著者
木原 淳
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.417-442, 2015-03

何故に労働の投下が,物件と身体を同質化するのか,またそのことと,身体の法的性質はどのような関係にあるのだろうか。本稿はこの問題の端緒としてロックとカントの所有論と対照する。両者は共に,契約による所有の根拠づけを拒否する点では共通するが,カントはロックの労働所有説を批判し,所有制度の淵源を,領土高権を背景とする土地所有制度に求める。これは所有権のもつ公共性を重視した現実的な思考ではあるものの,この思考は身体と所有との密接な関わりを完全に排除しており,身体と所有にかかわる限界事例に対して無力なものとなっている。そのような観点から,熊野純彦の議論を参照しつつ,所有と身体ないし生命との密接な関連を明らかにし,身体をめぐる法的問題の指針とすることを目的とする。
著者
渡辺,伸一
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.7, 2001-10-31

環境の保護は,社会的に重要な課題である。しかし,環境保護の実際をみると,学術的な重要性や,保護が生み出す受益のために,特定の少数者に過重な負担や受忍を強いる例が散見される。「奈良のシカ」の事例は,こうした問題がみられてきた典型例である。奈良のシカは,「奈良公園の風景の中にとけこんで,わが国では数少ないすぐれた動物景観をうみ出している」とされる天然記念物であり,奈良における最も重要な観光資源の一つでもある。が,当地では,このシカによる農業被害(「鹿害」)を巡り,シカを保護する側(国,県,市,春日大社,愛護会)と被害農家との間での対立,紛争が長期化し,1979年には被害農家による提訴という事態にまで至ってしまった。本稿では,まず,鹿害問題の深刻化過程をみた後に,紛争長期化の背景を,「シカが生み出す多様な受益の維持」「保護主体間の責任関係の曖昧性」「受苦圈と受益圈の分解」「各保護主体にとっての保護目的の違い」等に着目しながら検討した。鹿害訴訟の提訴と和解(1985年)は,被害農家が長期に亘って強いられてきた状況を大さく改善させる契機となった。しかし,この新しい鹿害対策も,十分には機能してこなかった。そこで,後半では,鹿害対策の現状に検討を加えた上で,依然として問題の未解決状態が続いている理由と問題解決への糸口について考察した。

2 0 0 0 白象物語

著者
ジョルジュ・サンド 作
出版者
アルス
巻号頁・発行日
1943
著者
戸出 一郎 三浦 一恵 深山 治久
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.189-194, 2010-04-01

鎌倉時代を代表する梶原性全は「頓医抄」並びに「万安方」の著者として有名である.今回の目的は,両書から口腔領域に関する部分を抽出して,我が国口腔医史学における両書の位置を推察し,価値を顕彰して今後の研究資料とすることである.「頓医抄」は正安四年(1302年)から嘉元二年(1304年)に書かれた.中国の先進医術を日本の大衆に広め衆生救済が編纂目的であり,全体をわかりやすい和文て書かれている.参考文献としては,「諸病源候論」「太平聖恵方」をはじめ,中国古医書からとられている.基本的医学観は経絡を軸とし陰陽五行説を背景とした内経医学であり,仏教的慈悲の心も随所に認められる.「万安方」は正和二年(1313年)頃から書かれ嘉暦二年(1327年)に完成した.参考文献はほとんど「聖済総録」からである.編纂目的は「頓医抄」の場合と異なり,医術を自家の家学として伝え保存するためであり,全体は漢文で書かれ,他見を禁じている.
著者
松本 豊寿
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.97-112, 1962-03-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
13

近世城下町は典形的な身分制都市であり特権都市である.前者から士庶居住区分制が問題となり,後者からは都市域の特権的分化が検討されねばらない. 侍町と町屋は対立する都市域であるとともに経済的には結合せんとする性質をもつ.街村状町屋と団塊状町屋を基本系列とし,これと侍町が結合して最終的には,江戸で代表される4段階と8つのタイプが設定される.これら類型群は同時にまた発達段階をも示すものである.特権都市としての城下町では営業の地域的独占制とそれと関連する同業町の成立が当面の課題となる.とくに特権町人と結ぶ中心街区の町座や株組織の結成は重要で,ここに城下町の中の城下町としての封建的都心が形成される.城下町都心は機能の専門化=同業者集住と機能の複合化=業種の多様性という相反する両面をもち,それをみたすために都心部の膨脹と大型化が促進される.封建的都心には当然のこととして地域差が存在するが,他面城下町自体の大小も問題となる.小城下町では都心と非都心部の地域構造上の断層が著しくなく,それだけ都心の成長と発達はルーズである.
著者
Akira Yasuda Daichi Inami Mitsumasa Hanaoka
出版者
Applied Microbiology, Molecular and Cellular Biosciences Research Foundation
雑誌
The Journal of General and Applied Microbiology (ISSN:00221260)
巻号頁・発行日
pp.2020.01.010, (Released:2020-04-07)
参考文献数
31
被引用文献数
4

