著者
藤田 淳子 福井 小紀子 岡本 有子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.416-423, 2016 (Released:2016-09-27)
参考文献数
19

目的 過疎地域の住民が最期まで地域で過ごせるための医療・介護のあり方への示唆を得ることを目的として,医療・介護関係者の終末期ケアの実態,在宅支援の実態および多職種連携の状況を明らかにした。方法 A地域の医療・介護関係者398人(医療・介護・福祉の専門職,または,連携関連部署に所属する事務職で,かつ常勤であるものの総数)を対象に,無記名自記式質問紙調査を行った。職種別,所属場所別(病院,施設,地域)に集計した。結果 調査票の回収は,38機関より212人であった(回収率53.3%)。終末期ケアの実態として,過去1年間に終末期ケアを実施した割合は,職種別では,介護支援専門員(71.4%),介護福祉職(66.7%),医師(66.7%)が高かった。所属場所別では,病院と施設が約70%であるのに対し,地域は40%以下であった。在宅支援の実態については,回答者全体の70%以上が,何らかの在宅支援を実施し,かつ関心をもっていた。在宅支援の実施内容の1つである自宅訪問については,医師(77.8%)と介護支援専門員(90.5%)の実施割合が高かったが,その他の職種においても20~40%が実施し,また,所属場所別において病院や施設でも20~30%が実施していた。多職種連携については,7下位尺度で構成された顔の見える関係評価尺度を用いて測定した結果,下位尺度「多職種で会ったり話し合う機会」の得点が低く,「他施設の関係者とのやりとり」,「病院と地域の連携」の得点が他の下位尺度に比べ高い傾向にあった。結論 終末期の医療・介護体制として,施設の介護福祉職を中心とした終末期ケア体制の構築,病院や施設からのサポートによる在宅支援の促進が可能な地域であると考える。また,多職種で会ったり話し合う場を作ることによるネットワークづくりが必要である。
著者
福井 拓也
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.32-45, 2020-11-15 (Released:2021-11-15)

昭和三年一二月二五日の小山内薫の急逝、それに続く築地小劇場の分裂後、新劇界は左翼演劇とその他──〝前衛派〟と〝芸術派〟とに二分されることになった。しかし唯美主義的と理解されてきた〝芸術派〟が、実際に何を目指してきたのかについては、これまで問われてこなかった。本稿はその課題に応じるものである。具体的には築地座と久保田万太郎との関わりに注目し、第二十七回公演でとりあげられた戯曲「釣堀にて」の表現世界を細かに分析した。そして「釣堀にて」の特異なありように、役者や戯曲といった演劇を構成する諸要素の相互的な検討を通じて、個々に新たな表現を、そして演劇の可能性を探究した点にこそ、当時の〝芸術派〟の実相が理解されるのだと結論づけた。
著者
葛西 礼衣 福井 誠 栁沢 志津子 片岡 宏介
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.173-177, 2022 (Released:2022-08-15)
参考文献数
6

本研究では,1,450 ppmフッ化物配合歯磨剤によるブラッシング後60分間の唾液中フッ化物イオン濃度の経時測定を行い報告するものである.歯磨剤には市販1,450 ppmフッ化物配合歯磨剤を,そしてこれまで複数の報告があるが,参考として現在広く用いられている950 ppmの市販フッ化物配合歯磨剤による経時測定も行った.ブラッシング直後の洗口については,行わない場合ともしくは25 mLによる超純水による洗口を行う場合とした.ブラッシング直前およびブラッシング直後,5分,10分,15 分,30分,60分後の計7回の安静時唾液を4分間採取し,唾液中に含まれるフッ化物イオン濃度を測定した.1,450 ppmフッ化物配合歯磨剤では,洗口なしの場合,ブラッシング直前の唾液中フッ化物イオン濃度と比較してブラッシング10分後までは有意に高いフッ化物イオン濃度が認められた.また,洗口ありの場合,ブラッシング直後にのみ有意に高いフッ化物イオン濃度が認められた.また1,450 ppmと950 ppmフッ化物配合歯磨剤の比較では,洗口なしの場合,ブラッシング直後の唾液にのみ950 ppmフッ化物配合歯磨剤よりも1,450 ppmフッ化物配合歯磨剤が有意に高い唾液中フッ化物イオン濃度を認め,ブラッシング5分以後は有意な差は認められなかった.
著者
福井 敏樹 山内 一裕 松村 周治 丸山 美江 岡田 紀子 佐々木 良輔
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.578-585, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
21

