著者
棟方 有宗
出版者
宮城教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

(1)サクラマス銀化魚の降河回遊行動に及ぼすコルチゾルおよびテストステロン投与の影響を、水産総合研究センター中央水産研究所日光庁舎の実験水路内で調べた結果、降河回遊行動はコルチゾルの投与量依存的に促進されること、またコルチゾル投与による降河回遊行動促進作用は、性ホルモンであるテストステロンの投与によって打ち消されることが明らかとなった。このことから、サクラマスでは河川で孵化したのち、河川内で性成熟に向かう場合にはテストステロン等の性ホルモンによって降河回遊行動が抑制され、性成熟に向かわない銀化魚の場合には、コルチゾルの働きによって川から海への降河回遊行動の発現が促進されると考えられた。(2)平成18年3月に岩手県気仙川においてサンプリングしたサクラマスの銀化魚および河川残留魚の血中ホルモン量をEIA法により測定した結果、前年と同様、主に上流域で採捕される河川残留魚では血中コルチゾル量が低く、川から海に降る過程にあると考えられる銀化魚では、血中コルチゾル量が高いことが明らかとなった。そこで、この2年間と同様の結果が得られるかどうかを確かめるため、平成19年3月にも三度、同様のサンプリング調査を行った。現在、ホルモン量を測定している。(3)春に特異的に起こるサクラマス銀化魚の降河回遊行動を誘起する外部環境要因を明らかにするため、気仙川ならびに宮城県広瀬川の上・中・下流域に水温計測ロガーを設置し、周年にわたって温度変化をモニターした。今後さらに、気象庁や国土交通省の気象・水質データを加えて、サクラマス銀化魚のコルチゾル量変動や降河回遊行動発現のメカニズムを解析する計画である。
著者
工藤 安代
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.27-37, 2006-03-31 (Released:2009-12-08)
参考文献数
42

1930年代のニューディール芸術文化政策は、現代米国社会の文化政策の基盤となっていると言える。ニューディールの芸術政策は2つの性格を持っており、一つは国民の芸術享受の機会を創出し、大不況のなかで芸術家を救済するという社会福祉的視点であり、二つ目は国家の芸術レベルを向上させ精神的アイデンティティを構築していく国家の文化向上政策の視点である。後者の担い手となったのは財務省の管轄下で実施された「セクション」である。ニューディール芸術政策は、第二次大戦と共に中断されるが、セクションの思想は1962年に設立した「米国公共施設管理庁 (GSA)」によるパブリックアート政策に引き継がれる。本稿はまず、ニューディール芸術政策の目的と各プログラムの特色を概観した後、「セクション」の政策に的を絞り、プログラムの目的、作品選定の手順・評価方法等の特性を考察する。その上で「セクション」の思想が現代パブリックアート政策の基礎を形成したことを論じる。
著者
西尾 哲夫 Tetsuo Nishio
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-39, 2009-10-30

エジプト・アラビア語(カイロ方言)はWh 疑問文の語順に関して古典アラビア語や現代標準アラビア語,さらに他の諸方言にはみられない特徴を持っている。エジプト・アラビア語以外のアラビア語では,Wh 疑問文の疑問詞は文頭の位置に移動するのが普通だが,エジプト・アラビア語においては,本来の平叙文の後部の位置にとどまるWh 疑問文が多用される。このような疑問文をコプト語の影響とみなす説が提唱されたが,いまだにその妥当性に関して結論は出ていない。本稿では,エジプト・アラビア語とコプト語の基本語順や話題化・焦点化などの一般的な語順をめぐる統語規則との関連で,各言語のWh 疑問詞に関して生起環境や統語規則をシステムとして比較し,コプト語影響説の是非を検討する。Wh 疑問文の語順変化におけるコプト語の影響は独占的なものではなく,エジプト・アラビア語の基本語順がVSO からSVO へ変化する中で,話題化や焦点化という統語規則の面で新たな統語構造が必要になってきた時に,コプト語の統語規則が当該の言語変化を促進させたことを明らかにし,エジプト・アラビア語に起った通時的な統語変化の仮説的段階を再構する。
著者
吉本 弥生
出版者
独立行政法人 石川工業高等専門学校
雑誌
石川工業高等専門学校紀要 (ISSN:02866110)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.64-59, 2018 (Released:2019-02-27)
参考文献数
18

