著者
吉田 真悟
出版者
農林水産省 農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 = Journal of Agricultural Policy Research (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.32, pp.17-41, 2020-06-30

外部環境の変化の激しい現代において,農業経営の多角化には追加所得確保,リスク分散,範囲の経済による資源活用など多様な役割が期待される。特に,消費地との近接性を活かした事業多角化が盛んな都市近郊農業において,多角化を通じた経営発展のメカニズムの解明が求められる。本稿では,農業経営の長期的な多角化プロセスの類型を理論化した上で,各類型における多角化と経営発展の相互関係について関東都市近郊の18 件の農業経営の事例分析より明らかにする。その際,多角化との関連性の大きな経営内部環境(アントレプレナーシップ及び経営資源)をあわせて把握した。分析の結果,農業経営の事業多角化は高度多角化型,事業補完型及び基幹事業探索型に類型化され,各類型の中でも経営内部環境の整った経営のみが経営発展(量的拡大及び質的変化)を達成していた。さらに,高度多角化型及び基幹事業探索型では多角化と経営内部環境が相互に影響しながら経営発展している一方で,事業補完型では多角化が経営発展に与える影響は限定的だった。本稿の結果は,多角化した農業経営の支援を考える際に,各経営における多角化の位置づけ及び経営発展のボトルネックを明確にすることの重要性を示唆している。In a drastically changing external environment, farm diversification serves several purposes, including additional income generation, risk reduction, and efficient resource utilization. In peri-urban agriculture, where structural diversification is widespread, the mechanism of farm development through diversification deserves attention. This study aims to demonstrate the interaction between farm development and each type of theoretically defined diversification using data from 18 farms located in urban areas in the Kanto region, Japan. The internal farm environment factors like entrepreneurship and management resources affect farm diversification. Consequently, farm structural diversification can be classified into four categories: highly diversified type, complementary enterprise type, search and selection type, and non-diversified type. The study identifies that farms of each category whose management exhibit factors like entrepreneurship, management skills, and active social networks, achieve farm development. Furthermore, in farms that were of the highly diversified type, and the search & selection type had an interaction between diversification and internal farm environment, the diversification of farms of the complementary enterprise type had little impact on its management. These findings have significant implications on policies supporting diversified farms. Research is required to identify the types of farm diversification and associated challenges for further growth.
著者
栁澤 節子 小林 千世 山口 大輔 上原 文恵 吉田 真菜 鈴木 風花 松永 保子
出版者
信州公衆衛生学会
雑誌
信州公衆衛生雑誌 (ISSN:18822312)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.107-113, 2018-03

本研究の目的は、主観的健康感と生活形態、健康維持への意識、および地域社会活動との関連を検討することであった。2015 年7 月にM 市内の総合球戯場でゲートにいた成人と、2016 年9 月から10 月にM市内の商業施設の成人の来店者とS 大学医学部主催の健康講座に来た成人の参加者を調査対象者とした。調査内容は対象者の属性、主観的健康感、生活形態、直接スポーツ観戦の有無などであり、無記名式質問紙調査を実施した。分析は、主観的健康感について「主観的健康感高群」と「主観的健康感低群」に分けて、それらを従属変数とし、「地域活動に関する事柄」、「生活習慣に関する事柄」、「健康維持に関する意識」、「直接スポーツ観戦の有無」を独立変数として、多重ロジスティック回帰分析を行った。その結果、「夢中になれるもの」(OR=3.41、95% CI=1.270─9.167)、「規則正しい生活」(OR=2.64、95% CI=1.251─5.585)、「直接スポーツ観戦」(OR=2.584、95% CI=1.158─5.766)が、主観的健康感を高める要因であった。これらのことから、人生において、夢中になれるものがあることや、規則正しい生活を送ること、直接スポーツを観戦することが、主観的健康感に大きな影響を与えていることが分かった。また、直接スポーツを観戦することや、直接スポーツをすること以外にも、スポーツに関わる、あるいは携わることが、健康に対する意識を高め、健康の保持増進に影響を与えることが推察された。したがって、スポーツができない高齢者や患者においても、スポーツを観戦することで、主観的健康感が高まり、人生における楽しみや生きがいにつながり、「近隣の人との交流」、「地域での活動に参加する」などの社会的活動やその役割、意識をも高め、主観的健康感も高まると考えられた。今後、健康寿命の延伸に向けた健康づくりのためには、今回明らかになった主観的健康感を高めるような要因が充実する介入や支援ができる体制を作り上げることが重要であると考えられた。
著者
亀卦川 学 長谷川 英明 吉田 真人 廣岡 敏彦 中沢 正隆
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. OFT, 光ファイバ応用技術 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.103, no.257, pp.51-56, 2003-08-14
参考文献数
13

