著者
上野 裕介 江口 健斗
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2218, (Released:2023-04-30)
参考文献数
26

希少種のインターネット取引は、世界的に喫緊の課題となっている。希少種の中でも採集による地域個体群の消滅が強く懸念される分類群に、小型サンショウウオ類がある。日本には 2022 年 2 月現在で 45 種の小型サンショウウオ類が生息し、うち 42 種が環境省のレッドリスト 2020 に掲載されている。さらに近年も分類学的研究が続けられており、この 10 年間に各地の地域個体群が相次いで新種記載されている。また山中の小さな繁殖池に集まり、集団で産卵する種も多いため、成体や卵のう、幼生の大量採集が行われる危険がある。そこで本研究では、希少野生生物種の取引実態の一端を明らかにするために、個人間取引が盛んなインターネット・オークションに着目し、小型サンショウウオ類の取引状況を調べ、その課題を明らかにした。調査では、国内の各インターネットオークションサイトでの取引履歴(商品名、価格、落札日、商品画像や説明など)の情報を網羅的にアーカイブし、無償または有償で提供している企業の情報を用いて、2011 年 1 月から 2020 年 12 月までにオークションサイトの「ペット・生き物」カテゴリに出品、落札された小型サンショウウオ類(生体)を調べた。その結果、日本最大級のオークションサイトでは過去 10 年間で 28 種、計 4,105 件(落札総額 14,977,021 円)の取引が確認できた。種ごとの取引件数は、環境省のレッドリストで絶滅危惧 IB 類(EN)もしくは II 類(VU)に選定されているカスミサンショウウオ群が最も多く(962 件)、次いでクロサンショウウオ、ヒダサンショウウオ群、エゾサンショウウオの順に多かった。小型サンショウウオ類全体での年間の取引件数は、当初は年 200 件ほどで推移していたものの、近年、急激に増加し、2020 年は年 1,117 件(合計落札額 5,282,518 円)を超えていた。この急増は、出品回数の特に多い数人の個人によるものであった。また分類学的研究が進み、それまで隠ぺい種だった地域個体群が新種として記載された後には、それらの種の取引件数が 2 倍以上に増えることがわかった。それゆえ、希少種や地域個体群保全の観点から早急な対策が求められる。なお本調査手法は、他の動植物の取引実態調査にも容易に適用可能である。
著者
上野 裕
出版者
千里地理学会
雑誌
ジオグラフィカ千里 = Geographica Senri
巻号頁・発行日
vol.1, pp.71-92, 2019-03-30

近代京都の都市形成に果たした土地区画整理事業の意義について地域論的な観点から考察した。この事業は,1920年代の人口急増と都市発展に対して,市街地を取り囲む形で計画・実施され,スプロール的拡大を防ぎ,整然とした街区からなる郊外地域を創出していった。都市計画事業として実施されたが,高燥地の北部では組合による居住環境整備の下,良好な住宅地が形成され,今日に継承されている。他方,南西部では市街地化の進行,地権者の多さから組合結成には至らず,多くの地区が市代執行で実施された。区画整備の進行とともに地価上昇をみ,工場のほか商店,住宅などの立地する混在地域へと変容していった。事業の実施においては,当該地区の自然環境や交通整備など地域的条件,地区住民(組合員)の取り組む姿勢が大きく影響した。平安京以来の歴史の継承性(格子状街区割など)を強く意識しかつ近代的思想も取り入れ作成された「敷地割報告書」が事業計画の基盤をなした。
著者
長谷川 啓一 上野 裕介 大城 温 神田 真由美 井上 隆司 西廣 淳
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.79-90, 2016-07-28 (Released:2016-09-05)
参考文献数
33
被引用文献数
9 3

