著者
吉田 泉
出版者
高岡法科大学
雑誌
高岡法科大学紀要 (ISSN:09159347)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.43-63, 2001

本稿の要旨は,ミュッセ(Alfred de Musset (1810-1857))を,様々なダンディズム論から見つめ直し,また特に彼の代表作でもあり,フランス・ロマン派の演劇の最高傑作とも言われる,『ロレンザッチオ』(Lorenzaccio (1833))をダンディズム論の立場から,解釈しなおそうとすることである。初めに,一番参照した書物を挙げておくと,それはジョン・プレヴォーの『フランスにおけるダンディズム(1817年から1839年まで)』(John C. Prevost :《Le Dandysme en France (1817-1839)》)である。さて,1830年に,『スペインとイタリアの物語』(Les Contes d'Espagne et d'ltalie)を引っ提げて弱冠19歳で文壇にデビューしたミュッセのこの処女作は,発表当時から,はやくも「文学によるダンディズムの標榜」という評価を評論家たちから受けていたようである。この時期は,イギリスから「伝播した」というべきダンディズムが,フランスで大きな勢いを持ち始めていた時でもあった。とりあえず「幻想時評」(la Revue fantastique, le 14 fevrier 1831)において,ミュッセが直接「イギリスのダンディ」について論評しているのであるが,それを瞥見してみよう。彼はダンディに関してけっこう批判的な態度をとっている。
著者
北川 裕子 小塩 靖崇 股村 美里 佐々木 司 東郷 史治
出版者
日本不安障害学会
雑誌
不安障害研究 (ISSN:18835619)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.31-38, 2013-08-31 (Released:2014-01-31)
参考文献数
35

近年の日本では,いじめが原因と考えられる児童生徒の自殺が社会的に大きな波紋を起こしている。いじめは,被害側だけでなく加害側の児童生徒でも,不安・抑うつ,社会不適応,そして自殺問題と関連すると言われている。このような状況に鑑みて,効果的ないじめ対策教育の実施は喫緊の課題である。しかし,日本ではいじめ対策が各学校に任されたままであり,全国的な系統的いじめ対策プログラムが存在しない。また,効果検証がなされていない。そこで本研究では,日本におけるいじめ予防介入教育の構築に向けた一資料として,フィンランドの全国的ないじめ対策プログラムであり,その効果が大規模なRandomized Controlled Trial (RCT)により評価されている「KiVaプログラム」について紹介した。KiVaプログラムの効果として,いじめの減少,さらには児童生徒の不安・抑うつの低下,対人関係の改善などが確認されている。
著者
高橋 哲哉
出版者
The Japanese Association of Sociology of Law
雑誌
法社会学 (ISSN:04376161)
巻号頁・発行日
vol.2002, no.56, pp.16-25,273, 2002

In the last decade of the 20th century, two significant events were held to deal with the pasts which were profoundly traumatized by the crimes against humanity; The Truth and Reconciliation Commission in the Republic of South Africa and the Women's International War Crimes Tribunal on Japan's Military Sexual Slavery.<br>The former avoided the "Nuremberg Option", that is the trial of criminals, in giving priority to establish the national unity and reconciliation. Amnesty was granted to the persons who had made full confession of the truth about their criminal acts with political objectives in the period of Apartheid. This principle of "justice without punishment" was guided not only by some inevitable "material" conditions in the new-born Country, but also by the philosophy of "forgiveness" in its hegelien or arendtien version.<br>By contrast, the latter declared itself to be a renewal of "Tokyo Tribunal" in order to end the culture of impunity. Three days of trial produced the judgement according to which the Japanese Imperial Army' s "comfort women" stations and wartime sexual violence constituted crimes against humanity and the Supreme Commander of the Army and Navy, Emperor Hirohito did have legal responsibilities. Thus the Women's Tribunal, without real judicial effect, contested both the post-war Japanese culture of impunity about war crimes and the international culture of impunity about crimes against women in war.<br>These two events can be highly appreciated as those which offered public spaces where the voices of victims and perpetrators could be heard seriously for the first time.
著者
出口 康夫 藤川 直也 大森 仁 大西 琢朗
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

分析アジア哲学の国際的な共同研究を推進した。具体的には2017年6月に「Dialetheism and Related Issues in Analytic Asian Philosophy」を開催し、アジア思想における「矛盾」の哲学的・論理学的意義に関する討議を行なった。同会議には Graham Priest, Jay Garfield, Mark Siderits, Ricki Bliss, Filippo Casati ら本研究プロジェクトの海外協力研究者が多数参加したのに加え、Wen-Fang Wang, Chih-chiang Hu, Chi-Yen Liu, Chun-Ping Yen (以上、台湾), Kanit Mitnunwong (タイ)といったアジアの研究者も参加した。その後は、この会議を踏まえ、英文論文集発刊のための研究・編集作業を進めた。発表を審査した上で、一定の基準を満たした発表者に対して原稿執筆依頼を行なう一方、外部の執筆者にも寄稿を依頼し、2017年12月から2018年3月にかけて提出された論文について、現在、査読作業を進めている。一方、Jay Garfield, Graham Priest, Robert Sharf ら海外研究協力者と進めている共著 What Can't Be Said の共同執筆の作業も進めた。具体的には2017年6月に四者による集中WSを開催し、その後も、各自が、適宜、メールやスカイプ等を駆使して議論を継続しつつ担当章の執筆を進めた。その結果、2017年年末までには、全章の原稿がほぼ完成し、その後、細部の調整を経て、2018年3月には原稿をOxfold University Press (New York)に送付し出版を依頼したところ、ただちに編集会議で認められ、現在、外部審査員による査読が行なわれている。
著者
大倉 和博 保田 俊行
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

