著者
田沼 英樹 出口 弘 清水 哲男
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.63-63, 2005-04-15
被引用文献数
3

私たちはエージェントベースシミュレーションのための新たなプラットフォームとしてSOARS(Spot Oriented Agent Role Simulator)という言語を開発した.SOARS は当初,病院内でのSARS院内感染シミュレーションを行うための記述言語として開発された.病院内では医師,看護師,患者など様々な役割を持つ人々がそれぞれのルールに応じて複雑な社会的行動を行い,相互に影響を与えあう.これらの人々を自律的なエージェントと見なし,そこに協調,対立,あるいは無自覚の感染などの相互作用を入れることにより,一種の複雑系が構成される.そこで,このようなルール行動を抽象化したモデルを定義し,スクリプト言語として表現することにより,シンプルかつ柔軟にシミュレーションを記述することができる.SOARS 言語処理系の実装にはJava 言語を利用し,リフレクションを用いることにより柔軟な言語の拡張を可能にしている.そして,スクリプトのみで表現することが困難な処理については,Java のクラスを直接利用することができる.現在,SOARS の処理系は各エージェントについての処理を逐次的に行うが,言語モデル自体は処理の逐次性を仮定していない.将来的には別の処理系で並列分散処理が行える可能性があり,あるいは新たな並列処理アーキテクチャのパラダイムとして発展する可能性を秘めている.本発表ではSOARS モデル概念,スクリプト文法,処理系の実装,およびシミュレーション結果の実例について説明を行う.We developed a new language for agent-based simulation platform named SOARS (Spot Oriented Agent Role Simulator). At first, SOARS is developed for a simulation of SARS infection in a hospital. In hospital, there are various persons who play each role such as doctor, nurse and patient. They act complex social behavior as their own rules and interact with each other. We regard the persons as autonomous agents with interaction like cooperation, opposition, or unaware infection. And they construct a kind of complex system. We abstract the model of agents' rule actions and represent them as script language, and then we can describe simulations simple and flexible. We implement SOARS in Java language and enable functional expansion by Java reflection feature. Also, processes which are difficult to describe only by script language can be implemented in reinforcement by external Java classes. At present, SOARS implementation processes agents one by one, but the language model does not assume consecutiveness of the processes. In the future, other implementation can be parallel and distributed, and may provide a new paradigm of parallel processing architecture. In this presentation, we explain SOARS modeling concept, grammar of script language, detail of implementation, and example of simulation.
著者
岡室 博之
出版者
国民生活金融公庫総合研究所
雑誌
調査季報 (ISSN:13424734)
巻号頁・発行日
no.58, pp.19-38, 2001-08

