- 著者
-
坂野 雄二
- 出版者
- 早稲田大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1998
本研究の目的は,自律訓練法標準練習の習得に伴って生じる心理生理学的な変化を,自律神経系機能と心理的指標,行動的指標を用いて明らかにすることであった.心身ともに健康な男女大学生を対象として,約3ヶ月の自律訓練法標準練習習得期間の前後において,ストレス負荷としてスピーチ課題が課され,その際の心理生理学的測定,行動評定が行われた.生理学的な指標として,皮膚コンダクタンス水準,収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数,および心電図R-R間隔の周波数分析のそれぞれが,また,心理学的指標として主観的不安反応の変化,行動的指標としてスピーチ不安の行動評定のそれぞれが用いられた.また,自律訓練法の練習を行わない統制群,類似した心身の弛緩法である臨床標準瞑想法を実施する統制群が準備された.その結果,自律訓練法標準練習の習得によって,自律神経系交感神経機能と副交感神経機能の両者が賦活されること,特に,交感神経機能の賦活としては血圧値の上昇が,また,副交感神経機能の賦活としては心拍数の減少や皮膚コンダクタンス水準の低下が認められること,心理学的には不安低減効果が見られること,行動的指標で改善が認められること等の諸点が明らかにされた.臨床群を対象とした場合の自律神経機能の変化と,健常者を対象とした自律神経機能の変化の違いが示唆されるとともに,自律訓練法による自律神経系機能の安定化のメカニズムに関する示唆を得ることができた.また,自律訓練法が併用される治療法である行動療法の最近の発展を展望する中で,認知行動療法において自律訓練法がどのような役割を果たすことができるかについて理論的考察を行った.