著者
新井 基洋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.5, pp.307-314, 2020-05-20 (Released:2020-06-05)
参考文献数
21

めまい・平衡障害は, 前庭機能ならびに視機能, 体性感覚などの複合感覚障害であり, その治療法としてのめまいのリハビリテーション (以下めまいリハ) は耳鼻咽喉科領域において関心の高い事項の一つである. 1989年日本平衡神経科学会 (現, 日本めまい平衡医学会) の “「平衡訓練の基準」掲載にあたって” の中で, めまいリハは, 一側前庭障害代償不全や各種めまい後遺症のみならず, めまい・平衡障害の治癒促進を目的とした治療法の一つとして扱われている. 筆者は1989年に北里大学耳鼻咽喉科の徳増厚二教授 (現名誉教授) から北里式めまいリハの指導を受け, 以来, めまい・平衡障害の治癒促進を目的としためまいリハを「平衡訓練の基準」にのっとり施行してきた. めまいリハは, 体系的なメニューを採用する Cawthorne-Cooksey 法を元にした方法と, 特定の疾患や病態を対象として考案された方法に大別される. 後者の代表が良性発作性頭位めまい症における Brandt 法で, 最近の時流である患者個人ごとのめまいリハ治療も後者に該当する. 当院でも, 効率良くめまいリハを行うために個人の疾患を踏まえたリハを選択して外来指導をしており, そのポイントとなる適切なリハの見極め方について述べる. 一側前庭障害代償不全では中枢代償獲得促進が, 加齢性めまいなど両側前庭機能障害は視覚と深部感覚などによる機能補充を目標とする. 頭位治療や Brandt 法では改善しなかった良性発作性頭位めまい症例には頭位変換を用いた寝起きめまいリハも選択肢となる. そのほか, メニエール病, 前庭性片頭痛, 持続性知覚性姿勢誘発めまいに対するめまいリハについても触れる. さらに, めまいリハの歴史と根拠, 治療に導入できるめまいの対象疾患と方法の選択, 評価方法についても述べる.
著者
小田 忠雄 高木 泉 石田 正典 西川 青季 砂田 利一 森田 康夫 板東 重稔 新井 仁之 堀田 良之
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的および実施計画に沿って,研究代表者,研究分担者および研究協力者は,多様体に関する数理科学的諸問題を次のように研究した.1. トーリック多様体を代数幾何・代数解析・微分幾何の見地から研究し,交差コホモロジー,トーリック多様体への正則写像,トーリック・ファノ多様体の分類および複素微分幾何学的計量に関して新知見を得た.2. 多様体を数論・数論的幾何の見地から研究し,アーベル曲面等の有理点の分布,2次元エタール・コホモロジーに関するテート予想,クリスタル基本群・p進ホッジ理論に関して新知見を得た.3. 非アルキメデス的多様体の代数幾何学的研究を行い,剛性に関する新知見を得た.4. 可微分多様体,リーマン多様体,共形平坦多様体の大域解析的性質,双曲幾何学的性質,基本群の離散群論的性質を研究して数々の新知見を得た.5. 多様体上のラプラシアンやシュレーディンガー作用素のスペクトルの,量子論・準古典解析的研究および数理物理的研究を行うとともに,グラフに関する類似として離散スペクトル幾何に関しても興味深い数々の結果を得た.6. 生物等の形態形成を支配すると考えられる反応拡散方程式等の非線形偏微分方程式系を多様体上で大域的に研究し,安定性に関する新知見を得た.7. ケーラー多様体上のベクトル束の代数的安定性とアインシュタイン・エルミート計量に関する複素幾何学的研究を行い,いくつかの新知見を得た.8. 擬微分作用素・極大作用素・有界線形作用素・作用素環等を実解析・複素解析・フーリエ解析的側面から研究し,数々の新知見を得た.
著者
岡 真由美 新井 紀子 深井 小久子 木村 久
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.113-117, 1995-08-31 (Released:2009-10-29)
参考文献数
14

