- 著者
-
加藤 健太
- 出版者
- 社会経済史学会
- 雑誌
- 社会経済史学 (ISSN:00380113)
- 巻号頁・発行日
- vol.79, no.4, pp.521-543, 2014-02-25 (Released:2017-05-17)
本稿の目的は,戦間期の三菱商事(商事)と安治川鉄工所(安治川)の事例を対象にして,取引先企業との関係の中で発揮された総合商社の機能を検証することである。三菱商事は,国内,海外双方にわたる一手販売権の獲得を狙って,安治川鉄工所に対し多面的な機能を果たした。第1に,商事は,安治川の顕著な業績悪化を契機に積極的な経営介入へと方針転換を図り,無担保融資を実施するなど資金面で重要な役割を担った。同時に,安治川向け融資をめぐる条件の再設定にコミットし,同社の取引先である山口銀行との交渉役を演じた。第2に,商事は,出張ないし常駐という形で,複数の社員と経営幹部を安治川に派遣したが,こうした行為は経営資源の供給と経営監視の強化という2つの機能を併せもったと考えられる。同時に,商事は安治川の再建計画の策定と実施にあたって,積極的に関与していた。この一連の過程で,商事は,大阪支店を中心とする国内外の店舗間取引ネットワークを通じて,安治川製品の市場開拓も進めたのである。