目的:我々はこれまで種々の生活習慣病関連因子と大血管のスティフネス指標である上腕足首間脈波伝播速度(brachial-ankle pulse wave velocity: baPWV)の関連について報告を続けてきた.喫煙は動脈硬化の危険因子であるが,baPWVに対する喫煙の影響についての縦断解析的な報告はまだほとんどみられない.方法:これまでbaPWVを測定した男性7,251名,女性2,707名のなかで,10年間の喫煙状況の推移を把握し得た非喫煙継続者(非喫煙群)および10年間喫煙継続者(喫煙群)である男性419名,女性38名を抽出した.女性は抽出された喫煙者が非常に少なく,今回は男性のみを対象とした.そして,10年の経過中で禁煙を開始した者,禁煙と喫煙を繰り返していた者は除外し,さらにbaPWVに最も影響を与える血圧の影響を除外するために,10年間の経過のなかでの高血圧治療薬服用者を除外した男性274名を今回の解析対象者とした.結果:解析対象者男性274名のうち非喫煙群は181名,喫煙群93名であった.両群の初年度および10年後の年齢,BMI,血圧,生活習慣病関連因子のなかで,有意差を認めたものはHDLコレステロールと中性脂肪のみであった.10年間のbaPWVの変化量は,非喫煙群128cm/sec,非喫煙群200cm/secと喫煙群の方が有意に大きかった.また初年度,3年後,5年後,7年後,10年後のすべての測定結果がそろっている者による解析では,3年後以降の喫煙群においてbaPWV変化量が有意に大きかった.結論:喫煙による大血管の動脈硬化の進展への影響を,経年的なbaPWV変化量で把握できることが初めて示された.
著者
福井 敏樹 安部 陽一 安田 忠司 吉鷹 寿美江
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.70-76, 2008-06-30 (Released:2012-08-20)
参考文献数
11
被引用文献数
2

目的:血圧脈波検査装置による上腕足首間脈波伝播速度(brachial-anklepulse wave velocity:baPWV)は非侵襲的な動脈硬化検査として定着してきているが,測定の問題点のひとつである血圧の影響を少なくした装置が最近開発され,その有用性を示す結果が増えてきている.今回は2つの脈波伝播速度測定装置の測定結果を比較することを目的とした.方法:対象は当院の人間ドックを受診し,オムロンコーリン社製のform ABI/PWVとフクダ電子社製のVaSeraの両者で測定した471名で,各々の測定値baPWVと心臓足首血管指数(cardio-anklevascular index:CAVI)について比較検討した.結果:血圧の影響はCAVIではbaPWVより減弱したものであったが,統計的には有意であった.動脈硬化の危険因子重積における測定値の増加はbaPWVの方が強い相関を示した.ただし動脈硬化の危険因子である肥満や喫煙の影響については両者ともその相関を示すことはできなかった.メタボリックシンドロームの該当者と非該当者での測定値の比較ではbaPWVは該当者で有意に高値を示したが,CAVIでは有意な差を認めなかった.結論:これらの結果より,baPWVもCAVIも共に血管の動脈壁硬化度を反映すると考えられるが,やはりCAVIにもbaPWVで認められた問題点は存在し,それらを把握した上で使用することが重要である.また,baPWVやCAVI値を動脈硬化の危険因子との関連から考えることの意義についてはさらに検証を必要とすると思われる.
著者
福井 敏樹
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.809-821, 2016 (Released:2016-06-28)
参考文献数
92

我々日本人の死因の1位はがんであるが,動脈硬化性疾患である心および脳血管病変を合わせると,その割合はがんに匹敵する.そのため人間ドック健診や日常診療の最大の目的はがん対策と動脈硬化対策であるといえるが,どのような検査を動脈硬化対策の基本検査として実施するべきかについてはまだ明確になってはいない.2008年に出版された健診判定ガイドライン改訂版では,動脈硬化健診のあり方についての試案を作成した.その際に,最も意図したことは,人間ドック健診の標準検査として動脈硬化検査を定着させていくことであった.エビデンスがある程度確立されていることに加えて,施設間の機器や測定手技の精度の違い,検査にかかる時間や費用なども考慮に入れ,全国の施設で取り入れ可能な検査であることを重視した. 動脈硬化対策において実施するべき検査については,自由診療という枠組みが利用できることも考慮しながら,一方で,任意型健診といえどもその大多数が自治体等の補助や企業・会社等の福利厚生のもとで実施されている現実も含めて考える必要もある. 現在有用であると考えられる検査について,血管機能や形態的変化を調べる検査法を中心に,動脈硬化リスクを評価するバイオマーカー検査もあわせて,最近の動向と我々の施設でのこれまでの検討を含めながら概説する.
著者
福井 里美 広瀬 寛子 米村 法子 坂元 敦子 新井 敏子 三浦 里織
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.37_60_fukui, 2023-04-05 (Released:2023-04-05)
参考文献数
25

