著者
中澤 宏 岸保 鉄也 佐藤 むつみ 小路 剛 斉藤 美和子 山縣 然太朗
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.228-233, 2019 (Released:2020-03-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1

西東京市医師会は公益事業として,「認知症予防のための聴覚検診」を立ち上げ,同意の得られた65歳以上の高齢者1156名(男性:435名,女性:721名)を対象として,市民の健康診査に合わせて認知症スクリーニング検査であるMMSEと純音気導聴力検査を行なった.また,片耳でも40 dB以上の難聴があり,同意が得られれば語音聴力検査も併せて施行した.その結果,平均年齢:75.2 ± 6.0歳,平均聴力:29.8 ± 14.7 dB,MMSEの平均は28 ± 2.6点,認知症疑いの23点以下は6.2%であった.加齢と伴に純音聴力は有意に低下し,純音及び語音聴力検査に関して,認知症群と認知機能正常群及び認知症群とMCI群の2群間に統計学的有意差を認めた.一方,MCI群と認知機能正常群の2群間には有意差は認められなかった.この研究結果は,認知症の発症リスクのある日本人の高齢者に対する聴覚の検討であるため,日本における認知症とその予防を考えるうえで極めて重要である.
著者
元木 愛理 篠原 亮次 山縣 然太朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.345-354, 2016 (Released:2016-08-17)
参考文献数
53
被引用文献数
1

目的 国際的にも少子化は重要な社会課題として取り上げられており,少子化対策として子育て世帯への給付費に多くの財源を充てることが必要との見解が示されている。本研究では,子ども関連の社会保障費に関する国際比較および合計特殊出生率との関連を検討することを目的とした。方法 対象は OECD (Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)加盟国のうち2011年度の家族関係社会支出対 GDP (Gross Domestic Product:国内総生産)比と高齢関係社会支出対 GDP 比が計上されている34か国である。各加盟国の家族関係社会支出対 GDP 比を 0~14歳の子どもの人口割合(年少人口割合)で除したものと高齢関係社会支出対 GDP 比を65歳以上の高齢者の人口割合(老年人口割合)で除したものを算出し,国際比較を行った。また,各人口割合を考慮した合計特殊出生率と家族関係社会支出対 GDP 比の相関分析と偏相関分析を行い,両者間の関連を検討した。結果 社会支出対 GDP 比を年少および老年人口割合を考慮して比較をした結果,OECD加盟国の平均は家族関係社会支出が0.13,高齢関係社会支出が0.47であったのに対し,日本は家族関係社会支出が0.10,高齢関係社会支出が0.45であった。次に合計特殊出生率と家族関係社会支出対 GDP 比に関する相関分析の結果,現物給付対 GDP 比と合計特殊出生率との間に相関傾向(r=0.32, P=0.06)がみられた。また,家族関係社会支出対 GDP 比と合計特殊出生率との偏相関分析の結果,両者の間に有意な相関がみられた。現金給付と現物給付に分け,それぞれの GDP 比と合計特殊出生率との偏相関分析の結果では,両者とも合計特殊出生率との間に有意な相関(r=0.51, P<0.01)があり,現金給付(r=0.39, P=0.03)よりも現物給付(r=0.45, P<0.01)のほうがより強い相関であった。結論 日本の子どもや子育て世帯への社会保障費は,経済水準を考慮した国際的な比較において GDP 比が低かった。また,社会保障の中でも保育サービスや就学前教育の充実など現物給付を増やすことは,合計特殊出生率を回復させる一要因となることが示唆された。
著者
山縣 然太朗
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.239-244, 2012 (Released:2017-02-16)
参考文献数
12