本稿では、三島由紀夫『近代能楽集』より戯曲「葵上」を取り上げ、『源氏物語』や謡曲「葵上」との比較から、三島由紀夫の作品世界を考察する。中でも、六条康子の愛に着目し、病院や看護婦のいう「リビドオ」との差を検討する。そこには、「情念」とそれを排除することで苦しみを克服しようとする姿が確認される。他方で、三島由紀夫の作品世界は、現代における演劇や映像化によっても芸術的昇華を果たしている。三島の能への関心、及び、当時の海外での上演を含め、三島の作品がどのように受け止められ、現代に生きているかを考察する手がかりとして、戯曲「葵上」の作品分析をおこなう。

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著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1906年12月10日, 1906-12-10
著者
両角 政彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.354-376, 2013-07-01 (Released:2017-12-05)
参考文献数
40
被引用文献数
1

本稿では,ユリ切花産地によるブランド化の実態をとらえ,その効果と課題を明らかにし,花きのブランド化の取組みが産地・生産者にもたらす意味を考察した.ユリ切花ブランド「魚沼三山」の展開において,グローバルスケールでは輸入ユリ球根調達に関わる国際的連関が,ナショナルスケールでは高品質ユリ球根の生産委託による国内産地連関と出荷等級品ごとに市場を選択する国内市場連関が,ローカルスケールではユリ切花の生産と出荷における産地内連関がそれぞれ形成されてきた.本事例では,産地が独自に開発した品種ではなくても,地域連関にみられる流通業者を通じた既存品種の調達方法の革新,球根冷蔵管理技術の開発,切花の生産過程の改良,出荷・販売過程の組織化などによって,製品差別化が実現されている.これらの取組みは,他の産地・生産者が模倣困難であるとは必ずしもいえないが,一連に結びつくことで一定の参入障壁となり,高付加価値化を可能にしている.
著者
菅原 能生
出版者
公益社団法人 計測自動制御学会
雑誌
計測と制御 (ISSN:04534662)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.81-86, 2017-02-10 (Released:2017-02-21)
参考文献数
30
被引用文献数
1
著者
WILSON VAN DUSEN
出版者
Psychologia Editorial Office
雑誌
PSYCHOLOGIA (ISSN:00332852)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.11-16, 1961 (Released:2021-08-25)
被引用文献数
5
著者
村田 暁紀 佐藤 寛之 高玉 圭樹
雑誌
研究報告数理モデル化と問題解決(MPS) (ISSN:21888833)
巻号頁・発行日
vol.2017-MPS-112, no.3, pp.1-6, 2017-02-20

本研究では,1 つの個体としての解を進化させる通常の多点探索型進化計算 (点 = 個体 = 解候補) ではなく,複数の個体からなる解を進化させる進化計算 (複数の個体を群ととらえると,多群探索型進化計算 (群 = 複数の個体 = 解候補)) を提案するとともに,その有効性を検証することを目的とする.さらに,進化計算において根源的な問題である最適性と多様性のトレードオフを,多群探索型進化計算にて改善することを試みる.具体的には,多目的進化計算手法一つである NSGA-II の評価指標として,「最適性」 を評価する解の良さと 「多様性」 を評価するノベルティサーチを導入した後,(1) 評価値の高い解の近傍を重点的に探索する重点サンプリングと (2) 評価値の高い解から離れる範囲を探索しない多様性制限を組み込む.提案手法の有効性を検証するため,航空機着陸問題 (群 = 複数の航空機の経路集合 = 解候補) に適用し,シミュレーション実験を行ったところ,(1) 提案手法は,各個体を最適化しつつ全体を最適化するとともに,ノベルティのみの評価や Fitness の評価のみの手法に比べ,より最適性の高い解を獲得できることが明らかになった.また,(2) 多群探索型進化計算において,重点サンプリングと多様性制限が最適性と多様性のトレードオフの問題の改善に貢献できることを示した.