著者
土居 幸雄 下山 亜美
出版者
京都女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

主要な食物アレルゲンである卵白に替わり得る機能性タンパク質として、グアーミールに存在する起泡性アルブミンGFA(guar foaming albumin)の食素材としての利用を検討した。GFAの起泡性、泡沫安定性、泡沫サイズについて、添加物の影響を詳細に調べたところ、いずれの場合も卵白と同程度以上の利用特性を示した。GFAの乳化特性については、牛血清アルブミンと同程度の乳化活性と許容量が示された。
著者
長尾 慶子
出版者
東京家政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

これまでに実施してきた種々の保形性食材を加熱した際に見られる食材内部の熱移動に関する実験研究の結果と対比させながら、今回の研究課題においては、各種の食材冷却時における内部熱移動の詳細を観測し、それを現象論的に記述することを試みた。すなわち、食材を一定温度にまで冷却する操作の開始直後に見られる試料温度の急激な低下は、やがて徐々に収束し続けるようになる。かかる状況は、試料の温度が一定になるまで続く。また、この現象は各食材内部における伝導伝熱により常に出現し、食材の種類や食材成分の相転移、あるいは食材中の水分量や冷却温度範囲等には影響されない。故に、食材の冷却現象は食材に内在する熱エネルギーを緩和させる現象として、時間定数である緩和時間を用いて束一的に取り扱うことができる。
著者
高橋 享子 木本 眞順美 木本 眞順美
出版者
武庫川女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

卵白アレルゲン・オボムコイドは、酵素や熱に対して強い耐性を示し、低アレルゲン化が困難と考えられている卵白主要アレルゲンである。本報告者は、オボムコイドを独自の手法で低減化することに成功したが、調理や製菓作製への応用性の低いものであった。しかし、本研究の結果、卵白の応用性として最も有効と考えられるメレンゲ作製に成功し、低アレルゲン化したメレンゲを用いた加工品の作製に成功した。さらに、低アレルゲン化メレンゲを用いて、スポンジケーキを作製した結果、生卵白メレンゲを用いたスポンジケーキの9割程度まで膨化したスポンジケーキの作製に成功した。
著者
仁科 博史
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012

Hippoシグナル伝達系は、近年、発生・分化・器官サイズ・癌の発症進展を制御することが明らかにされ、国内外から急速に注目されている。本研究では、hydrodynamictailveininjection(HTVi)法という簡便に肝臓特異的に遺伝子を導入する方法を用いて、Hippo系主要標的転写共役因子YAPの活性のgainoffunctionによる肝癌誘発状態を作り出し、マイクロアレイ解析によって、マウス肝臓での転写情報を解析することを目的とした。その結果、1)効率の良い肝癌誘発系の確立に成功した。また、2)cDNAマイクロアレイによる発現解析を行い、YAPによって発現が亢進する遺伝子を約20種類同定することに成功した。ヒト肝癌発症のメカニズム解明に貢献する研究成果であると考えられる。
著者
森脇 睦子
出版者
独立行政法人国立病院機構本部(総合研究センター)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

26年度は以下を実施した。1)夜間・休日時間外に受診した患者における必要性の低い救急患者の同定手法の開発を実施する目的で次の分析を行った。分析対象は、国立病院機構143病院のうち一般病床を有する110病院で、当該病院の夜間・休日時間外受診した患者(初診料・再診料の時間外・休日・深夜加算を算定した患者)とした。分析には、国立病院機構総合研究センターにおける診療情報データバンクに収集されている平成25年度のレセプトデータを使用した。分析内容は、初診および再診患者の判定(定義の検討)を行った。続いて診療区分(注射、処置、手術、麻酔、病理、画像診断、その他)別に軽症患者の判定に関するアルゴリズムを作成し、患者数や診療報酬点数ベースでの記述統計を行った。2)カルテレビューによる必要性の低い救急患者の判定を実施する目的で次の調査を実施した。1)の分析対象(休日・時間外受診した患者)から対象施設2施設を選定し、各施設150件、合計300件を年齢階級別に無作為層化抽出しカルテレビューの対象とした。調査項目は、①主訴、②主訴発生時刻、③診察時刻、④軽症もしくは軽症外の判定、⑤判定の根拠、⑥早期受診の必要性の有無等とした。調査方法は、医師および薬剤師2名によりカルテレビューを実施し、軽症判定を行った。レビュー後、判定結果に相違がある場合は再度検討により一致させた。検討により判定が一致しない場合は、医師の判定結果を採用した。今後は、カルテレビューの結果を基にレセプトデータによる軽症患者の判定モデル作成する分析を実施する。
著者
加藤 晃弘
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