本研究では,移植による保全の難易度が高いと考えられる種(移植困難種)について,全国 179 の道路事業の移植事例の整理・分析を通じて,移植困難種の保全に関する現状と,移植後のモニタリング結果から生活型別の活着状況を整理した.また,工夫をこらした効果的な移植方法や移植後のモニタリング手法を抽出し,整理した.その結果,移植対象となっていた移植困難種は,8 科 26 種であり,樹幹に着生している種が 4 種,岩場に着生している種が 6 種,混合栄養植物が 9 種,菌従属栄養植物が 7 種であった.移植後の活着状況は,岩場に着生している種はいずれも良好であったが,樹幹に着生している植物と混合栄養植物では,活着率がほぼ 100%を維持している種と,ほとんど確認されなくなる種に 2 分される傾向が見られた.菌従属栄養植物では,地上部が発生しない年があるために正確な生存率を評価することができなかったが,1 ~ 2 割の事例で移植後に地上部の花茎が確認された.移植後の活着率を高める工夫として,樹幹に着生している種では,移植個体が着生していた元の樹皮や枝ごと移植する手法が,岩場に着生している種では,ヘゴ棒を基盤とすることで着生を促し,植生ネットを用いて脱落を防ぐ手法がとられていた.菌根菌との共生関係にある混合栄養植物や菌従属栄養植物では,土壌ごと移植する手法やコナラ等の樹木の根元へ移植する手法などがとられていた.今後は,移植困難種の株移植についての知見蓄積・技術向上とともに,株移植に依らない種子などの散布体を用いた保全・移植技術や,持続的な地域個体群の保全手法の研究・確立が重要と考えられた.
著者
上野裕暉 桝井文人 柳等 平田洸介
雑誌
第76回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.1, pp.627-629, 2014-03-11

カーリングが五輪正式種目となってから,日本は毎回出場を果たしてきた.しかし,近年ではアジアにおいても中国や韓国が急速に力をつけており,日本チームの相対的な競争力低下が危惧されている. この状況を改善するための方策のひとつとして,我々はICTを利活用してカーリング戦術面を支援するカーリングインフォマティクス構想を掲げ,その第一ステップとして試合情報を逐次的に収集・解析するポータブルデータベースシステムを開発・運用し,その有効性を確認してきた. 本発表では,このシステムに加えた新たな機能および改良点について報告し,従来手法との比較分析によってそれらの有効性について議論する.
著者
上野 裕介 江口 健斗
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.2218, 2023-04-30 (Released:2023-09-05)
参考文献数
26

希少種のインターネット取引は、世界的に喫緊の課題となっている。希少種の中でも採集による地域個体群の消滅が強く懸念される分類群に、小型サンショウウオ類がある。日本には 2022 年 2 月現在で 45 種の小型サンショウウオ類が生息し、うち 42 種が環境省のレッドリスト 2020 に掲載されている。さらに近年も分類学的研究が続けられており、この 10 年間に各地の地域個体群が相次いで新種記載されている。また山中の小さな繁殖池に集まり、集団で産卵する種も多いため、成体や卵のう、幼生の大量採集が行われる危険がある。そこで本研究では、希少野生生物種の取引実態の一端を明らかにするために、個人間取引が盛んなインターネット・オークションに着目し、小型サンショウウオ類の取引状況を調べ、その課題を明らかにした。調査では、国内の各インターネットオークションサイトでの取引履歴(商品名、価格、落札日、商品画像や説明など)の情報を網羅的にアーカイブし、無償または有償で提供している企業の情報を用いて、2011 年 1 月から 2020 年 12 月までにオークションサイトの「ペット・生き物」カテゴリに出品、落札された小型サンショウウオ類(生体)を調べた。その結果、日本最大級のオークションサイトでは過去 10 年間で 28 種、計 4,105 件(落札総額 14,977,021 円)の取引が確認できた。種ごとの取引件数は、環境省のレッドリストで絶滅危惧 IB 類(EN)もしくは II 類(VU)に選定されているカスミサンショウウオ群が最も多く(962 件)、次いでクロサンショウウオ、ヒダサンショウウオ群、エゾサンショウウオの順に多かった。小型サンショウウオ類全体での年間の取引件数は、当初は年 200 件ほどで推移していたものの、近年、急激に増加し、2020 年は年 1,117 件(合計落札額 5,282,518 円)を超えていた。この急増は、出品回数の特に多い数人の個人によるものであった。また分類学的研究が進み、それまで隠ぺい種だった地域個体群が新種として記載された後には、それらの種の取引件数が 2 倍以上に増えることがわかった。それゆえ、希少種や地域個体群保全の観点から早急な対策が求められる。なお本調査手法は、他の動植物の取引実態調査にも容易に適用可能である。
著者
坂村 圭 江口 健斗 上野 裕介
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.86, no.5, pp.549-554, 2023-03-31 (Released:2023-05-12)
参考文献数
16

