著者
大和 雅之 秋山 義勝 中山 正道 小林 純 長瀬 健一 高橋 宏伸 清水 達也
出版者
東京女子医科大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

成長因子を固定化可能なヘパリン固定化温度応答性細胞培養表面を新たに開発し、肝細胞シートの作製に応用した。従来よりも少ない成長因子の量で肝細胞シートが作製でき、さらに肝特異的な機能がより長期的に維持されていることも明らかにした。パターン化温度応答性細胞培養表面の作製技術を開発し、神経組織構築ための基盤技術として応用した。また、光照射重合を利用した新規な温度応答性細胞培養表面技術の開発にも成功した。ロボット工学技術を取り入れることで、共培養細胞シート作製や細胞シート移植、積層化を支援するための装置、デバイスこれら技術を組み合わせることで、簡便にかつ高速な軟組織作製への応用が期待できる。
著者
林 利彦 大和 雅之 水野 一乗 今村 保忠
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

生体の器官・組織のインフラストラクチャーはコラーゲンの傾斜構造で骨格が形成されている。血管壁では血管の内皮からコラーゲンについてはIV型コラーゲン、V型コラーゲン、III型コラーゲン、I型コラーゲンの傾斜になっている。細胞の種類についても、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞の傾斜がある。コラーゲンの傾斜構造に沿って、異なる細胞が配置されていることが多細胞系の機能発現・恒常性維持に関係する可能性がある。本年度はIV型コラーゲンゲルを培養基質として、ラット肝星細胞(初代細胞)、ヒト大動脈平滑筋細胞、ヒト腎糸球体メサンジウム細胞、継代したラット肝星細胞の挙動を検討した。比較にI型コラーゲンゲル等を用いた。星細胞はI型コラーゲンゲル上では二極性を示し、IV型コラーゲンゲル上では細胞は星形の形態を示した。IV型コラーゲンゲルにおいては細胞は互いに突起の先端同士で、接合しており、生体内での形態と類似していた。細胞はIV型コラーゲンゲル上では増殖しなかった。培養皿上で継代培養したラット肝星細胞は培養の早期から増殖能を発揮する。このように変化し、ミオフィブロブラスト様になった星細胞はIV型コラーゲンゲル上では増殖が抑制された。肝臓星細胞と共通の性質を有するといわれる血管平滑筋細胞、腎糸球体メサンジウム細胞でも同様にIV型コラーゲンゲル上では、細胞の形態、細胞間の接合および増殖の抑制が見られた。血管内皮細胞はIV型コラーゲンゲルに接着はするものの伸展は殆ど見られなかった。IV型コラーゲンゲルは細胞基質として特異の特徴を有し、生体内での細胞分化に重要な役割を果たしている可能性がはじめて示された。
著者
岡野 光夫 大和 雅之 菊池 明彦 横山 昌幸 秋山 義勝 清水 達也 KUSHIDA Ai 青柳 隆夫
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、温度変化に応答して水溶性を大きく変化させる温度応答性高分子のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)とその誘導体で修飾した温度応答性パターン化表面を、電子線重合法を用いて作製し、これら表面の物性解析と異なる細胞種を用いた共培養、ならびに共培養細胞シートの作製への応用可能性を追究した。今年度は、パターンサイズの異なるパターン化温度応答性表面を作製した。具体的には、電子線重合法によりPIPAAmであらかじめ修飾された表面に、疎水性モノマーのブチルメタクリレート(BMA)溶液を塗布、パターンサイズの異なるマスクを介して電子線照射し、パターン化温度応答性表面を調製した。このとき、パターンサイズが100μm程度では、照射電子線の潜り込み等によりパターンサイズがマスクに比して変化する可能性が示唆された。この手法で、温度制御により部位特異的に親水性/疎水性(細胞非接着性/接着性)を制御しうる表面が調製できた。これらの表面を用い、肝実質細胞と、血管内皮細胞のパターン化共培養系を構築した。さらに、培養皿表面全体が親水性を示す20℃ですべての細胞を、パターン化形状を維持したまま1枚のシートとして回収できた。次に、共培養による肝実質細胞機能の変化をみるために、肝実質細胞から産生されるアルブミンの定量、ならびにアンモニア代謝に伴う尿素合成能を解析した。パターン化共培養により、いずれの機能も肝実質細胞単独培養系に比して高い数値を示した。さらにパターンサイズが小さいほど機能亢進することが明らかとなった。このとき、より小さなパターン化共培養系で肝実質細胞の培養期間が延長できる点も明らかとなった。以上の結果は、肝実質細胞と内皮細胞シートとの重層化によって得られた知見とよく一致していたことから、細胞-細胞間の距離がきわめて重要な影響を与え、細胞機能の発現につながるものと考えられる。
著者
岡野 光夫 大和 雅之 清水 達也 中山 正道 秋山 義勝 原口 裕次 菊池 明彦 串田 愛
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)をポリスチレン表面にグラフトした温度応答性培養皿を利用した、細胞シート工学的手法をさらに発展させることを目的として、(1)種々の生理活性因子を温度応答性表面に固定化し、ウシ胎児血清(狂牛病等の異種感染を完全には否定できない)や患者自己血清(患者毎に生理活性が異なりうる)を必要としない温度応答性培養床を開発、さらに本技術を応用し(2)細胞増殖を加速化し、短期間で細胞シートを作成することにも成功した。具体的には、温度応答性培養皿表面に、生理活性物質が固定化可能な結合サイトを導入し、RGDのような生理活性ペプチドを導入することで無血清培養条件下での細胞シート回収に成功した。また、スペーサーを介してPHSRN(RDGのシナジー配列)とをRDGと共固定することで細胞接着性が向上し、共固定の細胞培養における有用性を明らかにした。(2)さらに、RGDとインスリンの共固定した表面で細胞培養を行うことで、液中にインスリンが存在するよりも、細胞増殖が加速され短期間に細胞シートが作製できることを明らかにした。生理活性物質の固定にはアビジン、ビオチンケミストリーの利用も有効であることを明らかにした。今後、既に臨床応用をおこなっている皮膚表皮細胞シート、角膜上皮細胞シートの他、臨床応用を目指している角膜内皮細胞シート、網膜色素上皮細胞シート、心筋細胞シート、肺胞細胞シート等、それぞれの細胞種に最適化した固定化する生理活性子の組み合わせ、各々の因子の濃度を検討中である。
著者
大和 雅之 秋山 義勝 小林 純 飛田 聡 菊池 明彦
出版者
東京女子医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

