著者
西谷 大
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.108, pp.407-422, 2003-10

日本列島において,ブタは大陸からもたらされた可能性が高い。しかしブタを農耕に取り込むといった特異な循環システムをもつ中国的集約農耕は,弥生時代およびそれ以降の日本の歴史においても,琉球列島を除いた日本列島には存在しなかった。またブタ自体も奈良時代以降は飼養しなくなるという歴史をもつ。本稿ではこの問題を,海南島のブタ飼養の歴史と,黎族のブタを重要視しない生業システムと比較しながら論じた。海南島において,黎族がブタを日常的に飼養するのは明代に至ってからだと考えられる。その要因は海南島における大陸からの漢族移住による人口圧のためのブタ肉の需要拡大が背景にあり,黎族とっては鉄製品や塩の交換品としてのブタの付加価値が,ブタ飼養を受容した要因だったと推測できる。しかし黎族は,中国的集約農耕によるブタ飼養方法は受容しなかった。そのかわりに,水田,焼畑,狩猟採集,家畜といった生業を複合的に維持しつづけた。その特徴は,焼畑という自然界に作られた「大きな罠」を利用し,野生動物を日常的に狩猟するシステムを農耕内部に作り上げたことにあった。これが人為的な循環システムに頼る中国的集約農耕とは大きく異なる点であり,またブタをそれほど重視しない生業を維持することが可能な要因だったと考えられる。琉球列島を除く日本列島の農耕は,海南島の黎族と同様に中国的集約農耕へと向かわなかっただけでなく,大陸の中国的集約農耕が卓越する地域ではすでに消滅した焼畑を,戦後の1970年代までおこないつづけた。日本列島における焼畑がどこまで遡るかは今後の研究課題であるが,日本のブタ飼養の問題をとりあげる場合,焼畑が有する野生動物の多様な利用に注目する必要があろう。There is a strong possibility that pigs were brought to the Japanese archipelago from the continent. However, the Chinese style of intensive agriculture with a singular rotational system that incorporated pigs into agriculture did not, with the exception of the Ryukyu Islands, exist in Japan during the Yayoi period or any later period in Japanese history. History also tells us that the raising of pigs ceased after the Nara period. This paper studies this question by comparing the history of pig farming on Hainan Island with the livelihood systems of the Li tribe that did not pay particular attention to pigs.It is believed that it wasn't until the Ming period that the Li tribe on Hainan Island began to raise pigs as part of their everyday lives. The reason for this is connected to the increase in demand for pork generated by population pressure on Hainan Island and it may be surmised that the acceptance of pig farming by the Li tribe is attributable to the added value that pigs had as goods that could be exchanged for iron products and salt.However, the Li tribe did not introduce a method of pig farming that follows the Chinese style of intensive agriculture. Instead, they continued to maintain livelihoods that involved wet rice paddies, slash-and-burn fields, hunting and gathering and domesticated livestock. The distinguishing feature of this style of livelihood was the use of "large traps" that were built in slash-and-burn fields that are part of the natural world, and the way they created a system for the daily trapping of wild animals within their agricultural system. This is vastly different from the Chinese style of intensive agriculture that relied on a man-made rotational system, and is believed to be one factor that made it possible to maintain a way of life that did not pay much attention to pigs.Not only was the Japanese archipelago, with the exception of the Ryukyu Islands, the same as Hainan Island in that it did not turn to the Chinese style of intensive agriculture, but slash-and-burn fields that had already disappeared from regions where the continental Chinese style of intensive agriculture had been prominent continued to be used after the Second World War up until the 1970s. The question of just how far back slash-and-burn fields date in the Japanese archipelago is a topic for future research, and the diverse utilization of nature in slash-and-burn fields is an aspect that deserves attention.
著者
吉田 歓
出版者
校倉書房
雑誌
歴史評論 (ISSN:03868907)
巻号頁・発行日
no.798, pp.75-79, 2016-10
著者
松浦祐希 華山宣胤
雑誌
第76回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.1, pp.577-579, 2014-03-11

分子生物学の分野では、人間の寿命限界について2つの説が唱えられている。一つは、人間はある年齢までしか生きられないと定められていて、その年齢に達すると、老化し死に至るプログラムが起動するというプログラム説である。また二つ目は、体内で発生する活性化酸素などの有害物質が細胞にダメージを与えることにより身体が老化し、やがて死亡に至るというダメージ説である。そして、これらの説のどちらが正しいかという議論は未だに決着していない。そこで本研究では、厚生労働省から発行されている人口動態統計に極値理論で用いられている一般化パレート分布を当てはめることにより、寿命に関する2つの説を統計学的観点から検討する。
著者
鈴木 寛
出版者
日本教育政策学会
雑誌
日本教育政策学会年報
巻号頁・発行日
no.21, pp.8-24, 2014-07-15