健康には遺伝要因,出生後の環境要因とともに,胎内環境が影響を及ぼすことが知られている。いわゆる Barker説である。これを明らかにしようとする疫学手法が出生コホート研究であり,エピジェネティクスの観察研究となる。 出生コホート研究にはいくつかの課題がある。まず,対象が発達過程の子どもであることから,臨界期,感受期などの概念を考慮してどのような解析モデルとするかが課題である。次に,脳科学に関連するアウトカムとなる健康事象について,身体測定のように縦断的に繰り返し測定できる方法の開発が課題であり,さらに,倫理的問題を含む研究ガバナンスは最も重要な課題である。 脳科学領域のコホート研究の戦略は,これまでの脳科学研究の知見から仮説検証すること,様々なモデルを構築してこれまでの知見との整合性を評価すること,逆に,コホート研究で得られた知見の機序を解明する基礎研究を行うことを通じて相互に補完しながら研究を展開することである。
著者
緒方 靖恵 横山 美江 秋山 有佳 山縣 然太朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.493-502, 2021-07-15 (Released:2021-07-20)
参考文献数
31

目的 本研究は,経済格差と幼児の食生活習慣との関連を明らかにし,今後の幼児をもつ家庭への支援のあり方を検討することを目的とした。方法 A市内4区の3歳児健康診査に来所した保護者を対象に,幼児の食生活習慣の状況,保護者の社会経済的地位を含む養育環境を問う無記名自記式質問紙調査を実施した。1,150人の保護者に調査を依頼し,616人から回答を得た(回収率53.6%)。このうち必要な項目等が欠損していた者を除外し,498人(有効回答率80.8%)を分析対象とした。本研究では,国民生活基礎調査において相対的貧困率の算出に用いられる貧困線を参考に,相対的貧困群と非相対的貧困群に分類し,幼児の食生活習慣との関連を分析した。統計学的分析方法は,Fisherの正確確率検定,Mann-WhitneyのU検定を実施後,相対的貧困と関連が認められた食生活習慣について,ロジスティック回帰分析を実施した。結果 相対的貧困群と非相対的貧困群における幼児の食生活習慣を分析した結果,相対的貧困群の幼児は,非相対的貧困群の幼児と比較して,週6日未満の野菜の摂取の割合が高く(P=0.003),かつ週6日以上のスナック菓子の摂取の割合も高かった(P=0.034)。週6日未満の野菜の摂取と週6日以上のスナック菓子の摂取については,保護者の年齢や学歴,主観的経済観を調整しても相対的貧困と有意な関連が認められた。相対的貧困群の養育環境の特徴では,非相対的貧困群と比較して30歳未満の保護者の割合が高く(P<0.001),ひとり親世帯の割合が高かった(P=0.007)。加えて,保護者の最終学歴が高校までの割合が有意に高かった(P<0.001)。さらに,相対的貧困群の保護者は,非相対的貧困群の保護者に比べて主観的経済観でもより生活が苦しいと感じていた(P<0.001)。結論 本研究結果から,経済格差が3歳児の食生活習慣と関連していることが明らかになった。今後,妊娠・出産期から経済的困難を抱える家庭を把握し,子どもが健康的な食生活習慣を身につけられるよう早期から支援していく必要性が示された。
著者
仲村 秀子 尾島 俊之 中村 美詠子 鈴木 孝太 山縣 然太朗 橋本 修二
出版者
東海公衆衛生学会
雑誌
東海公衆衛生雑誌 (ISSN:2187736X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.71-75, 2013-07-20 (Released:2018-12-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1

