著者
山中 弘
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.255-280, 2017-09-30 (Released:2017-12-30)
被引用文献数
1

本稿は、現代社会に大きな影響を与えている消費という問題に注目して、マーケット論的視点から消費社会における現代宗教の変容を理論的に論ずることを目的としている。まず、宗教社会学理論において著名なR・スタークの経済的マーケットモデルを批判的に検討する。その上で、彼のモデルに代えて、ベビー・ブーマーたちの宗教意識とアメリカの宗教状況を明らかにしたW・ルーフの「スピリチュアル・マーケットプレイス」という概念と「探求」という心理的な志向性に注目する。次いで、現代社会の消費をめぐる議論を紹介しながら、「セラピー的な自己」とそれをターゲットとした聖地巡礼ツーリズムを検討する。最後に、宗教的マーケットと世俗的なそれとの融合という状況において出現している「軽い宗教」の存在が示すように、世俗化か再聖化か、という二項対立的な理論的議論は消費社会における宗教の変容の理解には有益でないことを示唆したい。
著者
水野 恵理子 坂井 郁恵 高田谷 久美子
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.223-229, 2022-07-25 (Released:2022-10-17)
参考文献数
17

本研究の目的は,統合失調症者にとって一般就労がどのような意味をもっているのかを明らかにすることである。対象は,一般就労している統合失調症者12名とし,個別の半構成的面接を行い,逐語録を内容分析した。分析の結果,統合失調症をもつ就労者である自分との対峙,一社会人になることへの促しの2つのカテゴリを抽出した。一般就労は,病気を抱える就労者である自分と向き合い,誇りの再獲得をもたらすものであった。
著者
福本 理恵 平林 ルミ 中邑 賢龍
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.379-388, 2017-06-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
13
被引用文献数
1

ICT機器の普及はLD児の障害機能の代替を可能にしている。それと同時に法律と社会インフラの整備により,教科書など子どもたちが使用する紙の印刷物をアクセシブルな形でLD児に提供可能になった。これによりLD児の読み書きの負担は低減してきている。しかし,こういった技術発展と制度整備があるにも関わらず,特別支援教育やリハビリテーションは,治療訓練するアプローチが中心でICTを活用した代替に移行できないでいる。治療訓練は子どもによっては大きく効果を上げる場合もあるが全ての子どもに有効な訳ではない。効果のない訓練が学習の遅れをさらに拡大し,それが子どものモチベーションを低下させ,自己効力感を消失させることになる。一方,ICTを早期から導入することでLD児が高等教育に進学する事例が出てきている。ただし,ICT活用にも限界はある。それは,学習に大きな遅れが生じ,学習へのモチベーションを失っている場合は,ICTを導入したところで問題が解決するわけではない。こういった子ども達を学習に戻す事は容易ではなく,別のアプローチが必要となる。本稿では彼らのモチベーションを高め,現状の能力で学べる教材と場所を提供する取り組みを紹介し,今後のLD児への教育に求められる視点を展望した。
著者
武井 正教 鈴木 正弘 茨木 智志
出版者
歴史教育史研究会
雑誌
歴史教育史研究 = Journal for Historical studies in History Education (ISSN:13487973)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.87-103, 2017

日時:2007年8月31日 場所: 東京都国立市 聞き手: 鈴木正弘・茨木智志
著者
高橋 徹 高橋 徹 高橋 徹
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.51-60, 2022-09

広島大学のYouTube チャンネルに掲載された素粒子物理学の講義動画が,公開からおよそ17 カ月(2022年7月時点)で180 万回以上視聴されている.同チャンネルには約100 の講義が掲載されているが,この動画の視聴回数は他の講義に比べて格段に多くなっている.また,同チャンネル外の類似分野の動画と比較しても視聴回数は多い.この動画を制作するにあたっては,聴衆を想定しメッセージを明確する,構成を検討する,スライドデザインを考えるなど,プレゼンテーションデザインの手法に従って作成することに特に留意した.本稿ではこのことが視聴回数の増加に寄与したと考え,動画を作成した際の留意点について述べる.また視聴者の特徴,動画視聴への誘導径路など,視聴状況の分析結果について考察する.プレゼンテーションデザインについてはいろいろな論考がなされているが,基礎物理学という一般には難解と考えられている分野において多くの聴衆にリーチした例として,本動画の作成例を共有することは,プレゼンテーションデザインと科学コミュニケーション双方の事例として意義があると考えている.
著者
中嶋 駿介 山口 健也 今村 秀 進藤 美舟 妙中 隆大朗 河野 健太郎 丹波 嘉一郎
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.163-167, 2021 (Released:2021-05-19)
参考文献数
12

【緒言】メサドン導入の際は本邦のガイドラインではstop and go法が推奨されているが,一時的な疼痛コントロール不良や重篤な副作用が出現する可能性がある.難治性がん疼痛の患者に対して,先行オピオイドに上乗せして早期に少量のメサドンを導入することで,症状緩和を得た症例を経験した.【症例】70歳男性.直腸吻合部の直腸がん再発による旧肛門部痛に対してタペンタドール,鎮痛補助薬を導入したが疼痛コントロール不良であったため,メサドン5 mg分1を併用した.メサドン開始後は著明な疼痛改善,QOL改善を認めた.【考察】より安全に疼痛管理を行うために本症例のような早期に少量メサドンを上乗せする方法が検討されうる.
著者
日本随筆大成編輯部 編
出版者
日本随筆大成刊行会
巻号頁・発行日
vol.㐧三期 㐧六巻, 1931
著者
酒井 正樹
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.243-261, 2012-12-20 (Released:2013-01-22)
参考文献数
19