近年,スワームロボティクス(SR)と呼ばれる群ロボットの行動制御に関する研究が大きな注目を浴びるようになってきている.しかし,SR の自己組織化原理に基づく行動制御方式では,「定点に集合する」「互いに離れる」などの非常に限定的な単純タスクしか達成できないのが現状である.本研究では,これを打破すべく,研究代表者が提案している構造進化型人工神経回路網 MBEANN にベースとして可塑的群知能システムを構築するための新理論を開発し,従来法では不可能であった高難易度タスクを達成することに挑戦して SR の新段階を切り開く.
著者
中野 和司 江口 三代一 山口 芳弘
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌. C
巻号頁・発行日
vol.115, no.1, pp.104-110, 1995

The purpose of this paper is to develop a fuzzy reasoning control law for an inverted pendulum system by the aid of the theory of variable structure systems (VSS). The cascade architecture of two fuzzy controllers is used for considering of interation with the cart. The stability of the control systems is investigated by the reachability and the existence conditions for the sliding mode. The simulation and experimental results are given to demonstrate the validity of our design method.
著者
山本 哲也
出版者
The Surface Finishing Society of Japan
雑誌
表面技術 (ISSN:09151869)
巻号頁・発行日
vol.40, no.11, pp.1203-1206, 1989-11-01 (Released:2009-10-30)
参考文献数
3
著者
Hiroshi Inoue Eitaro Kodani Hirotsugu Atarashi Ken Okumura Takeshi Yamashita Hideki Origasa on behalf of the J-RHYTHM Registry Investigators
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Journal (ISSN:13469843)
巻号頁・発行日
pp.CJ-18-0242, (Released:2018-07-06)
参考文献数
33
被引用文献数
5

Background:It is unclear whether renal dysfunction affects warfarin control in patients with non-valvular atrial fibrillation (NVAF).Methods and Results:Using a dataset from the J-RHYTHM Registry, time in therapeutic range (TTR) of the international normalized ratio (INR) of prothrombin time, and creatinine clearance (CrCl) were determined in elderly patients aged ≥70 years. Target INR values were 1.6–2.6 following Japanese guidelines. Incidences of thromboembolism, major hemorrhage, and all-cause death were determined over 2 years. Of 7,406 NVAF patients enrolled in the registry, 2,782 elderly patients (mean age, 75 years) had data for CrCl measured at baseline and TTR. TTR values were lower in the lower CrCl groups (P<0.001 for trend). CrCl <30 mL/min was independently associated with TTR <65% (odds ratio, 1.49; 95% confidence interval, 1.13–1.95; P=0.004). In the multivariate analysis, TTR <65% was independently associated with thromboembolism (hazard ratio, 2.26; 95% confidence interval, 1.37–3.72; P=0.001), but CrCl was not (CrCl <30 mL/min, 1.68, 0.41–6.85, P=0.473). However, CrCl <30 mL/min and TTR <65% were independently associated with all-cause death (5.32, 1.56–18.18, P=0.008 and 1.60, 1.07–2.38, P=0.022, respectively) and the composite event (thromboembolism, major hemorrhage and all-cause death) (2.03, 1.10–3.76, P=0.024 and 1.58, 1.22–2.04, P=0.001, respectively).Conclusions:Elderly NVAF patients with renal dysfunction had poor warfarin control, which was associated with higher risk of thromboembolism and all-cause death.
著者
菊川 照英 相田 吉昭 亀尾 浩司 小竹 信宏
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.5, pp.313-329, 2018-05-15 (Released:2018-06-30)
参考文献数
47
被引用文献数
3

鹿児島県種子島に分布する熊毛層群西之表層の地質,地質年代,そして堆積環境を検討した.砂岩が卓越する西之表層において,生痕化石が多産する泥岩部を大久保泥岩部層として区別した.放散虫化石からは西之表層上部が31.1Maから28.5Maの地層であることが,石灰質ナンノ化石からは西之表層下部が30.00Maから26.84Maに堆積したことが判明した.以上の事実から,西之表層の地質年代が,前期漸新世の後期(30.0-28.5Ma)であることが判明した.岩相分布と地質年代の結果から,(1)西之表層は同層準が褶曲と衝上断層によって繰り返すこと,(2)西之表層の層厚は従来の推定よりも薄いこと,(3)西之表層は九州南部に分布する日南層群に対比されること,そして(4)産出する生痕化石から西之表層は水深が2000mよりも深い海底で堆積したこと,が明らかとなった.今後,西之表層の起源を詳しく解明するためには,堆積学的・構造地質学的観点からの検討が不可欠である.
著者
村松 友視
出版者
サンケイ新聞社
雑誌
正論
巻号頁・発行日
no.311, pp.78-86, 1998-07
著者
熱田 了
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.6, pp.1397-1403, 2013-06-10 (Released:2014-06-10)

