著者
伊藤 守
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.541-556, 2015
被引用文献数
1

本稿の目的は, 日本における映像アーカイブズの現状を概括し, そのうえで映像アーカイブ研究, とりわけテレビ番組アーカイブを活用した映像分析の方法を考察することにある. アーカイブに向けた動きが欧米と比較して遅かった日本においても, 記録映画の収集・保存・公開の機運が高まり, テレビ番組に関してもNHKアーカイブス・トライアル研究が開始され, ようやくアーカイブを活用した研究が着手される状況となった. 今後, その動きがメディア研究のみならず歴史社会学や地域社会学や文化社会学, さらには建築 (史) 学や防災科学など自然科学分野に対しても重要な調査研究の領域となることが予測できる.こうしたアーカイブの整備によって歴史的に蓄積されてきた映像を分析対象するに際して, あらたな方法論ないし方法意識を彫琢していく必要がある. あるテーマを設定し, それに関わる膨大な量の映像を「表象」分析することはきわめて重要な課題と言える. だが, 「アーカイブ研究」はそれにとどまらない可能性を潜在していると考えられるからである. 本稿では, M. フーコーの言説分析を参照しながら, アーカイブに立脚した分析を行うための諸課題を仮説的に提示する.
著者
小柳 義夫 伊藤 守 若林 とも 寺田 英司 田中 勇悦
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)は、AIDSの原因ウイルスである。しかし、このレトロウイルスがヒトにしか病気を起こさないために、その発病機構の解明ならびに治療薬の開発が大きく遅れている。我々は近年新しい方法として重篤な免疫不全マウスであるSCIDマウスにヒトの造血組織を移植し、ヒトのリンパ球細胞を構築する方法を用いて以下の結果を得た。SCIDマウスに正常人末梢血単核球を腹腔内に導入し、2週間後に100感染価のHIVを接種し、感染後1、2さらに3週間後いずれの時期にもウイルスの増殖をマウスの腹腔内、血漿中さらにリンパ節あるいは胸腺において確認した。確認の方法はPCR法によるウイルスDNAならびにRNA測定法、あるいはHIV-1p24抗原量を測定するELISA法である。その結果NSI型ウイルスすなわちマクロファージ好性ウイルスが増殖性が強く、その範囲は接種した腹腔内に限られるのではなく、リンパ節あるいは胸腺などのリンパ組織に広がっていることが明らかになった。この事実はNSI型ウイルスが初感染時には、まず生体内で増殖するという今までの知見を考えると、NSI型ウイルスに生体内における何んらかの特有な増殖能が備わっている可能性が考えられる。さらに興味あることに我々の使用したNSI型ウイルスは、このSCIDマウス内において優位に増殖しているにもかかわらず、ヒトCD4陽性細胞の特異的な減少は見られなかった。一方、SI型ウイルスによるCD4陽性細胞は減少した。すなわち、我々が開発したSCIDマウスによるHIV感染モデル動物により、明らかにウイルスの増殖性ならびにCD4陽性細胞を減少させる病原性を評価できることが判明した。さらにウイルス感染はリンパ節あるいは胸腺などのリンパ組織に優位に広がることより、この動物モデルは感染個体内におけるリンパ臓器の役割の解析に有用であると判明した。
著者
石井 英子 青石 恵子 伊藤 守弘 大橋 裕子 渋谷 菜穂子 田島 織絵 城 憲秀 西尾 和子 丹羽 さゆり 林 公子 深谷 久子 堀井 直子 山田 知子
出版者
中部大学
雑誌
中部大学生命健康科学研究所紀要 (ISSN:18803040)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-9, 2008-03