目的 2011年に発生した東日本大震災前後の岩手県・宮城県・福島県の出生率・男児出生割合・低出生体重児割合の変化を明らかにすることである。方法 2007年から2011年の人口動態統計を用いて,全国,岩手県,宮城県,福島県における各年の出生数・出生率,男児出生割合,低出生体重児数と割合の推移を,それぞれの変化率を用いて検討した。出生数・出生率は男女を合わせた総数を,低出生体重児数と割合は,総数と男女別の検討を行った。次に,2007年から2010年を合わせた出生率,男児出生割合,低出生体重児割合と2011年のものと比較し,χ2検定を行った(有意水準を5%)。結果 2007年から2011年にかけて全国,岩手県,宮城県,福島県の出生数と出生率は,概ね低下していた。2007年から2010年を合わせた出生率と2011年との比較では,全国,岩手県,宮城県,福島県いずれも2011年は有意に低下していた。男児出生割合は,2007年から2011年にかけて全国は緩やかに減少していた。岩手県は52.26%から50.44%に年々減少し,宮城県,福島県は50.78%から51.91%の間を増減しながら全体としては横ばいであった。2007年から2010年を合わせた男児出生割合と2011年との比較では全国と岩手県は有意に減少していた。低出生体重児割合は,2007年から2011年にかけて総数では,全国は安定していたが,岩手県・福島県は年によって増減しながら,ほぼ横ばいであった。宮城県は概ね上昇していた。男女別にみると,男児は2007年から2011年にかけて,全国は8.50%前後を推移したが,岩手県,宮城県,福島県は増減を繰り返し,ほぼ横ばいであった。福島県は他県と比較して増減の幅が大きかった。女児は全国では10.70%前後を推移したが,宮城県は概ね上昇していた。岩手県,福島県は増減を繰り返しながら横ばいであった。2007年~2010年を合わせた低出生体重児割合と2011年との比較では,宮城県の女児は10.02%から11.04%へと有意に増加し,福島県の男児は8.25%から7.56%へと有意に減少していた。結論 東日本大震災が起こった2011年の全国・岩手県・宮城県・福島県の出生率は2007年から2010年と比較して有意に低下し,男児出生割合は全国と岩手県で有意に減少していた。低出生体重児割合は,宮城県の女児で有意に増加し,福島県の男児で有意に減少していた。今後,より詳細な分析が必要である。
著者
塚本 路子 村上 正人 松野 俊夫 塚本 克彦 縄田 昌子 瀬戸 恵理 山縣 然太朗
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.183-189, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
22

片頭痛は遺伝的因子が関与する可能性が高く女性に多い疾患である. 女性片頭痛患者の60%は月経周期に関連して片頭痛が生じており, 月経前に起こるエストロゲン離脱が片頭痛発作と深く関係しているといわれている. そこで, 海外から片頭痛との関連が報告されたエストロゲン受容体の遺伝子多型 (ESR1 397T>C, 325C>G, 594G>A) と涼冷刺激受容体TRPM8の遺伝子多型 (rs10166942) を, 当院を受診した月経に関連する片頭痛患者41例と対照群41例について調べた. その結果, 日本人においてもESR1 397およびESR1 325は, 月経に関連する片頭痛に関連があることが示唆された. 問診による調査では, 患者群の80.5%に家族歴があり, 片頭痛の出現は82.9%の患者において月経に伴いエストロゲンが変動するようになる初経年齢以降だった. また, 片頭痛患者がしばしば訴える 「冷えによる痛み」 と 「車酔い」 が患者群に有意に多く認められた.
著者
石川 みどり 阿部 絹子 秋山 有佳 祓川 摩有 山縣 然太朗 山崎 嘉久
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.269-275, 2020 (Released:2020-05-01)
参考文献数
21

学童期の食の課題を見据えた幼児への食支援事業の事例から、継続的な支援に重要な事項を検討した。方法は、幼児への支援組織(保健センター・保育所等)と学童への支援組織(小学校等)の両者の協力で活動を実施する市区町村を抽出し、自治体の代表者(事業責任者または担当者)にインタビュー調査を実施した。発言内容の音声データを逐語化した後、質的研究手法を応用して分析した。その結果について、事業名、ねらい、対象、事業内容に整理した。その後、幼児期・学童期の両者ともに重要と考えられている指標を抽出した。その結果、7事業の事例を得た。子どもの野菜嫌い改善のための市民への調理教室、小学校入学後を考慮した幼児の給食体験、市が開発した食事の適量の教育、幼児健診に活用できる栄養相談票の開発等が見られた。重要な指標には、偏食の減少、食事の適量の理解、野菜摂取の増加、食事の栄養バランスの理解、朝食欠食の者の減少、食事を楽しむ者の増加が見られた。
著者
近藤 尚己 山縣 然太朗 大西 康雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

