著者
黒田 大介 御手洗 容子 小野 嘉則
出版者
鈴鹿工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

L-605合金はその優れた高温強度および高温耐酸化性から人工衛星に搭載される一液触媒式スラスタの構成材料として使用されている。しかしながら、本合金をN_2およびNH_3の存在する高温環境中に暴露した場合には著しい劣化が生じることが問題となっている。本研究では、Nを含む環境中で熱処理したL-605合金のミクロ組織、力学的特性などを評価し、L-605合金の劣化機構の解明を試みた。N_2ガス雰囲気中で1173Kの温度で86.4ks以上の熱処理を施したL-605合金では硬くて脆いCr窒化物およびW炭化物の析出が認められた。また、L-605合金の力学的特性は熱処理時間の増加にともない低下した。これらの結果から、L-605合金の劣化にはCr 窒化物だけでなくW炭化物が寄与していることを明らかにした。
著者
草野 圭弘 福原 実 高田 潤 岡田 輝雄
出版者
倉敷芸術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

金属光沢を有する備前焼および施釉陶器について、模様構成相と微構造を検討した。金属光沢を有する備前焼表面には、厚さ~100nmのヘマタイト(アルファ型酸化鉄、α-Fe2O3)粒子が主に観察された。金属光沢を有する施釉陶器の釉薬表面にも、厚さ~60nmのヘマタイトが生成していることがわかった。これらの金属光沢模様の形成には、冷却時の雰囲気と速度が重要であることがわかった。
著者
宮澤 由歌
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本年度は、科研費交付最終年度として、以下の実績を残した。まず、4月に国際基督教大学でおこなわれた「クィア・ネガティヴィティ再考」に登壇者として発表した。タイトルは、「レオ・ベルサーニにおけるItの可能性」である。これは、精神分析における暴力概念をまとめたものである。他分野の研究者との発表会であったため、哲学・倫理学の分野に属する視点から、他分野への応用可能性を示すことができた。また、他分野の研究者と多くの質疑応答を行い、その後の自身の研究に対し大きな影響を受けた。つぎに、青土社『ユリイカ』9月号の「われ発見せり」という巻末コラムに、「子産み、苦痛と快楽」というタイトルでエッセイを寄稿した。自身の体験が、これまでの暴力と親密性についての理論的研究に沿うかたちで発生したことを示すことができ、有意義な成果であったといえる。また、論文投稿として、『年報人間科学』に「バタイユ思想における女性像とクィア理論における人間存在の類似について(1)」を研究ノートで発表した。暴力と親密性を共同体のなかで同時に経験するものとして、社会的弱者としての女性と性的マイノリティの人々との類似点を指摘する内容である。当研究ノートは本研究費による研究の最終的なまとめに位置するもので、今後の自身の研究を進めていくうえでの足がかりとなる成果であった。
著者
池田 拓人
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、大正初期から終戦により学校柔道が全面禁止になる1945(昭和20)年までを対象の時期として、小学校における柔道がどのような内容でどのように教えられていたのかを究明することで、近代日本の初等教育における柔道指導のあり方について解明する。わが国の近代教育史上において、唯一この時期に行われた小学校武道(柔道)の実態を描出することが重要である。
著者
小川 敬也
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

DFT計算に基づいて、常温・常圧においてNH3合成を行う[ArylN3N]Moの3本のAryl部分を電子供与性の固体に結合させて、安定化・反応性向上するか理論的に検証した。Amido部分がプロトン化された状態とのエネルギー差を調べたところ、Aryl部分が短い炭素鎖の場合、安定化することがわかった。カリウムをおいたモデルでは、炭素鎖を伝ってAmidoの窒素原子にも電子供与されてプロトン化されやすくなり、炭素鎖の自由度が十分でない範囲で、不安定化することがわかった。MD計算も行ったところ、PCETを起こすプロトン源・電子源のみが炭素鎖の立体障害をすり抜けて反応しやすいことがわかった。
著者
山里 正演 石田 明夫
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

脳における骨髄由来細胞の分布または機能の異常が高血圧の病態に関与しているという仮説のもとに検討を行った。骨髄由来細胞の脳室内移植は高血圧ラットの血圧や心拍数へ明らかな影響を及ぼさなかった。しかしながら同細胞は内皮細胞に比べACE2やMn-SODを多く発現しており、また、長期にわたり脳内に生着していた。脳内生着局所のレニン-アンジオテンシン系を調節しうる可能性が考えられた。
著者
中村 英二郎 杉山 愛子
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