染色体不安定性症候群の一つであるナイミーヘン症候群の原因遺伝子産物NBS1は、電離放射線などによって生じたDNA二重鎖切断(DSB)に素早く応答し、染色体の不安定化や細胞の癌化、細胞死を防いでいる。その分子メカニズムについては不明な点が多く残されているが、本研究では、DSBの主要な修復経路の一つである非相同末端結合でNBS1タンパク質が機能していることを証明し、NBS1のある特定の領域がそれに特化した機能を担っていることを明らかにした。
著者
千森 幹子 DAME Gillan beer CLIVE Scott
出版者
山梨県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、ポストコロニアル的観点から、19世紀から20世紀イギリスで出版された文学挿絵における、日本、中国、中東にいたるオリエント表象の分化と変遷を、政治(帝国主義と植民地主義政策)社会(オリエント諸国への西洋観)および、文化(ジャポニズムに代表される美術様式や万博などにみられる西洋の東洋文化理解)を通じて検証する学際研究である。
著者
モラスキー マイク
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究で実施した日米両国の中小都市での現地調査から明らかとなった課題は、以下のように分類できる。(1)日米間におけるジャズ音楽の文化的位置づけの差異、(2)米国内の地域間によるジャズ音楽の文化的重要性の差異、(3)日本のジャズ文化における主要都市(東京・横浜、京都・大阪・神戸)と地方都市との間にみられるジャズの文化的位置づけ及び意義の差異、(4)日本国内の地方都市間(地域間)にみられるジャズ音楽の文化的存在の差異、(5)地方都市の復興事業における音楽の一時的な活用(恒例のイベント等)vs.音楽を提供する個人経営のライブスポットや飲食店など永続的・営利的な空間が生み出す効果の差異。
著者
川合 克久 三宅 克也 沢田 光一 西垣 新
出版者
香川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

光活性化Rac1(PA-Rac1)により顕微鏡下でマクロパイノサイトーシスを誘導する実験系を利用しマクロパイノサイトーシスの形態的特徴および分子基盤の解析を行った。その結果、PA-Rac1誘導性マクロパイノサイトーシスは、典型的なマクロパイノサイトーシスと異なりRab10が一過的に集積することを見出した。さらにRab10陽性のマクロパイノゾームは、チューブ構造を出芽した。Rab10陽性マクロパイノゾームおよびチューブ構造は、細胞外と行き来のある開いた構造であった。以上の結果から、PA-Rac1依存的マクロパイノサイトーシスは、従来型と異なる新規の取り込み経路であることが示唆された。
著者
[ジョ] 貞恩 (2012) 曹 貞恩 (2011)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本年度には医療宣教師のアイデンティティ、中医学に対する認識について考察した。1)2011年9月に明清史学会において口頭発表した内容を修正・補完し、2012年韓国の学術雑誌『明清史研究』37集に掲載した。2)2012年9-10月に上海での史料調査を行った。上海档案館では、中国医療伝道協会の内部資料や档案史料を集めた。上海図書館では、電子資料として公開されている医療宣教師関係の雑誌や民国時代の医学雑誌を収集することができた。3}医療宣教師のアイデンティティー医療と伝道の間:本章では医療と伝道のどちらを優先するかという問題をめぐる医療宣教師の論争を紹介し、1900年代以降医療と伝道が分離分離され、医療宣教師は主に医師としての役割を果たすようになったことを明らかにした。医療と伝道の分離は、中国医療伝道協会の役割、ひいては中国での医療活動にも大きな変化をもたらしたのである。史料としては、医療宣教師が残した文章及び全中国プロテスタント宣教師大会の報告書を主に利用した。4)医療宣教師の中薬に対する認識:最初医療宣教師が中薬を研究した理由は、中国伝統医学を深く理解するためというより、薬の不足といった医療活動の現実的な問題を解決するためであった。ところが1920年代に入ってから、中国人による中薬研究が活発になり、中薬の新たな可能性を発見すると、医療宣教師の中薬に対する認識も大きく変化する。本章では、医療宣教師の中薬に対する認識の変化、それに影響を与えた中国人の中薬の研究活動を分析することで、西洋医学と中国伝統医学の相互作用の一面を明らかにしたい。
著者
伊藤 武 西川 賢 久保 慶一 浅羽 祐樹 成廣 孝 川村 晃一
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、現代の民主主義国における選挙政治で拡がりつつあるプライマリー(予備選挙)について、基本的なデータを収集することを目的とする海外調査研究である。アメリカ、ヨーロッパ(英・伊・クロアチアなど)、アジア(韓国・インドネシア)を対象地域として、通常の選挙と比較してデータが少ないプライマリーについて、選挙制度、投票データの収集を行い、後続する共同研究の基盤とした。収集されたデータは一部先行して公開している。
著者
西野 康人 中川 至純 谷口 旭 韓 東勲
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では定着氷に着目し、道東オホーツク沿岸域にある能取湖で2013―2015年の結氷期に調査を実施した。本研究の結果、結氷期にも水柱では高濃度のクロロフィルaが分布すること、そして、その分布動態は年により大きく変動することが明らかとなった。また海氷中のアイスアルジーも積算値では水柱より少ないものの、下部に集まることで、効率良く一次消費者に一次生産物を伝える機能を有することが推察された。すなわち、海氷は一次生産を活性化させる機能を有することが示唆された。
著者
伊藤 俊洋 宇田 郁子 伊藤 佑子
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