地域のソーシャル・キャピタル、即ち人々の結束や信頼を高めるような社会的ネットワーク資源の醸成が、高齢者の健康維持に貢献することが期待されている。しかし、健康資源が人的ネットワークを介してどのように伝達し、個人の健康へと影響していくかについては明らかになっていない。本研究では、数理社会学の「ネットワーク分析」手法を用いて、高齢者のネットワークのダイナミズムと健康との関連を理解することを目的として、ネットワーク分析手法の公衆衛生領域への応用を試み、また、そのための課題整理を行った。初年度に山梨県A町の全高齢者を対象に健康状態、社会経済状況、心理社会状況、生活習慣、および社会的ネットワーク等に関する郵送質問紙調査を行った。2年目以降は、山梨県内で歴史的に継続実施されてきている無尽講(回転型貯蓄金融講)やその他の地域活動へ参加している人を対象に訪問調査を実施し、各無尽講のグループ内、およびグループ間の関係性に関する量的・質的データを構築した。このデータを日本老年学的評価研究データと個人リンケージして分析した結果、ソーシャル・キャピタルが、個人のメンタルヘルス(抑うつ傾向)に対して抑制的に関与し、ネットワーク内における情緒サポートの授受の関与が示唆された。また、無尽講への参加には二面性があり、楽しみながら高強度に参加している場合死亡リスクを下げるが、掛け金が高すぎるストレスフルなグループへの参加は逆効果となることが明らかになった。本研究により、地域組織を媒体としたネットワークデータが公衆衛生研究へと応用可能であることがわかった。また、大規模調査においてネットワークデータを取得する際の課題が整理できた。本研究は基盤研究A「高齢者における健康の社会的決定要因に関する大規模パネル調査(代表:近藤尚己)」へと引き継がれ、今後長期の縦断的な分析を進めていく。
著者
近藤 尚己 近藤 克則 横道 洋司 山縣 然太朗
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.91-101, 2012 (Released:2012-04-28)
参考文献数
24
被引用文献数
2

物質的に困窮していなくとも,他者と比較して自身の所得や生活の水準が相対的に低いことが心理社会的なストレスとなり健康を蝕む可能性があり,これは相対的剥奪仮説とよばれる。日本人高齢者において相対的剥奪が死亡リスクを上昇させるかを検証した。愛知老年学的評価研究(AGES)2003年ベースラインデータに介護保険給付データに基づく2007年までの死亡に関する情報を個人単位で結合した。調査参加者は愛知県および高知県内の8市町村に住み,要介護認定を受けておらず,基本的なADLが自立している高齢者とした。21,047名のうち主要変数に欠損のなかった16,023名を解析対象とした。同性・同一の年齢階級・同一市町村内在住の3項目の組み合わせで定義した集団内における所得の相対的剥奪をYitzhaki係数の変法で評価してCox比例ハザード分析を行った。平均1,358日間の追跡期間中1,236名の死亡を認めた。性・年齢階級・居住市町村を同じくする集団内における相対的剥奪1標準偏差増加ごとのハザード比(95%信頼区間)は,男性で1.20(1.06-1.36),女性で1.17(0.97-1.41)であった(絶対所得・年齢・婚姻状況・学歴・疾病治療有無で調整)。生活習慣(喫煙・飲酒・健診受診)でさらに調整したところ,ハザード比はわずかに減少した。所得水準にかかわらず,他者に比べて相対的に貧しいことが死亡リスクを高め,特に男性で強い関連がある可能性が考えられた。
著者
中村 和彦 武長 理栄 川路 昌寛 川添 公仁 篠原 俊明 山本 敏之 山縣 然太朗 宮丸 凱史
出版者
日本発育発達学会
雑誌
発育発達研究 (ISSN:13408682)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.51, pp.51_1-51_18, 2011 (Released:2011-08-20)
参考文献数
34
被引用文献数
5 4