The Act on the Organization and Operatin of Local Educational Administration, which was enacted in 1956, was revised drastically, but the reorganization of the system is stil halfway through. The initiative taken by politicians actualized by role-sharing and cooperation between politics and administration is the background of MEXT's new policy deliberation community and enrichment of policy formation process by delibrations based on evidence. To deepen discussion of what governance of education should be, we have to think from three zones and discuss the "proper educational administration size" which governance reaches. For the new educational governance, way to introduce "community-solution", must be considered, and the best mix solution of the problems of "government-solution", "market-solution" and "community-solution" is necessary. By referring to the author's proposal of community-school's idea at the time when he's an associate professor of Keio SFC and the budget's negotiation process and the public opinion's molding process when he was a Senior Vice-Minister of Education, Culture, Sports, Science and Technology, the author will propose an idea of educational administration system reform by cooperation between academia, the scene of education, government officials, media and politicians from a new point of view.
著者
岡崎 進 住谷 秀一 工藤 和夫
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
石油学会誌 (ISSN:05824664)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.159-166, 1978

前報<sup>1)</sup>において天然ゼオライトの一種であるクリノプチオライトを一定組成比のNaOHとNaClとからなる混合水溶液中に浸せきし, 沸点付近で加熱するという簡単な処理により Faujasite が得られることを見いだした。この Faujasite はいわゆるXおよびY型の合成ゼオライトの主成分であり, したがって上記の天然品の処理生成物は適当な金属イオンで交換すれば合成XまたはY型ゼオライトと同様に触媒として使用できる可能性がある。Faujasite の生成について著者らの発表後, Robson らがアメリカ特許 (U. S. 3,733,390, 出願 1971-7-1, 成立 1973-5-15)として出願した内容においても認められているが, 原料が安価で操作も簡易なことから実用的にかなり有利なことが期待される。<br>そこで, 前報<sup>1)</sup>に引き続いて, 本報ではイオン交換が実際にどの程度可能であり, またイオン交換したものがどの程度の触媒活性を示し得るかを検討した。そのため, まず前報の処理条件およびその結果の再確認をかね, 処理水溶液の組成を変え, 生成物の形態を調べ, <b>Table 1</b>の(2)ないし(4)のような条件下に Faujasite が得られることを確かめ (<b>Fig. 1</b>), 今後(2)の組成, すなわち天然ゼオライト1gに対し, NaOH, NaCl, H<sub>2</sub>O各0.53, 0.44, 2.58gで得られる生成物を標準試料ときめた。初めにこの試料を14種の金属イオンおよびアンモニウムイオンで常温でイオン交換したところ, 交換度は60~87%に達し, 本試料には残存無水ケイ酸およびそのほかの不純物を含有するのにかかわらず合成Yゼオライト<sup>4)</sup>とほぼ同程度の交換活性を持つことを認めた (<b>Table 3</b>)。このようにして得られたイオン交換後の試料の固体酸性を測定した結果 (<b>Table 4</b>) H<sub>0</sub>〓+3.3酸点の密度 (mmol/m<sup>2</sup>) はCe型を除き, 交換イオンの電気陰性度と直線的関係にある (<b>Fig. 2</b>) ことがわかった。固体酸性の大きいLa交換体を代表例としてとりあげ, ピリジン吸着後のIR吸収を調べた結果 (<b>Fig. 3</b>), 吸着水の分極によるB酸点のほか, 露出した金属イオンに基づく, いわゆる pseudo L 酸点<sup>6)</sup>が存在した。これは合成XまたY型ゼオライトのイオン交換体<sup>4)~6)</sup>においても認められた事実である。引続き, 比較的弱い酸点によっても促進される2-プロパノールの脱水反応, とかなり強い酸点を必要とするクメン分解をテスト反応として種々の金属イオン交換品の触媒活性を調べた。両反応に対する触媒活性はともに, 固体酸性と同様に, 金属イオンの電気陰性度と関連する (<b>Fig. 4</b>)。したがって, 両反応に対する触媒活性間にも直線的比例関係 (<b>Fig. 5</b>) が認められる。さらにLaイオンで交換したY型ゼオライトと, この処理により変成した Faujasite をLaイオン交換した資料の両者について触媒活性を比較した。この結果変成ゼオライトのLa交換体は合成ゼオライトのLa交換体に比べやや活性が低くなる。低くなる原因は, La交換量が合成ゼオライトに比べ少ないこと, すなわち本試料単位重量あたりのLa保持量が少ないことによると考えられる。実際にLa交換率すなわちLa保持量と固体酸量 (<b>Fig. 6</b>) および触媒活性 (<b>Fig. 7</b>) の間に直線関係が存在する。<br>以上のように前報<sup>1)</sup>の処理により天然ゼオライトから比較的簡単な処理により得られる Faujasite は合成ゼオライトに匹敵するイオン交換活性を示し, さらにこのようにして得られたイオン交換試料はかなり量の不純分を持つのにかかわらず合成ゼオライトからの相当試料に近い触媒活性を示すことがわかった。
著者
北河 賢三
出版者
校倉書房
雑誌
歴史評論 (ISSN:03868907)
巻号頁・発行日
no.798, pp.101-105, 2016-10
著者
星野 博之
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.265-274, 2006-03-01
被引用文献数
8

