著者
竹口 文博 中野 広文 菅野 義彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.561-569, 2016 (Released:2016-09-29)
参考文献数
30
被引用文献数
1

透析医にとって, 透析の見合わせが刑法上許容されるのかは重要な関心事である. 透析の見合わせは, 不作為といえるところ, 医師は患者との診療契約に基づく刑法上の作為義務を負っていることから, 不作為犯に問われる可能性がある. このため, 刑法的許容性の問題は, 生じた作為義務が解除される要件は何かという形で問題となる. 透析見合わせの正当化根拠は, 患者の自己決定権に基づく透析拒否権に求められる. したがって, 患者の透析拒否の意思表示を要件として作為義務が解除され, 透析の見合わせは刑法の規定する「人を殺した」行為に当たらず許容される. 患者本人に意思決定能力がない場合には, もし患者に意思決定能力があれば透析を受け入れないであろう, と他者が代行判断することが許容されるかが問題となるが, 意思決定能力がない患者でも, 患者の現在の推定的意思に基づく透析拒否権を尊重すべきであり, 慎重にされた場合には代行判断を許容すべきである.
著者
Takashi Yamauchi Hiroshi Takano Hiroaki Miyata Noboru Motomura Shinichi Takamoto
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Reports (ISSN:24340790)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.131-136, 2019-03-08 (Released:2019-03-08)
参考文献数
30
被引用文献数
1

Background: The aim of this study was to determine adequate indication for transcatheter aortic valve replacement (TAVR). We analyzed risk factors of surgical aortic valve replacement (SAVR) not only for mortality, but also for morbidity, including long hospital stay (≥90 days) and patient activity at discharge, in patients who underwent SAVR for aortic stenosis (AS). Methods and Results: Using the Japan Adult Cardiovascular Surgery Database (JCVSD), 13,961 patients with or without coronary artery bypass grafting who underwent elective SAVR for AS were identified from January 2008 to December 2012. The hospital mortality rate was 3.1%. The percentage of patients who had long hospital stay (≥90 days) and who had moderately or severely decompressed activity at discharge (modified Rankin scale ≥4) was 2.9% and 6.5%, respectively. Eleven and 20 preoperative predictors of hospital mortality and morbidity, respectively, including long hospital stay and compromised status at discharge, were identified. Based on these risk factors, the risk model predicted hospital mortality (area under the curve [AUC], 0.732) and morbidity (AUC, 0.694). Conclusions: Using JCVSD, a risk model of SAVR was developed for AS. This model can identify patients at high risk not only for mortality, but also for mortality and morbidity, including long hospital stay and status at discharge.
著者
樋口 知志 HIGUCHI Tomoji
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
アルテスリベラレス (ISSN:03854183)
巻号頁・発行日
no.84, pp.151-169, 2009-06

『奥州後三年記』(以下『後三年記』と略称)は十一世紀後期に奥羽北部で起こったいわゆる後三年合戦(一〇八三−八七)の顛末を記した書であるが、同合戦と対をなす前九年合戦(一〇五一−六二)の顛末記である『陸奥話記』(以下『話記』と略称)とは体裁や記述スタイルなど多くの点で様相を異にする。すなわち『話記』が漢文体の硬質な文章で書かれ、しかも叙述中に公文書が多用されているのに対して、『後三年記』の方はわりあい素朴な和漢混淆文で書かれ、筋立てや場面の展開にも多分に物語的要素が色濃い。本書のそうした特徴は周知のように、本来『後三年合戦絵詞』の詞書として伝存したものであることに起因している。きわめて荒く概念的にいうならば、『後三年記』とは『後三年合戦絵詞』の詞書に対する一般的呼称であるということになる。したがって、『後三年記』の諸本には大きく分けて絵巻の模写本と、詞書のみを書写したものとの二種がある。
著者
三沢 岳志 砂原 めぐみ 田村 隆生 三橋 敬憲 矢部 悟
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.94-98, 2019-02-01 (Released:2019-02-01)

技術戦略や事業戦略を策定する上で重要であるコア技術について,技術情報を用いて特定する手法を開発した。対象企業の特許情報からFIを技術区分として生存特許シェアと自社引用比率を用いてコア技術領域を絞り込み,テキストマイニングでその候補を抽出した後,非特許情報を使って具体的にコア技術を特定する。最後に論文や雑誌,Webなどの広範な非特許情報を用いてコア技術の検証を行う。コア技術の抽出及び特定の手法としては,技術や特許に詳しくないスタッフでも利用可能と考えられることから有用な方法であると考える。さらに,この手法を使う際に留意すべき点も検討した。
著者
木村 琢磨 前野 哲博 小崎 真規子 大滝 純司 松村 真司 尾藤 誠司 青木 誠
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.383-389, 2007-12-25 (Released:2011-02-07)
参考文献数
15

欧米では, 研修医のストレスは燃え尽き症候群や抑うつの原因となり, 研修プログラムからの脱落や非倫理的な診療などにつながると報告され, ストレス要因への対策がなされている.最近わが国でも, 研修医の過酷な労働条件や過労死などが問題となっているが, わが国における研修医のストレス要因を検討した報告は少ない.1) 10施設の研修医25人を対象に, フォーカス・グループ・インタビューを実施し, わが国における研修医のストレス要因を探索した.2) 研修医のストレス要因として, 一人の人間としてのストレス要因, 新米社会人としてのストレス要因, 未熟な研修中の医師としてのストレス要因の3つを抽出した.3) 3つのストレス要因をそれぞれ生活ギャップ, 社会人ギャップ, プロフェッション・ギャップと名づけ, 研修医のストレス要因を, 医学生時代と医療現場とのギャップがもたらす産物として描出した.4) わが国の研修医の様々なストレス要因が明らかになったが, 研修中の未熟な医師としてのストレス要因は, わが国特有であった.5) 安全で効果的な研修を行うために, これらのストレス要因を考慮した研修医のストレスへの対策が望まれる.
著者
斎藤裕
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