近年、日本では、若者の科学嫌いが進行しており、この傾向は大学生にも及んでいる。われわれは、大学一年生の化学教育コースに、興味深く楽しい内容が盛り込まれた教材を提供することを目指し、演示実験を取り入れることを試みた。本研究では、講義担当者が基礎的な自然科学の講義をするときに、学生に興味をもたせ、科学の本質に迫ろうとする意欲を引き出す道具として有効な演示実験キットを作成した。25の実験項目のほとんどは、ノーベル賞と直接または間接的に関係をもっているが、ノーベル賞創設以前の業績の中で、すべての自然現象の根幹と関わる業績の一部も対象とした。演示実験に必要な器具と試薬をコンテナにまとめて実験キットを作成し、テキストとDVDを付けることにより、初めての人にも取り入れ易い教材とした。テキストの各実験項目は、ノーベル賞との関連、実験の概要、材料と方法(器具・試薬、準備、演示)、注意事項、チェックリスト(観察ポイント、原理または解説、日常生活との関係、歴史、参考文献)にわけて記述した。以下に実験項目を示す。1.セルロースとニトロセルロースの燃焼の比較2.都市ガスシャボン玉の燃焼3.都市ガスの爆発4.トリチェリの真空:大気圧の測定5.水の沸騰6.卵の吸引7.ペットボトルの圧縮8.復氷の現象9.表面張力の観察10.s-p軌道による水分子の三次元模型11.金箔からの吸収光の漏光12.中間子による陽子と中性子の相互変換13.加速器の原理14.フラーレン15.ナイロンと電気伝導性ポリマーの違い16.無機陽イオンの系統分析17.鉄粉の発火18.化学平衡の移動19.有機染料による染色20.カラムクロマトグラフィーによる色素の分離21.脂質二重膜モデルの検証22膜を通過するリポタンパク質:保護コロイドの観察23.DNA二重らせんモデルの作成24.チマーゼによる発酵の観察25.酵素の結晶化
著者
林田 和也 中尾 慎太郎 石本 浩康 藤本 坦孝 一瀬 孝 小俣 正朗
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1988年にJ.L.Kazdanは彼の論文(Comm.Pure-Appl.Math.vol31)で次の問題を提起した:変分量J_i(v)=∫_Πr|∇u|pdx(p>1)のcritical pointsについて一意接続性がなりたつか?我々はJ_i(v)については出来なかったが,J_i(v)を同等な次の変分量:J_2(v)=Σ^^n__<i=1>∫_Π|∂_iv|pdxについて条件付き乍ら,彼の問題が肯定的であることを示した(J.Math.Soc.Japan.vol,46)。yamabeの問題から派生した楕円型方程式の問題:単位球内正値で、球面上で0になる半線型楕円型方程式の解の存在と非存在について,我々はこの問題を双曲空間で考察し,ある結果を得た(with M.Nakatani,Mathematica Joponica vol,40)。研究分担者一瀬孝によって,負のスカラーポテンシャルをもつ相対論的ハミルトニアンに対して,本質的自己共役性が証明された。又,研究分担者藤本担孝によって,Nevalinna理論が放物型Riemann面をパラメータ空間とする極小曲面の場合に拡張された。
著者
原 美鈴
出版者
東京女子医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は診療所に勤務する看護師のキャリア形成の実態およびキャリア支援ニーズを明らかにすることを目的として実施した。看護師13名に協力を得て半構成インタビュー調査を実施した結果、キャリアトラックの特徴として、全員病院での勤務経験を経て診療所で就業していること、診療所を就業先として選択する際は、看護職として働き続けるために、職業キャリアよりワークライフバランスが優先されていること、しかしながら看護師として医師や他職種と積極的に意思疎通を図り、役割を見出し果たす努力をする中で、病院とは違った看護実践能力を形成しようとしていることが明らかになった。
著者