目的:本研究の目的はがん終末期ケアに携わる看護師が経験するやりがい感の実態調査の過程で作成された尺度の信頼性と妥当性を検討することである.方法:先行研究および第1調査の実態調査データから5因子37項目の「がん終末期看護のやりがい感尺度(SMEEN)」を作成し,170施設のがん診療連携拠点病院の看護師1,304名の自記式質問紙調査のデータを用いて検討した.結果:因子分析により【ともに居るケアの意味と役割の実感】【さまざまな人生観に触れる学びと感動】【患者家族と医療チームの一体感】【苦痛軽減へ貢献した実感】【その人をより理解するケアの追求】の5因子構造が同定された.尺度全体のCronbach’s αは0.95であり,各下位領域も 0.80~0.92と十分な内的一貫性が示された.Multitrait Scaling分析の結果,構成概念妥当性が認められ,また終末期看護に携わる看護師の満足度尺度およびPOMS短縮版の活気との正相関が認められた.さらに既知集団では,緩和ケア病棟経験者および緩和ケアチームの経験者の得点が有意に高かった.考察:SMEEN37項目版が十分な信頼性と妥当性を有することが確認された.本尺度の活用により,終末期看護経験における肯定的側面に着目した実態把握や教育支援の評価が可能と考えられた.
著者
松村 美小夜 中野 智彦 小野 大吾 福井 俊男
出版者
The Kansai Plant Protection Society
雑誌
関西病虫害研究会報 (ISSN:03871002)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.1-8, 2005 (Released:2011-09-12)
参考文献数
8
被引用文献数
5 5

ホウレンソウケナガコナダニに対する数種土壌消毒法の効果を調査した。太陽熱消毒,蒸気消毒,熱水消毒,土壌還元消毒のいずれも土壌中のコナダニに対する防除効果は高かった。しかし,場合によっては処理時の地温上昇のむらによるハウス内でのコナダニの残存が生じたり,処理されていないハウス周辺部分でのコナダニの残存があり,長期にわたる防除効果の持続は期待できないと考えられた。経済性や実用性の面から,春期や秋期のコナダニ増加前の処理や多発時の緊急的な防除として,蒸気消毒の短時間処理の普及性が高いと思われた。
著者
高島 正之 加納 源太郎 福井 武久 小倉 毅勇
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1984, no.7, pp.1083-1089, 1984-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
17
被引用文献数
3

イットリウムとネオジムの酸化物とフッ化物との固相反応によって新規化合物としてネオジムイットリウムフッ化酸化物が合成された。Y2O3とNdF3の反応は反応温度によって段階的であり,200~600℃ ではY2O3とNdF3の間でO2-とF-の交換反応が進行しYFOとNdFOを生成する。900℃を越えるとNdFOがYFOに置換型に固溶化し始め,1200℃以上でネオジムイットリウムフヅッ化酸化物が生成した。NdF3の混合割合が48~52mol%で斜方面体晶の,58~78mol%で正方晶の単一相生成物が得られた。前者ではY,NdF3O3が,後者ではY,Nd2F,O3が量論的化合物として合成された。Y2NdF3O,は530℃ 付近で斜方面体晶から立方晶への可逆的な相転移があるが,Y2Nd2F6O3は1400℃ 以下では空気中で安定で相転移もなかった。酸化物イオン導電性の立場から電気伝導性を調べた結果,Y2Nd2F,O3が650℃ で電導度が1.2×10-2S/cmで,酸化物イオン輸率が0.85以上の高い酸化物イオン導電性を示した。
著者
松島 格也 小林 潔司 福井 浩
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.I_511-I_521, 2013 (Released:2014-12-15)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

人々の交通機関選択問題を考える際,従来の非集計モデルの枠組みでは交通サービス水準や居住地環境のデータは外生変数として与えられる.しかし,人々は利用する交通行動を想定して居住地を選択していることが考えられ,この場合,個々人が享受する交通サービス水準などは自ら選択した結果である.このような内生性の問題を考慮せずに推計したパラメータはバイアスが生じる可能性がある.本研究では計量経済学における内生性について概念・手法を整理して,交通機関選択モデルにおける内生性を検証するとともに,内生性を考慮した分析手法を提案して居住地選択行動と交通機関選択行動との関係を実証的に分析する.
著者
福井 順平
出版者
The Japan Society of Naval Architects and Ocean Engineers
雑誌
造船協會會報 (ISSN:18842054)
巻号頁・発行日
vol.1926, no.39, pp.129-140, 1926-11-30 (Released:2009-09-04)

