著者
梅川 由紀 Umekawa Yuki ウメカワ ユキ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.42, pp.31-45, 2021-03-31

社会学 : 論文本稿の目的は、高度経済成長期に掃除機と電気冷蔵庫が普及することによって、ごみと人間の関係がどのように変化したのかを明らかにすることである。婦人雑誌『主婦の友』と東京都清掃局内の新聞『清掃きょくほう』を中心に分析を行った。分析の結果、三つの傾向を指摘した。第一に、高度経済成長期に生じた住宅構造の変化は、ほうきを用いた「掃き出す」掃除から、掃除機を用いた「吸い取る」掃除へと変化を余儀なくした。吸い取る掃除は掃除の際に空間を舞うチリやホコリの量を減少したが、その結果、人々は逆に空間を舞うチリやホコリを強く意識するようになったことを明らかにした。第二に、電気冷蔵庫の登場は食品を「冷やす」だけではなく「保管」することを可能とした。すると人々は、ついよけいに買いすぎ・作りすぎ・しまい込み・結局だめにするという、「余剰品」を生みだす様子を明らかにした。第三に、掃除機や電気冷蔵庫が「粗大ごみ」として出されるようになると、粗大ごみの異質性が際立つようになった。ここから、粗大ごみ登場以前のごみが「燃やすことができ、埋め立てることができ、土壌化できる、小さな存在」であると理解される様子を示した。以上の分析結果から、人々は空間を舞うチリやホコリ、余剰品、粗大ごみというごみを「発見」し、ごみ概念自体を拡大させている様子を明らかにした。
著者
黒沼 歩未
出版者
国際基督教大学キリスト教と文化研究所
雑誌
人文科学研究 (キリスト教と文化) = HUMANITIES (Christianity and Culture) (ISSN:24346861)
巻号頁・発行日
no.52, pp.(185)-(212), 2020-12-15

福神を題材にした芸能や物語は、中世末期頃から数多く作られた。例えば、お伽草子『大黒舞』や『梅津長者物語』は、貧しいながらも正直で孝行者の主人公が、大黒天や恵比寿の加護によって立身出世する話である。これらのお伽草子に登場する福神達は、神よりも人間のようであり、中世の人々にとって、その親しみやすさとめでたさで最も身近な神であったといえるだろう。その中で、清水寺との関わりが指摘されるお伽草子『大黒舞』の大黒天の表象に注目し、中世の大黒天がどのように理解されていたのか、また、清水寺とその周辺における信仰がどのように表れているのかを考察した。『大黒舞』で大黒天は、福神よりも戦闘神や仏法守護の神として自身を語る。当時人気を博した狂言の世界では、﹁比叡山の三面大黒﹂が語られていたが、それは『大黒舞』の大黒天とは異なり、祈れば富貴になれるという福の神としての大黒天であった。そして、『大黒舞』の大黒天の表象で最も特徴的なのは、大黒天と恵比寿が鬼と入れ替わるように描かれていることである。福神と鬼は一見正反対に見えるも、特に大黒天は、鬼と共通する三つの宝物を持つなど鬼と通ずるものがあった。その一方で、『渓嵐拾葉集』には﹁大黒飛礫の法﹂という裕福な人の家から福を自分の元に呼び寄せるという怪しい秘術も記されており、大黒天が福人の富を奪って与えるという盗賊的な側面も理解されていた。さらに、清水寺の近隣では、『大黒舞』成立と同時期に、疫病から福神へと転じた五条天神社の信仰が急速に広まっていた。清水寺の下方世界に広がる疫病の世界観にあてはめると、『大黒舞』の中に描かれる鬼や盗賊を﹁疫神﹂として解釈することができる。それを様々な知恵や武力でもって倒していく大黒天と恵比寿のイメージには、五条天神に祀られる少彦名命と大己貴命と、その二神をモデルにして作られた五条天神周辺で戦う義経と弁慶の姿が重ねられているだろう。以上、『大黒舞』における大黒天の表象の考察を通して、現在のような﹁福の神﹂としての大黒天像が浸透する以前の大黒天の姿が反映されていることがわかった。中世の大黒天の信仰の一端と、『大黒舞』が清水寺とその周辺の信仰を取りこみながら、物語を形成している様子が明らかになった。
著者
堀岡 喜美子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.49, pp.99-115, 2021-03-31