高橋 義人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ヨーロッパの精神史ではキリスト教と並んでグノーシス思想が大きな役割を果たしてきていること、グノーシス思想を知らなければ、ヨーロッパの哲学や文学も真に理解することはできない、と近年しばしば言われるようになってきた。本報告書の目的は、グノーシス思想をもとに、ヨーロッパの哲学や文学を読み直すことにある。しかしグノーシス思想の全体像について知らなければ、グノーシス主義と近代ヨーロッパの哲学や文学との関係を知ることはできない。そこで本報告書の前半では、グノーシス主義の概要について記した。第1章(失楽園)、第2章(二元論)、第3章(ソフィアと「男・女」)、第4章(救済された救済者)、第5章(黙示録と終末思想)、第6章(アウグスティヌスとマニ教)、第7章(スコラ学派とカタリ派)、第8章(聖杯伝説とグノーシス)、第9章(マイスター・エックハルトとグノーシス)、第10章(ヤーコプ・ベーメとグノーシス)である。本報告書の後半は、全11章からなる。ファウスト伝説がグノーシス主義者シモン・マグスに関する逸話に由来するのではないかと推測した第11章、ウィリアム・ブレイクがベーメの影響の下にグノーシス思想に親しんでいったことを跡付けた第12章、ピエティスムスの指導者エーティンガーの有するグノーシス主義的思想がドイツ観念論にいかに大きな影響を与えたかを論じた第13章、フィヒテの『浄福なる生への導き』のなかにグノーシス思想を探った第14章、シェリングの『人間的自由の本質』における善悪の問題の追究がグノーシス主義的であると論じた第15章、ヘーゲルの「キリスト教の精神とその運命」に見られるグノーシス思想が彼の「弁証法」を生み出し、さらに彼のグノーシス的思想はヘーゲル左派を通してマルクス主義へとつながり、またヘーゲル右派を通してナチズムにつながっていった経緯を明らかにした第16章、さらには自分ではグノーシス主義者とは述べていないものの、『罪と罰』などの見られる思想は明らかにグノーシス的と認められるドストエフスキーについて論じた第17章、同じく自分ではグノーシス主義者とは洩らしていないものの、『パルジファル』には明白なグノーシス思想が認められると論じた第18章、ユング派の医師によって精神病の治療を受け、グノーシス思想に接近したH・ヘッセの記念碑的小説『デミアン』について論じた第19章、タルコフスキー監督の映画『ノスタルジア』や「」サクリファイス』のなかにグノーシス思想を認めた第20章、20世紀後半のSF作家フィリップ・ディックがいかにグノーシス思想に近づいたかを論じた第21章である。
著者
豊田 唯
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本年度は、平成23~24年度の2年にわたる課題研究期間の後半にあたる。その研究課題は、バロック期スペインの宗教画家ファン・デ・バルデス・レアル作のヴァニタス画《束の間の命》と《この世の栄光の終わり》について、その複雑な図像の解釈を試みることにあった。この大型の対作品は1672年にサンタ・カリダード聖堂(セビーリャ)の内部装飾の一環として描かれ、現在でも当初のままに、入口付近の南北両壁に相対して掛けられている。これらのバルデス・レアル作品の図像解釈は先行研究でも断続的に試みられてきたものの、一部の暗示的モティーフについては、いまだ統一的な見解に至っていない。それに対して報告者は、画中の謎めくモティーフ三つについて、対抗宗教改革期スペインの神学や美術の情勢を手がかりに解読を試みた。そしてそれらの分析をもとに、カリダード聖堂のヴァニタス画が「死」や「審判」の教理を一般論として掲げるに止まらず、観者一人ひとりに対し、自己の死を省察するように促していた可能性を新たに指摘した。一方で報告者の推測によれば、観者を自己省察へと導くための工夫は2点のバルデス・レアル作品のみならず、堂内のバルトロメ・エステバン・ムリーリョ作の聖人画2点、そして最奥の主祭壇衝立へと継承されている。聖堂入口の対作品に端を発した「死の自己省察」は、祭壇衝立内の群像彫刻《キリストの埋葬》や《慈愛》像においていかに帰結したのであろうか。報告者は、最後に2点のヴァニタス画を聖堂装飾プログラムの枠内に戻すことで、バルデス・レアル作品の「死の勝利」から主祭壇衝立の「慈愛の勝利」へと繰り広げられたダイナミックな宗教的メッセージの解読を試みた。なお、以上の研究成果は美術史学会の会誌『美術史』(第174号)への投稿論文「バルデス・レアルの二大ヴァニタス画-死の勝利から慈愛の勝利へ-」として現在、査読を受けている。
著者
福嶌 教隆 長谷川 信弥 浅香 武和 吉田 浩美
出版者
神戸市外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