Introduction : Many studies on motor development in young children have been done using quantitative data obtained from motor performance tests. To understand motor development in young children, the development of the actual motor pattern producing the performance should be investigated and evaluated. The purposes of this study were to examine the development of seven different fundamental motor patterns (patterns of running, jumping, throwing, catching, ball bouncing, forward rolling, and moving on a balance beam) using an observational evaluation method, and to compare the acquisition situations of the fundamental motor patterns of young children in the recent year and in 1985.Method : The subjects were 154children (81boys and 73girls) from three to five years of age in 2007, and 123children (59boys and 64girls) in 1985. Their fundamental movements were recorded by video camera and evaluated by an observational method using five typical developmental stages of the motor patterns in each movement. Based on the results of analysis of these seven fundamental motor patterns, an index to understand the development of fundamental movement in early childhood overall was established as a “motor pattern development score”.Results : It was shown that the motor patterns of the seven fundamental movements in recent young children remained at an immature movement development stage, such as pattern 1 and pattern 2. A significant increase was seen with age in both the individual motor pattern scores for the seven movements and the motor pattern development score. Moreover, it was shown that the motor pattern scores of resent young children were below the scores of young children in 1985 in the seven kinds of movements in both boys and girls.Conclusion : The results of this study, showed that the acquisition of the fundamental motor patterns in resent young children was at a lower developmental stage than that of young children in 1985. It was also shown that the acquisition of fundamental movements in resent five-years-olds was similar to that of three-years-olds in 1985.
著者
山北 満哉 安藤 大輔 佐藤 美理 秋山 有佳 鈴木 孝太 山縣 然太朗
出版者
日本運動疫学会
雑誌
運動疫学研究 (ISSN:13475827)
巻号頁・発行日
pp.2204, (Released:2023-03-31)

目的:山梨県甲州市において実施した骨強度調査の取組について,PAIREM(Plan: 計画, Adaptation: 採用, Implementation: 実施, Reach: 到達, Effectiveness: 効果, Maintenance: 維持)の枠組み(6局面)に基づいて報告することを目的とした。 方法:市内の小中学校において実施した2011~2020年の取組を対象とし,PAIREMモデルの6局面について評価した。 結果:計画:骨強度調査は別調査の追加調査として計画され,市内の希望校を対象として実施されたが,骨強度調査の具体的な到達目標は設定していなかった。採用:10年間で中学校による協力の申し出(採用)がなくなったものの,小学校では61.5%から84.6%に増加した。実施:骨強度調査の結果を活用した健康教育が展開されるとともに,学校保健委員会(5校,計7回/10年)及び骨の研究部会(5回/10年)において骨強度に関する情報提供が行われた。到達:対象とした7,362人のうち,7,200人(97.8%)の高い到達度で骨強度を測定できた。全対象児童(100%)に対して、骨強度に関する情報提供が行われた。効果:具体的な到達目標が設定されていなかったため,骨強度に対する骨強度調査の効果(目標達成度)を評価することができなかった。継続:参加校における10年間の平均継続年数は8.36(標準偏差2.2)年であったが,個人に対する取組の長期的な継続効果については検討できなかった。 結論:学校における骨強度調査の取組により高い到達度で健康教育を実施できる可能性が示された。今後は健康教育の詳細を把握するとともに,骨強度に関する具体的な数値目標を設定し,その達成を目指した取組を実施することが課題である。
著者
坪井 聡 山縣 然太朗 大橋 靖雄 片野田 耕太 中村 好一 祖父江 友孝 上原 里程 小熊 妙子 古城 隆雄 ENKH-OYUN Tsogzolbaatar 小谷 和彦 青山 泰子 岡山 明 橋本 修二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.613-624, 2014