我々はこれまでに従来の光ファイバをフォトニック結晶ファイバ(PCF)に接続する場合にはクラッド部の屈折率の差から大きなフレネル反射が生じることを報告した。これは従来のファイバ接続にはない巨大フレネル反射であり、フォトニック結晶ファイバを光部品や伝送路に用いる場合にはその反射が問題となる。本論文ではPCFと従来ファイバの接続特性をさらに詳細に測定し、その接続点におけるフレネル反射光強度をレイリ散乱のレベルまで抑制する接続条件を明らかにした。また、ファイバ接続点付近におけるPCFの断面構造をSEMで観測し、フレネル反射の低減とPCFのクラッド部における空孔形状の関係を議論した。
著者
小野 敦 吉田 真人 中沢 正隆
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. OFT, 光ファイバ応用技術 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.262, pp.25-30, 2004-08-20
参考文献数
13

高調波再生モード同期エルビウムファイバレーザはGHz帯で数ピコ秒のトランスフォームリミットなパルスを容易に発生できるため、超高速光通信用光源として注目されている。またこのようなファイバレーザは共振器長が長くレーザ共振器のQ値が高いため、その発振線幅が1kHz以下と狭線幅であり、縦モード間のビート信号を用いた高純度な光マイクロ波発振器としての応用も期待できる。今回我々は共振器長の大幅な可変を目指して、レーザの利得媒質として従来のエルビウム添加ファイバ(EDF)の代わりに半導体光増幅器(Semiconductor Optical Amplifier:SOA)を用いた10GHzモード同期SOAファイバレーザを作製し、その発振に成功した。またその発振線幅について詳細に測定したので報告する。
著者
高野 忠 前田 崇 相馬 央令子 今岡 啓治 吉田 真吾 服部 克己 Takano Tadashi Maeda Takashi Soma Eriko Imaoka Keiji Yoshida Shingo Hattori Katsumi
出版者
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部
雑誌
宇宙利用シンポジウム 第23回 平成18年度 = Space Utilization Research: Proceedings of the Twenty-third Space Utilization Symposium
巻号頁・発行日
pp.163-166, 2007-03

Microwave emission was found when materials were destroyed by a static pressure. This paper describes the experimental setup to observe the phenomena, the obtained terms and results and the method to convert to power. According to the obtained experimental results, the cause of microwave emission is inferred to be the dissociation of atoms or molecules, but is not yet completely confirmed. Currently, the phenomenon is expected to be applied to geophysical explorations in the earthquake detection.
著者
吉田 昌弘 吉田 真 盛 智子
出版者
北翔大学
雑誌
北翔大学生涯スポーツ学部研究紀要 = Bulletin of Hokusho University School of Lifelong Sport (ISSN:18849563)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.63-69, 2011