スペインでは,一般に「スペイン語」と呼ばれている「カスティーリャ語」以外に,カタロニア語,ガリシア語,バスク語などが用いられている。本研究では,これら4つの言語の基礎語彙約 4000 の対比一覧を作ってその比較を容易にし,またそれぞれの言語の借用語についての論文を発表して,多言語国家の言語使用状況の理解と語学教育に貢献した
著者
篠 憲二 清水 哲郎 座小田 豊 野家 啓一 戸島 貴代志 荻原 理 川本 隆史 熊野 純彦
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、規範概念である<幸福>の具体的内実を、人間についての自然科学的・社会科学的諸事実から「導出」し得るとは考えないが、他方で、人間存在の成立諸条件の考察を通じて幸福の所在を或る程度まで突き止める余地のあることを認める。実際、人間存在の生物学的基底に人間のネオテニー性が存し、これが文化のマトリクスとして機能し続けていることが解明されたのは、本研究にとって大きな一歩であった。現代社会において広く共有されている幸福観・幸福感の多くが、それぞれ、それを抱いているひと自身が深くコミットしている態度・立場に照らしても、実は問題含みであることが明らかになった。それは一つには、「生を物語る」という視点が鍛え上げられていないからである。本研究によって、well-beingに関わる情緒とことばを研ぎ澄ませるためのモラリスト的考察が豊かに結実した。哲学史的には、プラトン、アリストテレスが「このひとの生」をいかに問題化したか、フィヒテ、ヘーゲルの説く、普遍性への志向が人間の完成の課題遂行の要であること、レヴィナスの<享受>と<傷つきやすさ>の概念が新たな倫理学の地平を拓きつつあることが明らかになった。本研究の具体的・実践的場面への適用は多岐にわたるが、そこで明らかになった主なことは以下の通り。第一に、医療の倫理の現場で、患者の意向の把握は、患者の生の物語りの総体的理解を実は背景にせざるを得ないこと、そして患者の生の物語りが患者を取りまく人々の生の物語りと絡み合っていること。第二に、農村風景をいかに修景するかを考える上で、農村風景を一種の物語りとして捉え、<享受>と<傷つきやすさ>を考慮する必要性。第三に、科学技術はこれに直接は携わらない人々を含む社会全体のwell-beingに深く関わるが、それは技術がもつ見えにくい政治性によってであること。
著者
高橋 鉄美 曽田 貞滋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

集団内多型の維持機構を解明することは、遺伝的多様性の維持と直結するため、進化生物学的・生理学的に重要な課題である。私は、シクリッド魚類のあるグループに見られる集団内オス色彩二型を例に、その維持機構を解明しようとしている。本研究課題では、飼育個体群を用いた連鎖解析と野生個体群を用いた関連分析を行い、二型を支配する遺伝子が組み換えの制限された狭いゲノム領域に存在することを明らかにした。しかし、二型の維持機構を解明するには至らなかった。当初、異類交配によって維持されるという仮説を設定していたが、それを支持する結果が得られなかった。このため新たな仮説を提唱し、今後の研究に筋道をつけた。