著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

我々はこれまでにフィーダー細胞を用いずに、ES細胞の細胞塊を無血清下に浮遊培養ですることで、効率よく神経細胞に分化させる系をまず樹立した(SFEB法)。マーカー解析の結果、SFEB法でES細胞から産生された神経細胞はこれまで産生が困難であった大脳の前駆細胞であることが明らかになり、さらにShhを作用させることにより、この大脳前駆細胞から大脳基底核などの細胞を試験管内で分化誘導することに成功した。この研究により、従来不可能であった試験管内での大脳神経細胞の大量産生が可能なり、大脳の変性疾患(ハンチントン病やアルツハイマー病など)の発症機序の解明や大脳疾患の治療法開発に大きく貢献することが期待される。SFEB法によりES細胞からの前脳の分化誘導は確認されたが、小脳、橋などへの分化効率は低い。小脳、橋などを含む変性疾患に関連する後脳吻側部に着目し、細胞外シグナルによる分化誘導系の樹立を目指し、条件検討を行い、マウスES細胞からの10%程度での小脳主要ニューロンの安定した分化誘導法を確立した。一方、ヒトES細胞分化にSFEB法を応用するにあたっては、ヒトES細胞特有の問題として、細胞死による細胞生存の低さがあった。今年度、この細胞死をROCK阻害剤が抑制することを発見し、大量培養を効率よく行うことが可能となり、これを用いてヒトES細胞からの大脳の分化誘導にも成功した。ヒトES細胞の技術をさらに広く再生医療や創薬に用いるために重要な基盤技術が確立された。
著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では初期胚、特に神経系のパターン形成の分子機構を解明するため、Znフィンガー型転写因子およびそれらの関連遺伝子ネットワークの前脳・中脳発生における役割について、アフリカツメガエルを用いて研究を行った。XSa1Fは中枢神経系の吻側領域の決定因子であることを以前に証明したが、本研究ではさらにXSa1Fに拮抗するZnフィンガー型転写因子としてXTsh3を同定し、カエル胚(尾芽胚)の尾側中枢神経系に特異的に発現し、同部位の発生を促進することを見いだした。微量注入法により、XTsh3を外胚葉に強制発現すると神経系を尾側化し、前脳の発生を抑制した。逆にXTsh3-MOによる外胚葉での機能阻害では、前脳の拡大を誘導した。細胞内シグナル解析により、XTsh3はWnt/beta-catenin系を促進することが明らかとなった。XTsh3はbeta-cateninおよびTcf3と結合し、Wntシグナルによる核内転写の強化因子として働くことを証明した。そのことと一致して、中内胚葉でのXTsh3-MOによる機能阻害では、原腸胚での背側軸形成が強く抑制され、胚全体の腹側化が観察された。既に報告していたXSa1FによるWntシグナルに対する反応性の低下に加え、今回の研究ではTsh3が反対の活性を持ち、機能的な拮抗因子として働くことが判明し、XSa1F-Tsh3という2つのZnフィンガー型転写因子によって、細胞のWntシグナルへの反応性が正負に制御される機構が初期胚の軸形成に決定的な役割を果たすことが明らかとなった。
著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

代表研究者らはアフリカツメガエルの系を用いて、核内ZnフィンガータンパクTsh3が初期胚体軸極性を制御する必須因子であることを見いだした。Tsh3の機能阻害では、背側体軸の形成が著しく阻害され、腹側化した胚が発生する。機能亢進及び機能阻害実験からWntシグナルを細胞内で活性化することが明らかになった。Luciferaseアッセイから、Tsh3はs-cateninによる核内での標的遺伝子の発現活性化を促進することも判明した。タンパクレベルの解析から、Tsh3はs-cateninに結合し、直接あるいは間接的にその活性を正に制御することがその機序であることも示唆された。Tsh3はsperm entryによって誘導された背側での弱いWntシグナル活性をブーストして、明確な体軸形成につなげる増幅系に関与している可能性が高い。