電子線重合法により種々のモノマー濃度で温度応答性高分子のナノ構造体をガラス表面に固定化し、そのナノ構造体の特性をXPS、AFMや新たに開発したラマン分光イメージングを用いて詳細に調べるとともに、構造体の特性が細胞接着および脱着に与える影響についても調べた。その結果、ナノ構造体の厚みが薄ければ薄いほど、再表面の高分子鎖は脱水和され細胞接着性を示すのに対し、厚い構造体の場合は相転移以上の温度でも水和しやすく細胞非接着性を示すことを見出した。
著者
原田 幸一 魏 長年 皆本 景子 上田 厚
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

い草染土や珪藻土じん肺の発症メカニズムならびに修飾因子を解明するため、動物実験や環境調査をおこなった。珪藻土曝露ラットでは、肺胞洗浄液に好中球数が増加したが、マクロファージ数は、減少し、貪食した二酸化ケイ素により融解または破壊されることが考えられた。紫外線吸収剤は、実用品に添加される濃度では、感作性はみられず、日焼け止めの化粧などが、炎天下のい草栽培ほ場での日射作業の有効な対策となることがわかった。泥染処理のない草製織による畳表製造がおこなわれており、い草染土粉じん曝露対策としては、有効な対策であると解された。
著者
ニヨンサバ フランソワ 秋山 俊洋 キアツラヤノン チャニサ 梅原 芳恵 スミスリッティ リッティ 池田 志斈 奥村 康 小川 秀興
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

LL-37のタイトジャンクション(TJ)バリア機能に及ぼす影響を調べた結果,LL-37がケラチノサイトの分化マーカーとTJ構成タンパクの発現を増加し,さらに,TJバリア機能を強化した.また,β-デフェンシン-3がLL-37同様にRac1,非定型的PKC,グリコーゲン合成酵素キナーゼ3とPI3Kの経路を介して,TJバリア機能を調整することが分かった.また,LL-37等の抗菌ペプチドがバリア機能の調節だけではなく,痒みの抑制と抗炎症作用にも関与することを確認した.これらの結果は,LL-37等が皮膚の感染防御とアトピー性皮膚炎等の病変形成のメカニズムと治療法に大きなインパクトを与えると考えられる.
著者
野津 憲治 藤井 直之 森 俊哉
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