The apparatus is to quickly haul the vessel bodily above water in order to rescue the crew in sunken submarines. Every submarine is attached with a special fitting with a projection which a leading wire and a bouy are joined to. The wire and the bouy have connection to a telephone bouy. If the vessel founders and the telephone bouy lifts, the above mentioned bouy and wire can be picked up. From one side of a salvage vessel another fitting with a tenon is led downward along the wire and clutched to the above mentioned fitting on the submarine. A tackle is joined to this fitting and the fall is led over the salvage vessel to another submarine hunged on the opposite side of the former.A suitable number of such apparatuses are provided on the wrecked submarine, the salvage vessel, and the hunged submarine. On the completion of all apparatuses, the hunged submarine is sunk down by flooding its inside. The weight of the hunged submarine and some pull given by winches are available in hauling the wrecked submarine upon water surface. Afterwards the sunken hunged submarine is again lifted above water by applying pneumatic air.
著者
疋嶋 大作 福井 亘 松本 綾乃
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.80, no.5, pp.527-530, 2017-03-31 (Released:2017-09-13)
参考文献数
19
被引用文献数
5 4

In recent years, it is important to grasp the economic value evaluation of the waterfront space created by public works. This study aimed to understand the value consciousness and economic value evaluation of waterfront space creat ed, and to clarify the relevance of the value consciousness and the economic value evaluation. The subject of this study is the waterfront space of Horikawa River that has been created by the waterfront environmental improvement project of Kyoto city. A questionnaire survey was conducted for neighboring residents of Horikawa River and using the CVM to grasp the economic value evaluation of Horikawa River. From the survey results, the value consciousness of the subject was conducted the quantification theory class Ⅲ and cluster analysis and classified from the evaluation trend into two groups. As a result, two groups trend to evaluate the value consciousness of landscape elements and space utilization. Also a result of the factor ana lysis, four value consciousness, history and culture, community space of the region, trees, river flow has been found to be associated with the economic value evaluation, especially community space of the region suggested strong correlation coefficient.
著者
福井 悠貴 小原 謙一 平野 圭二 亀山 愛
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1084, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】Gait Solution(以下,GS)付短下肢装具の報告は多いが,GS付長下肢装具についての報告は少ない。本研究は,短下肢装具での歩行練習が可能な脳卒中片麻痺患者に対して,GS付長下肢装具での歩行練習を行い,その効果を検証することで,GS付長下肢装具が治療用装具として利用できる可能性について検討することを目的とした。【方法】対象は,発症から107病日(転院後58病日)経過した左被殻出血右片麻痺の50歳代男性である。介入時の状況は,Brunnstrom stage上肢II手指I下肢IIであり,麻痺側上肢屈曲群筋緊張亢進,下肢股関節内転・内旋に軽度筋緊張亢進が認められ,膝・足クローヌス陰性であった。また重度失語症のため精査困難であるものの,麻痺側下肢重度感覚障害が疑われた。寝返り,起き上がり,座位は自立であり,立ち上がり,立位は見守りで可能であった。歩行は,GS付短下肢装具とロフストランドクラッチ使用にて分回しの歩容を呈し,2動作前型歩行であった。麻痺側振り出しの促通のために腸腰筋に皮膚刺激を与え,骨盤代償制動のため軽介助を要した。研究デザインは,経過による回復の影響を除くためにABA型シングルケースデザインを用いた。介入期(A1・A2)はGS付長下肢装具での歩行練習後GS付短下肢装具での歩行練習を実施し,非介入期(B期)はGS付短下肢装具のみで歩行練習を実施とし,他の理学療法はA期B期ともに共通して行った。実施回数は各期7回とした。装具は,長下肢装具(膝継手:リングロック,足継手:外側Gait Solution継手,内側タブルクレンザック継手)と,短下肢装具(長下肢装具をカットダウンしたもの)を使用した。GS付長下肢装具は,背屈角度はフリー,底屈制動はGSの油圧強度設定で2.5~3とした。GS付短下肢装具では,背屈角度は歩容状態に応じて0~10度,油圧設定は3~4とした。歩行補助具には,A期B期共通してロフストランドクラッチを使用した。評価指標として,麻痺側立脚相に与える影響を検討するため,GS付短下肢装具歩行における麻痺側立脚相後期股関節伸展角(肩峰-大転子線と大転子-大腿骨外顆中心線のなす角)と立脚相中期体幹屈曲角(鉛直線と肩峰―大転子線のなす角)及び非麻痺側歩幅を採用した。解析は,歩容の動画をデジタルビデオカメラにて側方から撮影し,高度映像処理プログラム(Dartfish teamPro Data 6.0)を用いて各評価指標の解析した。解析結果より介入による効果の検討のためにA1・2期それぞれの初期と終期間で比較した。さらに,非介入であるB期における変化を調査するためにA1終期とA2初期間で比較した。【結果】短下肢装具装着歩行時の各評価指標の平均値を(A1初期,終期,/A2初期,終期)の順に示す。麻痺側立脚相後期股関節伸展角(度)は(4.3±1.2,7.1±1.6,/3.6±1.5,7.0±1.5)であり,麻痺側立脚相中期体幹屈曲角(度)は(10.9±2.1,7.8±0.8,/11.1±0.5,9.0±0.9)であった。非麻痺側歩幅(cm)は(27.3±2.3,30.0±1.4,/26.0±1.4,32.5±1.5)であった。本結果から,介入A1,A2期は,7回の介入により全指標で改善を認めた。さらに,非介入であるB期における各指標の変化を検討するためにA1終期とA2初期を比較した結果,全指標で数値が悪化していた。これらのことから,GS付長下肢装具を用いた歩行練習は,歩容の改善に効果があることが示唆された。【考察】山本ら(2014)は,GS付長下肢装具では,体幹前傾への影響が少ないため股関節伸展しやすく,立脚終期の股関節伸展の拡大に繋がると述べている。本症例においても,GS付長下肢装具歩行練習後に測定項目の改善が認められ,短下肢装具での歩容改善に影響したと考えられる。本研究結果から,GS付長下肢装具を歩行練習で用いることにより,脳卒中片麻痺患者に対する歩容改善に向けた治療用装具としての機能を持つ可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】GS付長下肢装具を用いた歩行練習は,短下肢装具での歩容改善に効果があることが示唆されたことは,下肢装具を用いた効果的な歩行練習を検討するうえで意義がある。
著者
福井 篤
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.8-11, 1962 (Released:2009-09-04)