近年,日本の開業率の低迷が問題になっている。80年代半ば以降,廃業率が一貫して開業率を上回り,企業数の純減が続いている。このような開業率の低迷と企業数の減少傾向は経済活力の衰えを招くものと懸念され,近年さまざまな形で創業支援が行われているが,十分な効果を挙げるには至っていない。このような状況の下で,創業に関する研究はますます重要性を増している。しかし日本には開業・廃業の動向を正確に把握できる統計資料が存在せず,創業研究のためのデータの蓄積もなく,そもそも創業活動や創業後の経営発展に閲する本格的な実証分析が少ない。そのために,開廃業の決定要因や新規開業企業の生存・成長の影響要因についてもいまだに統ーした理解があるとはいえない。その点で,日本における創業研究がいくつかの欧米諸国に対して大きく遅れていることは否定できない。そこで本稿の課題は,ドイツにおける創業研究の近年の動向を紹介し,主要な研究成果を整理して,日本の創業研究と創業支援に対する含意を得ることである。ここでドイツを取り上げる理由は, 1) 開業率が国際的にみても高水準にあること, 2) 特に東独地域の経済活性化のための有効な創業支援の必要から,創業研究が90年代に急速に進展したこと, 3) 経済システムの近似性から,ドイツにおける経済の動態的変化とその分析のあり方が日本にとっても少なからぬ含意をもっと考えられることである。なお,本稿の目的は開業率の決定要因や創業後の成果の影響要因に関する分析の方法と結果を展望することにあるので,記述的なデータを示し,それを日本における調査結果と比較することは本稿では行わない。ドイツにおける近年の創業研究の動向について注目すべき点は,第1に開業・廃業データの全国的・統一的把握が進展し,詳細な統計データが毎年公表されるようになったこと,第2に新規開業企業に関する大規模なパネルデータが構築され,それに基づいて創業の決定要因や創業後の存続・成長要因について厳密なモデルに基づく本格的な実証分析が行われるようになったことである。しかもそれらのデータベースは,研究者の利用に公開されているのである。創業の決定要因に関するいくつかの研究から明らかになったのは,潜在的起業家の職業教育・高等教育の水準を高めることと,研究機関のような知識・研究基盤を充実することがミクロ・マクロ両面から創業を活発にする傾向があるということである。また,創業の成果に関する研究の主要なメッセージは,成功要因の分析を創業者の人的特性・企業の属性・経営環境という三つの視点から行う必要があるということ,またここでも(潜在的)創業者の人的資本の高さ,特に教育水準と当該業種の職業経験が創業の成果を大きく左右するということである。日本の創業研究及び創業支援に対する重要な合意は,創業活動と創業後の経営展開をできるだけ定量的に把握し,分析することが重要だということである。また,創業という本質的にダイナミックな現象を適切に把握・分析するためにはある時点でのクロスセクション分析では不十分であり,特定の標本企業のグループの追跡調査を通じてパネルデータを構築することが不可欠である。それによって初めて,創業後の経営成果や創業支援政策の効果を適切に分析することが可能になるのである。しかし,研究者個人の力で大規模なパネルデータを構築するのは非常に困難である。これまでに創業に関するアンケート調査の実績のある機関や組織,特に中小企業庁と国民生活金融公庫が中心になって,関係諸機関や研究者と協力しながら開業・廃業に関する大規模なパネルデータを構築し,研究者や政策関係者の利用に広く供することが強く望まれる。
著者
問合せ先: 日本化学会情報化学部会
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
日本化学会情報化学部会誌 (ISSN:09133747)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, 2003

日本化学会情報化学部会では、昨年よりJ-STAGE上で公開されている情報化学部会誌(CICSJ Bulletin)の一年分(Vol. 20)の合本印刷体を非会員に対しても頒布することにいたしました。ご希望の方は上記までご連絡下さい。一冊3,000円です。
著者
鳥田 宏行
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.354-357, 2005-08-01
被引用文献数
2

2004年2月22日から23日にかけて,北海道日高町では雨氷による森林被害が発生した。被害面積は約163haに達し,カラマツが被害面積全体の84%を占めた。本研究では,被害発生当時の気象状況を明らかにし,数量化I類によってカラマツ林の本数被害率と林況および地況との関係について解析を行った。22日から23日にかけての気象状況は,高度400mよりも上空では0℃以上の暖気層があった可能性が高く,これが標高の高いところでは雨氷害が発生しなかった理由と考えられる。斜面方位のスコアからは,北〜北西の方位が高く,着氷後の風によって被害が拡大したことが示唆された。平均胸高直径のスコアからは,直径が25cmよりも大きくなると,被害が抑制される傾向が示された。
著者
小川 功
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-18, 2009-09-15

平成22年4月本学マネジメント学部に観光マネジメント学科が新設されるのを機に,「観光マネジメント」という学科の領域全体での検討すべき新たな課題・問題意識を取り上げてみたい。地域の観光にかかわる個別企業や人物が各々どのような役割を果すことで,著名な観光資源がいかにして一流の観光地へと形成されていったのか,その際に地域全体で「観光マネジメント」がいかに推進されていったのかを,明治末期から大正前期にかけて観光資源として売り出すことに成功した奈良県・長谷寺の牡丹を素材に第一段階の試論として検討したい。同寺は一見遠く離れた寺院のようであるが,信者の分布状態を反映し東国の末寺住職が本山役僧に累進する例が多く,同寺を総本山とする豊山派本部は文京区の名刹・護国寺境内に位置し,本学文京キャンパスとも至近距離にあるという浅からぬ地縁もあり,興味深いことに旧初瀬町(現桜井市)には跡見なる由緒ある地名もあることからここに取り上げた。本稿は門前町の関係者が協議して長谷寺参詣客を飛躍的に増大させるべく,夜間点灯など一連の観光振興策を門前町が一丸となって打ち出した"観光まちづくり"の諸活動に直接・間接に関わったと思われる初瀬鉄道,鉄道院,初瀬水力電気などの関係法人と,地元旅館主をはじめとする門前町・初瀬の地域社会の指導者達という長谷寺の牡丹に貢献した人物群を順次取り上げ,かれら相互の関係を管見の限りの文献から可能な限り解明しようと試みたものである。とりわけ鉄道院旅客係に勤務していた異才の鉄道員・森永規六(後の運輸公論社主幹,多くの観光案内書や旅行趣味鼓吹雑誌を刊行)が外部から観光客誘致に尽力したという今日の「観光カリスマ」にも相当する先駆的な功績にも注目した。今後は更に必要な現地調査・資料探索を重ねて未解明部分に迫っていくとともに,来春には観光マネジメント学科に集結する各観光分野の専門家各位からお知恵とご示唆を頂いて,当該分野の研究をさらに深化させていきたい。