マグマ揮発性物質は、火山ガスとして山頂火口や山腹噴気孔から放出しているだけでなく、火山体表面全体から拡散放出している。本研究では伊豆東部火山群の単成火山直下のマグマの動きをマグマ揮発性物質の拡散放出から捉えようとした。1989年の海底噴火で形成した手石海丘では、火口底直上の海水の精密化学・同位体分析から極めて少量のマグマ-熱水起源のCO2とCH4の放出を検出した。最近の群発地震震央域の陸上部分や2700年前の割れ目噴火域では、マグマ起源CO2の拡散放出は検出できなかった。4000年前に生成した大室山では、CO2拡散放出量は火口内で少し高く、積算放出量は(22+2)トン/日であった。
著者
古瀬 充宏 友永 省三 安尾 しのぶ 安尾 しのぶ
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

L-トリプトファンの代謝産物であるキヌレン酸にストレス軽減効果が認められ、その効果はα7nACh受容体とNMDA受容体を介することが明らかになった。L-アスパラギン酸はNMDA受容体を、D-アスパラギン酸はNMDA受容体と他の受容体を介してストレス軽減に機能することが判明した。不安様行動に対し、L-セリンの単回ならびに長期投与が異なる反応を示すことを認めた。多動性を示す動物の脳では、L-チロシンがD-チロシンに変換されやすく、L-セリンが減少していることが判明し、アミノ酸栄養による改善の可能性が示唆された。
著者
大和 雅之
出版者
日本大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

プラスチックやガラスのような可塑性をもたない培養基質上に接着した細胞は、細胞底面のごく限られた部分でのみ基質と接着し、この接着部位は接着斑と呼ばれる。接着斑には、細胞外マトリックスリセプターが濃縮し、細胞骨格としてアクチン線維の末端が繋留する。接着斑には、ビンキュリンやテーリンなどの接着構造を維持するのに必要な分子の他に、情報伝達に関与することが知られているPLC-_γなどの分子群も濃縮している。しかし、生体内ではこのような硬質の接着基質は存在せず、血管内皮などの例外を除いて、接着斑は観察されていない。本研究では生体内で細胞と細胞外マトリックスとの接着構造を検討することを最終目標に、そのモデル系として三次元コラーゲンゲル内培養を用いて、I型コラーゲンと線維芽細胞の間の接着構造について、螢光抗体法により共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて検討した。線維芽細胞は、三次元培養系では二次元培養の接着斑のような局所的な接着部位を形成せず、細胞表面全面にわたって接着斑よりも小さなバッチ状の接着部位を作った。ここには、α2β1インテグリンの他、ビンキュリンも濃縮しており、接着構造を構成する分子は、基本的に二次元培養と同一であると思われる。現在、他の構成分子についても検討中である。線維芽細胞は、三次元コラーゲンゲル内で、きわめて細長い紡鐘形をとるが、このときストレスファイバーは細胞長軸に両末端を接続するように並走する。ストレスファイバーとインテグリン、ビンキュリンの共局在は、共焦点レーザー走査顕微鏡の解像度では、観察されなかった。ストレスファイバーよりも微細なアクチン線維の組織化状態との関係については、今後、電子顕微鏡レベルでの検討を加えたい。アクチン線維を断裂させるサイトカラシンを低濃度で培地に添加すると、アクチン線維が断裂するにも関わらず、細胞形態はほとんど変化しない。断裂の結果、アクチン線維はパッチ状に細胞膜直下に観察された。この断裂したアクチン線維のパッチとインテグリン、ビンキュリンの濃縮する接着構造の共局在が認められるかについて現在検討中である。
著者
大和 雅之
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ラット背部皮膚および人工的に作成した創傷部位について、共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて、免疫組織学的検討をおこなった。培養細胞では高度の組織化が観察されるアクチン線維は、正常真皮中に存在する線維芽細胞ではまったく観察されなかった。β1インテグリンは、表皮細胞や毛包細胞では発現していたが、その局在は細胞-基質間接着ではなく細胞-細胞間接着に関与することを強く示唆するものであった。正常真皮中の線維芽細胞ではβ1インテグリンは検出されなかったが、創傷治癒部位の線維芽細胞では、血球系の細胞と共に強く発現していた。創傷治癒部位の線維芽細胞はアクチン線維の組織化も観察された。正常真皮中の線維芽細胞は、大量のコラーゲン線維によって三次元的に覆われているため、抗体が認識するエピトープがインテグリン細胞外ドメインにある場合、コラーゲン線維によるマスキングの可能性を否定できないが、インテグリン細胞質ドメインを認識するポリクローナル抗体を用いても同一の結果がえられたので、マスキングはないと結論した。有限寿命をもつ正常二倍体線維芽細胞を用いた、基質接着部位に濃縮する種々の分子の抗体染色の結果は、これまでに用いられてきた無限寿命をもつNIH3T3やSwiss3T3と同様であった。培養細胞では非常によくその発現を検出できるFAKは、正常組織では、ほとんど検出できなかった。以上の結果は、培養細胞系は、創傷治癒部位の線維芽細胞とは似ているものの、正常真皮中の線維芽細胞とは大きく異なることを示唆している。
著者
大和 雅之
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1 短時間で細胞を脱着させる温度応答性培養床表面の創製:温度応答性培養皿からの非侵襲的な細胞脱着は、培養皿表面に固定化した温度応答性高分子が低温処理にともない親水性化して、細胞接着分子との相互作用を減少させることを必要とするため、培養皿表面に固定化した温度応答性高分子への水の供給の制御は重要である。これまでに作成した温度応答性培養皿は市販のポリスチレン製細胞培養皿上に固定化していたが、ポリスチレンは疎水性を示し、水分子の供給という観点からは最適ではないと考えられる。今回、この点に着目し、微小孔(直径1μm以下)より水分子が容易に侵入できる多孔性膜上に温度応答性高分子をグラフトした。PIPAAmのグラフト量が同程度であ、直径を同一にした従来型の培養皿に比べ、細胞や細胞シートをより早くより完全に脱着させることに成功した。また脱着の加速化の程度は、細胞シートの場合により顕著であった。2 サイトカインによる細胞脱着速度の制御:これまでの研究で、低温処理により細胞が温度応答性培養床表面から脱着するには、ATPを消費して発生する細胞骨格に起因する収縮力が必要であることが明らかになっている。種々の因子により細胞骨格の再組織化に関与する情報伝達系を刺激することができるが、これらのうち、ATP,dbcAMP、各種細胞成長因子、カルシウムイオノフォアを検討した。いずれを用いても顕著な加速化を達成する条件は得らなかった。3 サポータを用いた脱着過程の短時間化:温度応答性培養皿から回収した細胞シートを組織工学的に応用することを目標として、欠陥のない細胞シートを回収し、別表面に移動して再接着する種々の条件を精緻化する過程で、条件の最適化により脱着に要する時間を十倍以上短縮することに成功した。これらの成果の一部についてはすでに論文発表した。残りについても今後発表していく予定である。
著者
大和 雅之 篠崎 和美 堀 貞夫 清水 達也 青柳 隆夫
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