問題と目的 『内包量』とは「長さ」に代表される『外延量』と対置されるもので,「速さ」などが代表的なものである。前者は性質や「強さ」の量であり,後者は「大きさ・広がり」の量である。操作的な違いとして,外延量は加法性を満たすのに対し,内包量は満たさない点に特徴がある。内包量は2つの外延量の商で生み出されるもので,言わば「割合」である。内包量を理解するとは,1.独立性:全体量や土台量の多少に関係なく“強さ”として一定である,2.関係性:2つの量が既知の時に残りの“量”が求められる,3.操作性質:2つ以上の量を合併することはできない-非加法性,の3点を理解すると言えよう。麻柄は,「独立性」の理解を重視し,内包量教育実践の指標として,1)内包量は「全体量÷土台量」で算出されて初めて存在する量ではなく,初めから存在する量であることを強調すること,2)学習の初期には,土台量や全体量と異なる外延量によって暫定的に内包量を定義すること,の2点を挙げている(1992)。しかし,外延量的理解を促せば,「非加法性」に抵触してしまう。この理解は,単に「足せない」だけではなく,『平均』の理解にも関係する。『速さ』は“相加”平均もできないのである。また,内包量も多岐に渡る。松田らは「日常生活の中で経験豊富だから速さのほうが密度より概念獲得が早い」(2000)と述べているが,日常生活が内包量概念獲得に深く関与しているならば,各々の内包量概念は,どのような経験がなされているのかによって,その獲得状況に大きな差異が出てこよう。本研究では,被験者を大学生とし,内包量として「割合」「速さ」「温度」「濃度」「密度」を選び,それらについて“加法性”“平均”及び“関係性の理解(計算操作)”について調査し,彼らレベルにおいて「内包量」についてどのような理解状態にあるのか確認することを目的としたい。方 法 (1)実験の概要:被験者は,2大学保育福祉系学科(A公立大・B私立大)1年生(A;40名・B;60名)。被験者全員に調査問題が配布され,解答が求められる(20分程度)。 (2)調査問題:2種の問題群からなる。1正誤判断問題9問-加法判断3問〔重さ・割合・濃度〕,平均値判断6問〔外延量・平均値・濃度・速さ・密度・温度〕2「外延量の平均」及び「内包量;第1-3用法」に関する計算問題5問;1)外延量-平均2)割合:第1用法3)割合:第3用法 4)速さ:第2用法5)密度:第1用法結果と考察 (1)計算力:2大学で違いが見られた。A大学生は“割合第3用法”でも8割以上の正答率を示した。A大学生は計算力(関係性の理解)は高い。 (2)“加法性”・“平均”の理解:A大学生は「非加法性」3問でも高い正答率を示す。B大学生は全て約50%の正答率でしかない。「重さ」は“水に溶かす”問題であったため,彼らは『非保存的判断』を示した可能性もある。一方,“平均”はややB大学生の方が正答率は低いが,有意な差はなく,両大学生とも特徴的傾向を示している。それは「速さ」「平均の平均」の低い正答率である。これは,「速さ」が生活経験の積み重ねの結果として,特別な『外延量的理解』となっているからではないだろうか。「速さ」は所謂“平均の速さ”である。「平均の平均」も間違うことが象徴的である。「平均」とはいかなる量なのか・内包量としての「平均」値の理解をどう進めるかが,全体して「内包量の理解」の促進の課題であり,その検討を進める必要があると考える。
著者
小口 和代 才藤 栄一 馬場 尊 楠戸 正子 田中 ともみ 小野木 啓子
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.383-388, 2000-06-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
10
被引用文献数
55 121

131名の機能的嚥下障害患者の「反復唾液嚥下テスト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)と嚥下ビデオレントゲン造影(videofluorography:VF)所見を比較し,RSSTの妥当性を検討した.RSSTはVF所見と相関が高く,カットオフ値として3回/30秒間が妥当であると思われた.誤嚥の有無の判別に関する感度と特異度は,0.98,0.66と,感度が非常に高かった.摂食・嚥下障害の診断・評価としては,まずRSSTでスクリーニングを行い,3回/30秒間未満の場合はさらに詳細な病歴,身体所見をとり,必要と判断されればVFを行い,治療方針を決定するのが適当である.
出版者
巻号頁・発行日
1880
著者
西 弥生
出版者
三田史学会
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.87, no.3, pp.1(225)-32(256), 2018-02

はじめに第一章 情報史の視点からの絵巻研究第二章 媒体の派生第三章 個々の場面の内容変化おわりに論文
著者
呉 孟晋
出版者
独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

京都在住の漢学者にして書家の長尾雨山(1864-1942)が残した詩文の草稿や書簡、書画作品などの一次資料の整理をとおして、大正から昭和にかけて数多くの中国書画が日本にもたらされた背景には近世的な漢学から近代的な中国学への知識体系の転換があったことを明らかにした。これらの資料には、雨山の中国書画の鑑定にかかわる箱書きや跋文の草稿が多数含まれており、目録化した項目数はおよそ5000件にのぼった。これまで断片的な紹介にとどまっていた、雨山の業績と思想を総合的に理解するための重要な基礎資料のひとつとなるであろう。