著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、哺乳類初期胚における神経外胚葉への分化の制御機序を明らかにするため、多能性幹細胞の試験管内分化系を用いて、この過程を制御する2つのZnフィンガータンパクの機能を解析した。まず、XFDL156のマウスのホモローグであるmZfp12を単離し、mZfp12の強制発現が、ES細胞からの中胚葉分化を抑制し、神経分化を促進することを明らかにした。さらに、新規のスクリーングでZfp521を単離し、これが未分化外胚葉から神経前駆細胞への分化に必須の遺伝子であることを証明した。
著者
黒沢 晶子
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

中国語を母語とする学習者にとって識別の難しい入声音に焦点を当てて三部構成の日本語漢字音教材を開発した。まず、日本語字音を北京語、中国語南東部方言や韓国語の字音と対照させ、北京語で同音になる字群が他の言語では二つの異なる終わり方をすることを知る(例:fu 復・腹・福 フク、富・父・付 フ)。次に、音符を活用して、既習字音から未習字音を類推しつつ入声・非入声を識別する(適・敵→摘:入声、低・底→邸:非入声)。さらに、既知の語から音変化の規則性(例:発見と発明)を帰納的に導き出し、未習語に応用する。教材作成の基礎として、227の音符データベースを作り、学習者の方言使用・方言字音識別等の調査を行った。
著者
中尾 智博 村山 桂太郎 樋渡 昭雄 實松 寛晋
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ためこみ症17名と、年齢・性別をマッチさせた強迫症患者、健常対照群それぞれ17名が本研究に参加した。3群の灰白質体積に差が存在するかを調査した。3群の平均年齢はそれぞれためこみ症:43.9±11.5歳、強迫症:39.9±9.0歳、健常対照群:42.4±10.4歳だった。分散分析において、右前頭前野で3群の間に有意な体積の差異を認めた。OCDと同様に、HDは認知機能障害をその基礎として有すると考えられている。 この結果は、HDの臨床的特徴を考慮した上で説得力があり、前頭前野領域の構造異常がHDの病態生理学に関連する可能性が示唆された。
著者
成田 正明 成田 奈緒子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

研究代表者らが2001年にPediatric誌に発表した乳幼児突然死症候群(SIDS)におけるセロトニントランスポーター(5HTT)遺伝子多型結果は、SIDSの新しい危険因子を見出したもの、SIDSを未然に防ぎうるものとしてその後も、小児救急医学会での会長要望演題、学会誌への会長依頼論文、専門誌からの依頼原稿、マスコミからの取材などを引き受けたほか、突然死裁判での鑑定依頼、国内・国際学会からのシンポジウム講演依頼など、社会からの反響はますます大きくなるばかりである。2003年にはAmercan Journal Medical Genetics誌により大きな母集団を用いた追試実験の報告がなされ、そこで研究代表者らのデータが確かめられた。さらに本研究はSIDS研究のみならず、その発症にセロトニンが関与しているとされる他の疾患即ち慢性疲労症候群、神経性無食欲症などにも発展し、遺伝子解析でいずれも正常と比べ疾患群で有意な相関を認め学会、研究会などで報告、学術論文として投稿中である。一方5HTT以外のセロトニン関連遺伝子多型解析も同時に進めているが、これまでのところ有意な相関は認められていない。これは転写活性領域に存在する5HTT多型が、いわゆる"機能性"多型であることと関係があると思われる。そこで5HTT多型がアリルによってどのように転写活性機能が調べる必要がある。国内外の報告では活性調節における差に関するデータは議論が多い。これと平行して、セロトニン関連疾患の病因病態に関しては遺伝子からのアプローチだけでなく、神経栄養因子蛋白(脳由来神経栄養因子BDNF)の発現量測定で診断ができる可能性を見出した。また同じくセロトニン関連疾患とされる自閉症についても自閉症モデルラットを作成し論文発表した。以上述べてきた成果に基づき研究代表者は科学技術振興事業団「脳科学と教育」の班員にも任命されており、今後もSIDS原因究明・発症予防に向けて研究を続けていきたい。
著者
天野 敦雄 秋山 茂久 森崎 市治郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

