装着型センサを用いて取得した行動や状況(コンテキスト)を利用するさまざまなアプリケーションが提案されている.装着者のコンテキストを取得する際に,センサの値に対して特徴量抽出と呼ばれる前処理が行われる.この特徴量抽出ではこれまで,判別性能の高さから平均や分散,FFT係数などが多くの研究で採用されてきたが,これらはデータサイズが元のデータよりも大きくなるため,センサは生データの状態でコンピュータに送信し,その後特徴量抽出と認識が行われる.しかし,生データの通信やセンサ内のメモリへの書き込みによって消費する電力は大きく,低消費電力ハードウェアにとって負担となるものであった.本論文では,従来の特徴量と同等の性能を示しつつデータサイズは小さい新たな特徴量として,加速度波形のピークの高さと幅を提案する.提案する特徴量を用いることでセンサ内で特徴量変換を行いデータサイズを削減したうえでメインコンピュータに送信するため,消費電力の削減につながる.
著者
藤森 伸也
出版者
一般社団法人日本歯科理工学会
雑誌
歯科材料・器械 (ISSN:02865858)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.155-168, 1995-01-25
被引用文献数
21

チタンの表面を方向性のない凹凸面, あるいは方向性のある平滑面になるように準備した.方向性のない凹凸面はワイヤ放電加工(Wire-EDM)およびプラズマコーティング(Plasma)で作製した.平滑面は#1500のエメリー研磨紙で研磨することにより作製した(Emery).チタンの表面性状を, 表面粗さの測定, SEM観察, XPS分析およびX線回折分析により表面分析した.マウス由来の骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を各チタン試験片上に播種し, 15日間培養した.細胞増殖のマーカーとしてDNA量を, 細胞分化のマーカーとしてアルカリフォスファターゼ(ALP)活性およびCaとPの生成量を測定した.コントロールとして培養用のガラス板(TCP)を用いた.Wire-EDM, Plasma, Emeryの表面粗さ(Rmax)はそれぞれ20.5, 31.4, 0.80μmであった.Wire-EDMは多数の小さな凹凸の集合した不規則形状を有していたが, くぼみの深さは比較的均一にそろっていた.一方Plasmaは凹凸がより不規則であり, 多孔質形状を有していた.Wire-EDM表面にはPlasmaやEmeryよりも有意に厚い酸化皮膜が生成しており, それらは表層から内部へ向かってTiO_2, TiO, Ti_2Oで構成されていた.細胞のDNA量は全ての試験片上で経時的に増加したが, 9日目以降はWire-EDMとPlasmaでEmeryおよびTCPよりも有意に増加した.今回用いた細胞は増殖および分化することによりALP活性を発現することが認められている.DNA 1μm当たりのALP活性は, 9日目以降Wire-EDMとPlasmaでEmeryおよびTCPよりも有意に増加した.15日目のWire-EDMおよびPlasma上の細胞が生成したCa/P比は1.26, 1.28であり, EmeryおよびTCPよりも有意に上昇していた.以上の所見より今回用いた骨芽細胞様細胞は, 同じチタン試験片上でも方向性のある平滑面よりも方向性のない凹凸面上で増殖が加速され, 細胞分化も活発になっていることが認められた.細胞の形態観察によると, Wire-EDMやPlasmaでは, 細胞は凹凸の縁に橋渡しをするように突起を成長させながら伸展していくことが認められた.従って細胞の形態の変化が分化を誘導したものと考えられる.今回の実験結果より, インプラントの骨接触面には方向性のない凹凸面が好ましいことが示唆されたが, 最適なミクロ形状を付与するためにさらに研究が必要である.
著者
金子 孝夫 大室 仲 間野 一則
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-I, 情報・システム, I-情報処理 (ISSN:09151915)
巻号頁・発行日
vol.83, no.11, pp.1196-1208, 2000-11-25

新聞や広報誌などの最新情報や地域情報を朗読した音声を, 音声符号化技術により情報圧縮してPCサーバのディスクに蓄積し, ISDN回線を使って視覚障害者の家庭の受信装置に配信する朗読配信システムを開発した.朗読音声の圧縮には, 低ビットレート音声符号化技術DualSpeechを開発して導入し, 朗読音声の品質をほとんど劣化させることなく, 情報量を約1/18に削減して高速に配信できるようにした.また, 受信装置に内蔵した1メガバイトのメモリに, 約90分間の朗読音声をコンパクトに蓄積でき, しかも蓄積した情報内容は, インデックス検索機能によって瞬時に検索できる.これらの特長によって, 配信に要する時間と通信料を削減するとともに, 視覚障害者の知りたい情報をいつでも繰り返し聴ける魅力ある朗読配信サービスを実現した.この朗読配信システムの性能を評価した結果, 朗読音声データは再生時間の約1/8の短時間で受信でき, 再生音声はパーソナルハンディホンシステム(PHS)と同等の高い品質が得られた.また, 約50名の視覚障害者を対象に, 音声圧縮による朗読配信システムを使ったサービス実験を行った.その結果, 視覚障害者が自ら選択できる身近な情報を充実すること, 情報内容の更新頻度を高くすること, 受信装置の操作性をいっそう向上することなどの課題が, アンケート結果から明らかとなった.
著者
川田 一義
出版者
尾道大学
雑誌
尾道大学経済情報論集 (ISSN:13469991)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.63-83, 2005-12

青色申告とは、一定の帳簿書類を備え付け、それに基づいて正確な所得を計算し申告する納税者に対して、税制上の特典を認める制度である。この特典を受けようとする場合には、税務署長より確定申告を青色の特別な申告書で提出することの承認を受けなければならない。青色申告の普及・育成を通じて、正しい申告り内税と企業経営の合理化を図ることを目的として、個人事業主によって組織されている団体が青色申告会(Blue Return Association)である。現在、全国で3000会以上、会員は100万人を超えている。ここでは、尾道の青色申告会の変遷を例に取りながら、青色申告制度の創設、推移、及び、今後のあり方等を考える。
著者
富積 厚文
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.93-117, 2008

本稿ではスピノザ(Baruch de Spinoza,1632-1677)におけるスピノザの信仰理解について考察する。スピノザによれば、信仰とは啓示的認識においてのみ問題となる事柄であり、またそれは「神に従順であること」を意味する。そして彼は『神学・政治論』において信仰と行いが循環の関係にあることを主張する。つまり行いを成立させているのは信仰であるが、信仰は行いを媒介とすることによってのみ証しされる。スピノザに従えば、この信仰と行いの循環の関係は、或る人間が救済を得るためには、その人間によって、絶えず新たに産み出されなければならないことである。人間たちがその循環を生きるための起動力こそ、「自己で有り続けようとする努力」であるコーナートゥスに他ならない。またスピノザが提示する信仰の根拠は人間たちに対する神の愛であり、その対象は神である。要するに信仰を証示するための行いの根源は、神に由来するコーナートウスである。