一般的にコアと呼ばれている腹横筋,内・外腹斜筋などの腹筋群は,収縮により腹圧を高める機能を有することから,スポーツ動作における体幹の安定性に関して重要な役割を担っていると言われている。コアの機能が重要視される一方で,これらの機能を定量的に評価する手法は十分に確立されていない。本研究では,コアの機能を定量的に評価する手法を確立することを目的に,腹部引き込み動作であるDrawin による腹横筋および内・外腹斜筋の筋厚変化を超音波画像診断装置を用いて調べた。男子大学生48名を対象に,安静時およびDrawin における内・外腹斜筋の筋厚を超音波画像上で計測した結果,腹横筋と内腹斜筋では,安静時と比較してDrawin 時に有意な筋厚の増大が認められた。本研究結果から,腹横筋と内腹斜筋は腹圧を高める動作であるDrawin において形態が変化し,この形態変化は超音波画像上で筋厚を計測することにより定量的な評価ができることが示唆された。
著者
熊野 純彦 木村 純二 横山 聡子 古田 徹也 池松 辰男 岡田 安芸子 吉田 真樹 荒谷 大輔 中野 裕考 佐々木 雄大 麻生 博之 岡田 大助 山蔦 真之 朴 倍暎 三重野 清顕 宮村 悠介 頼住 光子 板東 洋介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2018年度は、本研究の主要達成課題のうち、「各層(家族・経済・超越)の各思想の内在的理解」を中心とする研究がなされた。近現代日本の共同体論を再検証するにあたっては、2017年度で取り組まれた「和辻共同体論の参照軸化」に加え、家族・経済・超越それぞれの層に関連する思想を巡る形成の背景に対しても、テクストに内在した読解を通じて光を当て直す必要がある。以下、そうした問題意識のもとに取り組まれた、2018年度の関連実績のうち主要なものを列挙する。(1)研究代表者の熊野純彦は、著書『本居宣長』において、近世から現代に至るまでの代表的な思想家たちによる宣長の思想の受容過程を丹念に整理・検証することで、それを近代日本の精神史の一齣として提示することを試みた。それを踏まえたうえで改めて宣長のテクストの読解を行い、今日の時代のなかでその思想の全体像を捉えかえそうとしたところに、本業績の特徴がある。(2)研究分担者宮村悠介は、主に本研究の研究分担者からなる研究会(2018年9月)にて、研究報告「家族は人格ではない 和辻共同体論のコンテクスト」を行い、和辻倫理学の形成過程におけるシェーラーの影響と対話の形跡を、具体的にテクストをあげつつ剔抉した。これは、翌年度の課題である「思想交錯実態の解明」にとってもモデルケースとなる試みである。(3)超越部会では台湾の徐興慶氏(中国文化大学教授)を招聘、大陸朱子学と、幕末から近代に至るまで様々な思想に陰に陽に影響を及ぼしてきた水戸学の影響関係について知見をあおいだ(「「中期水戸学」を如何に読み解くべきか 徳川ミュージアム所蔵の関係資料を視野に」2018年)。これにより、広く東アジアの思想伝統と近世以降現代に至るまでの日本思想の受容・対話の形跡を実証的に検証することの重要性を改めて共有できたことは、本研究の趣旨に照らしても重要な意義を持つと思われる。
著者
西村 裕一 宮地 直道 吉田 真理夫 村田 泰輔 中川 光弘
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.451-460, 2000-10-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
31
被引用文献数
11 10

北海道東部の霧多布湿原において,湿原堆積物の掘削調査から泥炭層中に連続する層厚3cm以下の砂層を発見した.この砂層は,海側から内陸側に向かって層厚や粒径を減じ,比較的層厚の大きな地点では級化構造を呈する.また,乾燥化や塩分濃度の低下に伴って発生する珪藻化石を産出することから,この砂層を津波堆積物と認定した.砂層の下位には泥炭層を挾み,1739年の樽前a火山灰(Ta-a)と1694年の駒ヶ岳C2火山灰(Ko-c2)の2層の火山灰層が確認された.これらの火山灰層の年代をもとに泥炭の堆積速度を求めたところ,この砂層の年代はおよそ1810~50年代と推定された.1843年に,北海道東部の厚岸を中心に46名の犠牲者を出した北海道南東岸沖地震津波の歴史記録があり,この津波の前後に規模の大きな津波が霧多布湿原一帯に押し寄せた記録はないことから,本砂層は1843年の津波によりもたらされた堆積物と考えられる.
著者
中橋 史衡 田中 周 武藤 友和 吉田 真一 佐藤 貴子 鈴木 敬二 森豊 浩代子 鈴川 活水
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.E-171_1-E-171_1, 2019