我々は細胞シート工学を提案し、その体系的追求に尽力している。細胞シート工学とは、生分解性高分子製足場を一切用いることなく、細胞-細胞間接着と細胞自身が培養の間に作り出す細胞外マトリックスによりシート状をなす細胞集団すなわち細胞シートを根幹単位として、細胞シートを用いて組織構造を再構築する技術の総称である。通常、培養細胞の回収に用いられるトリプシンなどのタンパク質分解酵素は細胞-細胞間接着を破壊してしまうため、通常、細胞シーとして回収することはできない。この問題を解決するため、我々は温度応答性培養表面を開発した。温度応答性培養表面には、温度に応じて親水性・疎水性を大きく変化させる温度応答性高分子が共有結合的に固定化されており、タンパク質分解酵素を用いることなく、温度を下げるだけで培養細胞をまったく非侵襲的に回収することができる。細胞シートは底面に培養の間に沈着した細胞外マトリックスを接着したまま回収されるため、容易に他の表面に接着する。温度応答性培養皿を用いて作製した角膜上皮細胞シートをウサギ角膜上皮幹細胞疲弊症モデルに移植し、十分な治療成績が得られることを確認した。通常、角膜移植では縫合が必須であるが、温度応答性培養皿を用いて作製した角膜上皮細胞シートは5分程度で角膜実層に接着し、縫合の必要がまったくなかった。また、細胞-細胞間接着が維持されているため、移植直後からきわめて良好なバリア機能を有していた。これらの成果をふまえ、大阪大学眼科との共同研により平成14年12月より臨床応用を開始し、全例で治療に成功した。本技術は熱傷やスティーブンス・ジョンソン症候群などの角膜上皮幹細胞疲弊症の治療に大きく貢献することが期待された。
著者
大和 雅之 清水 達也
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