基礎型間歇性外斜視に対してボツリヌス毒素療法を施行し,過矯正眼位が出現した後,良好な治療経過を認めた症例と過矯正眼位が出現せず斜視の再発を認めた症例を比較し,経過良好例よりボツリヌス毒素療法の視能矯正について検討した。良好例の治療前眼位は,30ΔX(T)',25ΔXTであった。ボツリヌスを右眼外直筋へ2回注入し,斜視角は減少したが残余角を認めた。第3回目は両眼外直筋に注入し,70ΔET',68ΔETとなったが5か月後4ΔE',4ΔEに改善し,約2年間良好な眼位を保持した。不良例の治療前眼位は,30ΔX(T)',35ΔXTであった。ボツリヌスの注入は,注入量を漸増しながら右眼外直筋に計4回行った。眼位は,6ΔX',6ΔXに改善したが外斜視の再発を認めた。ボツリヌスの両眼外直筋への注入により,両眼内直筋のトーヌスが一時的に増強し輻湊が賦活されたため良好な眼位保持が,可能であったと考えられた。
著者
村山 雅史 谷川 亘 井尻 暁 星野 辰彦 廣瀬 丈洋 富士原 敏也 北田 数也 捫垣 勝哉 徳山 英一 浦本 豪一郎 新井 和乃 近藤 康生 山本 裕二 黒田郡 調査隊チーム一同
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

黒田郡遺構調査の目的で,高知県浦ノ内湾の最奥部(水深10m)から採取した堆積物コアを解析した。当時の海洋環境や生物相の変遷履歴も復元することもおこなった。高知県土佐湾の中央部に位置する浦ノ内湾は,横浪半島の北側に面し,東西に細長く,12kmも湾入する沈降性の湾として知られている。高知大学調査船「ねぷちゅーん」を用いて、バイブロコアリングによって4mの堆積物コアが採取された。採取地点は,周囲からの河川の影響はないため,本コア試料は,湾内の詳細な環境変動を記録していると考えられる。採取されたコア試料は,X線CT撮影,MSCL解析後,半割をおこない肉眼記載や頻出する貝の採取,同定をおこなった。 堆積物の岩相は,olive色のsity clayであり,全体的に多くの貝殻片を含む。コア上部付近は,黒っぽい色を呈し強い硫化水素臭がした。また,コア下部に葉理の発達したイベント堆積物が認められ,その成因について今後検証する予定である。
著者
指山 浩志 辻仲 康伸 浜畑 幸弘 松尾 恵五 堤 修 中島 康雄 高瀬 康雄 赤木 一成 新井 健広 田澤 章宏 星野 敏彦 南 有紀子 角田 祥之 北山 大祐
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.466-470, 2009 (Released:2009-07-01)
参考文献数
16
被引用文献数
3 2

肛門部尖圭コンジローマ症例をHPVタイプにより分類し,疫学的,臨床的違いの有無について検討した.液相ハイブリダイゼーション法によりHPVのハイリスク型,ローリスク型の有無を調べえた166症例をHPVタイプ(ハイリスク:H ローリスク:L 陽性+ 陰性-)で分類すると,H+L+型39例,H+L-型2例,H-L+型97例,H-L-型28例であった.H+L+型は男性が多く,H-L-型は女性が多く年齢層が高いという傾向があった.居住地では,千葉北西部でH-症例,東京都内でH+症例が多く,疫学的違いがある可能性が考えられた.肉眼型では,H-L-型で散在型が多く臨床的な違いのある可能性も示唆された.HIV陽性例はH+L+型7例,H+L-型1例,H-L+型2例にみられH+症例で高率であった.術後の再発率は全体として33%であるが,HIV陽性例では67%と高く,免疫抑制状態が再発に関連すると考えられた.
著者
新井 克弥 Katsuya ARAI
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-15, 2004-03-20

大平健著『やさしさの精神病理』(岩波新書、95)のテクスト・クリティーク。精神科医、大平は、患者との対応の中から、70年代以降、新しい意味を持ったやさしさ=ヤサシサが出現したと指摘する。70年代、やさしさはモノや人個々の性質をあらわす用語から、他者との連帯を志向することばとなったのである。当初、それは、ことばを介した他者介入型の「やさしさ」として出現するが、80年代に入り、”沈黙”を原則とする相互非介入型の”やさしさ”へと転じていく。すなわち、相手の気持ちを察し、相手と同じ気持ちになってメッセージを共有するスタイルから、相手の領域に入り込まないように気づかい、空間を共有するスタイルへの変容である。本稿ではこのような大平の指摘する新しい”やさしさ”を、情報化社会・グローバル化社会におけるコミュニケーションの新しいスタイルと捉え、その可能性について、中野収のカプセル人間論、およびN.ルーマンのダブル・コンティンジェンシー理論を援用しながら考察。その社会的適応性を評価し、解り合えないことを了解し合うコミュニケーション、および共鳴・共振だけで結ばれるコミュニケーションの重要性を説いた。
著者
佐野 始也 松谷 英幸 近藤 武 関根 貴子 新井 雄大 森田 ひとみ 高瀬 真一
出版者
公益社団法人 日本放射線技術学会
雑誌
日本放射線技術学会雑誌 (ISSN:03694305)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.903-912, 2009-07-20 (Released:2009-08-07)
参考文献数
12
被引用文献数
5 3