前立腺癌は、近年、本邦で罹患者数、死亡数がともに増加した癌腫の一つであり新規治療法開発が課題となっている。そこで、前立腺癌の病態解明、及び、治療標的分子の同定を目的として実験を行なった。アンドロゲン依存性増殖を示す前立腺癌細胞株であるLNCaP 細胞を同ホルモンを除去した培地 (csFBS: charcoal stripped FBS) で長期間培養を行うことにより新規細胞株 (AILNCaP細胞) の樹立に成功した。上記の新規樹立細胞株を用いて増殖抑制効果を示す分子の同定を目的としたスクリーニングを行い有望な治療標的分子を得ることができた。
著者
吉良 新太郎
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

オートファジーはヒトをはじめとした真核生物に見られる細胞内分解機構である。オートファジーは短時間の栄養飢餓で活発に起こるが、我々はオートファジーが長期の饑餓では停止することを見出した。オートファジー停止に関与する遺伝子の探索を行い、新規因子Tag1を同定した。Tag1の機能解析の結果、Tag1はAtg1プロテインキナーゼを介したAtg13タンパク質のリン酸化により、オートファジーを終結させることを明らかにした。
著者
山田 光彦 斎藤 顕宜 古家 宏樹 山田 美佐
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

これまでに我々は、グルタミン酸神経伝達を抑制するリルゾールがラットの恐怖記憶の消去学習を促進することを報告した。本研究では、リルゾールの恐怖記憶の再固定化への影響を再曝露時間を区別した文脈的恐怖条件付け試験により検討した。その結果リルゾールは、消去学習促進作用と再固定化阻害作用を併せ持つことが明らかとなった。また、リルゾールの再固定化阻害作用には、背側海馬が関与することが明らかとなった。
著者
藤田 壽憲 三井 和幸 川嶋 健嗣 香川 利春
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

プロセス分野においてはIT化が他に先駆けて進められている.しかしながら,その使用環境は防爆領域であり,IT化に必要な電気的なインフラがないに等しい.そこで本研究では,プロセス機器の駆動源として用いられている空気圧を電気エネルギーに変換する機構について提案し,これを実現することを目的としている.提案する発電機構はピストンとシリンダのみで自励振動を発生する空気圧バイブレータの先に,磁石とコイルを取付け発電するシンプルな機構である。以下、具体的な研究概要を示す。1.発電効率の分析と高効率化無論,発電機構には,高効率であることが望まれるが,シリンダ寸法,コイル素線径など,効率を支配するパラメータは数項目にも及ぶ.そこで,シミュレーションにより効率の解析を行った。パラメータと効率変化との関係を調べ,最高効率点があることがわかった.シミュレーションにより高効率化のおおよその方向性がえられているが,理論的な解明にはいたらなかった.2.静圧軸受機構の検討提案する発電機構は数十ヘルツで振動するため軸受部の非接触化が必凄である。そこで静圧軸受機構による非接触化について検討し,製作の非常に容易なステップ状の静圧軸受を提案した.解析の結果、高剛性が得られる最適な形状が存在することが明らかになり,これを実験により確認した.また、これを発電機構に組込んで軸受の性能評価を行ったところ、実用的にも問題ないことを確認した.3.整流および昇圧回路の設計・製作電源としては12V以上の直流電圧が要求され、発電機構から取り出せる電源を整流、昇圧することが必要である.そこで、そのための回路を設計製作して実際にプロセス機器に接続した.機器を安定に動作させることができたが、機器の出力が変動すると供給圧力を調整する必要あり、負荷変動時の対応策について検討する必要があることがわかった.
著者
伊藤 友貴
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

今年度は前年度に引き続き、文書のポジネガ分類予測のタスクにおいて予測までの過程を単語センチメント・その極性反転・文書全体のうちどこが重要かをそれぞれ出力することで説明可能な、解釈可能なニューラルネットワークモデルの構築について取り組んだ。今年度は前年度に比べ、より理論的・そして俯瞰的な側面から本理論について解析し、上記を満たすためには「何が必要十分なのか」を理論的に解析することに成功した。その結果、求められる説明のシチュエーションに応じて柔軟に形式を変えて解釈可能なニューラルネットワークモデルを構築できるような汎用的な枠組みを構築することに成功した。金融業界に限らず、実ビジネスにおいては状況によって求められる説明の仕方が変わりうることを考えると、この「柔軟性」への対応は学術的な側面のみならず産業的な側面からも大きな前進であると言える。また、本プロジェクトの研究成果について、今年度は 査読あり国際会議 6本に採択させることに成功した。特に、今年度は、AI分野のトップカンファレンスである AAAI (採択率 21 %)、データマイニング分野のトップ・難関国際会議である ICDM (採択率 19 %) や SDM (採択率 24 %) といった一流会議に複数採択され、研究実績としても申し分のない結果を出巣ことに成功したと考えられる。らに、共同研究先であるヤフー株式会社と共に本研究成果を用いた金融文書やショップレビューの可視化技術の開発についても取り組み(その一部を言語処理学会年次大会にて発表)、本研究の社会実装に向けても大きな前進を遂げることができた。以上のように、本年度は本研究プロジェクト達成のために核となる技術の創出を行うと共に、研究成果の社会実装に向けて大きく前進することに成功した。
著者
宮内 栄治
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