Participation of city residents in irrigation water management is required for its sustainable maintenance in urban areas. In order to its promotion, this study aims to examine the irrigation water environment that raises the awareness of urban residents for its maintenance. In this study, a large-scale questionnaire survey has been conducted in Kanazawa City, Ishikawa Prefecture, to investigate the willingness to pay for the nine functions of the irrigation water and the preference for its environment. Then, it has been analyzed that the relationship between the preference for irrigation water environment and the awareness of its management based on binomial logistic regression analysis. As a result, it was found that what urban residents especially appreciate as a multi-functionally of irrigation water are "utilization as a snow dump", "prevention of flooding and fire", and "atmospheric adjustment function". It was also revealed that the improvement of "access to irrigation water" and "walking environment" contribute to the raise of the willingness to pay for the irrigation water management. These results suggest the possibility and the importance of strategic irrigation water development to raise management awareness of city residents.
著者
大澤 剛士 上野 裕介
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.257-265, 2017 (Released:2017-08-03)
参考文献数
21

要旨: 研究成果を実際の現場、例えば保全活動や自然再生事業、インフラ整備における環境アセスメント等の実務において活用してもらいたいというのは、応用分野に興味を持つ生態学者の望みである。しかし、現実には研究成果、少なくとも日本生態学会関係者の研究が現場に反映されている例は決して多くない。なぜ、生態学者の思いは片思いになってしまうのだろうか?研究と実務の間にあるギャップは何なのか?本論説は、研究と実務の間にあるギャップ(Research-Implementation Gap)と、その原因、それを埋めるために生態学者ができることについて、筆者らを含む行政、民間、研究者から構成される勉強会のメンバーで議論してきた内容を論じる。さらにはそれらをふまえ、演者ら、生態学に軸足を置きながら実務に近い現場で研究をしている立場から考えた課題解決に向けた鍵と、その実現に向けた今後の展望を議論する。
著者
前田 有美 横山 典子 高橋 康輝 土居 達也 松元 圭太郎 上野 裕文 久野 譜也
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.269-278, 2007-04-01 (Released:2007-05-25)
参考文献数
43

The purpose of this study was to investigate the effects of combined resistance training and aerobic training with protein intake after resistance training on body composition in obese middle-aged women. The subjects were 42 middle-aged women (age : 56.5±4.3 years, BMI : 26.6±2.3 kg/m2), who were classified into three supplementation groups: Protein group (PG), Isocalorie placebo group (IG), and Noncalorie placebo group (CG) by Double Blind Randomized Trial. The training program consisted of combined resistance training and aerobic training for 10 weeks, 5 times per week: twice a week in a university training room and 3 times per week at home. The subjects took the nutrient supplement immediately after each resistance training session. We measured body weight (Bw), body fat volume (Bf) by bioelectrical impedance analysis (BIA), and cross-sectional area (CSA) of muscle of the thigh extensor group (Te), flexor group (Tf), and psoas major (Pm) by magnetic resonance imaging (MRI) before and after the 10-week training period. Irrespective of group, Bw and Bf showed a significant decrease after the training period compared to before (p<0.001), and the CSA of Te muscle showed a significant increase after the training period (p<0.01). Moreover, the interaction of time×group was accepted in the CSA of Pm muscle (p<0.05), and the increase in muscle volume for PG was the highest increase among the three supplementation groups (p<0.05)(PG : 2.1±0.8 cm2, IG : 1.3±1.0 cm2, CG : 1.3±0.9 cm2). These results suggest that combined training in middle-aged obese women improves body composition, and resistance training with protein intake may increase the CSA of muscle of psoas major.
著者
長谷川 啓一 上野 裕介 大城 温 井上 隆司 瀧本 真理 光谷 友樹 遊川 知久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.311-321, 2017 (Released:2018-05-01)
参考文献数
32