Helical pitch (HP) usually has been decided automatically by the software (Heart Navi) included in the MDCT machine (Aquilion 64) depending on gantry rotation speed (r) and heart rate (HR). To reduce radiation dose, 255 consecutive patients with low HR (≤60 bpm) and without arrhythmia underwent cardiac MDCT using high HP. We had already reported that the relationship among r, HP, and the maximum data acquisition time interval (Tmax) does not create the data deficit in arrhythmia. It was represented as Tmax= (69.88/HP-0.64) r; (equation 1). From equation 1, HP=69.88 r/ (Tmax+0.64 r); (equation 2) was derived. We measured the maximum R-R interval (R-Rmax) on ECG before MDCT acquisition, and R-Rmax×1.1 was calculated as Tmax in consideration of R-Rmax prolongation during MDCT acquisition. The HP of high HP acquisition was calculated from equation 2. In HR≤50 bpm, Heart Navi determined r: 0.35 sec/rot and HP: 9.8, and in 51 bpm≤HR≤66 bpm, r: 0.35 sec/rot and HP: 11.2. HP of the high HP (16.4±1.2) was significantly (p<0.0001) higher than that of Heart Navi HP (10.9±0.6). The scanning time (6.5±0.6 sec) of high HP was significantly (p<0.0001) shorter than that of Heart Navi (9.0±0.8 sec), and the dose length product of high HP (675±185 mGy⋅cm) was significantly (p<0.0001) lower than that of Heart Navi (923±252 mGy⋅cm). The high HP could produce fine images in 251/255 patients. In conclusion, the high HP acquisition is useful for reduction of radiation dose and scanning time.
著者
新井 哲也 中野 泰志 小平 英治 草野 勉 大島 研介
出版者
日本ロービジョン学会
雑誌
日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集 第8回日本ロービジョン学会学術総会/第16回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 合同会議
巻号頁・発行日
pp.47, 2007 (Released:2008-07-07)

【目的】 ロービジョンの人達の中には、エスカレーターの乗降の際、上りと下りを間違えることがあり、重篤な事故に至るケースもある。中野ら(2006)は、晴眼者、ロービジョン者、高齢者を対象とし、実機を使用した検証実験において、ハンドレールにマークを付すことで、より遠くからエスカレーターの運動方向が判断できることを明らかにした。先行研究で用いられたマークが 菱形であったことを受け、本実験では、より効果の大きなハンドレールデザインについて検討した。 【方法】 実験参加者は晴眼者10名であり、低視力シミュレーター(Nakano et al., 2006)を用いて各々の視力を段階的に変化させた(視力条件;0.04、0.02、0.015)。マークの種類について、背景色を青、マークの色を黄に固定した上で、a)マークの形状(菱形・矢印)、b)マーク間の間隔(広い・狭い)、c)広告とマークの間隔(狭い・中間・広い・広告のみ・広告なし)の3要因を選出し、それらの組み合わせのうち7種類を検証対象とした。参加者の課題は、回転するベルトを観察し、上下いずれかの運動方向をできる限り素早く正確に判断してキー押しで答えることであった。 【結果】 正答率と反応時間を分析の対象とした。その結果、「広告のみ」および「矢印」のマーク条件では正答率が低く、反応時間は長かった。また、マークの間隔については「狭い」条件で、広告とマークの間隔については「広い」条件で高い正答率と短い反応時間を示した。以上の傾向は低視力の条件ほど顕著であった。 【結論】 矢印や広告のみでは運動方向の判断に及ぼす効果は小さく、本実験で用いた菱形のように十分な面積をもったマークを付すことが有効である。また、マークの間隔は狭い方が良く、広告を挿入する場合には、できるだけマークと広告との間隔を広げる工夫が必要である。
著者
渡部 欣忍 新井 通浩 竹中 信之 松下 隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.993-996, 2013-10-25

