著者
石井 正和 加藤 大貴 山田 智波 高木 麻帆 市川 瑞季 栗原 竜也 河村 満
出版者
公益財団法人 パブリックヘルスリサーチセンター
雑誌
ストレス科学研究 (ISSN:13419986)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.43-51, 2014 (Released:2014-10-31)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

We encountered cases of headache exacerbation in migraine patients living in the Tokyo metropolitan area following the Great East Japan Earthquake in the present study. We investigated the effects of the disaster situation on patients with migraine headaches following the Great East Japan Earthquake as well as their physical symptoms and psychological states using a questionnaire. The questionnaire survey was also conducted to clarify the prevalence of patients with headaches prior to earthquakes. The recovery rate was 65.7% (71/108 people). The seventy-one patients with migraines included 68 female patients (95.8%) and 19 patients that had migraines with an aura (26.8%). The exacerbation of headaches was observed in 24.6% of the migraine patients after the earthquake. Furthermore, a degraded psychological state was noted in patients with worsening headaches who began taking medication for insomnia. However, the disaster situation did not directly affect headache symptoms. Some of the patients examined (7.0%) had headaches prior to earthquakes in the Tokyo metropolitan area. These results indicate that the exacerbation of headaches was observed in migraine patients who exhibited co-morbidities including insomnia and anxiety in the Tokyo metropolitan area away from the affected area. We also showed that some of these patients had headaches prior to earthquakes.
著者
石井 正和 加藤 大貴 山田 智波 高木 麻帆 市川 瑞季 栗原 竜也 河村 満
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.83-87, 2015 (Released:2015-06-26)
参考文献数
17
被引用文献数
1

【目的】片頭痛患者の,震災時におけるお薬手帳の有用性に関する認知度,および災害への備えに関する現状を明らかにする.【方法】片頭痛患者を対象にアンケート調査を実施した.【結果】回収率は67.5%(77/114名)であった.東日本大震災時に,処方や代替薬の選択などに際しお薬手帳が役立ったことを61.0%の患者は知らなかった.震災に備えて,66.2%の患者は常に予備の内服薬を持ち歩いていたが,お薬手帳を常に携帯している,あるいは緊急時すぐに持ち出せる場所に保管しているとの回答は,それぞれ20.8%,16.9%であった.【結論】平常時から,患者に薬剤の管理方法と災害時の対応を十分に指導し,患者個人の危機管理意識を高める必要があることが明らかとなった.
著者
石川 直将 高橋 伸佳 河村 満 塩田 純一 荒木 重夫
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.232-237, 2008-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
15

Marchiafava-Bignami病 (以下, MBD) 自験8症例において, 急性期および慢性期の症候と病巣について検討した.8例中6例は意識障害にて発症し, 慢性期に構音障害と半球離断症候を呈し, 画像検査にて脳梁に限局した病変を認めた.これらは従来報告されているMBDの臨床像と一致していた.一方, 発症時に意識障害を呈さない例が2例みられた.これは, 発症時の意識障害の存在が必ずしもMBDの診断に必須ではないことを示している.また, 2例では肢位の異常, 固縮などの錐体外路症状がみられ, そのうちの1例ではMRIで両側の被殻に病変が認められた.同様の症例の報告は過去に4例のみであるが, この症候もMBDの症候の1つとして注目される.慢性期には意識障害, 前頭葉症状は消失するが, 錐体路症状が構音障害, 半球間離断症候とともに長期にわたり持続することが示された.以上から, MBDの臨床像は急性期, 慢性期ともに従来考えられていたよりも多彩である可能性がある.従って, アルコール多飲者が急性の構音障害, 歩行障害, 痙攣などを呈し, 局所徴候が明らかでない場合には, MBDの可能性も考え, 画像検査で脳梁病変の有無を確認する必要があると思われた.
著者
中島 悦子 塩田 純一 河村 満
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.209-216, 1999-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
14
被引用文献数
1