In cyanobacteria, transcription of a set of genes is specifically induced by high-light-stress conditions. In previous studies, RpaB, a response regulator of the two-component system, was shown to be involved in this regulation in vitro and in vivo. In this study, we examined whether RpaB-dependent transcriptional regulation was extensively observed, not only under high-light-stress conditions but also under various light intensities. Transcription of high-light-dependent genes hliA, nblA and rpoD3 was transiently and drastically induced during a dark-to-light shift in a manner similar to high-light-stress responses. Moreover, expression of these genes was activated under various light-intensity upshift conditions. Phos-tag SDS-PAGE experiments showed that the phosphorylation level of RpaB was decreased along with transcriptional induction of target genes in all of the light environments examined herein. These results suggest that RpaB may be widely involved in transcriptional regulation under dark-to-light and light-intensity upshift conditions and that high-light-responsive genes may be required in various light conditions other than high-light condition. Furthermore, it is hypothesised that RpaB is regulated by redox-dependent signals rather than by high-light-stress-dependent signals.
著者
阿曽沼 明裕
出版者
筑波大学大学研究センター
雑誌
大学研究 (ISSN:09160264)
巻号頁・発行日
no.18, pp.207-228, 1998-03

近年、科学研究・学術研究に対する社会的な圧力が高まっているように見える。経済低成長の下で、財政的に厳しい状況の中、国際競争力を獲得する手段として科学研究への期待が高まっており、また、経済的ニーズのみならず、環境問題 ...
著者
朝田 隆
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.224-226, 2018-03-16 (Released:2018-04-20)
参考文献数
8

高齢化社会の進行とともに認知症,特にアルツハイマー病(AD)の問題がクローズアップされる.特に,近年その予防が注目されるようになり,多くの研究報告がなされている.これまでの認知症予防法研究において,最大のエビデンスをもつものが運動の習慣であり,特に有酸素運動の効果が強調されてきた.また,最近ではその効果のメカニズムについても示されつつある.こうしたところから,2018年初頭にアメリカから軽度認知障害(MCI)についての新たなガイドラインが示され,規則的な運動を週に2回程度,6カ月以上にわたって続ければ有効とする良質な報告が相当数存在するとも強調されている.
著者
白砂 恭子 渕田 英津子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20190716061, (Released:2019-11-08)
参考文献数
26

目的:日本における高齢者が健康に独居生活を送れる条件を検討する。方法:『医中誌Web』で検索し,18件を分析対象文献とした。結果:高齢者自身の条件である〔個人の特性〕〔意図した活動〕〔日常生活活動の維持〕と,高齢者を取り巻く条件である〔孤独との向き合い方〕〔安心できる生活環境〕が抽出された。高齢者が健康に独居生活を送る記述内容は,19の身体的健康,20の精神的健康,27の社会的健康に分類された。結論:高齢者自身の条件は,生活習慣や価値観などは個々で大きく異なるため,高齢者自身が物事を能動的に決定できることが健康な生活の継続に関係していると推察された。また,高齢者を取り巻く条件は,他者との関係性や生活環境が要因になると考えられた。さらに,社会的健康が多く分類されたことから,高齢者が健康に独居生活を送るためには人や社会とのつながりが重要であることが示唆された。
著者
村社 卓
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.32-45, 2018-02-28 (Released:2018-06-22)
参考文献数
29

本稿の研究目的は,高齢者の孤立予防に関わるボランティアの継続特性について,実証的,構造的に明らかにすることである.特に,ボランティアの「楽しさ」に焦点を当てている.研究方法は定性的研究法である.データ収集は3年以上にわたる参与観察とインタビューにより行った.データ分析には定性的コーディングを用いた.分析の結果,ボランティアの継続は推進と維持の2機能によって可能となり,両者は相補的な関係にあった.継続の推進は「双方向の体験によって生じる活動への没頭と意欲的な試み」,継続の維持は「無理のない姿勢によって生じる活動での気楽さと自己管理による改善」と定義できた.推進と維持の内容は,「要因」「感情」「行動」の視点からそれぞれ明らかにした.さらに,「フロー理論」との比較検討による継続特性も提示した.本研究の成果は,高齢者の孤立予防に関わるボランティアへの支援内容の提示および研修プログラム作成に貢献するものである.
著者
小林 美亜 石川 翔吾 上野 秀樹 竹林 洋一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.248-253, 2019-07-25 (Released:2019-07-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1

近年,人工知能(AI)やロボット技術の発展に伴い,ヘルスケア領域の研究が盛んにおこなわれている.そして,高齢者の身体機能・認知機能を維持・改善するためのアプローチにも,AIが搭載されたコミュニケーションロボットなどが活用されるようになった.しかし,「意味」を理解したり,「状況」を考慮したり,「人間のように」思考することのモデル化を目指したAI研究は,依然として発展途上である.そこで,人工知能学に基づき,認知機能が低下した方々に対する「見立て知」のモデルを構造化し,介護者等がその知を習得し,活用できる環境を整えることによって,適切な治療やケアにつなげたいと考える.