日本の歴史上、神仏や霊との意思伝達者(託宣者)はミコと称されその多くが女性である。柳田國男はその理由を古代からの「女性の特性」にあると説いている(「ミコ女性論」)。しかし、古代からの史料を概観すると、女性が「託宣者」として「特化」するのは摂関期であると推定される。摂関政治隆盛期の公卿藤原実資の日記『小右記』に記された託宣者を検証したところ、その特性は女性による直接言語によるものと判明した。なぜ、摂関期に託宣者が女性に特化されたのか、当時の貴族女性が置かれた状況を社会史、精神医学から検証した。結果、女性の苦難、葛藤からの脱却手段として現れる憑依現象が、託宣者として認識された可能性を導き出した。「ミコ女性論」摂関政治女性の苦悩直接言語託宣者憑依現象
著者
中尾 和昇
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.29, pp.164-150, 2021-01

" 本稿は、文化五年(一八〇八)刊の馬琴合巻『敵討身代利名号』を翻刻・紹介するものである。 本作は、親鸞上人の十字名号による「身替り」の趣向をテーマとする仇討譚である。筆者は以前、馬琴が如何にこの趣向を消化し、自身の読本作品内に機能させたかについて論じたことがある。ただ、そこでとりあげた「身替り」は、他者の難を救うために、その代わりとなって死ぬという演劇由来のものであり、本作に見られるような神仏霊験譚は中心として扱ってこなかった。管見によれば、神仏霊験譚の「身替り」は読本よりも、むしろ合巻に多く見られることがわかった。今回取り上げる『敵討身代利名号』は、この趣向を前面に押し出した作品として注目される。本稿をなす所以である。"
著者
奥田 みのり 一戸 達也 金子 譲
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.156-159, 2001-04-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
4

市販の未開封局所麻酔薬バイアル,全身麻酔薬バイアルおよび輸液ボトルのゴム栓の無菌性と,消毒用アルコール綿によるゴム栓清拭の意義について検討した.また,これらの薬剤が菌によって汚染された場合にどのような発育を示すのかについても観察した.バイアルのカバーを取り除いた直後のゴム栓には,細菌および真菌が検出されなかった.しかし,アルコール綿で清拭した後では,20%に真菌の集落が検出された.リドカインバイアルにstaphylococous aureusならびにCandidaalblcansを播種したところ,生菌数は経時的に減少した.しかし,プロポフォールバイアルや輸液ボトルに播種された菌は24時間以降有意に増加した.
著者
下窪 拓也
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.41-54, 2021

本研究は、メガスポーツイベントの招致開催がもたらす長期的な無形の影響の解明を目的とし、オリンピック競技大会の招致開催が、人々のナショナルプライドに与える影響を検証する。メガスポーツイベントの開催と開催国の人々が持つナショナルプライドとの関連はこれまでにも議論されてきたが、先行研究では、開催時期の時代背景による影響は等閑視されてきた。<br> 時代的背景から、1964 年東京オリンピックと1972 年札幌オリンピックの開催は、戦後の復興と国際社会への復帰という意味合いを強く持つため、日本人のナショナルプライドに強い影響を与えたことが想定される。本研究では、この東京オリンピック経験世代と札幌オリンピック経験世代の世代効果に着目して、大会の開催がナショナルプライドに与える長期的な影響を分析する。分析では、社会調査の二次データを用いて、東京オリンピック経験世代と札幌オリンピック経験世代の世代効果が、スポーツに関するナショナルプライド(スポーツプライド)と一般的なナショナルプライド(ジェネラルプライド)に与える影響を検証した。<br> 分析の結果は、仮説とは反して、世代効果はスポーツプライドには統計的に有意な負の影響を示し、ジェネラルプライドに対しては統計的に有意な関連を示さないことを明らかにした。オリンピック競技大会の商業主義化に伴いナショナルな表象が薄れたことで、かつての国威発揚の意味合いを強く持つ東京オリンピックや札幌オリンピックを経験した世代は、昨今のスポーツに対してもはや国への誇りを重ねなくなったのだと考えらえる。あるいは、先行研究では、1990 年代以降の日本社会の不安の蔓延に伴い、若者のスポーツプライドが高まっていることが示唆されていることから、相対的に東京オリンピックや札幌オリンピックを経験した世代のスポーツプライドが低く観測されている可能性も考えられる。最後に、本研究の限界を議論した。
著者
渡辺 和子
出版者
リトン
雑誌
死生学年報 = Annual of the Institute of Thanatology, Toyo Eiwa University
巻号頁・発行日
vol.6, pp.65-104, 2010-03-31