大規模コホート研究を含む臨床研究の結果では,低出力超音波パルス(LIPUS)照射による遷延癒合・偽関節の治癒率は67~90%と報告されている.しかし,①偽関節が萎縮型である,②骨折部に不安定性がある,③主骨片間の間げきが8~9mm以上である,という特徴をもつ遷延癒合・偽関節にはLIPUSの効果が低い.これに該当する遷延癒合・偽関節に対しては,LIPUSは偽関節手術後の補助療法として使用するのがよいと考えている. 現行の健康保険制度では,骨切り術や骨延長術に対してはLIPUSを術直後から使用することができない.ランダム化比較臨床試験の結果では,LIPUS照射により延長仮骨の成熟が促進されることが証明されている.骨延長術の術後早期からLIPUSが保険適用されることを期待する.
著者
スィーワッタナクン キッティポン 浅井 さとみ 平山 晃大 重松 秀明 新井田 牧子 川上 智子 反町 隆俊 松前 光紀
出版者
特定非営利活動法人 日本脳神経血管内治療学会
雑誌
脳血管内治療 (ISSN:24239119)
巻号頁・発行日
pp.sr.2020-1000, (Released:2020-05-15)
参考文献数
11

新型コロナウイルス感染症が社会および医療システムに大きな問題を起こしているが,機械的血栓回収術のような緊急度が非常に高い治療は提供し続ける必要がある.しかし一方で,コロナウイルス感染症は院内感染を来しやすいため,その予防にも努めなければならない.本稿ではCOVID-19 疑い例に対する緊急血管内治療における患者スクリーニングや評価,感染予防・環境汚染対策のための当院のプロトコールを紹介する.
著者
新井 充
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.273, 2007-10-15 (Released:2016-11-30)
著者
上馬塲 和夫 浦田 哲郎 鈴木 信孝 新井 隆成 ストロング ジェフリー・マイケル 大野 智 林 浩孝
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.97-103, 2009 (Released:2009-07-07)
参考文献数
9
被引用文献数
2 3

キウイフルーツの新鮮なジュースを凍結乾燥した食品の高齢者に対する便通促進効果と QOL に対する影響について検討した.軽度から中等度の便秘で悩む 60 歳以上の高齢者 42 名(60~84: 67±6 歳)を医師の判断のもと対象者として,文書による同意を取得した後,1 週間の対照観察期間をおいて,当該食品を 4 週間 1 日 3 回 2 カプセルずつ,計 6 カプセル/日を摂取させ,排便状態と腹部の自覚的所見,全身的な QOL について調査した.その結果,開始後 14 日目からは摂取開始前日と比較し,排便回数や便性が有意に向上し,開始後 28 日目まで持続した.QOL 調査票によっても,皮膚の状態やむくみなど手足の外見所見,腰痛や頭痛などの痛みによる QOL の低下が改善した.結論として,キウイフルーツの新鮮ジュース凍結乾燥食品が,60 歳以上の便秘で悩む高齢者において,便通を促し,腹部の不快感を改善させ,生活の質を向上させる効果があることが示された.安全性の点では,明らかな問題は認められなかった.
著者
新井 馨
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.17-24, 2017

<p>アール・ブリュットを基軸に現在の美術・美術史を改めて振り返ることで,芸術,美術をどのように捉えるのか,といった問いが浮かび上がる。そして,この問いは,美術教育が指す「美術」の捉え方にも繋がる問題であると考えられる。これまでの考察で,正規の美術史とは交わらないもう一つの「人間の造形」なる一群があることを示してきた。制度化した近代以降の「美術」は,造形物に「美術」「非美術」と想定することで,「美術」なる概念の定まり方をつくってきた。交わることのなかった並行する二つの線は,「美術」が「人間の造形」を取り入れ「美術」としたことで,「美術」そのものの矛盾と乖離が生まれたのである。本論では,これまでの成果を踏まえ,アール・ブリュットを通して,制度としての「美術」を総合的・俯瞰的に考察を深めたものである。そして,これは美術教育が考えるべき問題と同根のものである,との考えのもと考察を進めている。</p>