1 0 0 0 OA 大塩平八郎

著者
幸田成友 著
出版者
東亜堂書店
巻号頁・発行日
1910
著者
高橋 弘太 蔦木 圭悟 吉原 亨
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NLC, 言語理解とコミュニケーション (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.337, pp.227-232, 2008-12-02
被引用文献数
2

高齢者に確実に音声を聞き取らせるには,どうしたらよいか,また健常者に対しては,短い時間でより多くの音声を聞き取らせるには,どうしたらよいか.これらの研究を行うためには,正確な時間管理のもと,同じ音声を同じ話者が話速を変えて発声した音声のデータベースが必要である.しかし,現時点では,そのような目的で大規模に作られた音声データベースは存在しない.そこで,我々は,平成20年度〜平成22年度の科研費の研究として,さまざまな話速で録音した音声データベースを構築している.今回は,このデータベースの紹介を行うとともに,会場で音声の研究者の生の意見やコメントをうかがって,今後のデータベース作りに反映させていきたいと考えている.また,我々は,音声データベース作成のために,話速を正確に管理しつつ録音できるシステム(原稿提示システム)も製作した.システムはパソコン上で動くもので,将来は,このソフトも公開して,電通大外でも音声を追加できるようにしたいと考えている.当日は,このシステムの機能と,どのような工夫がなされているかについても紹介したい.
著者
山本 博志 栃木 勝己
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.117-122, 2007 (Released:2007-07-01)
参考文献数
13
被引用文献数
3 5

環境化学的な観点から環境ホルモン等の極性化合物の室温付近での蒸気圧の推算は非常に重要である。蒸気圧の推算にはClausius-Clapeyron式を改良した様々な蒸気圧式が知られている。これらの式は沸点以上では非常に精度が高いが,1 Pa~100 Pa付近の低圧で極性物質の蒸気圧を精度よく推算できる蒸気圧式は知られていない。そこで蒸気圧が沸点や臨界定数の多項式で表せると仮定して,その係数を算出するプログラムを作成した。そのような非線形方程式の係数の組合せは多数存在しグローバルミニマムの解を見出すのは難しい。我々はこの係数を算出するのに遺伝的アルゴリズムを用いた。多項式展開型の蒸気圧式の係数をこのプログラムを用いて決定し,極性化合物の低圧領域に適用したところ,Riedelの蒸気圧式よりも低圧領域で優れた推算式が構築できた。また,蒸気圧の補正係数として重要な偏心因子を,Edmisterの偏心因子より精度が高く推算する式を構築した。
著者
谷津 貴久
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.151-158, 2002

視覚系によって認知される対象やその位置についての記憶を視空間記憶(visuospatial memory)と呼ぶ。高齢者と若年者とでこの能力に差があるのかという問題について, 本稿ではこれまでに行われてきた研究を概観することにより考察した。視空間記憶には様々な種類があるが, 本稿ではそれらを実験課題により分類し, 写真・絵の記憶, 単純な線画の記憶, 顔の記憶, 空間(位置)の記憶, 視空間作業記憶として取り上げた。高齢者と若年者との間に見られる記憶能力の差は個々の研究結果で異なり, 両者がほぼ同じである場合と高齢者の成績が低い場合とがあった。これらは課題や刺激の性質に依存し, 高齢者の成績が低下する直接の理由としてフォールスアラームの増加が挙げられた。また, 複数の視空間作業記憶の研究からも年齢差が見られたが, イメージ操作の研究では年齢差の有無について相反する結果が見られた。全体として, 高齢者は日常的な記憶課題については若年者と同程度の能力があるが, 実験室的な非日常的課題では若年者ほどの記憶成績が出ないと結論した。