Porphyromonas gingivalis線毛遺伝子(fimA)は核酸配列の違いにより5つの型に分類される.Polymerase chian reaction(PCR)法を用いたプラーク細菌叢の分析により,歯周病患者から分離されるP. gingivalis株と,健康な歯周組織を有する被験者からのP. gingivalis株の線毛遺伝子(fimA)型の相違を検索した.30歳以上の健康な歯周組織を有する被験者380名と歯周病患者139名からプラークと唾液を採取し,P. gingivalisの検出とfimA型の決定を行った.87.1%の歯周病患者と,36.8%の健康被験者からP. gingivalisが検出され,そのP. gingivalisのfimA型は,健康被験者では80%近くは1型fimA株であり,逆に歯周病患者では2型と4型fimA株が優性であった.特に,2型fimA株は歯周病との相関が,オッズ比で44と計算され,これまで報告されている中で最も強い歯周病のリスクファクターであることが示された.また,2型fimA株の分布は歯周ポケット深さと強い相関性を示し,8mm以上の深いポケットから検出されるP. gingivalisは90%以上が2型株であった.歯周炎に高い感受性を示す遺伝的素因を有し,早期に重篤な歯周疾患が併発するダウン症候群成人患者と,プラークコントロールが著しく不良な精神発達遅滞成人においても同様の検討を加えたところ,歯周病の重篤度とP. gingivalisの2型がfimA保有株との強い関連性が認められ,どのような因子をもつ宿主においても2型fimA保有P. gingivalisの歯周炎への密接な関与が示された.上記5つの型の線毛に対応するリコンビナントタンパク(rFimA)を新たに作製し,ヒト細胞への付着・侵入能を比較した.上皮細胞へのrFimAの結合実験では,2型rFimAが他のrFimAと比較して3〜4倍量の付着を示し,さらに細胞内への侵入も群を抜いて顕著であった.一方,繊維芽細胞への結合では型別による有意な差は認められなかった.rFimAの細胞への付着・侵入は,抗線毛抗体,抗α5β1インテグリン抗体により顕著に阻害され,同インテグリン分子が線毛を介したP. gingivalisのヒト細胞への付着・侵入に関わっていることが示唆された.さらに,各線毛型の代表菌株を用いた付着実験を行った結果,2型線毛遺伝子を保有する株は,30%と高い上皮細胞への侵入率を示したが,3,4,5型線毛株の侵入率は2-5%であった.これらの結果から2型線毛遺伝子を保有するP. gingivalisは口腔内上皮細胞への高い付着・侵入能を有し,上皮によるinnnate immunityを踏破し歯周組織への定着を果たすと考えられ,同遺伝子型のP. gingivalisが歯周病の発症に強く関与していることが示唆された.
著者
佐伯 清美 西堀 正洋
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

脳のモノアミン類の神経性取り込みに及ぼす抗ヒスタミン薬(H_1受容体拮抗薬)の影響を脳内モノアミン代謝脳変化を指標にして検討した。モノアミン類とその代謝産物は、脳ホモジネ-トの遠心上清を直接あるいは精製操作後に高速液体クロマトグラフィ-(HPLC)・電気化学検出法で分析することにより測定した。クロルフェニラミンは1mg/kg(i.p.)以上の用量で脳内5ーHIAA量を、5mg/kg以上でDOPAC量を減少させ、ジフェンヒドラミンは10mg/kg以上でDOPAC量を、20mg/kg以上で5ーHIAA量を減少させた。メピラミンは20mg/kg以上で5ーHIAA量減少させたがDOPAC量に影響しなかった。プロメタジンは20mg/kgでMHPG量を増加させた。メピラミン以外の薬物は10mg/kgでαーメチルーpーチロシンによるドパミン減少を抑制したが、ノルアドレナリン減少はプロメタジンにより逆に促進され、他の薬物では影響されなかった。パ-ジリンによる5ーHT蓄積はH_1拮抗薬により影響されなかった。以上の結果から、(1)ジフェンヒドラミン、クロルフェラミンおよびメピラミンは脳内ノルアドレナリン系に対してその伝達物質再取り込みにほとんど作用を示さない、(2)メピラミンはドパミン系に対してもほとんど作用を示さない、(3)ドパミンの神経性再取り込みはジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンによって阻害され、その代謝回転も抑制される、(4)ジフェンヒドラミンとクロルフェニラミン(特にクロルフェニラミン)ならびにメピラミンは5ーHTの再取り込みを阻害するがその代謝回転には影響しない、(5)プロメタジンはドパミンの代謝回転を抑制するがノルアドレナリンの代謝回転を促進すると結論した。