<p>【はじめに・目的】</p><p>乾,山口,實はChungらによる被殼出血症例の出血部位を血管支配領域別に分けた6分類を用いて,それぞれ回復期病棟,急性期病棟の独歩獲得率を調査している.しかし,同分類と被殻出血症例に対する装具処方の関連を調査した報告はみられない.今回被殼出血症例における当院退院時の独歩獲得率及び装具処方との関連を各部位間で調査し先行研究との比較検討を行った.</p><p>【方法】</p><p>2011年~2018年の間に入院した被殻出血患者87名を対象とした.男性56名,女性31名,年齢平均58.52(±12.59)歳,損傷側は左側36名,右側51名であった.既往歴に脳血管疾患や整形外科疾患を有する症例は除外した.急性期頭部CT画像と回復期入院 時頭部CT画像(撮影日:発症後平均25±11日)を用いて出血位置を確認しChungらが報告している6タイプ(前方タイプ,中間タイプ,後内側タイプ,後外側タイプ,外側タイプ,大出血タイプ)に分類した.退院時Functional Independent Measure(以下;FIM)移動項目1-5点を独歩不可能群,6-7点を独歩可能群とし,独歩獲得率を求めた.各タイプの割合,年齢平均,独歩獲得率,退院時FIM移動項目およびFIM認知項目の点数,BRS,内包後脚への進展の有無を比較した.統計学的解析はJ-STATを用い,独立した多群の差の検定としてKruskal Wallis検定を行い,多群比較としてscheffe法を行った.有意水準はいずれも p<0.05とした.</p><p>【結果】</p><p>分類別の症例数は前方タイプ3名(3.4%),中間タイプ7名(8.0%),後内側タイプ2名(2.0%),後外側タイプ30名(34.4%),外側タイプ21名(26.4%),大出血タイプ22名(25.2%).各タイプでの年齢・性別の有意差なし.独歩獲得率(装具処方)は前方タイプ100%(処方なし),中間タイプ100%(処方なし),後内側タイプ100%(処方なし),後外側タイプ93.3%(AFO43.3%,KAFO23.3%),外側タイプ90.4%(KAFO9.5%),大出血タイプ54.5%(AFO13.6%,KAFO86.3%,その他9.0%).大出血タイプにて有意に独歩獲得率およびBRSの低下が認められた.内包後脚への進展は後外側タイプ,大出血タイプにおいて有意にみられ,この両タイプ間の比較では大出血タイプに有意な進展を認めた.</p><p>【考察】</p><p>山口によると独歩獲得率は後外側タイプにて50%,大出血タイプにて13.4%と有意に低下しているとされるが当院では大出血タイプのみに有意な低下が認められた.また,当院での独歩獲得率は後外側タイプ93.3%・大出血タイプ54.5%と先行研究に比べ良好であった.当院では発症から回リハ病棟入棟までの入棟期間が短く(平均25±11日),また当院入院後比較的早期の装具処方(平均11.3±18.5日)と起立訓練の実施により積極的な立位・歩行訓練を実施している.実際に大出血タイプ症例の86.3%に早期にKAFOが処方されておりこれらが良好な独歩獲得率に寄与した可能性が示唆される.タイプ別の装具処方数については内包後脚および放線冠への進展がみられやすい後外側タイプ,大出血タイプにおいて多くの装具が処方されたことが考えられる.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言の基準に従い、データは研究以外の目的には使用せず、個人が特定されないよう匿名化した。また当院の規定に基づき個人情報の取り扱いには十分配慮して行った。</p>
著者
吉田 真美 内田 優 吉田 佑美
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成18年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.19, 2006 (Released:2006-09-07)