気管支喘息患者は気道過敏性を有するために,健常人が問題とならないような,微細な環境変化に反応して発作性の気道収縮(喘息発作;急性増悪)を生じる事がある.重篤な喘息発作は喘息死をもたらす事があるが,喘息死に至る1年前の喘息重症度は重症患者が大半と言う訳ではなく,中等症・軽症を合わせると重症患者を上回る数の喘息死が生じている.そのため,どの重症度の喘息患者にも喘息死が生じる可能性があり,喘息死を減らすためには長期管理薬による慢性期のコントロールが重要であるとともに,急性増悪時の確実な対応も必須である.本稿では急性増悪時の自宅での対応と救急外来での基本的対応に関して述べる.
著者
川島 眞 黒川 一郎 林 伸和 渡辺 雅子 谷岡 未樹
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.497-507, 2018 (Released:2018-06-27)
参考文献数
5

近年本邦の尋常性痤瘡治療薬,特に外用薬の選択肢が充実し,欧米の治療水準に到達した.それらを選択使用するための治療ガイドラインも策定されている.しかしながら,実地臨床の場では,個々の患者の多彩な症状に応じて薬剤選択を行うが,ガイドラインでの推奨度に応じて自動的に決定できるものではなく,様々な患者背景を考慮して試行錯誤を繰り返すこともある.そこで,日常診療上でしばしば遭遇する尋常性痤瘡の症例を写真で提示し,その患者の年齢,生活様式,経済状況なども考慮したうえで,いかなる治療薬を選択すべきかについて5名の痤瘡治療に精通した皮膚科医により案を作成し,それを27名の痤瘡治療に積極的に取り組む皮膚科医で討議し,コンセンサスを作り上げた.中高生,青年期,社会人の各年代層の顔面の尋常性痤瘡を6ケース,体幹部の尋常性痤瘡を2ケース,特殊な例として下顎部の痤瘡1ケース,アトピー性皮膚炎の合併2ケース,炎症後紅斑,炎症後色素沈着を各1ケース,全体として13ケースについて検討した結果をここに報告し,診療の参考としていただきたいと考える.
著者
青木 聖久
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.125, pp.21-39, 2011-09

精神障害者 (以下, 当事者) の暮らしにおいて, 所得保障, とりわけ障害年金は重要な社会資源である. だが, 差別と偏見が根強い我が国において, スティグマへの葛藤から, 障害年金受給に躊躇する当事者は少なくない. だが, これらのスティグマが解決しないまでも, 実際に障害年金を受給すると, 生活の拡がりや価値観の多様性を実感する当事者は多い. つまり, 障害年金の受給を通して, 当事者は, 視点の変更や発想の転換に結び付くのである.これらのことを, 当事者同士が集う 「セルフヘルプ・グループ」 や, 「地域活動支援センター」 等の場を通して, 知りうる環境にある者はよい. だが, そのような場を有していない者のなかには, 障害年金を受給する権利を有しているにも関わらず, 受給に至らない者がいるのである.以上のことをふまえ, 本稿では, 障害年金が暮らしの中でどのように位置付いているかを明らかにする. 障害年金の実際が可視化できれば, 多くの当事者にとって, 障害年金は随分利用しやすいものとなろう. とはいえ, たとえ障害年金の実際が明らかになろうとも, 社会が当事者に対して, 理解に欠けておれば, 当事者は, ありのままの自分に向き合って社会で暮らすことが困難だといえる. そこで, 本研究では, 「暮らしにおける障害年金の実際」 に加えて, 「障害年金を受給しやすい社会のあり方」 を明らかにすることについても目的にしたい. そして, これらのことを論証するために, まず, 実際に障害年金を受給している当事者より, インタビュー調査 (個別及びグループ) を実施する. そして, 得られた結果を分析すると共に, 考察をしたい. 一方, 「障害年金を受給しやすい社会」 とは, 「ノーマライズされた社会」 という結論が導かれることが予測できる. だが, 本稿では, 単に理想論を述べて終わり, ということにしたくない. 仮に, 具体的な課題を見つけることができたなら, 問題解決の提示を行いたいと考えている. そのようななか, 注目しているのが英国の精神保健政策である. 英国では, 1997 年のブレア政権以降, 精神疾患を三大疾患に位置付ける等, 我が国が見習うべき点が多い. このように, 英国の精神保健政策を通して, 社会の差別と偏見等に苛まれずに, 障害年金を受給しやすい社会のあり方についても考察をしたい.最後には, 「障害年金の語りから得られた暮らしの実際」 と 「障害年金を受給しやすい社会」 の両者を相関的に捉え, 結論として提言をするものである.