著者
多田 旭男 岡崎 文保
出版者
北見工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

種々の無機多孔質基材に触媒金属水溶液を含浸させ、乾燥・熱分解を行なって細孔内に触媒金属酸化物微粒子を形成させた後、反応管に入れてメタンガスと500℃以上で接触させることによりまず金属酸化物微粒子を金属微粒子に還元し、続いてそれらの上でメタン分解反応を行なわせ、細孔内に導電性炭素粒子を蓄積させた。無機多孔質基材として市販発泡セラミック基材(イソライトレンガ)を用いた場合には反応温度が800℃であっても基材が熱変形せず、所期の電磁波吸収特性を示した。しかし、無機多孔質基材として発泡ガラスを用いた場合、反応温度が800℃では基材が熱変形を起こすことが多かった(特にリサイクルガラス発泡体)。また触媒金属としてて鉄を用いたときには電磁波吸収特性がきわめて低かった。熱変形は基材の融点が低いためシンタリングを起こすこと、酸化鉄はガラスと反応して鉄微粒子に還元されにくいケイ酸鉄を生成してメタン分解な阻害するため、導電性炭酸粒子を十分に生成しないことが原因であった。これらの知見は、無機多孔質基材として発泡カラス用いる場合には、シンタジンダしない温度でメタン分解反応を行なわせ、また触媒金属酸化物にはガラスとケイ酸塩を生成しにくいものを選択すればよいことを示唆する。実際、発泡ガラスに硝酸ニッケル水溶液を含浸させて酸化ニッケル粒子を細孔に生成させた場合には熱変形を起こすことなく、良い性能の電磁波吸収体を製造できた。基材として一辺が7cm程度の正四角錐形イソライトを用い、含浸法で触媒金属酸化粒子を細孔に形成させてメタン分解を行なった場合、炭素粒子濃度は表面部で高く内部では低くなった。それでも、その電磁波吸収特性は市販品に匹敵した。基材内外の炭素粒子濃度差は基材サイドが小さくなるほど縮まる傾向が見られたので、我が提案する方法は基材が小型化、平板化する高周波帯域用電磁波吸収体の製造に適していることがわかった。
著者
宍戸 真
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は視線データを2種類の方法で解析した。一つは学生の習熟度を基準としもう一つは英文の難易度を基準とした。視線動向の特徴は、英語習熟度ばかりでなく、英文の難易度と相関しており、認知的な要素もこれらと相関があることがわかった。習熟度が高くなると注視時間は短くばらつきは小さく、回数も少ない。英文の難易度が高くなると、注視時間は長くばらつきが大きく、認知的要素の干渉を受けやすくなる。今回の研究から、習熟度の低いものは注視時間が長、視線の逆行が多く見られる。英文読解時に、視線を一定間隔で左から右に移動させ、数語を一度に一目で見るような読み方を身につけるe-learning教材が理想的であると考える。
著者
榊原 佳織
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、ミトコンドリアを選択的に処理するマイトファジーの分子機構解明を目指した。酵母を用いた遺伝学的手法によって、マイトファジー制御に関与する新規分子として、リン脂質PC合成に関与するリン脂質メチル基転移酵素(Opi3)を見いだした。マイトファジーが誘導されると、ミトコンドリアを処理する過程で隔離膜が形成されるが、その膜の形成にはリン脂質PEと結合するAtg8が必要である。我々はOpi3とAtg8との関係を調べ、リン脂質代謝が関与するマイトファジー制御機構の解明を試みた。これまで我々が行った解析では、opi3欠損細胞ではマイトファジー効率が極端に低下し、Atg8の過剰な蓄積を認めていた。そこで、opi3欠損細胞内におけるAtg8を精製し、質量分析よりAtg8に結合するリン脂質を同定した。その結果、opi3欠損細胞ではPEではなく、PC合成過程に産生される中間産物PMEがAtg8に結合していることを見いだした。次に、in vitro解析より、Atg8はPEと同様にPMEとも結合することが確認できた。通常、Atg8-PEはシステインプロテアーゼであるAtg4で切断され、Atg8がリサイクルされることが膜の形成に重要であることが知られているが、我々の解析によってAtg8-PMEはAtg4 による切断効率が極端に低下することが分かった。また、opi3欠損細胞内におけるAtg8の局在を観察したところ、マイトファジー誘導後に液胞に運ばれるべきAtg8が、液胞外に集積していることが認められた。以上の結果から、リン脂質メチル基転移酵素であるopi3の欠損によって、Atg8はPMEと結合することが分かった。PMEと結合したAtg8はAtg4による切断を受けにくくなり、リサイクルされないAtg8は蓄積し、隔離膜形成が効率よく行われず、マイトファジー効率が極端に低下したと考えられる。