The Epic of Gilgamesh (the Standard Babylonian version) was probably composed by Sin-l?qi-unninni as its editor in the Akkadian language to thebest of our knowledge in about the 12th century BC, using as its base the older version of the epic (the Old Babylonian version) established in the early second Millennium BC. The Standard Babylonian version is known to us through the copies made in the 7th century BC in Nineveh. These copies were excavated in the 19th century AD and brought to the British Museum.In the epic, Gilgamesh grieved over the death of Enkidu, his friend, and was afraid of his own death. Longing for the ‘secret of death and life,’ he made a trip to visit ?ta-napi?ti who had been a human but was bestowed with eternal life by the gods after the Deluge. But ?ta-napi?ti told Gilgamesh that there was “now” no one to summon an assembly of the gods, the only place where Gilgamesh could also obtain eternal life. Then, he told Gilgamesh not to sleep for six days and seven nights. However, Gilgamesh fell asleep immediately. When he finally was woken up by ?ta-napi?ti and realized that he really had slept for seven nights, he received the insight that death was inevitable. On the way home, he found the special ‘heartbeat herb’ (?ammu nikitti) in accordance with ?ta-napi?ti’s instructions. But a snake ate the plant, presumably became rejuvenated by it, and cast off his skin while Gilgamesh was bathing. Gilgamesh was enormously discouraged and returned to Uruk, his home city.The ending of the story may seem to impresses upon the audience or the reader that the main intent of the story is to tell about Gilgamesh’s failure in his quest. But this impression is incompatible with the introduction of the story, in which the editor as a narrator introduces Gilgamesh as a man who indeed obtains wisdom after his painful journey to the other world.

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著者
富田学純 著
出版者
加持世界社
巻号頁・発行日
1913
著者
Maiko Saito Minoru Nakayama Kyota Fujita Atsuko Uchida Hiroyuki Yano Satoshi Goto Hitoshi Okazawa Masaki Sone
出版者
The Genetics Society of Japan
雑誌
Genes & Genetic Systems (ISSN:13417568)
巻号頁・発行日
vol.95, no.6, pp.303-314, 2020-12-01 (Released:2021-03-23)
参考文献数
58

yata mutants of Drosophila melanogaster exhibit phenotypes including progressive brain shrinkage, developmental abnormalities and shortened lifespan, whereas in mammals, null mutations of the yata ortholog Scyl1 result in motor neuron degeneration. yata mutation also causes defects in the anterograde intracellular trafficking of a subset of proteins including APPL, which is the Drosophila ortholog of mammalian APP, a causative molecule in Alzheimer’s disease. SCYL1 binds and regulates the function of coat protein complex I (COPI) in secretory vesicles. Here, we reveal a role for the Drosophila YATA protein in the proper localization of COPI. Immunohistochemical analyses performed using confocal microscopy and structured illumination microscopy showed that YATA colocalizes with COPI and GM130, a cis-Golgi marker. Analyses using transgenically expressed YATA with a modified N-terminal sequence revealed that the N-terminal portion of YATA is required for the proper subcellular localization of YATA. Analysis using transgenically expressed YATA proteins in which the C-terminal sequence was modified revealed a function for the C-terminal portion of YATA in the subcellular localization of COPI. Notably, when YATA was mislocalized, it also caused the mislocalization of COPI, indicating that YATA plays a role in directing COPI to the proper subcellular site. Moreover, when both YATA and COPI were mislocalized, the staining pattern of GM130 revealed Golgi with abnormal elongated shapes. Thus, our in vivo data indicate that YATA plays a role in the proper subcellular localization of COPI.
出版者
文部科学省
巻号頁・発行日
2010-03