著者
平山 るみ 楠見 孝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.186-198, 2004-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
19
被引用文献数
31 or 11

本研究の目的は, 批判的思考の態度構造を明らかにし, それが, 結論導出過程に及ぼす効果を検討することである。第1に, 426名の大学生を対象に調査を行い, 批判的思考態度は, 「論理的思考への自覚」, 「探究心」, 「客観性」, 「証拠の重視」の4因子からなることを明らかにし, 態度尺度の信頼性・妥当性を検討した。第2に, 批判的思考態度が, 対立する議論を含むテキストからの結論導出プロセスにどのように関与しているのかについて, 大学生85名を用いて検討した。その結果, 証拠の評価段階に対する信念バイアスの存在が確認された。また, 適切な結論の導出には, 証拠評価段階が影響することが分かった。さらに, 信念バイアスは, 批判的思考態度の1つである「探究心」という態度によって回避することが可能になることが明らかにされ, この態度が信念にとらわれず適切な結論を導出するための重要な鍵となることが分かった。
著者
伊東 昌子 平田 謙次 松尾 陸 楠見 孝
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.305-312, 2006-10-15 (Released:2010-03-15)
参考文献数
30

個人営業における熟達を, ATS理論に基づき知識スリップを制御する準備行為の観点から検討した. 実験では, 事務機器販売領域の高成績者と平均的成績者がビデオ視聴により顧客情報を把握したうえで, 初回商談前の準備行為を報告した. 次に, 彼らは商談場面 (営業担当者が顧客の話を十分に聞かずに提案を勧めたため顧客は興味を失う) を視聴して, 担当者の不適切行為の診断と自分が行う行為を報告した. その結果, 高成績者は, 急がずに顧客の問題状況を理解するとの趣旨と行為目標を定め, 彼らの診断も商談行為も趣旨と目標に沿っていた. 平均的成績者では, 顧客ニーズの発見と関係の構築が趣旨と行為目標であり, 彼らの商談行為はニーズを問う点では目標に沿っていたが, 得た個別ニーズに対し早くも解決案を示す状況行為が報告された. この結果は, 商談前に生成される趣旨や行為目標が熟達により異なることと, その差が知識スリップの制御に影響することを示唆する.
著者
後藤 崇志 石橋 優也 梶村 昇吾 岡 隆之介 楠見 孝
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.32-41, 2015 (Released:2015-04-25)
参考文献数
44
被引用文献数
1 or 0

We developed a free will and determinism scale in Japanese (FAD-J) to assess lay beliefs in free will, scientific determinism, fatalistic determinism, and unpredictability. In Study 1, we translated a free will and determinism scale (FAD-Plus) into Japanese and verified its reliability and validity. In Study 2, we examined the relationship between the FAD-J and eight other scales. Results suggested that lay beliefs in free will and determinism were related to self-regulation, critical thinking, other-oriented empathy, self-esteem, and regret and maximization in decision makings. We discuss the usefulness of the FAD-J for studying the psychological functions of lay beliefs in free will and determinism.
著者
栗山 直子 上市 秀雄 齊藤 貴浩 楠見 孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.409-416, 2001-12-30

我々の進学や就職などの人生の意思決定においては,競合する複数の制約条件を同時に考慮し,理想と現実とのバランスを満たすことが必要である。そこで,本研究では,高校生の進路決定において,意思決定方略はどのような要因とどのような関連をもっているのかを検討することを目的とした。高校3年生359名に「将来の目標」「進学動機」「考慮条件」「類推」「決定方略」についての質問紙調査を実施した。各項目の要因を因子分析によって抽出し,その構成概念を用いて進路決定方略のパスダイアグラムを構成し,高校生がどのように多数存在する考慮条件の制約を充足させ最終的に決定に達するのかの検討を行った。その結果,意思決定方略には,「完全追求方略」「属性効用方略」「絞り込み方略」「満足化方略」の4つの要因があり,4つの要因間の関連は,「熟慮型」と「短慮型」の2つの決定過程があることが示唆された。さらに,「体験談」からの類推については,重視する条件を順番に並べて検討する「属性効用方略」の意思決定方略に影響していることが明らかになった。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.64-80, 2014