著者
高野 順平
出版者
大阪府立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、シロイヌナズナにおいてSPOT1/KNS3と呼ばれる機能未知タンパク質がホウ酸チャネルのカーゴレセプターとして小胞体から細胞膜への細胞内輸送の初期段階を制御することを証明することを目的としている。本研究の端緒は、GFPタグしたホウ酸チャネルGFP-NIP5;1が根の表皮細胞において小胞体にとどまる変異株を単離し、その原因遺伝子をSPOT1/KNS3と同定したことにある。SPOT1/KNS3の変異株は花粉の外壁構造に異常を持つことがすでに知られていたため、SPOT1/KNS3の膜タンパク質輸送機能は花粉の発達にも寄与すると考えられる。平成28年度までにspot1/kns3変異株の根の表皮細胞において様々な膜タンパク質の局在を解析したところ、ホウ酸チャネルのみが小胞体にとどまることが明らかになっていた。平成29年度はタバコ葉における一過的発現系を用いて細胞内局在解析を進め、SPOT1/KNS3は小胞体膜とゴルジ体膜に局在することを明らかにした。以上から、SPOT1/KNS3はホウ酸チャネル特異的に小胞体からゴルジ体への輸送を助けるカーゴレセプターである可能性が高まった。平成29年度には、NIP7;1-GFP発現形質転換シロイヌナズナを作出し、ホウ酸チャネルNIP7;1は葯のタペート細胞の細胞膜に局在することを示した。NIP7;1は葯室にホウ酸を供給して花粉の発達に貢献する可能性が高い。H30年度はspot1/kns3変異株のタペート細胞におけるNIP7;1の局在と、ホウ酸チャネルとSPOT1/KNS3の相互作用に焦点をあてて解析を進める。
著者
小沢 憲二郎 三橋 渡
出版者
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

植物発現用ベクターを、以下の外来遺伝子とプロモーターを使用して構築した。外来遺伝子は、フゾリン遺伝子(ドウガネブイブイ寄生の昆虫ポックスウイルス由来)及びBt毒素(CryA1c)遺伝子の単独、あるいは両方、プロモーターは、35Sプロモーター、またはより高発現を目指したRubisCOプロモーターを35Sプロモーターに連結したものである。次に構築したべクターをアグロバクテリウム法により、ブロッコリー(緑嶺)、タバコ(SR-1)に導入した。選抜マーカーは、ハイグロマイシン耐性遺伝子(HPT)とした。ハイグロマイシン耐性を示す再分化個体について、PCRによってフゾリン遺伝子またはBt毒素遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子の確認を行った。発現系統の一部では交配によりF1個体を得た。次に、Bt毒素遺伝子、あるいはフゾリン遺伝子を導入したタバコ葉を粉末にし、単独、または両者を腐葉土に混ぜ、その腐葉土中でドウガネブイブイ1齢、2齢幼虫を飼育し、前者は4日後、後者は7日後の死亡率を腐葉土のみで飼育した場合と比較することにより、粉末の殺虫性を評価した。その結果、1齢幼虫で、Bt毒素遺伝子単独発現葉の粉末を加えた場合に2系統で殺虫活性が認められた。一方、両者粉末を加えた場合は、Bt毒素遺伝子単独発現葉の粉末を加えた場合と比較して死亡率の上昇は認められず、フゾリン発現葉の活性(Bt毒素の殺虫活性の増進)は特に認められなかった。この理由として、フゾリン発現量が増進活性を示す閾値以下である可能性、葉の乾燥時の高温によるフゾリンの不活化の可能性が考えられたので、次年度以降の実験方法の変更によりこの点を明らかにする必要が生じた。
著者
江崎 保男 大迫 義人 佐川 志朗 内藤 和明 三橋 弘宗 細谷 和海 菊地 直樹
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