目的 内蔵脂肪生活習慣Checkの有効的活用に向け、企業関係者や中部大学教職員の概況把握である。方法 本調査でのチェック項目(数、内容)と身体・生理学的データとの関連を分析した。個人データは匿名性を記し、すべて統計的処理を行い、統計ソフトはSPSS12.0 J Windowsを用い、有意水準を5%とした。調査期間は平成19年9月17日。結果 受診者172人のうち、男性64.5%、女性35.5%。メタボリックシンドロームの目安となる体重と筋肉スコアによる体型判定では、男性は肥満型68.5%、女性の肥満型80.3%、ウエスト周囲径の内臓脂肪型肥満者は男性44人(39.6%)、女性36人(4.9%)で男性に有意な内臓肥満者が多かった。内蔵脂肪症候群生活習慣Checkの予備群の出現割合の男女比較では、「おやつは毎日食べる」、「階段よりエレベーター・エスカレーターを使う」で女性の割合が多かった。肥満状況を、生活習慣Checkにあてはまる数が5つ以上、または、それ未満の者とで比較したところ、男性でのみ、チェック数が多い者の肥満傾向が高くなった。このことから、男性、とくに中年男性の生活習慣指導が必要であることが示唆された。
著者
舩橋 晴俊 壽福 眞美 徳安 彰 佐藤 成基 岡野内 正 津田 正太郎 宮島 喬 吉村 真子 上林 千恵子 石坂 悦男 藤田 真文 奥 武則 須藤 春夫 金井 明人 池田 寛二 田中 充 堀川 三郎 島本 美保子 樋口 明彦 荒井 容子 平塚 眞樹 三井 さよ 鈴木 智之 田嶋 淳子 増田 正人 小林 直毅 土橋 臣吾 宇野 斉 鈴木 宗徳 長谷部 俊治 原田 悦子 羽場 久美子 田中 義久 湯浅 陽一 伊藤 守 上村 泰裕 丹羽 美之 宮本 みち子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本プロジェクトは、グローバル化問題、環境問題、移民・マイノリティ問題、若者問題、メディア公共圏、ユビキタス社会、ケア問題といった具体的な社会問題領域についての実証的研究を通して、社会制御システム論、公共圏論および規範理論に関する理論的研究を発展させた。公共圏の豊富化が現代社会における制御能力向上の鍵であり、それを担う主体形成が重要である。また、社会制御には合理性のみならず道理性の原則が必要である。
著者
伊藤 守 杉原 名穂子 松井 克浩 渡辺 登 北山 雅昭 北澤 裕 大石 裕 中村 潔
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究から、住民一人ひとりの主体的参加と民主的でオープンな討議を通じた巻町「住民投票」が偶発的な、突発的な「出来事」ではない、ということが明らかになった。巻町の行政が長年原発建設計画を積極的に受け止めて支持し、不安を抱えながら町民も一定の期待を抱いた背景に、60年代から70年代にかけて形成された巻町特有の社会経済的構造が存在した。「住民投票」という自己決定のプロセスが実現できた背景には、この社会経済的構造の漸進的な変容がある。第1に、公共投資依存の経済、ならびに外部資本導入による大規模開発型の経済そのものが行き詰まる一方で、町民の間に自らの地域の特徴を生かした内発的発展、維持可能な発展をめざす意識と実践が徐々にではあれ生まれてきた。第2に、80年以降に移住してきた社会層が区会や集落の枠組みと折り合いをつけながらも、これまでよりもより積極的で主体的に自己主張する層として巻町に根付いたことである。「自然」「伝統」「育児と福祉」「安全」をキーワードとした従来の関係を超え出る新たなネットワークと活動が生まれ、その活動を通じて上記の内発的発展、維持可能な発展をめざす経済的活動を支える広範な意識と態度が生まれたのである。こうしだ歴史的変容が、町民に旧来の意思決定システムに対する不満と批判の意識を抱かせ、自らの意思表明の場としての「住民投票」を可能にしたといえる。
著者
田中 義久 常木 暎生 藤原 功達 小川 文弥 小林 直毅 伊藤 守
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

高度情報化の進展に伴い、コミュニケーション行為およびメディア環境の変容は、対人関係、マス・コミュニケーション、メディエイティッド・コミュニケーションなどと、重層的な連関を通して進行してきている。本研究では、こうした状況を、地域社会におけるコミュニケーションとの関わりの中で捉えることを目標として研究会を開催し、10年前に実施した調査研究(文部省科学研究費・総合研究A・平成3-4年度「コミュニケーション行為と高度情報化社会」)をふまえ、埼玉県川越市で調査研究を行った。1997年度は、地域作りのリーダー層、行政関係者などを中心にヒアリングを行い、1998年度と1999年度には、川越市の旧市街地と郊外住宅地とで、情報機器利用や地域コミュニケーションなどに関する意識や行動について、質問紙による数量調査を実施した。2000年度は、当該地域の住民に対して、ヒアリング、グループ・インタビューを実施した。4年間の調査研究によって、情報化の進展する地域社会の実態を把握するとともに、高度情報化に即応した、コミュニケーションに積極的な層の存在が明らかになった。その上で、地域住民の側からのヴォランタリスティックな「地域社会」形成の行為は、いかに展開されていくのだろうか。コミュニティとコミュニケーションとの連関を、情報化と地域社会の双方に影響するグローバリゼーションの社会変動のなかで注目していくことの重要性は高い。2000年6月には日本マス・コミュニケーション学会において、「情報化の展開と地域における生活」というテーマで研究発表をおこない、11月には日本社会情報学会において「情報関連機器の利用とコミュニケーション行動に関する実証的研究」というテーマで研究発表をおこなった。また年度末には、本研究成果として、文部省科学研究費報告書(冊子)をまとめた。
著者
伊藤 守
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.727-747, 2007-03-31
被引用文献数
1

電子メディアに媒介された情報とイメージの移動は, ローカル, ナショナル, リージョナル, そしてグローバルな空間が重層化したメディアスケープを構成し, 従来の「ナショナル・メディア」を前提とした研究視座では捉えきれない社会文化的過程を生み出した.<BR>本稿の目的は, メディアのグローバル化を解明する上で重要な三つの視点-文化帝国主義, カルチュラル・スタディーズ, 文化の地政学的なアプローチを検討し, 今後の実証研究を進めるための論点を提示することにある.アメリカのメディア産業が地球規模で文化の画一化をもたらすと主張した文化帝国主義の仮説を支持することはもちろんできない.だが, 表象の政治学の問題に直接かかわる, 情報フローの圧倒的な不均衡性が今でも存在していることを考えるならば, その政治経済学的アプローチの重要性は今日でも失われていない.他方, 文化帝国主義を批判したカルチュラル・スタディーズは, 文化人類学や批判的地理学との対話を通じて, メディアスケープの構築を通じた消費実践の政治性を問題化する文化の地政学的な視点を提示している.このアプローチから, メディアのグローバル化がローカルな空間からグローバルな空間への連続的な拡張ではなく, それぞれの空間の間には対立や包摂といった矛盾や非同型的な関係が生成していること, 複雑に折り重なったメディアスケープの構築と相関するかたちで, 民族や宗教やジェンダーを異にする多様なオーディエンスがそれぞれ独自の「メディア・ランドスケープ」を編制していることが明らかにされつつある.この視座をより精緻化していくためには, マクロな構造に規定されたメディアスケープ内部の対抗や包摂の関係と, オーディエンスが布置化された場の歴史的規定性との相互作用を視野に入れることが必要であり, そのことを通じて現実のメディアのグローバル化の複合的な分析を一層進めることが可能となるだろう.