ノーマライゼーションや平等主義的規範が行き渡った今日においても, 障害者に対する偏見や差別の問題は未だ社会に残っており, これらの背景となる態度について調べることが重要である。従来の障害者に対する態度研究は, 質問紙による自己報告式の測定方法が主流であった。しかしながら, これらの顕在的態度測定は, 社会的望ましさに影響されやすく, 無意識的・非言語的な態度を捉えることができない。偏見や差別のような, 表明が避けられる態度を捉えるためには間接測定による潜在指標が有効だと考えられる。本論文は, 潜在指標を用いて障害者に対する態度を調べた研究についてレビューを行った。障害者に対する潜在指標として, 主に, 投影法, 生理学・神経科学的手法, さらに近年では反応時間指標が頻繁に用いられるようになってきており, 多くの研究において障害者に対するネガティブな態度が示されていることがわかった。潜在的態度と顕在的態度の関連性について, 潜在指標の有用性と今後の課題について議論した。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.64-80, 2014 (Released:2014-07-16)
参考文献数
102
被引用文献数
1 or 0

ノーマライゼーションや平等主義的規範が行き渡った今日においても, 障害者に対する偏見や差別の問題は未だ社会に残っており, これらの背景となる態度について調べることが重要である。従来の障害者に対する態度研究は, 質問紙による自己報告式の測定方法が主流であった。しかしながら, これらの顕在的態度測定は, 社会的望ましさに影響されやすく, 無意識的・非言語的な態度を捉えることができない。偏見や差別のような, 表明が避けられる態度を捉えるためには間接測定による潜在指標が有効だと考えられる。本論文は, 潜在指標を用いて障害者に対する態度を調べた研究についてレビューを行った。障害者に対する潜在指標として, 主に, 投影法, 生理学・神経科学的手法, さらに近年では反応時間指標が頻繁に用いられるようになってきており, 多くの研究において障害者に対するネガティブな態度が示されていることがわかった。潜在的態度と顕在的態度の関連性について, 潜在指標の有用性と今後の課題について議論した。
著者
田中 優子 楠見 孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.514-525, 2007-12-30
被引用文献数
8 or 0

本研究では,大学生を対象とし,目標や文脈という状況要因が批判的思考の使用に関わるメタ認知的判断に及ぼす影響を検討することを目的として,研究1では,批判的思考が「効果的」な文脈と「非効果的」な文脈を収集した。研究2では,収集した文脈の分類を行い,それぞれの特徴を抽出した。2つの文脈にはそれぞれ異なる特徴がみられた。研究3では,「正しい判断をする」「物事を楽しむ」という2つの目標と文脈を独立変数として,批判的思考をどの程度発揮しようとするかというメタ認知的な判断に及ぼす影響を検討した。その結果,「物事を楽しむ」という目標よりも「正しい判断をする」という目標においてより批判的思考を発揮しようと判断すること,同じ目標であっても文脈によって批判的思考の発揮判断が変化することが明らかになった。さらに,批判的思考の発揮判断は,目標や文脈を考慮するものの全体的に批判的思考を発揮しようとするタイプ,効果的な文脈で非常に高く批判的思考を発揮しようとするタイプ,非効果的文脈では目標に関係なくほとんど発揮しようとしないタイプという3タイプによって特徴づけられることが示された。
著者
上市 秀雄 楠見 孝
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.139-151, 2000-06-01 (Released:2008-10-03)
参考文献数
26
被引用文献数
3 or 0