左被殻出血で失語と右片麻痺を呈した多言語併用例を報告した (55歳, 右利き, 男性) .本例は, 言語の習得時期, 習得環境, 言語体系が異なり, 琉球方言―日本語標準語スペイン語併用者と考えられた.血腫除去術後, 習得したすべての言語で重度の運動性失語が認められた.言語間の重症度は, 従来の言語の習得・使用状況説に加えて脳の損傷部位や失語の病型が関与すると考えられた.本例の発話の回復は, 言語治療に用いかつ学校で学んだ標準語で良好であり, 妻が使用した母国語の琉球方言や親しんだスペイン語は不良であった.本例は, 琉球方言とスペイン語を聴覚的に習得したのに対し, 標準語は聴覚とともに日本語の文字として視覚的にも習得している.すなわち本例の言語間の回復の相違は, 従来の言語の習得条件, 使用状況, 心理的要因説に加えて, 脳の損傷部位や失語の病型, 習得方法が影響を及ぼし, さらに言語治療の有無でも回復に差が生じたと考えられた.
著者
木島 理恵子 吉野 眞理子 河村 満 河内 十郎 白野 明
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-9, 1997 (Released:2006-05-12)
参考文献数
20
被引用文献数
1

日本語・韓国語二言語使用者失語症例において,両言語の障害を特に日本語における漢字・仮名障害と韓国語における漢字・ハングル障害との対比を中心に検討した。    症例は65歳右利き男性。脳梗塞 (左中大脳動脈領域) による右片麻痺と重度の失語が認められた。日本語と韓国語の習得および病前の使用状況は,口頭言語・文字言語のいずれにおいても両言語で同等であった。標準失語症検査,表出面の検査,聴覚理解検査,読み理解検査を両言語について実施したところ,すべての検査で両言語がほぼ同様の成績を示した。さらに,両言語ともに仮名・ハングルに比べ漢字が良好という同様の障害パターンが認められた。これは,本症例が2つの言語を同程度に習熟していたことに加え,日本語と韓国語の言語構造の諸側面が類似していることの結果であると考えられ,これらの要因により,本症例における両言語の脳内機構が同様であった可能性が示唆された。
著者
河村 満
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

音楽には、言語と同様に表出(歌う・演奏する)、受容(聞く)、(楽譜を)読む、(楽譜を)書く過程がある。音楽の表出・受容の脳内機構についてはいくつかの知見が蓄積されているが、(楽譜の)読み書きについての検討は極めて少ない。そこで、本研究では、脳病変例を対象に、楽譜の読み書きの脳内機構を明らかにすることを目的とした。われわれは2000年に、左上頭頂小葉の皮質・皮質下病変によって、楽譜の読みに障害がないが、楽譜の書きにのみ障害が認められたピアノ教師を報告した。この症例では文字の書きの障害も伴わなかったことから、楽譜の書きが文字の書きとは独立した過程である事を明らかにした。さらに、この症例の特徴はリズム表記の障害であったことから、音高の表記とリズムの表記は独立した過程であることを示唆した。さらに同年、上記症例とは逆のパターンを示したトロンボーン奏者を記載した。この症例は左角回に限局性の病変で、音高の表記のみに障害を示していた。本研究では、これらの結果を基底にして、ウェルニッケ失語を呈したピアノ教師例を検討した。この症例では、楽譜を読む際の障害はピッチにのみみられリズムでは障害がみられなかった。この結果は楽譜の読み書きにおいて、リズム認知機能とピッチ認知機能とがそれぞれ異なった脳内機構をもつことを明示している。さらにパーキンソン病を対象にして、リズム認知機脳を検討し、本病でリズム認知機能障害がみられることを示した。これは大脳基定核にリズム語知機能があることを示唆している。
著者
岩田 誠 河村 満 菊池 雷太
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1531-1540, 2013-12-01