キンラン属は、我が国の里山地域を代表する植物種群であり、菌根菌との共生関係を持つ部分的菌従属栄養植物である。全国的に、里山林の荒廃や樹林の減少に伴って生育地が減少しつつある。本研究では、キンラン、ギンラン、ササバギンランの3種を対象に、(1)樹林管理の有無とキンラン属の分布にどのような関係があるか、(2)キンラン属が生育するためにどのような環境整備が必要か、(3)ハモグリバエ類の食害はどの程度生じているのか、を明らかにし、今後、キンラン属の保全のためにどのような方策が必要かを検討した。調査は、茨城県つくば市の20.5 haの樹林において、キンラン属3種の分布と、樹林の管理状態、生育地点の林内環境(植生被度、開空率、近接する樹木の樹種と胸高直径、リター層の厚さ、土壌硬度、土壌水分)を調査した。また、ハモグリバエ類による3種の食害状況を調べ、結実率を求めた。その結果、下草刈りなどの樹林管理を行っている管理エリア(14.0 ha)では3種すべてが生育し、合計47地点で計881株が確認されたのに対し、非管理エリア(6.5 ha)では、キンランのみが生育し、その数も1地点で計3株であった。また、3種の生育株数は、微環境の違い(開空率、草本被度、土壌硬度)や、近接する外生菌根性の樹種によって異なることがわかった。他方、3種ともに、袋がけを行わなかった大半の株でハモグリバエ類による被害を受けており、食害を受けていない健全株は、キンラン1%、ギンラン12%、ササバギンラン0%であった。これらの結果から、キンラン属の保全のためには、生育環境を維持するための樹林管理に加え、ハモグリバエ類による食害対策が重要と考えられた。
著者
上野 裕久
出版者
龍南會
雑誌
龍南
巻号頁・発行日
vol.243, pp.35-37, 1939-03-03
著者
三上 修 森本 元 上野 裕介
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

「電柱(腕金)」と「道路標識(固定式視線誘導柱)」という大量にある人工構造物に、鳥類が営巣することが知られている。北海道全体で、これらの構造物に鳥類がどれだけ営巣しているのか、逆に言えば人間はそれらの人工構造物を作ることで、鳥類にどれくらいの営巣場所を提供しているのかを明らかにすることを目的とする。
著者
上野 裕久
出版者
The Japanese Association of Sociology of Law
雑誌
法社会学 (ISSN:04376161)
巻号頁・発行日
vol.1954, no.5, pp.137-154, 1954-04-30 (Released:2009-04-03)
参考文献数
11
著者
三上 修 三上 かつら 森本 元 上野 裕介
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.A11-A19, 2021 (Released:2021-04-30)
参考文献数
21

都市に生息する鳥類は,大量にある電柱電線を足場として利用している.その止まり方にパターンがあるかどうかを国内7都市で調査した.その結果,次のことが明らかになった.(1)止まる場所全体に対する電柱および電線を利用する割合は,種によって違っていた.(2)鳥類は,越冬期よりも繁殖期に,電柱および電線に頻繁に止まっていた.(3)体重が重い鳥種ほど,電線よりも電柱に止まる傾向があり,また,電線に止まる場合でも,電柱に近い部分に止まっていた.(4)多くの鳥種が最上段の線によく止まっていた.