兵庫県但馬地方のコウノトリ再導入個体群は2015年に、そのサイズが80に達したが、本研究により社会構造がほぼ解明され、但馬地方の環境収容力が約50羽であることがわかった。巣塔の移動や給餌の中止を地域住民の合意のもとに進め、生息適地解析、個体群モデルの活用、核DNAをもちいた家系管理を進めながら、水系の連続性確保に努めた結果、餌動物の現存量増加が確認できたことなど、野生復帰が大いに進展した。また、コウノトリが全国各地に飛んで行き、徳島県では新規ペアが産卵するなど、メタ個体群形成に向かって野生復帰が一気に加速しており、アダプティブ・マネジメントの手法もほぼ確立できた。
著者
中村 洋 佐藤 是孝
出版者
愛知学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ECMの分解において重要視されている酵素の1つであるMMPsとその共通の内因性阻害因子であるTIMPsのバランスの崩壊は、組織破壊の進行の重要なポイントとなっている。これまでに根尖性歯周炎関連細菌がMMP-1やMMP-9を活性化することは報告されているが、プロMMP-2の活性化およびTIMPsの不活性化についての報告は少ないので本研究で検索する。1)MMP-2活性の測定 各SBE共存下で培養したPL細胞培養上清中のMMP-2活性と、各SBEをHT1080細胞培養上清と反応したものをゼラチンザイモグラムで解析した。その結果、両実験ともにP.gingivalisSBE添加群では、活性型MMP-2と考えられるバンドの出現を認めた。2)TIMP-1量およびTIMP-2量の測定 TIMP-1量はKodamaらがそれぞれ開発したEIA法にて測定した。その結果、PL細胞培養上清ではP.gingivalis SBE添加群ではTIMP-1を検出できなかった。また、HT1080細胞培養上清とP.gingivalis SBEとの反応では、TIMP-1,2量はP.gingivalis SBEの濃度依存的に減少傾向が認められた。3)TIMP-1活性の測定 精製TIMP-1と各SBEを反応させ,反応液中に残存するTIMP-1活性をMMP-1およびMMP-2に対する阻害活性として測定した。P.gingivalisのSBEは、TIMP-1のMMP-1阻害活性を低下させた。また、リバースザイモグラム法にてMMP-2に対するTIMP-1の阻害活性を検索した。コントロールに比べて、P.gingivalisSBE添加群の場合には、その活性バンドの著しい減少(MMP-2に対する阻害活性)を認めた。
著者
勝瀬 大海
出版者
横浜市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

まず、前頭葉側頭葉変性症(FTLD)様の症状を呈した非定型な症例として3例のNasu-Hakola病とハンチントン舞踏病に神経線維腫症Ⅰ型を合併した1例について臨床病理学的特徴をまとめ報告した。次に66例のFTLDについて臨床病理学的特徴をまとめた。その結果、FTLD-TDPの臨床症状は多様だが亜型によって症状が異なる傾向がみられた。さらにFTLDの原因タンパクの1つであるFUS proteinは神経細胞の核内や樹状突起の後シナプスに存在し、FUS顆粒の量が増加していることが病態と関連しているのではないかと考えられた。
著者
知念 直紹 保坂 哲也
出版者
防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、幾何学的群論において重要な群である無限離散CAT(0)群の研究である。特に、CAT(0)群の幾何的に作用するCAT(0)空間の位相的性質あるいは Gromovが提案したCoarse的な性質の研究である。当該年度はNovikov予想と関連があるasymptotic次元の有限性の研究に従事した。3月に実施された早稲田大学での幾何学的トポロジーの研究集会において、早稲田大学の佐藤氏よるBaumslag-Solitar群のHopfian性の解説、特に小山氏による計算トポロジーの視点からみた有限空間の逆極限の解析は、コンパクト空間の逆極限であるCAT(0)空間の理想境界の解析に適用できると考えられるので、有限空間の逆極限の解析をすることによってasymptotic次元の有限性の研究に生かした。また、任意のコンパクトな距離空間はある有限空間の逆極限とホモトピー同値であることから、この結果はCAT(0)群となんらかの関係があると予想される。CAT(0)空間の基礎的あるいは代表的な空間であるユークリッド空間の無限等長群を研究することは無限CAT(0)群を研究することにおいて重要である。もっと一般に、ある性質Pをもつ位相群について、その位相群は位相群の半直積と同型となるかを解析した。よく知られている有限次元ノルム空間の有限対称積の等長群を決定したが、無限次元ノルム空間はいまだに解決には至っていない。引き続き無限次元について研究を行う。また、任意のコンパクトな距離空間はある有限空間の逆極限とホモトピー同値であることのシンプルな証明を横浜国立大学の横浜セミナーにおいて発表した。特にその逆極限の中に位相的に距離空間を埋め込めることができ、その埋め込みは距離空間として最大であることも分かった。
