著者
上田 卓司 安田 孝 椎名 乾平
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.146, 2014 (Released:2014-10-05)

McWeeny, et al. (1987) によって発見された Baker-baker パラドックスは,同じ名でも職業名として憶えるより名字として憶える方が顔との対連合記憶成績が低下する,という現象であり,しばしば固有名の記憶の難しさを示すものとして扱われている.本研究では,文化的背景や名前の多様性等の条件が異なる日本語圏において同様の現象が生起するかを確認するため,人物属性(座右の銘・お気に入りの物事)を表す名詞を用いて,日本語版 Baker-baker パラドックスが見られるか検討することを目的とした.実験において40名の参加者は,印象評定,偶発再生,意図的再生の各課題で顔写真とともに記された人物プロフィール(氏名,人物属性)を学習し,顔写真を手がかりとした再生を行った.その結果,名詞を人物名として記憶する場合と,人物属性を表す名詞として記憶する場合とに顕著な差は認められなかった.
著者
斉藤 正美
出版者
日本女性学研究会
雑誌
女性学年報 (ISSN:03895203)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.3-22, 2020

本稿の目的は、「ライフプラン(ライフデザイン)教育」とはどのような内容や取組なのか、特色ある取組を行っている都道府県、特に高知県及び富山県を中心に、行政担当者や学校関係者等への聴き取り調査を行い、明らかになった現状と課題を指摘することにある。さらに取組が全国に浸透している要因の考察も行う。「ライフプラン教育」とは、国の少子化対策の交付金等により結婚を支援する「婚活政策」の一環で、地方自治体が中学・高校・大学生や市民に人生設計を考えさせ、若い時期での結婚や妊娠を増やそうとする取組である。<br> 聴き取り調査の結果、ライフプラン教育には、婚活企業の関係者や国の少子化対策等の審議会委員等、婚活や婚活政策の利害関係者が関与していること、また取組内容は、早いうちの結婚や妊娠を奨励し、LGBTや独身、子どものいない生き方、ひとり親など、多様性の確保に課題があることが判明した。共働きの家事・育児を自己責任で解決するよう、モデル家族に「三世代同居」を提示するなど、性別役割分業と自助努力が強調されていることも特徴であった。<br> こうした課題を持つライフプラン教育だが、全国の自治体に浸透し、継続され続けている。その要因としては、「優良事例の横展開」という交付金のあり方に加え、男女共同参画との連携が交付金の採択要件とされたものの、2000年代前半の右派や自民党によるバッシングにより男女共同参画が後退し、歯止めとして機能しなくなっていたことが浮き彫りになった。さらに少子化対策として整備された少子化社会対策基本法、次世代育成支援対策推進法が、妊娠・出産や家族の役割を強調する法律であったことも影響していた。<br> 本稿は、2000年代以降の男女共同参画政策の変遷を踏まえ、地方自治体におけるライフプラン教育の取組に関する現状と課題を提示するもので、少子化問題の解決策と個人の自由意志による生き方の尊重が相反しないあり方の検討に資するといえよう。
著者
坂本 裕和 藤井 亮輔 光岡 裕一 坂井 友実 秋田 恵一
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.197-208, 2010 (Released:2010-08-10)
参考文献数
30

【目的】骨盤内臓の疾患に対する重要な治療点としての八リョウ穴と骨盤神経叢の構成および臓側枝との位置関係を検討した。 【方法】東京医科歯科大学大学院臨床解剖学分野所蔵の実習体5体を使用し、 実体顕微鏡下で、 骨盤神経叢の構成および臓側枝の分岐形態と八リョウ穴との位置関係を精査した。 【結果】1. 骨盤神経叢を構成する交感神経成分の下腹神経は第2および第3腰内臓神経が恒常的に参加する上下腹神経叢から起こり、 骨盤神経叢の後上角に入る。 副交感神経成分の骨盤内臓神経は第2~第4仙骨神経前枝から起始し、 骨盤神経叢の後下角に入る。 陰部神経および肛門挙筋神経とは共通幹を形成する傾向が強い。 2. 骨盤神経叢から起こり骨盤内臓に分布する臓側枝は均一に起始するのではなく、 I~IV群に分かれる傾向が強い。 特に、 III群は排尿・性機能に深い関わりを持つ。 【結論】1. 八リョウ穴への刺鍼では、 骨盤内臓神経が恒常的に起こる第3および第4仙骨神経前枝に直接刺激が可能である中リョウ (BL33) および下リョウ (BL34) が骨盤内臓の機能に影響を及ぼすことが示唆される。 2. 八リョウ穴への深鍼では、 刺入鍼は直腸の側縁に達するため正中方向への刺鍼には注意を要する。
著者
稲垣 秀輝
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.196-206, 1999-10-10
参考文献数
10
被引用文献数
4 7