見通しの悪い交差点などで接近車両を走行音により検知するドライバ支援システムについて述べる。2本のマイクロホンから入力される走行音の信号処理により接近車両の検知と方位推定を行う手法の検討を行い,車載実験システムを作成して実際の交通状況においてシステムの評価実験を行った。結果として,車両接近の検知は95〜100%可能であるが,周囲騒音の大きい場所での誤検出を考慮することや,方位推定精度の向上のためには信号処理やマイク位置により自車ノイズの影響を少なくすることが必要であることが分かった。また,車両接近をドライバヘ伝える場合,車両接近音のレベル変化を模擬した音が適することが分かった。
著者
橘 覺勝
出版者
The Japanese Society of Health and Human Ecology
雑誌
民族衛生 (ISSN:03689395)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.441-457, 1931

本研究に於ては、我図高齢者の家系に就て、統計的に塵理して、所謂長壽の家系には、果して長壽者が多く輩出するかといふ事を、多少共科墨的に剖判して見たいとの企圖によつて試みられたものである。從つて軍に壽命と一般的に題するよりは一むしる長壽云々と云つた方がよいかも知れない。それほど限定して試みたものである。
著者
落合 重信
出版者
神戸大学
雑誌
兵庫史學 (ISSN:04383109)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.30-35, 1956
著者
岡村 靖 北島 正大 荒川 公秀 立山 浩道 永川 正敏 後藤 哲也 倉野 彰比古 中村 正彦 丸木 陽子
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.91-102, 1979-03-01

人間の寿命は70年±10年であり, 無限の空間と久遠の宇宙実存において思惟するならば, 人間の一生は瞬時の生命に過ぎない。しかし, その間, 先天的な素因, および, 環境要因に加えて, 感情や意志, すなわち, 人間の大脳皮質, とくに, 新皮質の神経細胞の機能が, 側体のhomeostasisを司る内分泌一自律神経系に種々の影響を及ぼして疾病が発生し, また, 多様な予後を示すので, 心身相関の問題は, 疾病の発生, 経過, および, 治癒の上に極めて重要である。したがって, 疾患の発生機序について, 心理学, 内分泌学, ならびに, 自律神経学の3方面から, 系統的な研究, ならびに, 考察を行い, 疾患のとらえ方に新しい概念を導入した。そして, この概念に基づいて疾患の診断と治療を行なう意義の重要性を提起した。その具体例として, 内分泌疾患, 自律神経失調症, および, 分娩における, 心身の環境因子と精神-自律神経-内分泌系との関連について研究を行った成績を述べた。(1979年1月16日 受付)
著者
三浦 菊佳 山田 一郎 小早川 健 松井 淳 後藤 淳 住吉 英樹 柴田 正啓
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NLC, 言語理解とコミュニケーション (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.408, pp.53-58, 2009-01-19

大量に蓄積されている放送番組から目的の映像を検索する際、細かいシーン単位で取り出せればより有効に映像を二次活用することができる。本稿では、レギュラー番組におけるクローズドキャプションから、あるコーナーを特徴づけたり、場面転換を表したりする繰り返し出現する表現(反復句)を教師なしで自動獲得することで、番組を分割する手がかり語を捉える。生物の進化をモデルに、番組中に毎回偏って繰り返し出現する語に着目し、Fisherの正確確率検定を利用したセグメントアラインメント、スクリーニングを行い反復句を抽出する手法を提案する。情報番組を対象とした実験を行った結果を評価し、提案手法の有効性を確認した。
著者
荒井 光治
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-8, 2007

荒井らのガンマヒドロキシ酪酸の先のレポートは,タイトル,データその他の数ケ所で間違っていた。今回の報告は前回の訂正版である。ガンマヒドロキシ酪酸は薬理学的に重要で興味ある物質である。人脳脊髄液中のガンマヒドロキシ酪酸の存在は始めて荒井らが証明した。前回のレポートでは血清中のガンマヒドロキシ酪酸の存在について否定した。そして人脳脊髄液中のガンマヒドロキシ酪酸の濃度を間違って報告した。人血清中のガンマヒドロキシ酪酸の存在は著者のデータでは明確でない。しかし今日では血液中のガンマキドロキシ酪酸の存在が明らかにされている。今回の報告で人脳脊髄液中のガンマヒドロキシ酪酸の濃度は約6.22〜36.36nmol/mlと訂正した。