The purpose of this study is to examine the effect of the regret factor on risk-taking behavior and to show the relationship between affective factors, cognitive factors, personality factors, and risk-taking behavior. In the experiment, undergraduates (N = 60) completed a questionnaire on affective factors (regret and anxiety), cognitive factors (own perceived competence, risk perception, risk controllability, and perceived cost), personality factors (Five Factor Model: neuroticism, openness, extroversion, agreeableness, and conscientiousness), and risk-taking behavior in personal gain-loss situations (skiing, gambling, and an entrance examination), personal loss situations (jaywalking, prevention against theft, and credential acquisition for protection against unemployment), and social situations (approval of the construction of a nuclear power station and disaster plans for earthquakes). Results of covariance structure analysis showed that personality factors influenced risk-taking behavior by the path of affective factors and the path of cognitive factors: (a) neuroticism affects risk-taking behavior mediated by anxiety and regret, (b) openness affects risk-taking behavior mediated by own perceived competence and risk perception. In all situations, the regret factor influenced directly risk-taking behavior and the anxiety factor influenced risk-taking behavior mediated by the regret factor. These facts indicate that the affective factors affect decision making in all risk-taking situations.
著者
鍋田 智広 楠見 孝
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.13-13, 2008

我々の記憶容量が膨大であることは古くから知られている。例えば,多くの項目が呈示されても被験者は高い割合で正確に再認することができる。しかし,この実験結果は視覚以外のモダリティではまだ明らかにされていない。そこで本研究では触覚における記憶容量をとりあげ,その学習モダリティへの固有性と,記憶容量に関するメタ記憶とについて検討した。実験では,被験者に100項目もしくは500項目の日用品を触覚学習させた後に触覚あるいは視覚で再認テストを行い,その後被験者自身の再認成績を推測させた。その結果,どちらの実験においても高い再認成績が示されたものの,触覚テストの方が視覚テストよりも再認成績が高く,かつ再認成績の推測も正確であった。これらの結果は,触覚の記憶容量とそのメタ記憶とが,触覚に固有の記憶に依存することを示唆している。
著者
浅川 伸一 岡 隆之介 楠見 孝
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.31, 2017

エンコーダ・デコーダモデル(Kalchbrenner and Blunsom, 2013)における中間層表現を入力情報の解釈機構の一部であると見做し,その解釈可能性を検討した。単語埋込みモデルは Firth(1957)以来の伝統であり解釈空間として仮定することは言語学の理に適っている。我々は Kintsch(2001)の予測モデルを題材に比喩理解の観点からモデルの評価を試み,Kingma(2014)の変分ベイズ自動符号器モデルと Bowman and Vilnis(2015)の変分リカレントニューラルネットワークモデルが文章のスタイル,トピック,高次統語特徴を抽出可能なことから,同モデルとの比較を含めた検討を行った。比喩理解を上述モデルを用いて比較することにより,文章理解,物語理解,暗号解読,記号処理,形式言語モデルとの関連への示唆が可能となることも議論した。
著者
松田 憲 興梠 盛剛 小野 史典 杉森 絵里子 楠見 孝
出版者
日本認知心理学会
巻号頁・発行日
2016 (Released:2016-10-17)

パワープライミングとは,抑制的な先行手掛かりが安全・安心といった認知を高め,促進的な手掛かりが成長・発展・発達といった認知を高めることである。本研究では参加者にパワープライミング課題を課してハイパワーとローパワーの操作を行い,ノスタルジックな画像ないし先進的な画像と広告との連合形成及び広告の評価に及ぼす影響について検討を行った。商品カテゴリーとして,食品(お茶,レトルトカレー)と家電(液晶TV,ノートPC)を用いた。参加者にはパワープライミング課題を課した後に広告と画像を連続対呈示し,その後に広告への評価を求めた。実験の結果,特に家電カテゴリーにおいて,ハイパワー条件では先進的画像と対呈示された広告の評価が,ローパワー条件においてはノスタルジー画像と対呈示された広告の評価が高かった。これは,ハイパワー操作によって新奇性選好が,ローパワー操作によって親近性選好が促された結果であると考える。
著者
楠見 孝 平山 るみ
出版者
一般社団法人日本リスク研究学会
雑誌
日本リスク研究学会誌 (ISSN:09155465)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.165-172, 2013 (Released:2014-05-30)
参考文献数
17
被引用文献数
4 or 0