はじめに 河村 いまから100年前の1913年は,歌人で精神科医でもある斎藤茂吉(1882-1953)が最初の歌集『赤光』を出版した年です。同時に,フランスではマルセル・プルースト(Marcel Proust;1871-1922)が『失われた時を求めて』を出版しています。『失われた~』は,匂いが記憶を呼び覚ますという神経学的な背景を持った文学作品です。このように1913年は文学が,神経学または精神医学とかなり接近していた時代だったともいえると思います。 また,同じ年に,カール・ヤスパース(Karl Theodor Jaspers;1883-1969)が『精神病理学原論』を書いています。この本は,岩田先生から教えていただいたのですが,のちの精神医学,神経学に大変な影響を与えた本です。本対談はこの辺りをテーマにすれば,岩田先生から楽しいお話が伺えるのではないかと思い,企画しました。どうぞ,よろしくお願いいたします。
著者
河村 満
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.185-193, 1988 (Released:2006-07-28)
参考文献数
27
被引用文献数
14 10
著者
本間 元康 加藤 進昌 河村 満 小野 賢二朗 糸井 千尋 緑川 晶 寺尾 安生 政岡 ゆり 二村 明徳 黒田 岳士 杉本 あずさ 太田 晴久
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.84, pp.PD-131-PD-131, 2020

<p>自閉症スペクトラム障害(ASD)はコミュニケーション能力障害が主な症状として知られているが,視野や注意の範囲が狭いという報告もある。空間幅や時間幅の把握・表出などの原始的な能力にも異常が見られ,それらがコミュニケーション能力の低下と関連している可能性がある。本実験ではASD患者20名および健常者20名のデータを取得した。ペンタブレット装置を用い,実験者の指示のもと,ペンを右側へ10センチ動かす課題および心の中で10秒数える実験条件課題を行った。コントロール条件課題として定規を見ながら10センチ動かす課題およびアナログストップウォッチを見ながら10秒数える課題を行った。ASD患者はコントロール条件課題においてほぼ正確に表出することができたが,実験条件課題では時間幅および距離幅を極端に短く表出する傾向があった。さらに自閉症スペクトラム指数のサブスコアである「細部への注意」項目と相関があった。本研究は,空間的にも時間的にも収縮した表出機能と注意機能の異常が関連していることを示唆し,それらの傾向はASD患者のコミュニケーション能力を阻害する一因になっている可能性がある。</p><p> </p><p>連名発表者追加</p><p>(正)</p><p>小野 賢二朗#(昭和大学)</p>
著者
村西 幸代 河村 満
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.169-177, 1998 (Released:2006-04-26)
参考文献数
14
被引用文献数
2 1

左被殻に病変の主座を持ち,失語と構音障害を呈した3症例を経験した。3症例の症状は類似し,いずれも病初期に軽度の失語症状がみられたが1ヵ月以降の慢性期には消失し,構音の障害は病初期からみられ,その後も持続した。構音障害の特徴は自発話においては構音の歪みと韻律 (prosody) の障害が,課題発話の diadochokinesis では3音節の繰り返しが拙劣であった。しかし,復唱,音読で特に拙劣さが目立つことはなく,自発話と復唱および音読とに症状の乖離はみられなかった。この特徴は偽性球麻痺性構音障害,一側性錐体路の障害による麻痺性構音障害,脊髄小脳変性症による構音障害とは異なり,さらに Parkinson病,舞踏病,Wilson病などの両側錐体外路系に障害を持つ疾患で生ずる構音の障害とも異なっていた。3例の構音障害は左被殻周辺の病変に起因するものと考えられ,金子 (1989) らの左被殻病変例と類似し,失構音とは詳細には異なった特徴を有した。
著者
毛束 真知子 河村 満 岸田 修司
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.278-282, 1995 (Released:2006-06-02)
参考文献数
12
被引用文献数
3 1

右半球病変により著明な失文法症状を呈した症例 (74歳,大卒の男性,右利き) の聴覚的文法理解を検討した。神経学的には左同名性半盲,左半身運動・感覚障害,神経心理学的には失語,左半側空間無視,構成障害が認められた。失文法症状は発話で明らかで,それ以外に復唱,音読,書字にも認められた。 ラジオの聴取に不便はなく聴覚的理解力の検査 (WAB ; トークンテスト) もほぼ満点であったにもかかわらず,われわれの考案した聴覚的文法理解 (主語判断課題) の成績は,同じ構文でも単語の意味的な関係により変動した。聴覚的理解が一見正常にみえるのは,本症例が蓋然性を手がかりにして単語の意味関係を理解することができるためであり,これは右半球病変による失文法症例の特徴である語彙能力が保持されていることと関係していることが推察された。さらに本症例では,一部の助詞 ( “で” など) の聴覚的理解が可能であった。これはこれらの助詞が,動詞の意味理解が可能であれば理解可能な助詞であるためと思われた。
著者
緑川 晶 河村 満
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.19-25, 2003 (Released:2006-04-21)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