<b>目的</b> 糖尿病患者の病院への満足度に関する対策を政策的に推し進める科学的根拠を得るためには,一般化可能な知見が必要である。本研究の目的は,既存の公的統計を二次利用することで外来に通う糖尿病患者の病院への満足度の分布を示し,関連を持つ要因を詳細に検討することである。<br/><b>方法</b> 患者調査,医療施設調査および受療行動調査(いずれも平成20年)を連結させたデータセットを作成した。患者調査と医療施設調査の連結には,医療施設調査整理番号を,加えて,受療行動調査との連結には,性と生年月日の情報を用いた。外来に通う糖尿病患者の病院への満足度の分布を検討し,また,様々な要因との関連の有無を検討した。関連の検討に用いた項目は,受診状況(初診か再来か),診察までの待ち時間,医師による診察時間,受療状況(他の医療機関の利用の有無等),糖尿病性の合併症,その他の合併症,生活保護法による支払い,禁煙外来,糖尿病内科(代謝内科)の標ぼう,診療時間(土曜日,日曜日,祝日の診療),生活習慣病に関連する健診の実施である。<br/><b>結果</b> 糖尿病患者の62.3%は,病院への満足度において,やや満足,非常に満足と回答し,やや不満,非常に不満と回答した者は5.6%であった。受診状況,診察までの待ち時間,診察時間,受療状況,土曜日の診療の有無は,病院への満足度と統計学的に有意な関連を示した。一方,その他の項目は病院への満足度との間に明らかな関連を示さなかった。統計学的に有意な関連を示した要因を用いた多変量解析では,再診,短い待ち時間,他の医療機関にかかっていないこと,長い診察時間と高い満足度との間に統計学的に有意な関連が観察された。<br/><b>結論</b> 複数の公的統計を連結させることによって,外来に通う糖尿病患者の病院への満足度の分布を示し,関連を持つ要因を明らかにすることができた。糖尿病患者の病院への満足度を高めるために,待ち時間の短縮と診察時間の確保が重要である。今後,多くの公衆衛生施策の検討に際して,公的統計の更なる活用が望まれる。
著者
太田 昭生 山縣 然太朗
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10774, (Released:2020-04-13)
参考文献数
9

要旨:【背景および目的】無料低額診療事業を利用して脳卒中治療を受けた患者を調査することで,貧困者の脳卒中の特徴を明らかにすることを目的とする.【方法】2010 年10 月~2018 年3 月に無料低額診療事業を活用して受診した113 人のうち,脳卒中の治療で回復期リハビリテーション目的に入院した患者を無低群,当該患者の次に入院してきて無料低額診療事業を利用しなかった脳卒中患者を対照群とした.【結果】無低群は27 人.無低群では収入の対生活保護率は64%,平均年齢は72.0 歳,男性は18 人,全入院期間は143.7 日だった.対照群は,平均年齢78.9 歳,男性14 人,全入院期間は95.1 日だった.【結論】貧困状況で生活している人たちは,非貧困者と比べ若年時に脳血管障害に罹患する危険性が高く,発症した際には入院期間が長期化する.
著者
大澤 絵里 秋山 有佳 篠原 亮次 尾島 俊之 今村 晴彦 朝倉 敬子 西脇 祐司 大岡 忠生 山縣 然太朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.67-75, 2019-02-15 (Released:2019-02-26)
参考文献数
26

目的 日本での乳幼児の予防接種は,個別接種化,種類や回数の増加により,接種スケジュールが複雑化している。本研究では,目的変数である乳幼児の適切な時期の予防接種行動と,かかりつけ医の有無,社会経済状態など(個人レベル要因)および小児科医師数など(地域レベル要因)の関連を明らかにする。方法 本研究は,「健やか親子21」最終評価の一環として,1歳6か月児健診時に保護者および市町村(特別区・政令市も含む,以下市町村)を対象に行われた調査,市町村別医師数などの既存調査のデータを用いた分析である。本研究で必要な変数がすべて揃った430市町村23,583人を分析対象とした。分析はBCG, DPT,麻疹の予防接種の適切な時期での接種を目的変数として,個人レベル変数(かかりつけ医の有無,社会経済的状況など)を投入したモデル1,地域レベル変数(市町村の小児科医師数など)をいれたモデル2,モデル2に市町村の取り組みに関する変数をいれたモデル3として,マルチレベル・ロジスティック回帰分析を行った。結果 88.3%の保護者が,適切な時期に乳幼児の予防接種行動をとっていた。かかりつけ医がいない(オッズ比[95%信頼区間],0.45[0.36-0.55]),第2子以降(第4子以降で0.23[0.19-0.28]等),母親の出産時年齢が29歳以下(19歳以下で0.17[0.13-0.24]等),母親が就労(常勤で0.52[0.47-0.58]等),経済状況が苦しい(大変苦しいで0.66[0.57-0.77]等)者では,適切な時期に予防接種行動をとる者が少なかった。地域レベルの要因では,市町村の小児科医師数四分位最大群(15歳未満人口1,000人対),15歳未満人口1,000人対の診療所数,予防接種率向上の取り組み,かかりつけ医確保の取り組みは,適切な時期の予防接種行動に関連していなかった。市町村の予防接種情報の利活用は,適切な時期の予防接種の完了と負の関連がみられた(0.84[0.73-0.96])。結論 乳幼児期にかかりつけ医をもたないこと,若年の母親,出生順位が遅いこと,経済的困難,母親の就労が,複数の予防接種の不十分な接種との関連要因であった。乳幼児の予防接種において,不十分な接種のリスクがある家庭への特別な配慮と,乳幼児がかかりつけ医をもつことができるような環境整備が必要である。
著者
山﨑 さやか 篠原 亮次 秋山 有佳 市川 香織 尾島 俊之 玉腰 浩司 松浦 賢長 山崎 嘉久 山縣 然太朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.334-346, 2018-07-15 (Released:2018-07-31)
参考文献数
38