乳酸菌の腸管バリア保護メカニズムとして、腸管上皮細胞(IEC)への直接的作用と、バリア機能低下誘導能を有する炎症性サイトカイン産生抑制について詳細な検討を行なった。これまでの研究により、乳酸菌テイコ酸のD-alanine残基量がバリア保護効果に関係することを明らかにした。そこで、D-alanine残基量およびバリア保護効果を高めることができる菌培養条件の検討を行なった。その結果、菌培養培地中にL-alanineを添加することにより、テイコ酸D-alanine残基量が増加した。また、本条件で培養した菌のバリア保護効果を、Caco-2細胞単層膜で検討した結果、L-alanine添加培地で培養した菌は、通常培地で培養した菌よりも高いバリア保護効果を示した。この結果から、乳発酵食品製造において、L-alanine添加により乳酸菌のバリア保護効果を高めることができることが示唆された。これまでの研究により、炎症状態にあるIECがCD4+T細胞からのIL-17産生を誘導することを明らかにした。そのメカニズムを解析した結果、炎症IECはCD40を発現しており、CD40シグナルが活性化されることによりIL-6を高産生することが示された。そこで、炎症IECをCD40 agonist抗体で刺激し、その培養上清中でCD4+T細胞を培養した結果、IL-17産生が有意に誘導された。マウス腸管上皮Colon-26細胞を用いた実験により、乳酸菌は、IECのCD40発現をmRNAレベルおよびタンパクレベルの両方で抑制することが明らかとなった。これらの結果から、IEC上のCD40発現抑制を介して腸管Th17細胞を抑制するという、乳酸菌の新たな腸炎抑制、腸管バリア保護メカニズムが示された。
著者
仁平 義明
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

ハシボソガラス(Corvus corone)が自動車にクルミをひかせて割り、子葉部分を摂食する行動(車利用行動)の学習について研究を行なった。仙台市川内地区での連続的な観察からは、この行動には次のような要素についてバリエーションがあることが明らかになった:(1)クルミの性質と調達方法(花肉のついた青いクルミを木から直接とる、埋めて貯蔵しておいた核果だけのものを取り出すなど)、(2)クルミを道路にセットする方法(赤信号で停車した車の直前に出ていったクルミを置く、車の通りそうなルートへらかじめクルミを置く、など)、(3)場所、時刻、交通量などのいわゆるTPO条件、(4)待ち時間、(5)置き直しなどの修正行動など。こうした行動には同じ個体の中で柔軟な変化が見られることから、多項的な知識構造であるスキーマの学習がされたと考えた方がよいと思われた。また、認知心理学的なスキーマ論からは、車利用行動の学習についても、スキーマ形成のほかに、変数の制約範囲の変更や変数の付加などによる行動の効率化(チューニング)と、スキーマに基づく一回一回の行動の結果に関するデータ蓄積という下位の学習を区別すべきであると考えられた。さらに北海道、東北地域の広域的な質問紙調査からは、車利用行動は宮城県以外にもいくつかのみでみられる行動であることが確認された。また、その発生時期からは、ハシボソガラスの車利用行動は各県独立にしかも同じような時期に発生した行動であると考えた方がよいと思われた。
著者
吉川 敏子 吉川 真司 小山田 宏一 鷺森 浩幸 田中 俊明 坂井 秀弥 藤本 悠
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2019年度は3年間の補助事業の2年目として、昨年度の成果を踏まえ、概ね4つの方面での成果を得た。まず1つめは、当初より予定していた朝鮮半島の牧の故地を巡見し、韓国の研究者と交流したことである。韓国における古代牧の研究自体がまだ始まったばかりであり、今後、国際的な視野を広げつつ本研究課題を継続的に行っていく上での課題を得た。2つめは、平安時代の勅旨牧設置4カ国のうち、信濃国と上野国の古代牧推定地を巡見し、昨年度巡見した甲斐国との比較検討ができたことである。上野の場合は、榛名山噴火の火山灰降下により、通常は遺らない古墳時代の地表面の人為的痕跡が調査されてきたが、現地に立ち、地形を実見しながら牧の景観復元について学べたことは、これを畿内の古代牧に置き換えて検討する際に、両地域の相違点も含めて大いに参考となるとの手応えを得た。また、信濃国望月牧では実際に土塁の痕跡を地表にとどめており、具体的に畿内牧の故地を検討する際には、地中に埋もれたものも含め、留意すべき遺構であることを注意喚起された。3つめは、昨年度に続き、個別具体的な畿内の古代牧についての検討を進められたことである。年度中に、研究代表者による河内国辛嶋牧、研究協力者である山中章による大和国広瀬牧・伊賀国薦生牧についての研究論文を発表し、本年度の研究会において報告と検討を行った摂津国鳥養牧、同垂水牧、河内国楠葉についても、近年中に成果を公表できると考えている。4つめは、本年度より、古代の馬を研究する考古学のグループとの情報交換を積極的に行える関係を築いたことである。本科研補助事業の研究は、現在のところ文献史学と地理学に比重がかかっているが、考古学を基軸とする研究会との研究協力により、古代の牧と馬の双方向から、古代社会における馬の生産と利用の具体相の解明を加速させられると考える。
著者
長谷川 みどり 湯澤 由紀夫 外山 宏 市原 隆 小出 滋久
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ダイナミックCT撮影による有効腎血漿流量(CT-ERPF)および糸球体濾過量(CT-GFR)の測定法を確立した。腎移植ドナーでは腎皮質深層CT-ERPF2.61±0.87mL/min/cm2 、CT-GFR0.63±0.15mL/min/cm2、表層CT-ERPF2.61±0.88mL/min/cm2 、CT-GFR0.66±0.14であり、敗血症では深層ERPF0.615mL/min/cm2、GFR0.452mL/min/cm2、表層ERPF0.650mL/min/cm2、GFR0.461mL/min/cm2であった。今回の検討では敗血症症例においても皮質表層と深層で差異を認めなかった。
著者
瀬川 高弘
出版者
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター及びライフサイ
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