脳梁無形成例において,従来報告のない離断症候と考えられる障害を報告した。対象は,合併奇形がなく,知能が保たれた脳梁無形成例 (脳梁は全欠損,前交連は保たれている) と対照群5名。方法として鏡映描写課題を左右の手で実施した。その結果,脳梁無形成例では対照群と比較して劣位側 (本例では右手) で「明らかな拙劣さ」と「完了時間の遅延」が認められた。後天的な脳梁離断例と異なり,先天的な脳梁無形成例で認められる離断症候は少なく,わずかに視空間課題における障害が報告されてきた。本検討では脳梁無形成例において,前頭葉課題とされている鏡映描写課題で離断症候が生じ得ることを明らかにした。
著者
黒田 岳志 河村 満
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1079-1088, 2014-09-01

マルキアファーヴァ・ビニャミ病はアルコール多飲者に生ずる脳梁の脱髄壊死を特徴とする稀な疾患である。確定診断には剖検が必須であったが,画像診断技術の進歩は生前診断を可能にした。脳梁病変の分布はさまざまで,時に脳梁外病変を伴い,アルコール非乱用者にも生じうることがわかった。今後,画像所見とともに臨床症状や病理所見を併せて検討していくことは,病態の解明および治療法の確立に寄与すると思われる。
著者
小早川 睦貴 鶴谷 奈津子 河村 満
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.64-69, 2014-09-30 (Released:2014-11-26)
参考文献数
34

Emotional and social cognitive function have been reported to be impaired in Parkinson's disease (PD). Recent studies have revealed that social cognition tasks, such as facial expression recognition, mind-reading, and decision-making, are impaired in PD. PD patients show deficits in recognizing negative facial emotions, such as fear and disgust. Theory of mind ability measured by the “reading mind in the eyes” test is impaired in PD patients, and that this finding was is attributable to the visual processing of faces or the verbal comprehension of emotional adjectives. They also show disadvantageous decision-making, which is related to decreased emotional responses, as measured by skin conductance responses. Caution should be exercised because the social cognitive dysfunction is mainly non-verbal and seems to affect at a level beneath patient's awareness.
著者
遠藤 教子 福迫 陽子 物井 寿子 辰巳 格 熊井 和子 河村 満 廣瀬 肇
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.129-136, 1986-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
10

一側性大脳半球病変における麻痺性 (運動障害性) 構音障害患者26例 (左大脳半球病変群14例, 右大脳半球病変群12例) および, 正常者13例の発話サンプルについて, 5名の評定者が, 聴覚印象に基づき評価した結果, 以下の知見が得られた.1) 今回対象とした麻痺性構音障害群における評価成績は, 正常群とは明らかに異なっており, 話しことばの障害があると判定されたが, 障害の程度は全般に軽度であった.2) 障害の特徴は, 仮性球麻痺と類似していたが, 重症度など異なる面もみられた.3) 障害側を比較すると, 概して左大脳半球病変群の方が重度の障害を示した.4) 病変の大きさと話しことばの重症度との関係は, 明らかではなかった.5) 従来, 大脳半球病変による麻痺性構音障害は, 病変が両側性の場合に出現するとされていたが, 今回の結果は一側性病変でも出現し得るということを示唆するものであった.
著者
平井 利明 福田 隆浩 鈴木 正彦 横地 正之 河村 満 後藤 淳 織茂 智之 藤ヶ﨑 純子
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.201-208, 2012-02-01

症例提示 司会(鈴木) それでは,症例提示をお願いします。 主治医 (平井) この症例は,タイトルにあるように急性の精神病様症状で発症して,いろいろな鑑別を考えながら治療したのですが,完全に袋小路に入ってしまって,何がどうなって進んだのかもよくわからないまま亡くなられました。病理解剖の結果,まさかという結果が出てきまして,自分自身とても勉強になりました。
著者
長谷川 幸祐 諸星 利男 福井 俊哉 河村 満 杉田 幸二郎
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.69-78, 1997-02-28 (Released:2010-11-19)
参考文献数
30