今回はシナプス伝達をとりあげる。シナプスとは,簡単に言うとニューロンとニューロン,あるいはニューロンと筋細胞や腺細胞とのつなぎ目のことであり,シナプス伝達とは,つなぎ目を越える信号の受け渡しである。これまで,本シリーズ3回の講義を受けた学生にとって,シナプス伝達はとくにむずかしいとは思われない。事象の説明には,活動電位伝導のときのようなモデルや比喩は必要なさそうである。それに高校で生物を学んでおれば,細胞や蛋白質の一般知識が役に立つ。たとえば,シナプス小胞からの伝達物質の放出は,ホルモン分泌で見られる小胞や膜状嚢の開口放出として,また伝達物質が受容体に結合してイオンチャネルが開く機構は,低分子物質と酵素の結合で生じるアロステリックな反応として理解できる。 とはいえ,シナプス伝達のしくみを,個々の実験事実にもとづいて理解しようとするとそれほど容易ではない。まず,第1に実験材料がある。材料にはそれぞれに特徴があり,結果も異なってくる。第2に実験条件がある。シナプスの研究においては,しばしば伝達を減弱させたり,増強させたりする処置がとられる。そのことをよく知っておかねばならない。第3に伝達にかかる時間がある。シナプスでは,きめて短時間に一連の事象が進行するが,それぞれの反応には開始とピークと終了がある。第4に記録部位の問題がある。シナプスで発生した電位は,ニューロンのどこで記録するかによって,その大きさや時間的変化の様子が大きく異なってくる。このことも知っておく必要がある。第5には伝達物質と受容体である。これらは複雑かつ多様であり,正しく覚えておくことはむずかしい。いきおい学ぶ側も教える側も材料や条件は脇へ置いて,結果だけを単純な模式図ですましてしまう。そうすると,シナプスは,たんなるニューロンとニューロンの接続部分で,シナプス伝達は信号の中継にすぎなくなってしまう。しかし,シナプスは,信号の連絡と同時に統合の場であり,学習・記憶の要であり,毒物・薬物の作用部位であり,精神疾患や遺伝病とも深く関わっている。だから,シナプスは正しく理解しておかねばならない。では,講義をはじめよう。

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著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1912年03月30日, 1912-03-30
著者
佐治水 弘尚
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.404-407, 2013-08-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
10

水素の安定同位体である重水素(D)で標識された化合物は,安定で長期間の保存に耐えるとともに生体構成成分の構造解析や反応メカニズムの解明に利用できるため,様々な研究分野における有用性が指摘されている。分子内の水素を重水素で置き換えると,原子の質量が変化するため物理的,化学的変化(同位体効果)が生じる。これを利用して薬物の体内動態追跡,食品中残留農薬や環境中の内分泌撹乱物質等の微量定量分析,タンパク質やペプチド等の高次構造解析や,光ファイバーなど様々な機能性物質の材料として利用されている。重水素標識化合物は,入手可能な低分子量の重水素標識された原料から時間,労力,コストをかけて全合成的に合成する方法が一般的であったが,最近になって,水素-重水素(H-D)交換反応を利用して目的化合物に直接重水素を導入する方法が開発されている。本編では,「重水素源はどこにあり,どのように調達するのか」について簡単に説明した後,「重水素をどのようにして目的化合物に導入するのか」といった課題に焦点を当てて,特に「炭素-水素(C-H)」結合を「炭素-重水素(C-D)」に変換する方法について概説する。
著者
森田 亜矢子
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.41-64, 2019 (Released:2019-11-30)

本稿では、「快によって調整されたヒューリスティックな方略を可能にする情報処理機構」の存在を仮定して、可笑しみを「不快を快で凌駕する能動的体験」ととらえ、可笑しみの生起過程における主体の記憶や学習および主体内部の情報ネットワークとの関連に着目しながら、他性との接触を継続するよう私たちを導く可笑しみの体験について考察を試みた。
著者
諸 洪一
出版者
札幌学院大学人文学会
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.81, pp.41-64, 2007-03

明治九年に締結された江華島条約(日朝修好条規)については,様々な評価がつきまとう。対極にある二つの評価のうち,日本における従来の評価は,朝鮮を開国して国際社会に導き「啓誘」する条約だったとする。一方,韓国および日本の一部における従来の評価は,朝鮮を開国させたが,それは「一方的」なものであり,さらに「侵略」の始まりとなった条約だったとする。いずれの評価も朝鮮は受け身に転じている。ところが,このような従来の評価に対して最近,韓国側から新しい見解が続々と発表されている。すなわち江華島条約は,朝鮮側が積極的であってむしろ日本側が消極的だったとするのである。この逆転の解釈は,朝鮮側の史料に立脚する主張である。では何故このような大きな解釈の転換が行われたのであろうか。本稿は,韓国側の新たな見解を念頭におきつつ日本側の史料を中心にして条約の性格と交渉の実態にアプローチする。先行研究ではほとんど触れていない外務大丞宮本小一なる人物に焦点を合わせ,宮本の「朝鮮論」を中心に,江華島条約の性格と実態に迫っていきたい。