南極氷床ドームふじ基地でのアイスコア掘削により,南極氷床下の氷試料と岩盤由来の粒状物試料が得られた.これらは少なくとも72万年以上前に封じ込められた可能性が強く,南極氷床下の環境を推定されうる試料の中で,最も優れた試料の一つである.次世代シークエンサーによるメタゲノム解析をおこなった結果、DNAデーターベースや現在の南極の雪氷,土壌,湖沼等の分析結果とは高い相同性を示さない、既知のものとは大きく異なる配列を持つ微生物が検出された。
著者
為末 隆弘
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では,オープンスペースでスピーチプライバシー・セキュリティを保護するための方法のひとつとして,会話音声をそれとは異なる音でマスクする方法に着目し,無意味な定常雑音を用いてスピーチプライバシー・セキュリティのレベルをコントロールするためのサウンドマスキングシステムについて考察している。スピーチプライバシー・セキュリティに関する心理実験で得られた実測データをもとに,本システムの有効性を確認した。
著者
竹中 麻子 菊水 健史
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ビタミンEによる不安行動制御機構の解析と、ビタミンE摂取による不安抑制効果の検討を行った。一連の結果から、ビタミンE欠乏により酸化ストレスが増加して脳内の神経伝達が阻害され、これが副腎からのグルココルチコイド分泌を増加させることで、不安行動が増加する可能性を示した。さらに、ビタミンEを通常より多く摂取することにより、不安行動を軽減できる可能性を示した。
著者
岡田 光弘 安藤 寿康 大野 裕
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

1)昨年度に引き続き線形論理や種々の新しい論理学理論の立場から、伝統的な認知科学的理論推論モデルや理論哲学的論理推論モデルの批判的分析や改訂を行った。特に、メンタルモデル理論とメンタルロジック理論に関する認知心理学の古典的論争やシンタクスとセマンティクスに関する論理哲学、情報科学等における二元論を現代論理学的観点から見直した。2)これまでは比較的少数の被験者調査を行うのが常であったが、統計的手法による実証的なデータ解析による大規模調査の方法論の研究を行った。「Baroco論理推論課題集」と呼ばれる演繹推論標準課題集を本申請グループが開発してきたが、これをさらに改良した。この課題集を用いて通常のIQ課題の関連性や、図形的表現による論理推論と言語的理論推論の(パフォーマンス)比較、抽象的推論と内容的推論の比較、信念相反的推論や領域依存的推論、論証構成と反例検索などに関わるデータの分析を行った。白血球中のRNAの転写量の差を調べるという方法論を導入することによって認知能力の関連遺伝子の所在とその効果量について調査する方法論を開発した。
著者
相馬 尚之
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

本研究は、20世紀初めのドイツ語圏の文学作品等における「人造人間」表象について、当時の科学の発展を踏まえつつ検討することで、文学と科学の相互作用を明らかにするとともに、人間観および科学観に迫ることを目的とする。20世紀初めには、単為生殖や臓器移植実験が成功し、ドイツ圏で科学者たちは「一元論」という世界観を形成した。これらの成果は、熱狂的にあるいは戯画的に文学や映画に取り込まれ、ハンス・ハインツ・エーヴェルスの『アルラウネ』や『フントフォーゲル』、フリッツ・ラングの『メトロポリス』等が現れた。人造人間表象の分析から、当時の人間観の変化、および科学と社会の関係が明らかにされるだろう。