1998年9月21, 22日にかけて台風8号, 7号が本州に上陸し, 中部地方を中心として大きな風災害を引き起こした.とくに, 岐阜県七宗町では台風が通過して二, 三日後に集中豪雨が発生し, 台風で緩んだ地盤の多くの箇所で表層崩壊が発生し, それを引き金とした土石流災害が起こった.ここでは, 台風による風被害が山地森林の新しい植林地に集中していたことを述べるとともに, 風倒木による地盤の緩み状況を調べ, それがその後の豪雨による表層崩壊を発生させた原因であることを示す.森林植生の違いが斜面地盤の安定性にどう関与しているのか研究成果が少なく, 不明な点が多いのが現状である.一般的には, 保水, 土壌侵食防止効果が高く, 根系による地盤の緊縛効果, 杭効果が総合的に発揮される壮年期の混交, 複層林が有利とされている~(1).今回の研究成果はこれらのことを裏付ける結果となった.以下に調査の結果をまとめて示す.1)調査地においては風倒木被害は植林に集中しており(40〜60%の被害), 広葉樹の林では被害が少ない(1〜2%の被害).2)倒伏の被害の大きかった植生は, 基盤岩が1m以浅に位置し, 根鉢の深さが制限される地盤であった.また, 植林で間伐の行われていないところについても倒伏被害が多かった.これは間伐の行われていないところは根系の発達が悪かったためと推定される.3)風倒木のあった植林の地盤は, 表土のNc値が2以下と緩んでいることが明らかになり, 倒伏被害のなかった広葉樹地盤ではその緩みはほとんどなかった.4)風倒木地盤で表層崩壊が発生したのは, 地下水や表流水の集中しやすいやや沢地形の部分であった.5)倒伏地盤の斜面崩壊は風倒木を多量に含んでいるため, 多くの土石流を発生させやすいと考えられる.
著者
樋口 正樹 打越 学 島崎 哲弥 山路 修平 山田 智樹 岡崎 博樹 加納 春洋
出版者
富山救急医療学会
雑誌
富山救急医療学会 (ISSN:21854424)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.9, 2020-09-12 (Released:2021-02-06)

A病院は県庁所在地であるB市内にある2次救急病院であり感染症指定医療機関に指定されている。県内の感染者の発生は他県に比較し遅れていたが、最初の陽性確定者から接触者の感染、立ち寄り先での感染などで一気にクラスターが発生し多くの感染者が発生することとなった。それに伴いA病院での入院対応、B市保健所より接触者の受診、PCR検査の依頼が急増し担当者はその対応が困難な状況となった。A病院において事業管理者の命にてCOVID-19対策本部(以下対策本部とする)の立ち上げを行うこととなり対策本部事務局(以下事務局)の運営をA病院DMAT隊員にて行うこととなった。院内は通常医療、Covid-19 対応の2本柱での運営を方針として対応を行っていた。そのような対応を行う中で、A病院内X病棟においてスタッフの感染が確定、その後相次いでスタッフ、患者の感染が確認されクラスターが発生した。A病院の感染拡大の他にB市内では老人保健施設、デイサービス、障害者施設など数か所でクラスターが発生していた。 そのような中で院内対応に加えA病院ではDMAT隊員によって担った業務に患者搬送がある。今回、クラスターが発生したA病院において院内対応中で行った患者搬送を振り返り検証を行うことで今後の感染対策、患者、傷病者搬送の一助とするべく検証を行うこととした。
著者
宮地 賢一
出版者
一般社団法人 日本真空学会
雑誌
真空 (ISSN:05598516)
巻号頁・発行日
vol.32, no.12, pp.869-874, 1989-12-20 (Released:2009-10-20)
被引用文献数
1
著者
大友 宣 岸田 直樹 矢崎 一雄 松家 治道
出版者
一般社団法人 日本在宅医療連合学会
雑誌
日本在宅医療連合学会誌 (ISSN:24354007)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.45-48, 2021 (Released:2021-02-15)
参考文献数
6