目的 健やか親子21の最終評価における全都道府県の調査データを使用し,母親の育児不安と母親の日常の育児相談相手との関連を明らかにすることを目的とした。方法 対象は,2013年4月から8月の間に乳幼児健診を受診した児の保護者で調査票に回答した75,622人(3~4か月健診:20,729人,1歳6か月健診:27,922人,3歳児健診:26,971人)である。児の年齢で層化し,育児不安(「育児に自信が持てない」と「虐待しているのではないかと思う」の2項目)を目的変数,育児相談相手および育児相談相手の種類数を説明変数,属性等を調整変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施した。結果 育児に自信が持てない母親の割合と,虐待しているのではないかと思う母親の割合は,児の年齢が上がるにつれて増加した。すべての年齢の児の母親に共通して,相談相手の該当割合は「夫」が最も多く,相談相手の種類数は「3」が最も多かった。また,「夫」,「祖母または祖父」を相談相手として選んだ母親は,選ばなかった母親と比べてオッズ比が有意に低かった。一方,「保育士や幼稚園の先生」,「インターネット」を相談相手として選んだ母親は,選ばなかった母親と比べてオッズ比が有意に高かった。育児不安と相談相手の種類数との関連については,すべての年齢の児の母親に共通した有意な関連はみられなかった。一方,児の年齢別にみると,1歳6か月児と3歳児の母親において,相談相手が誰もいないと感じている母親は,相談相手の種類数が「1」の母親と比べてオッズ比が有意に高く,「虐待しているのではないかと思う」の項目では,相談相手の種類数が「1」の母親と比べると,相談相手の種類数が「3」,「4」,「5」の母親はオッズ比が有意に低かった。結論 相談相手の質的要因では,すべての年齢の児の母親に共通して有意な関連がみられた相談相手は,夫または祖父母の存在は育児不安の低さと,保育士や幼稚園教諭,インターネットの存在は育児不安の高さとの有意な関連が示された。相談相手の量的要因(相談相手の種類数)では,幼児期の児を持つ母親においては,相談相手の種類数の多さが育児不安を低減させる可能性が示唆された。
著者
上原 里程 篠原 亮次 秋山 有佳 市川 香織 尾島 俊之 玉腰 浩司 松浦 賢長 山崎 嘉久 山縣 然太朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.376-384, 2016 (Released:2016-08-17)
参考文献数
9
被引用文献数
1

