著者
高桑 純 伊藤 浩司
出版者
北海道大学大学院環境科学研究科
雑誌
北海道大学大学院環境科学研究科邦文紀要 (ISSN:09116176)
巻号頁・発行日
no.2, pp.p47-65, 1986-03
被引用文献数
7

近年北海道の湿原にササの侵入が著しく,湿原植生はササ群落におきかわりつつある。本研究は湿原の保全の立場から,湿原におけるササ群落の動向を知るために,サロベツ原野のチマキザサ群落および月形町月ヶ湖学術自然保護地区のクマイザサ群落で,1979年と1980年の2年間にわたり,ササの外部諸形態および分布と土壌の水分条件との関連さらに水分条件としては,地下水位と酸素拡散速度について研究を行なった。1.土壌の湿潤化に伴い,ササの稈は小型化し現存量が減少する。小型化は稈高・基部直径・葉数および葉面積などの減少によるものであった。その中でも葉数の減少は葉の展開が途中で停止してしまうためであり,稈高の減少は節間生長の減少によるものであった。2.小型化と現存量の減少はミズゴケ層の発達により根系が厚いミズゴケにおおわれることと,それに伴う高い地下水位によって土壌中の酸素拡散速度が低下することなどが大きな原因となって起こる。稈の小型化が最も著しい方形区では深さ20cmにおける酸素拡散速度は0.15-0.25×10^<-6>g・cm^<-2>・min^<-1>であった。3.湿原におけるササの分布は,地下茎の深さと地下水位および酸素拡散速度との関係によって支配されると思われる。地下茎の伸長によって,乾燥あるいは適潤地から湿原のような湿潤な地域にも侵入できるササの形質は湿原において群落を広げていく上で有利である。これは地下茎を通じて酸素や栄養塩類を補給することによるものと思われる。4.ササの侵入の状態は湿原の乾燥化を示す指標となりうる。湿原の保全のためにはササの侵入を許すほどの環境変動を引き起こさぬような対策が最も重要である。
著者
伊藤 隆敏
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.97-113, 2003-04

2001年7月に公表され,その後,定期的にアップデートされている為替介入のデータ(観察期間,1991年4月から2002年3月)を用いて,利益,介入効果などの側面について考察を加える.この期間,125円よりも円安(円ドルレートが,126円以上)の水準での円売り・ドル買いの介入実績はなく,125円よりも円高(円ドルレートが,125円以下)の水準での円買い・ドル売りの介入実績は無かった.日本の通貨当局は,ドルをドル価値が安いときに購入し,高いときに売却していた.介入による売買益,評価益,金利差益の利益合計は,11年間で10兆円近くに上る.介入直前の為替レートの変化に比較して,介入直後の為替レートの変化が,介入の意図した方向に動いていたかどうかの介入の効果を検討すると,おおむね,意図された効果が得られていたといえる.回帰分析によると,1990年代の後半は,介入が統計的有意に為替レートに意図したように影響していることがわかった.効果の大きさは,アメリカと日本の同時介入が,通常の日本の通貨当局による単独介入よりも,20-50倍の効果を持つ.日本の通貨当局による介入のうち,一週間以上の間を置いたあと最初の介入は,そうでない場合よりも有意に大きな効果を持つことが分かった.This paper analyzes the institutional mechanism, history, patterns, profitability, and effectiveness of Japanese intervention in the yen/dollar market from April 1991 to March 2002, based on newly disclosed intervention data. During this period, the yen-selling/dollar-purchasing points were always below 125 yen/dollar mark, while the yen-purchasing/dollar-selling points were always above 125 yen/dollar mark. The authorities bought the dollar low and sold high. Estimates of profits from interventions, realized and unrealized gains and profits from interest rate differentials, amounted to 10 trillion yen over the 11 years. Effectiveness is determined by examining the yen/dollar rate movement over a 24 hour period that includes intervention operations, compared to the preceding 24 hour period. Interventions were effective in the second half of the sample (after June 1995). Joint interventions were particularly powerful in moving the rate in the intended direction.
著者
濱田 リラ 王 蓉 伊藤 公一
出版者
Japanese Society for Thermal Medicine
雑誌
日本ハイパーサーミア学会誌 (ISSN:09112529)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.259-266, 1998