パーキンソン病の運動及び知的精神機能障害には数多くの修飾因子が関与している.今回, われわれはパーキンソン病の臨床症状に関わる諸因子; (1) パーキンソン病患者の生活機能予後の悪化に関与する因子, (2) 痴呆を伴うパーキンソン病患者にかかわる因子, (3) 死因について, 1992年~1996年の4年間にわたり追跡し, 検討を加えた.対象は昭和大学神経内科に受診中のパーキンソン病患者, 49例, 平均年齢67.9歳 (51~89歳) .男性16例, 女性33例 (男女比1: 2.1) である.方法は (1) 1992年時に初発症状, 罹病期間, Hoehn-Yahr重症度, 抗パーキンソン病薬の内容と用量, X線CT上の脳萎縮所見, MRIT2強調画像上の高信号病変 (大脳基底核は除く) , 及び知的精神機能を検討し, 1996年の生活機能を障害程度から5段階に区分し, 上記諸因子と生活機能予後の関連性について重回帰分析を用いて分析した. (2) 4年間の観察期間中に, 新たに痴呆が発症した群における上記諸因子の特徴, 死亡例の死因を検索した.4年間の追跡の結果, 加齢, 高い重症度, かな拾いテストの低得点が生活機能予後を悪化させる要因であった.受診時高齢者・高齢発症者に痴呆の発現率が高く, 運動機能の低下に伴い知的機能が平行して高率に低下した.死亡例は10例, 死因発症前のHoehn-Yahr重症度は, いずれもIII度以上で, IV度以上が50%を占めていた.直接死因は肺炎6例, くも膜下出血2例, 転倒による急性硬膜下血腫1例, 麻痺性イレウス1例であった.以上よりパーキンソン病の予後悪化には, 加齢や運動機能の低下の他に前頭葉機能の低下が関与すると結論づけられた.
著者
緑川 晶 吉村 菜穂子 河村 満
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.139-146, 2004 (Released:2006-03-09)
参考文献数
11

記銘力検査の成績が良好であるにもかかわらず多様な健忘症状を呈した側頭葉てんかん症例を検討した。てんかん発作の特徴は,複雑部分発作と数時間の逆向性健忘を伴った健忘発作であった。前向性健忘は,数日単位では明らかではなく,およそ4週間の間隔をあけることによって初めて顕在化するものであった。逆向性健忘は自伝的記憶を中心とする20年以上にわたる障害であった。これらはそれぞれてんかん発作によって生じた長期記憶の固定化の障害と,皮質にある記憶痕跡の消失と考えられた。抗てんかん薬の服用により,前向性健忘は著しい改善を認めたが,逆向性健忘は明らかな改善が認められなかった。このことから,逆向性健忘が非可逆的な過程で生じていると考えられた。てんかん発作に起因する臨床病態の検討が,人間が持つ記憶の一側面を明らかにすると思われる。
著者
福迫 陽子 遠藤 教子 紺野 加奈江 長谷川 和子 辰巳 格 正木 信夫 河村 満 塩田 純一 廣瀬 肇
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.209-217, 1990
被引用文献数
2 2

脳血管障害後の痙性麻痺性構音障害患者のうち, 2ヵ月以上言語訓練をうけた24例 (平均年齢61.6歳) の言語訓練後の話しことばの変化を聴覚印象法 (日本音声言語医学会検査法検討委員会による基準) を用いて評価し, 以下の結果を得た.<BR>(1) 0.5以上の評価点の低下 (改善) が認められた上位7項目は, 順に「明瞭度」「母音の誤り」「子音の誤り」「異常度」「発話の程度―遅い」「段々小さくなる」「抑揚に乏しい」であった.<BR>(2) 重症度 (異常度+明瞭度の和) は24例中16例, 約7割に何らかの改善が認められた.<BR>(3) 一方, 「音・音節がバラバラに聞こえる」「努力性」「速さの程度―遅い」などでは評価点の上昇 (悪化) も認められた.<BR>(4) 症状の変化は症例によって多様であった.