- 著者
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前原 和平
- 出版者
- THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
- 雑誌
- 日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
- 巻号頁・発行日
- vol.62, no.6, pp.853-858, 2014
- 被引用文献数
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東日本大震災ならびに福島第一原子力発電所事故から2年8か月が経とうとする現在,30km圏内をはじめとする避難区域はもとより,その周辺の地域コミュニテイの復旧・復興の見通しは杳として立っていない。昨年の学会では,東日本大震災とそれに引き続く東京電力福島第一原子力発電所事故によりその日現場で何が起きたのか,そして福島県下病院の被災状況について報告をさせていただいた。大震災より2年8か月が経過した本学会開催時には福島県の復興の確かな足取りをお話しするつもりであった。しかし,住民の帰還どころか,仮の町計画すら具体化せず,最大16万6,000人に上った避難住民は8月現在,未だおよそ15万人(県内に約9万6,000人,県外へ約5万4,000人)が避難生活を送っている。第一原発から20km以内の旧警戒区域にある双葉郡4町(浪江,双葉,大熊,富岡)は5年間帰還しないことを決めた。避難生活が6年以上に渡る人は5万4,000人に上ると推定されている。また,旧緊急時避難準備区域は解除されて1年5か月が経過したが帰還したのは避難した住民の1~2割に止まり復旧は進んでいない。 震災二周年の3月11日に報道されたNHK特集では避難区域から8万5,000人,区域外から7万人の避難生活者のなかで,転居を4~5回以上した人が76.7%,もといた家族と暮らせていない人が59.6%に上ると報道された。避難住民は,生活基盤を根こそぎ奪われ,地域コミュニティから隔絶された中で,経済的にも精神的にも困難な状況に置かれている。さらに,この状況が次第に見えづらくなってきつつあることが憂慮される。福島第一原発事故も本年8月に入って汚染地下水の海への流出や貯蔵タンクからの汚染水漏れが明らかとなり収束にはほど遠い状況にある。病院を含む双葉郡地域社会の復興・再生はようやくとば口に立ったに過ぎない。 地域コミュニテイの復旧なしには病院の復旧・復興も進まない。旧警戒区域の7病院は未だ休止中であり再開の目処は立っていない。また,診療を再開した旧緊急時避難準備区域の6病院は病院スタッフの減少により厳しい医業経営を強いられている。放射線低線量被爆への不安から避難している住民のなかには,子供のいる若い世代の医療スタッフも多く含まれ,県下病院において医療スタッフの不足が深刻化している。これからの福島県医療の復興・再生には遠い道のりが待ち構えている。