我々は、温度に応じて水との親和性を大きく変化させる温度応答性高分子であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を培養皿表面に共有結合的に固定化することにより温度応答性培養皿を開発した。この表面は、37℃では市販の培養皿と同程度の弱い疎水性を示し様々な細胞が接着・伸展するが、温度を32℃以下に下げると高度の親水性を示し、トリプシンなどのタンパク質分解酵素を必要とすることなく細胞を脱着させることができる。コンフレントな細胞層を形成させた後に低温処理すると、全細胞を細胞?細胞間接着により連結した一枚の細胞シートとして脱着を・回収することができる。本研究は新しいハイブリッド型人工尿細管の開発をめざして、温度応答性培養皿を用いて作製した腎尿細管上皮細胞シートを多孔膜上に再接着させ、再吸収能・物質産生能の機能評価をおこなう。本年度に以下の成果を得た。(1)ヒト尿細管上皮細胞シートの作製:昨年度に用いていたイヌ近位尿細管上皮細胞由来株細胞に代えて、正常ヒト尿細管上皮細胞を温度応答性培養皿上で培養し、細胞シートとして回収する条件を確立した。臨床を考慮すると正常ヒト細胞の利用は必須であるが、株化(無限寿命化していない正常)していない正常ヒト尿細管上皮細胞を用いても、培養条件を工夫することにより、細胞シートとして回収し、平膜型透析デバイスに組み込むことができた。(2)物質輸送能に必要な分子群の発現、局在化:人工尿細管デバイスとしての機能に要求される種々の物質輸送関連分子の発現と局在を確認するために、免疫染色後に、共焦点レーザー走査顕微鏡により細胞シート縦断面像作製した。トリプシンで回収し、透析膜上に播種したコントロール群に比べ、有意に良好な局在が認められた。以上により、腎尿細管上皮細胞シートを利用したハイブリッド型人工尿細管の開発の可能性が示された。
著者
大和 雅之 菊池 明彦 秋山 義勝 西田 幸二 串田 愛
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、3T3フィーダーレイヤーを完全に代替することを目的として、上皮幹細胞を維持・増殖させるのに必要な生理活性因子を固定化し、なお温度に応答して細胞シートを脱着させる次世代型温度応答性培養皿の開発を目的としている。カルチャーインサートを用いた実験、および上皮幹細胞を播種するまでの時間を変え効果を比較する実験等の予備的検討から、3T3フィーダーレイヤー由来の生理活性因子の少なくとも一部として細胞外マトリックス構成分子が機能していることを明らかにした(論文投稿準備中)。次に、3T3フィーダーレイヤー由来生理活性因子の検索の際にポジティブコントロールおよびネガティブコントロールとして用いるマウス細胞株を決定するために、種々のマウス由来細胞株をフィーダーレイヤーとして用い、角膜上皮細胞のコロニー形成能、重層化を評価した。本方法で選択したポジティブコントロール、ネガティブコントロールの細胞株からmRNAを単離し、TaqMan PCRを用いた定量化により約30種の細胞外マトリックス遺伝子について網羅的検索を行い、3T3と比較した。この方法でフィーダーレイヤー活性に関与する可能性をもつ数種の遺伝子を同定することができた(論文投稿準備中)。現在、これらの遺伝子産物を培養系に添加する実験、およびこれらの特異的な抗体を培地に添加する阻害実験といった細胞生物学的手法により、それら候補分子の上皮幹細胞に対する生理活性を検討中である。また、培地に添加する方法以外に、カルボキシル基を導入した温度応答性培養皿表面に共有結合的に固定化する方法もあわせて検討している。すでに、RGDペプチドやインシュリンなど生理活性分子を固定化した温度応答性培養皿を利用して、血管内皮細胞の接着性や増殖性が亢進することを確認している。現在、上記候補分子を結合した培養皿上での上皮幹細胞培養条件について検討を進めている。
著者
Son Suyoung 栃原 裕 Lee Joo-Young 村木 里志
出版者
独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