We conducted a questionnaire survey among 1500 citizens to investigate the factors and functions of food.related risk literacy in relation to reflective cognitive style, critical thinking attitude, educational background, knowledge of risks, and scientific literacy. On basis of the data gathered and using structural equation modeling, we created a causal model of food-related risk literacy. Participants’ deliberative thinking styles and educational backgrounds had a direct effect on their critical thinking attitude. Critical thinking attitude affected scientific literacy and knowledge of food-related risks, which in turn, affected media literacy. The data suggest that critical thinking attitude is important for improving scientific and media literacy about food-related risks as it serves a mediator for the effects of reflective cognitive style and educational background.
著者
杉森 絵里子 楠見 孝
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.512-522, 2006 (Released:2008-11-13)
参考文献数
21

We investigated how automatic⁄controlled process affect output monitoring under the condition where action phrases are well learned previously and dual task is performed. In fixed sequence condition, the order of action phrases was same during input session, while in random sequence condition, the order of action phrases was different. It was revealed that the fixed sequence condition enables participants to remember action phrases more easily and faster than the random condition. However, the fixed sequence condition makes the response to &ldqup;I'm not sure” more than random sequence condition in output monitoring session. We concluded that action phrases were remembered automatically as a series of actions in the fixed sequence condition and load of cognition decreased. However decreasing load of cognition made output monitoring difficult. We further discussed the output monitoring error in the relation to human error in everyday life.
著者
黒田 怜佑 松田 憲 楠見 孝 辻 正二
出版者
日本感性工学会
雑誌
日本感性工学会論文誌 (ISSN:18840833)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.173-182, 2016

Rapid urbanization and information technology has reduced human connection and a sense of regional community among local populations around the world. This may have led to a decrease in people's sense of belonging and feelings of fellowship toward their neighbors and towns. We hypothesized that one's sense of belonging and feelings of fellowship toward their town will increase after hearing the sounds of bells. Participants were asked to observe virtual scenes in which they heard the bell signaling every hour. We assessed how listening to the bell influenced participants' feelings of community membership and whether viewing particular scenes and the sound increased these feelings and participants' sense of belonging. Results showed that for scenes involving an overhead view of the bell, e.g., scenes that included facilities such as temples or churches, participants reported an increased immersive experience. as a result of the shared sense of time with their neighbors.
著者
石川 敦雄 楠見 孝
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 = Japanese Psychological Review (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.530-554, 2016-04

When interacting with others, the indoor physical environment influences interpersonal cognition and behavior explicitly as well as implicitly. Several studies in the field of traditional environmental psychology have focused on explicit processes such as pleasure, arousal, and stress. Additionally, some models of interpersonal cognition and behavior have been proposed. In recent years, more studies have been focusing on implicit social cognition. Furthermore, embodied cognition and the automaticity of social cognition are the major topics studied in this field. However, the implicit psychological influences of the indoor physical environment on interpersonal relationships are still unclear. In this paper, we first review the literature on the implicit influence of the indoor physical environment on interpersonal cognition from the perspective of the quantity and quality of physical factors, and that of the evaluation methods of implicit processes. We then discuss the advantages and disadvantages of the research methods used to study the implicit processes indicated by behaviors, subjective evaluations, and response time. Finally, we reveal the significance of and problems in the study of the implicit influence of the indoor physical environment.
著者
三浦 麻子 楠見 孝 小倉 加奈代
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.10-21, 2016

<p>This study examined chronological changes in attitudes towards foodstuffs from the areas contaminated by the Fukushima Daiichi nuclear disaster, using citizens' data (<i>n</i>=1,752) from the panel surveys conducted in 4 waves between September 2011 and March 2014. Using the dual process theory of decision-making, the study attempts an empirical examination that includes the interaction of two factors: (1) anxiety regarding the radiation risks of the nuclear accident, which is hypothesized to lead to negative emotional decision-making following the formation of relevant attitudes, and (2) knowledge, higher-order literacy, and critical thinking, which are hypothesized to promote logical decision-making. Until three years after the nuclear accident, there was no large chronological variation in either anxiety regarding the radiation risks of the nuclear accident or attitudes toward foodstuffs from affected areas. The tendency regarding the latter was particularly strong in areas far from the location of the disaster. Negative attitudes regarding foodstuffs from affected areas were reduced through the possession of appropriate knowledge regarding the effects of radiation on the human body. However, the belief of possessing such knowledge may, conversely, hinder careful consideration with appropriate understanding.</p>
著者
平山 るみ 楠見 孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.186-198, 2004-06-30
被引用文献数
21 or 0