北海道宗谷本線の問寒別 (といかんべっ) と雄信内 (おのつぶない) との間に, 天塩川の屈曲にそってかなり長い鉄橋がある。下平陸橋と呼ばれ, 全長約140m, 河を越えているわけでないから陸橋と呼ばれている。この鉄橋が昨年 (昭和36年) 1月26日なだれのため一瞬にして破壊された記憶はまだ新しい。このときのなだれの状況や事故の経過については, 本誌のVol.23.No.2に旭川鉄道管理局保線課長の福山氏が詳しく報告されている。
著者
立山 耕平 成毛 志乃 佐々木 寿 福井 拓哉 山田 浩之
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.41-51, 2020-06-30 (Released:2020-07-06)
参考文献数
26
被引用文献数
1

In recent years, casualties caused by the impact of ballistic ejecta from sudden phreatic eruptions have drawn much attention, as observed with Mt. Ontake in September 2014 and Mt. Moto-shirane in January 2018. Hence, improvement of evacuation facilities (shelters) that protects against ballistic ejecta is expected as a forthcoming volcanic disaster prevention initiative. In many cases, the utilized evacuation facilities are outfitted by strengthening existing facilities such as mountain huts. Therefore, it is necessary to understand the baseline impact resistance against ballistic ejecta of the existing mountain huts. In the case of Japanese wooden buildings, Japanese-style rooms with tatami (Japanese-style thick straw mats) are often used. In this study, we focused on the impact resistance of tatami used for flooring. We conducted tests which simulated the impact of ballistic ejecta on various types of tatami, in order to assess the penetration limit of tatami. Three types of bodies of tatami (tatamidoko) were prepared: straw tatamidoko, non-straw tatamidoko type III, and straw sandwich tatamidoko. The projectile was simulated ballistic ejecta with a diameter of 128mm and a mass of 2.66kg, made using a vitrified grinding wheel. This object was launched at a speed of 22 to 69m/s using a pneumatic impact test apparatus. From the impact test, non-straw tatamidoko type III did not prevent penetration, even at an impact energy of 0.63kJ. Therefore, if non-straw tatamidoko type III was to be used in a mountain hut, it cannot be expected to protect against ballistic ejecta. On the other hand, the minimum energy of penetration of straw tatamidoko and straw sandwich tatamidoko were 4.9 and 4.1kJ, respectively, and they had sufficient impact-resistance against ballistic ejecta compared to the mountain hut roof. Thus, it was shown that the downstairs of straw tatamidoko and straw sandwich tatamidoko can be designated as “a safer place in the building”.