従来より, SAR (Specific Absorption Rate) による加温機器の性能評価がひろく行われているが, 温度の値そのものによる評価ができればより望ましい.そこで本研究においては, ハイパーサーミア機器の加温特性に関する以下の定量的な評価指標を導入した.それらは, 最大加温長Hm<SUB>43</SUB>, 最大加温径<I>D</I><SUB>m43</SUB>, 最大加温体積<I>V</I><SUB>43</SUB>, 深部有効加温体積比<I>R</I><SUB>V43</SUB>および最高温度<I>T</I><SUB>max</SUB>である.一例として, 治療温度を43℃以上とした場合において, 同軸スロットアンテナで構成した組織内加温用アレーアプリケータの特性を数値解析により求め, 血流量, 入力電力と評価指標の関係を整理したチャートを作成した.それらのチャートより, アプリケータ加温特性の全体把握および定量的比較が可能であることがわかる.また, 腫瘍の位置や体積などに応じ, 本論文で示したようなチャートより適切な入力電力を決定できる.以上の指標による評価は, アプリケータの設計のみならず治療計画支援の場においても有用である.今後は, <I>teq43</I>等の治療時の測温データより得られる指標との併用を検討していく必要がある.
著者
加藤 智弘 伊藤 恭子
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.7-21, 2018 (Released:2018-08-16)
参考文献数
89

近年の大腸がんの高い罹患率により大腸がんによる死亡率も高くなり,現在のところ,がん死亡率でみると,男性では3位,女性では1位となっており,診断・治療とともに,その発見も重要な課題項目といえる.その点で大腸がん検診スクリーニングは大きな役割が期待されている.しかしながら,毎年ある程度の受診件数があるものの,精密検査対象者の受診率は他のがんと比較すると圧倒的に低い.このような背景のもと,本稿では大腸がん検診スクリーニングに関する現状と,関連する多くの検査手段について概観した.すなわち,検診のうち,対策型検診で中心となる便潜血検査法について,また,任意型検診,あるいは対策型検診の精密検査対象者への検査として,従来の検査法に加えて,新たな有力な検査法のいくつかについても概説を行った.これらの検査のメリット・デメリットを十分に理解することで,検診受診者に対しては,その情報を還元することにより,結果として,大腸がんの発見,ひいては死亡率の低下をもたらすことに繋がると思われる.
著者
江藤 宏 朝廣 雄一 伊藤 健洋 宮野 英次
出版者
電気・情報関係学会九州支部連合大会委員会
雑誌
電気関係学会九州支部連合大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2013, pp.418, 2013

RIS問題が平面グラフでは近似困難であるが,木幅限定グラフでは線形時間で最適解が求まることを述べる.
著者
遠藤 忠 飯田 貴広 古谷 暢英 山田 由美子 伊藤 眞人
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Chemical Software (ISSN:09180761)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.81-92, 1999-06-15 (Released:2000-03-28)
参考文献数
43
被引用文献数
2 5

半経験的分子軌道法を用いて、ベンゼン2量体およびベンゼン(PhH)—モノ置換ベンゼン(PhX)対の生成熱を計算することにより、ベンゼン—モノ置換ベンゼン間相互作用のエンタルピーを求めた。ベンゼン2量体の場合について、計算法、初期の分子間距離(rI)などを検討した。PM3法で求めた相互作用エンタルピーと最適化後の配置は、これまでの実験値および計算値と矛盾しない。PhH—PhX系の初期配置としては、1ケの平行(P)と4ケの垂直配置(Vr 、Vp 、VmおよびVb)(図1)を選んだ。VpあるいはVm配置の場合には(この配置では、PhXの置換基Xに対してパラあるいはメタ位にあるH原子がPhH分子の重心の真上に存在する)、計算から求めたPhH—PhX間相互作用エンタルピー(ΔΔHf)は、GLPCから求めた実験値(ΔΔHt)と良い相関関係を示し(図5)、相関係数(ρ)は0.94(rI = 2.75 Å)になった。この相関式から求めたΔΔHtと実験値ΔΔHtとの差は、約0.1 kcal mol-1以下であった。他の配置の場合には(Vp配置を除くと)、ΔΔHfとΔΔHtとの間に相関関係は認められなかった。
著者
伊藤 健市
出版者
關西大學商學會
雑誌
関西大学商学論集 (ISSN:04513401)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.15-27, 2006-08

商学部創設100周年 商学会設立50周年 記念特集
著者
蔦田 広幸 平位 隆史 香山 治彦 伊藤 弘基 宇佐美 照夫
出版者
The Institute of Electrical Engineers of Japan
雑誌
電気学会論文誌B(電力・エネルギー部門誌) (ISSN:03854213)
巻号頁・発行日
vol.121, no.7, pp.822-829, 2001-07-01 (Released:2008-12-19)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