著者
太田 成男 大澤 郁朗 金森 崇 麻生 定光
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

ミトコンドリアに局在するアルデヒド脱水素酵素ALDH2は、エタノール代謝においてアセトアルデヒドから酢酸への反応を触媒する。その一塩基置換の遺伝子多型であるALDH2^*2はドミナント・ネガティブに働き、ALDH2活性を抑制する。我々は、ALDH2^*2が晩期発症型アルツハイマー病(AD)の危険因子であり、ALDH2^*2をもつ健常人集団の血清には、過酸化脂質がより多く蓄積していることを示した。過酸化脂質は、毒性の強いアルデヒド類である4-ヒドロキシ-2-ノネナール(4-HNE)に自然に変換されることから、4-HNEがALDH2の標的基質であることを想定した。すなわち、ALDH2酵素活性が低下すると4-HNEが蓄積し、毒性を発揮すると想定した。この想定を証明するために、マウス型ALDH2^*2遺伝子をPC12細胞に導入し、ALDH2活性をドミナント・ネガティブ低下させた。そして、ALDH2活性欠損株に酸化ストレスを与えると、4-HNEの蓄積と細胞死が促進されることを証明して、この仮説が正しいことを証明した。すなわち、ALDH2は酸化ストレスへの防御機構として働いていることが示唆された。次に個体レベルにおいてALDH2活性の欠失が及ぼす影響を調べるため、アクチン・プロモーター下にマウスのALDH2^*2を挿入し、トランスジェニック(Tg)マウスを作製した。3系統のTgマウスについて解析したところ、骨格筋において、過酸化脂質の分解物であるマロンジアルデヒドと4-ヒドロキシアルケナールが蓄積していた。しかも、筋繊維は生後直後正常であり、age-dependentの筋繊維の萎縮であることを見いだした。そこで、ALDH2欠損マウスでは、酸化ストレスが亢進されていることが推定された。さらに、ALDH2欠損筋繊維では、ミトコンドリア脳筋症の指標であるragged-red-fiberとミトコンドリアの凝集が認められた。このTgマウスでは、ALDH2^*2によりALDH2活性が抑制され、酸化ストレスによって生じるアルデヒド類の解毒能が低下した結果として筋萎縮が生じたものと考えられる。ragged-red fiberが出現したことから、ミトコンドリア脳筋症のモデル動物となる可能性がある。
著者
細田 耕
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

1.提案する適応型視覚サーボ系の安定性に関する考察をし,その証明をした.2.提案するビジュアルサーボ系の有効性を検証する実験を行った.産業用ロボットアーム(川崎重工業,Js-5)とカメラ(エルモ,UN401)を用いてロボット・カメラシステムを構成し.制御装置としてVMEラックにVxWorksのシステムを構成,高速相関演算装置(トラッキングビジョン,富士通)を用いて,画像特徴量の追跡を行った.3.トラッキングビジョンを用いるための,特徴量の選択について考察し,障害物による隠蔽や,画像ノイズの影響に頑健な方法を提案した.4.提案するビジュアルサーボ系を用いて,未知環境内で障害物を回避する目標値の生成法を考案した.(1)環境やロボットアーム自身の運動学的構成やパラメータを用いず,環境の3次元情報をカメラシステムから再構成することなく,目標値を生成するために,2つのカメラの画像間に存在するエピポーラ拘束を推定した.(2)推定されたエポピ-ラ拘束を用いて,画像内で障害物が背景から分離できるという制限のもとで,ロボットアーム先端の画像内での軌跡を生成する手法を提案した.5.提案した目標値の生成方法を適応型視覚サーボ系に適用することによって,ロボットシステムと環境に関する知識がほとんどない場合にも,障害物回避軌道を生成することができ,また,実際に障害物に回避できることを構成した実験システムにより検証した.