本研究の目的は,批判的思考の態度構造を明らかにし,それが,結論導出過程に及ぼす効果を検討することである。第1に,426名の大学生を対象に調査を行い,批判的思考態度は,「論理的思考への自覚」,「探究心」,「客観性」,「証拠の重視」の4因子からなることを明らかにし,態度尺度の信頼性,妥当性を検討した。第2に,批判的思考態度が,対立する議論を含むテキストからの結論導出プロセスにどのように関与しているのかについて,大学生85名を用いて検討した。その結果,証拠の評価段階に対する信念バイアスの存在が確認された。また,適切な結論の導出には,証拠評価段階が影響することが分かった。さらに,信念バイアスは,批判的思考態度の1つである「探究心」という態度によって回避することが可能になることが明らかにされ,この態度が信念にとらわれず適切な結論を導出するための重要な鍵となることが分かった。
著者
楠見 孝
出版者
日本サイエンスコミュニケーション協会
雑誌
サイエンスコミュニケーション : 日本サイエンスコミュニケーション協会誌 (ISSN:21874204)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.66-71, 2013-09

本論文では,心理学とサイエンスコミュニケーションの関係を2つの観点から論じた。第1の観点,サイエンスコミュニケーションへの心理学からのアプローチである。リテラシーを5つの階層に分け,科学リテラシーを,基礎的リテラシーと機能的リテラシーの2層を土台とする3層に位置づけた。これらは,教育によって順次形成される。さらに,科学リテラシーは,市民のための市民リテラシー,専門家のためのリサーチリテラシーという2層を支えている。サイエンスコミュニケーションにおいては,批判的思考の4つのステップ(情報の明確化,推論の土台の検討,推論,意思決定)が重要である。科学リテラシーと批判的思考を育成するためには,科学教育,博物館,科学ジャーナリズム,コミュニティさらにネットコミュニティの役割が大きい。そして,サイエンスコミュニケーションの研究のために心理学的研究法を適用することについて述べた。第2の観点,科学としての心理学におけるサイエンスコミュニケーションである。日本において,心理学が科学として扱われていない現状や,アカデミックな心理学とポピュラー心理学の乖離について市民を対象とした調査データに基づいて検討した。とくに,心理学は,市民が経験に基づいて豊富な素人理論をもっている。そのため,無知な市民に,科学的知識を提供するという欠如モデル的な考え方ではうまくいかないことを述べた。さらに,日本の博物館における心理学展示が少ない現状と,英国と米国の事例について紹介した。最後に,心理学とサイエンスコミュニケーションの両領域の共同による研究や実践の可能性について論じた。This article discusses two general frameworks for examining the relationship between psychology and science communication. First, the article discusses psychological approaches to science communication. Literacy has five layers. Science literacy is the third layer. It is based on basic and functional literacy, which are in turn formed by education. Science literacy supports civil literacy for citizens and research literacy for professionals; it facilitates receiving and sending messages in science communication. Critical thinking is important for science communication in four steps, namely, clarification of information, judging the credibility of information, inference, and decision-making. To improve science literacy and critical thinking, four approaches can be used: science education, museum exhibition, science journalism, and local and Internet community involvement. In addition, the application of psychological research methods to study science communication will be described. Second, the article discusses science communication in psychology. In Japan, psychology is not considered a science. A significant discrepancy is observed between popular and academic psychology in survey data of the general public. In science communication of psychology, the deficit model of public understanding of psychology is inadequate because the public has a naïve theory on the basis of their experience. In addition, psychology-related exhibits in museums are not as popular in Japan compared with the trend in the UK and the US. The article concludes by discussing the possibility of collaborative research and practice on psychology and science communication.