目的 21世紀の母子保健の主要な取り組みを示すビジョンである「健やか親子21」では,母子保健統計情報の利活用促進が課題の一つである。市町村での母子保健統計情報の利活用促進には都道府県による支援が重要な役割を果たすと考えられるため,都道府県が市町村支援に活用できるよう市町村の母子保健統計情報の利活用の現状と課題を明らかにすることを目的とした。方法 2013年に実施された『「健やか親子21」の推進状況に関する実態調査』(以下,実態調査)のうち政令市および特別区を除いた市町村の「健やか親子21」を推進するための各種情報の利活用に関する設問を分析した。まず,市町村別の母子保健統計情報の集計分析を行っている都道府県および課題抽出を行っている都道府県が管轄している市町村を抽出し,さらに定期的に母子保健統計情報をまとめている市町村とまとめていない市町村に分けて,定期的なまとめをしていない市町村の特性を観察した。結果 実態調査の対象となった1,645市町村すべてから回答を得た。市町村別の集計分析を行っている都道府県は35か所(47都道府県のうち74.5%)あり,課題抽出を行っている都道府県は14か所(同29.8%)あった。集計分析を行っている35都道府県が管轄する市町村は1,242か所あり,このうち母子保健統計情報を定期的にまとめている市町村は700か所(56.4%),まとめていない市町村は542か所(43.6%)あった。母子保健統計情報を定期的にまとめていない市町村においては,妊娠中の喫煙,予防接種の状況,低出生体重児の状況について積極的に利活用している市町村の割合が有意に少なかった(いずれも P<0.001)。また,児童虐待の発生予防対策や低出生体重児に関する対策などは定期的なまとめをしていない市町村において都道府県と連携して実施した市町村の割合が有意に少なかった。結論 母子保健統計情報を定期的にまとめていない市町村では,児童虐待の発生予防などの対策について都道府県との連携が希薄であり,母子保健統計情報の利活用が進まないこととの関連が示唆された。都道府県は管内市町村の母子保健統計情報を集計分析して市町村へ提供することに加え,これらの母子保健事業を市町村と連携して取り組むことによって市町村での母子保健統計情報の利活用を促進できる可能性がある。
著者
石原 融 武田 康久 水谷 隆史 岡本 まさ子 古閑 美奈子 田村 右内 山田 七重 成 順月 中村 和彦 飯島 純夫 山縣 然太朗
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.106-117, 2003

<b>目的</b> 思春期の肥満は成人肥満に移行することが多く,学童期あるいは,それ以前の肥満の対策が重要とされている。本研究は,縦断研究により思春期の肥満と幼児期の生活習慣,家族関係および体格等との関連を明らかにすることを目的とした。<br/><b>対象と方法</b> 1987年 4 月から1991年 3 月に山梨県塩山市で出生した児を対象として,1 歳 6 か月,3 歳児健康診査時の質問票とその時の身長,体重の実測値,また,思春期は2000年 4 月の健康診断時の身長,体重の実測値を解析に用いた。平成12年度の学校保健統計調査結果の年齢,性,身長別の平均体重を標準体重として,肥満度を算出し,20%以上を肥満と判定した。1 歳 6 か月,3 歳時の体格についてはカウプ指数を用い,生活習慣については健康診査時の調査票の生活習慣項目を用いて,思春期の肥満との関連について解析した。<br/><b>結果</b> 1 歳 6 か月児健康診査時の質問票の回収数は883人で,思春期まで追跡可能であった児が737人であった(追跡率83.5%)。平均追跡期間は10年11か月であった。<br/> 1 歳 6 か月時と 3 歳時のカウプ指数高値群において有意に思春期の肥満者が多くオッズ比はそれぞれ2.61 (95%信頼区間:1.11-6.12)と5.34 (2.54-11.23)であった。また,母親の肥満群において有意に思春期の肥満者が多く,オッズ比は5.32 (2.67-10.60)であった。<br/> 生活習慣項目では,1 歳 6 か月時の「室内で一人で遊ぶことの多い」のオッズ比が3.01 (1.01-8.99),また,3 歳時の「おやつの時間を決めずにもらっていた」のオッズ比が2.12 (1.25-3.61)で思春期の肥満のリスクであった。食品項目では,「牛乳」摂取頻度のみが思春期の肥満と有意な関連を示し,オッズ比0.63 (0.41-0.95)であった。<br/> 共分散構造解析を行い逐次因果最適モデルを求めた。3 歳時の体格,母親の体格,遊び方,おやつの取り方,牛乳摂取は思春期の体格に影響を与えていた。また,母親の体格は子どもの要求の応じ方に影響しており,子どもの要求の応じ方はおやつの取り方に影響を与えていた。<br/><b>結論</b> 思春期の肥満は,1 歳 6 か月と 3 歳時の体格,母親の体格,幼児期の遊び方,おやつの取り方,牛乳摂取と関連があった。遺伝要因が強いことが確認されたが,幼児期の生活習慣も思春期の肥満と関連していることが示唆された。