最近、災害現場などで防護服着用は不可欠であるが、防護服着用は着用者に動作性の低下をまねくことが知られている。各種防護服の異なるデザインや重量、着用者の運動能力、労働現場の環境温度を考慮する防護服着用時の動作性標準評価テストが必要と考えられ、防護服着用時の動作性を評価できる標準テスト方法の提案を着想することに至った。本研究では、様々な防護服着用による動作性を検討し、防護服着用時の動作性を評価できる基準値を含む標準評価テスト方法を提案することを目的とした。各種防護服着用時の動作性の検討を行うため、 個人装備着用時の関節可動域、作業及び運動能力、バランス能力などの測定を行った。
著者
鴻野 わか菜
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,20世紀ロシアにおける文学と文化(主に映画と美術)の相関性を例示し,分析することを目的として,ソ連地下芸術の一派であるモスクワ・コンセプチュアリズム美術(イリヤ・カバコフ),20世紀初頭のロシア象徴主義文学(アンドレイ・ベールイ),現代映画,現代詩について,文化史的な観点から分析を行った。研究成果の一部は,日本語とロシア語で,国内外の学術誌,書籍,研究会等で発表された。
著者
井田 尚
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

「百科全書」(1751-72)を対象に、「誤謬」(《erreurs》)の語を含む全項目を調査し、科学項目の記述内容を詳細に分析した。その結果、「百科全書」の科学項目で記述される誤謬には、語彙のメタファー的使用に発する誤謬、対立仮説へのレッテル貼りとしての誤謬、俗信・迷信としての誤謬、不動の真理から誤謬に転じた「支配的誤謬」、誤謬から真理に転じた過渡的誤謬など、様々なケースが見られることが分かった。
著者
竹内 聖悟
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

ゲーム情報学の分野において、将棋や囲碁、チェスなどの二人零和有限確定完全情報ゲームを対象として研究を行った。この分野における大きな研究目的に人間に勝つような強いプログラムを作ることがあるが、そのためには評価関数(形勢判断)とゲーム木探索(先読み)が重要であり、両者の改良について多くの研究がされている。評価関数やゲーム木探索の性能を評価するには、一般に対戦が用いられるが、時間がかかることや結果のフィードバックがないなどの問題がある。この問題点を解決するための手法として、棋譜データとプログラムの評価関数との関係を見るEvaluation Curveなどの評価手法を報告者は提案し、その有効性を示してきた。本年度は、対戦実験など性能評価に関する実験データの追加・充実した。モンテカルロ木探索はコンピュータ囲碁で大きな成功を収めた手法で、他のゲームでも応用が試されている。しかし、将棋やチェスでは、従来手法に匹敵する成果は得られていない。モンテカルロ木探索の試みの中で評価関数とモンテカルロ木探索を組み合わせる手法があり、いくつかのゲームでは従来のモンテカルロ木探索、従来のアルファベータ探索よりも良い性能を得ることに成功した例が報告されている。これまでの研究や、モンテカルロ木探索と評価関数両者の性能評価を行ってきた知識と経験を生かし、本年度はモンテカルロ木探索手法と評価関数を組み合わせる手法についてコンピュータ将棋を題材として研究を行なった。その中では、昨年度取り扱った静止探索を組み合わせることを提案し、従来のアルファベータ探索には及ばなかったが、従来のモンテカルロ木探索手法、評価関数だけを使ったモンテカルロ木探索手法よりも性能が良くなることを示した。
著者
落合 友四郎
出版者
大妻女子大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

透明マントを実現させる上で困難になるポイントとしては、光を大きく曲げるときに、極端に高い(または低い)屈性率を持つ物質が必要となる点である。特に、波長が短くなればなるほど、その波長に対応するメタマテリアルなどの素材を作るのは難しくなる。この高い屈折率をもつ物質が必要となる困難を避けながら、物を隠す方法として、従来の透明マントとは別の方法としてカーペットクローキングが考案された。それは、フラットな鏡の中央部に膨らんだ窪みがあるが、光が入射すると窪みの周りを光が迂回して、外側から見るとあたかも完全にフラットな鏡にみえるという装置である。完全なクローキングを実現するには、高い屈折率が必要であり、技術的な難しさがある。それに比べて、カーペットクローキングはより緩和な屈折率で実現できる。カーペットクローキングを設計する方法のひとつとして、ラプラス変換を用いるやり方を提案したが、ラプラス変換に用いられる関数形と、カーペットクローキングの境界形状の関係が興味深くなる。通常、ラプラス変換に用いられる関数形が決まると、境界形状が決定されるが、この方法の逆問題として、カーペットクローキングの境界の形状からラプラス変換に用いられる関数形を推定する方法論を調べた。また、透明マントの設計方法には、座標変換を用いるもの以外にも、境界条件を用いて定式化する方法もある。これは、座標変換を用いる方法よりも直接的な方法であり、さらに深い知見を得ることができる。いままで考案してきた透明マントの設計を、境界条件を用いる方法で解析した。