札幌市では 2020 年 4 月中旬から新型コロナウイルス感染症第 2 波の流行があり,介護老人保健施設で集団感染が発生した.札幌市保健所の要請のもと診療支援医師を派遣した.混乱期には人員の不足に対して,人材確保,診療指針の策定を行った.試行錯誤期には搬送のための情報収集の補助,搬送の目安を検討,服薬の減量を行った.現地対策本部が設置され 30 名の入居者の病院への搬送により施設内の状況は落ち着き,集団感染の収束に向かった.在宅医が介入しアドバイスすることは一定の効果がある.現地対策本部設置,介護崩壊対策は今後必要である.行政のみに頼ることなく「自助」「互助」「共助」「公助」の対策を行うことが重要である.
著者
野﨑 尋意 小松 成綱 橋本 喜夫
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.131, no.6, pp.1539-1544, 2021-05-20 (Released:2021-05-20)
参考文献数
10

2020年11月下旬,当院で患者計181人が感染する事態となるCOVID-19クラスターが発生した.うち,皮疹が出現したのは4人だった.全例が何らかの基礎疾患を有しており,中等症以上のCOVID-19肺炎を発症した.皮疹は肺炎に対するステロイド治療の終了や減量に伴って出現しやすい傾向があり,体幹部に多く,性状は一部網状を呈する,紅斑性皮疹あるいは蕁麻疹だった.COVID-19関連皮疹は患者の基礎疾患に起因する皮疹や薬疹などとの鑑別が重要だが,その鑑別は時に困難である.
著者
加藤常員 小澤 一雅 高見 友幸
雑誌
情報処理学会研究報告人文科学とコンピュータ(CH)
巻号頁・発行日
vol.2002, no.73(2002-CH-055), pp.9-16, 2002-07-26

地理情報は考古学にとって基盤をなす重要な情報である。古代遺跡の地理的分布の解明は考古学の重要な課題である。本稿では弥生時代の2種類の遺跡群を採り上げ、地理情報を活用した遺跡分布の解析について報告する。対象とした遺跡は、拠点集落遺跡と高地性集落遺跡である。両遺跡は同じ時代に同じ空間に存在したものであり、密接な関係であったと考えられる。本報告は淀川水系の両遺跡について2種類のネットワークの構成し、得られた情報をもとに関連深い遺跡の対を抽出し、地図上の円を描くことにより遺跡間の分布関係を明示することを試みる。円による表現は極めて簡潔であり、位置関係を端的に表す。示される結果は考古学の知見に相応した遺跡間の分布関係を得た。
著者
大河内 二郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.312-314, 2021-04-25 (Released:2021-05-27)
参考文献数
4

老人保健施設で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)クラスターを経験したので報告する.他院から転入した利用者から利用者25名および職員3名に感染した.利用者26名のうち3名は無症状であった.隔離は最大46日間に及び陽性者のうち4名が転院先で死亡した.体温はコロナウイルス検査日において陽性者でやや高く体温の中央値は37.1℃であった.現在幅広く用いられている37.5℃を用いて施設内スクリーニングを行うことは問題がある.
著者
松本 博 村井 誠三
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.291-294, 2021 (Released:2021-06-28)
参考文献数
6

当院で外来維持透析中の患者110名および職員16名において2020年4月1日から4月8日の間に透析患者3名と看護師3名の新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)がPCR検査で確認された.3名の高齢男性患者は咳嗽と発熱で発症し,そのうち2名は糖尿病と脳梗塞による仮性球麻痺を合併し,類天疱瘡でステロイド薬を服用中であった.2名の看護師は発熱で発症した.COVID‒19発生後,すべての患者と職員にPCR検査を行い無症状な看護師1名が陽性であった.透析患者3名と看護師1名が入院,看護師2名は自宅待機となり,全員がCOVID‒19より回復した.2020年7月すべての患者と職員を対象とした新型コロナウイルス抗体価は,罹患歴をもつ5名(入院中の1名を除く)以外は全員陰性であった.それ以後2020年10月10日まで新たなCOVID‒19発症は経験していない.
著者
織田 弥三郎 澤田 裕樹
出版者
Japanese Society for Plant Cell and Molecular Biology
雑誌
植物組織培養 (ISSN:02895773)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.164-169, 1990 (Released:2010-04-30)
参考文献数
16

組織培養による食用ウチワサボテン (Opuntia ficus-indica) の大量増殖法を検討し, 以下の知見を得た.1. 基本培地としては検討した4種類の既成培地のうちMS培地が最も適していた.2. 増殖培地では, BA 1mg/l, NAA 0~0.1mg/lの植物生長調節物質の組合せでシュートの増殖が良好であった.3. また, 増殖培地中のゲル化剤に関しては寒天0.4%またはゲルライト0.2~0.3%が適していた.4. 発根培地において, NAAを5mg/l添加することにより発根および地上部の生長とも増加した.5. 発根した小植物体の馴化は容易であり, 生長にともなって親植物と同様の形質を示した.