[目的]ショウガはプロテアーゼ活性を有するため肉への軟化作用があるとされ、また6-ジンゲロールなどの抗酸化物質を多種類有することにより抗酸化作用をもつことが報告されるなど、その機能性が評価されている食品である。しかし、その簡便性ゆえに一般に普及している市販のチューブ入りショウガ、瓶入りショウガや粉末ショウガなどのショウガ関連商品についての報告はほとんどない。そこで、これらの商品の抗酸化性とプロテアーゼ活性ついて測定し、生ショウガと比較した。[方法]生ショウガはおろして使用した。それぞれの商品の水分を測定して、水分量を一定に調製した後、豚ひき肉に対する抗酸化性をTBA法で測定した。 また、試料を遠心分離して上清を得て、Sephadex G25を用いてゲル濾過クロマトグラフィーを行った。各溶出各分の280nmにおける吸光度を分光光度計で測定、たんぱく量をLowry法で測定、プロテアーゼ活性をカゼインを基質をして測定した。[結果]チューブ入りショウガ、瓶入りショウガは抗酸化性を有したが、生ショウガに比べてその機能はごく弱かった。粉末ショウガは、生ショウガの約半分の抗酸化性を示した。 プロテアーゼ活性については、チューブ入りショウガ、瓶入りショウガにはたんぱく質自体が存在せず、活性は全く無かった。粉末ショウガには若干の活性が認められた。これらの結果から、粉末ショウガにはある程度の機能が認められたが生ショウガには劣り、生ショウガの機能性が最も高いことが確認された。
著者
吉田 真理子 内田 広夫 川嶋 寛 五藤 周 佐藤 かおり 菊地 陽 岸本 宏志 北野 良博
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.759-764, 2010-06-20 (Released:2017-01-01)
参考文献数
26

症例は4か月男児.腹部腫瘤を主訴に紹介され,エコー上肝内に径5.7cm大の多房性嚢胞性腫瘤を認め,当初は間葉系過誤腫が疑われた.1週間後の腹部造影CTでは充実性成分を伴う多発性肝腫瘤と肝門部・後腹膜リンパ節腫大を認め,悪性腫瘍が強く疑われた.早期診断および治療のために緊急入院し,経皮針生検を行った.ラブドイド腫瘍と診断され,ICE療法を開始したが,治療に全く反応せず,腫瘍は急速に増大した.入院直後より全身状態も急速に悪化し,人工呼吸管理,持続血液透析濾過を含む集中治療を行ったが改善を得られず,初診から約1か月後に死亡した.肝ラブドイド腫瘍は非常に稀で,著しく予後不良な悪性腫瘍である.現在までの報告例は検索しえた範囲で33例のみであり,文献的考察を加えて報告する.
著者
秋吉 英雄 吉田 真明 川向 誠
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-07-18

一般的に藻食性魚類と記載されている魚種を網羅的に調べ,そのほとんどが雑食性魚で,藻食性に特化した魚類は非常に少数であると考えられた.雑食性魚類の特徴である無胃魚および長い腸は必須の構造であるが,胃腺を認めない胃様の腸膨大部がほとんどの海水魚種に存在していた.この膨大部の働きとして魚体の浸透圧調整機構に関与(海水飲)していると推察された.ゲノムインフォマティクス解析によって,腸管内微生物の遺伝子配列を解読.その系統的多様性と機能遺伝子の同定を行った.イソギンポ科の藻食性魚類であるヨダレカケ,藻食性+雑食性魚のホシギンポ,雑食性で藻食性でないヘビギンポ科のヘビギンポの腸内容物からDNAを抽出,16S rDNA V4-V5領域を増幅して次世代シーケンス(Illumina Miseq) により網羅的に配列を大量決定し,3種の腸内微生物叢を比較した.ホシギンポは,複数の微生物叢,ヘビギンポは単一の微生物叢であった.一方,藻食性魚類のヨダレカケは,多数の微生物叢を構成しており,Proteobacteria門,Spirochaetes門,Bacteroidetes門,Deferribacteres門,Verrucomicrobia門が見出され,特徴的な菌種ではTenericutes門等,反芻胃や無酸素の深海中などから発見される系統を認めた.これらの結果より,雑食性魚と藻食性魚の腸内微生物叢は明らかに異なっていた.ヨダレカケの腸内微生物の培養では,単離した各株の16S rDNA領域を増幅しDNA配列を決定し,Vibrio属,Shewanella属,Pseudomonas属の細菌と推定した.嫌気条件より得られたアガロースゲル分解細菌は,Vibrio alginolyticusと高い相同性を示し,珪藻分解性細菌を一群に持つPseudoalteromonas属,Bacillus sp.Vibrio sp.Shewanella sp.と高い相同性を示す株を得た.好気条件より得られた未知菌株はVibrio sp.V859,Vibrio sp.V639,Vibrio harveyi,Pseudoalteromonas sp.JL-S1と高い相同性を示した.