Synchronous switching controller (SSC) for gas circuit breakers (GCB) has been developed. SSC is able to close and open a GCB at the appropriate point on wave for minimizing the switching surges. This paper proposes the new synchronous switching algorithm to minimize the control delay time, and the control error for the desired point on wave. New algorithm for (1) detecting voltage and current zero crossing points and (2) predicting the next operation time of GCB is introduced. 145kV GCB with SSC built in new algorithm has been tested several condition. SSC performed well from-30 degrees C to 60 degrees C at various control voltage condition and the standard deviation from the taget phase is within 0.5msec. And the closing at two target points with voltage zero and peak works well in a capacitive load circuit at 145kV.
著者
伊藤 真二 山口 仁志 小林 剛 長谷川 良佑
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.529-536, 1996-06-05
参考文献数
12
被引用文献数
14 10

グロー放電質量分析法(GD-MS)により,ニッケル基耐熱合金中の合金元素(Al, Si, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Cu, Y, Nb, Mo, Ta及びW)並びに微量元素(B, C, Mg, P, S, Zn, Ga, As, Zr,Cd, Sn, Sb, Te, Pb及びBi)の定量法を検討した.スペクトル干渉などについて詳細に調べた結果, Se, Agを除いてその影響がないことを確認した.JAERI CRM, NIST SRM, Bs CRMs, BCS CRMs及び自家製Ni合金標準試料の16種を測定し,表示値とGD-MS測定値から得られた相対感度係数(RSF)を評価した.RSF値による補正を行ったGD-MS定量値の正確さ(σ<SUB>d</SUB>)をファンダメンタル・パラメータ法-蛍光X線分析法(FP-XRF)による値と比較した結果, Cr, Feではやや劣るものの,そのほかの合金元素はFP-XRFによる定量値の正確さとほぼ同等であった.繰り返し分析精度は, P, Sを除いて相対標準偏差(RSD)で2.5%以内と良好な値であった.実用ODS合金MA 6000の合金成分の定量値は,FP-XRF定量値とよく一致した.又,有害微量不純物元素などの定量結果は,黒鉛炉原子吸光法による値あるいは化学分析値と一致し,本法がNi基耐熱合金の合金成分から微量成分元素定量に適用できることを確認した.
著者
伊藤 暢浩 岡野 昇 山本 俊彦 加納 岳拓 Ito Nobuhiro Okano Noboru Yamamoto Toshihiko Kano Takahiro
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.155-166, 2010

本稿では、まず小学校体育における「体力を高める運動」にかかわり、最近の実践報告や研究動向から、「体力を高める運動」の問題を浮き彫りにした。そこでは、「体力を高める運動」の実践報告はきわめて少なく、教材の開発もあまり進められていないことが明らかになった。また、その背景には小学生には受けいれられにくいとされる必要充足機能が強調されており、その内容はトレーニング的で量的な体力を問題にする数値主義に基づき、自己の体力の高まりに着目した個人主義的な立場から「体力を高める運動」が位置づけられていることが明らかになった。加えて、最近の研究では、「体力を高める運動」の運動の特性、学習観、身体観といった枠組みから展開されていることが明らかになったが、実際にどのように運動の内容構成を行っていけばよいのかという教材開発の提示までには至っていないことが浮き彫りとなった。そこで、「体力を高める運動」における、①運動特性の捉え方、②学習観の捉え方、③身体観の捉え方の三点について検討した結果、運動の特性は欲求充足機能を前面に取り上げながら、結果として必要充足機能に結びつけるという表裏一体のものとして捉えることが肝要であると述べた。また、学習観は個人主義的な学習観から関係主義的な学習観へシフトすることが重要であると述べ、身体観は一人称的・三人称的身体から二人称的身体へと転換することで、新たな体育教育をひらく可能性があると考察した。こうした視点を持ちながら、「体力を高める運動」の新たな内容構成に基づく教材開発を行った結果、欲求充足と必要充足の機能の両方を重視しながら教材を作成するために、カード(A6版)形式を採用し、カードの表面には欲求充足の観点が分かるように、「運動の中心的なおもしろさ」をイラストと文章で表記し、カードの裏面には体力の四つの要素(体の柔らかさ・巧みな動き・動きを持続する能力・力強い動きを高めるための運動)のどれと結びついているかという観点で示した。また、仲間と共に楽しみながら行える運動を行うことができるという観点から30の運動を選定し、仲間に働きかけたり、仲間から働きかけられたりすることにより生まれる世界を大切にする二人称的な身体から運動を取り上げた。