著者
石川 智治 冬木 真吾 宮原 誠
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J80-A, no.11, pp.1805-1811, 1997-11-20

音質評価語の調査・収集を行い,それらをKJ法によりグループ化し,30語の代表評価語を得て既に発表した.その後,評価実験の結果を踏まえて,再整理と追加による改善を行い代表評価語を35語に集約した.本論文は以下のことについて示す.1.その改善の内容,2.得られた代表評価語(35語)の心理的距離のMDS法による解析と四つのクラスタへの分類,3.クラスタ化とは独立に行った,衆目評価法による代表評価語のランクづけ,4.分類した各クラスタと衆目評価法で得られた結果をつき合わせて総合音質に重要な代表評価語の選出を行った.
著者
小松 孝徳 秋山 広美
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.92, no.11, pp.752-763, 2009-11-01

本研究では,ユーザが何かを表現したいけれどもうまく表現しきれないイメージがオノマトペに込められていると考え,そのオノマトペのイメージを数値化し,それを対象に付与することでオノマトペのイメージを具体化して表現するシステムを開発した.まず,言語とは独立した音響的な特徴から感じるイメージである音象徴に基づき子音や母音など音節の構成要素に対して八次元属性ベクトルを設定し,その要素を組み合わせることでオノマトペ全体の印象を八次元ベクトルとして表現することとした.そして,オノマトペの八次元属性ベクトルとロボットのモーションとの属性を対応づけることにより,ユーザがオノマトペに込めたイメージをロボットのモーションに反映するようなシステムを構築した.実際にシステムを操作した体験者に対して,本システムに関するアンケート調査を行ったところ,「操作が楽しい」「また使いたい」という項目に対して,大多数の体験者から積極的に高い評価を受けていることが明らかになったが,「自分の思ったとおりにロボットが動いた」という項目については,そのような積極的に高い評価を受けていなかったことが明らかになった.この原因としては,ロボットのモーションの動作曲線の形状変化が体験者にとって非常に分かりにくかったことに起因していると考えられ,オノマトペの属性値とロボットのモーションの属性との対応を再検討する必要があると考えられた.
著者
児玉 謙太郎 牧野 遼作 清水 大地
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J102-A, no.2, pp.26-34, 2019-02-01

本研究では,じゃんけんというマルチモーダルなコミュニケーションにおいて,音声による聴覚情報が参与者間の身体の協調・同期に及ぼす影響を実験的に検討した.その際,力学系アプローチという視点からコミュニケーションを自己組織化現象と捉えた.そして,コミュニケーション過程を参与者間の知覚情報を介したリアルタイムな行為の調整過程とみなし,身体協調を非線形時系列解析により評価した.実験により「最初はグーじゃんけんぽん」という掛け声を発する通常条件と掛け声を発しない声なし条件を比較した結果,じゃんけんの最終段階での参与者2名の手の振り降ろしの時間差には,条件間で有意な差はみられなかった.一方,行為の開始から終了に至る過程の参与者の手の協調における安定性と予測可能性に有意な差がみられ,通常条件のほうが,参与者間の手の協調が安定し,予測可能性が高い動きをしていたことが明らかとなった.これらの結果から,ヒトは数秒という短い時間に行われるコミュニケーションであっても,1)聴覚情報が利用できない条件では参与者らはリアルタイムに視覚情報を利用し,結果的に同期を達成できるよう柔軟に振る舞うこと,ただし,2)その行為の調整過程での身体の協調には聴覚情報が影響すること,が示唆された.
著者
竹田 仰 蒲原 新一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.489-497, 1996-02-25
参考文献数
15
被引用文献数
12

力覚提示機能をもつ人工現実感技術の応用として, 仮想人物と腕相撲の対戦が行えるシステムを構築した. 対戦のための力覚ディスプレイには, 空気圧式のゴム人工筋を使用し, ヒトの筋力の強さと動きによく桔抗して応答できる機構設計を行った. また, 仮想人物との対戦をいかに人間同士の対戦のように見せるかということのために, 単に勝ち負けの2値的な評価手法ではなく, 知識が対戦ごとに獲得されていく分類システムと遺伝的アルゴリズムの手法を使用した. 従来, これらの手法は計算機内での生物の成長や行動の様子のシミュレーションとして使うことが一般的であった. しかし本論文では, 実際のヒ卜の腕相撲対戦中の刻々と変化する上肢の角速度や位置情報を計算機内に取り込み, それをもとに出力コードを選択して力覚ディスプレイに出力し, 対戦者の上肢の行動反応を再び入力するという外界とのインタラクティブな機能をもつ方式に応用展開している. このことにより, 対戦中にリアルタイムに戦略を学習しながら成長する腕相撲対戦システムを実現できている. また, 対戦中に仮想人物の顔の表情を変化させるなど臨場感の演出も試みている.
著者
松田 圭悟 大山 航 若林 哲史
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J100-A, no.12, pp.435-443, 2017-12-01

本研究では,訓練偽筆を含まない学習データを用いた組み合わせ分割署名照合法を提案する.提案手法は,まず,ペン先のx, y座標,筆速,筆圧の時系列で構成されるオンライン署名情報を入力し,筆速,筆圧をそれぞれストローク幅,濃度値に反映させた署名画像を生成する.次に,オンライン署名時系列及び生成された署名画像のそれぞれをストロークの重心位置で分割する.入力されたオンライン署名時系列及び生成された署名画像とそれぞれの分割署名をオンライン用,オフライン用の手法で照合し,照合スコアを判定用SVMで真偽判定する.判定用SVMの学習には真筆同士,真筆と偽筆の照合スコアを含む学習用データを用いる必要があるが,本論文では偽筆クラスの学習サンプルとして第三者の真筆を用いるランダム偽筆学習を提案する.また,偽筆サンプルの削減のために,One-class SVMとk-meansクラスタリングを用いた効果的なサンプリング手法も提案する.多言語署名を含むSigCompデータセットを用いた評価実験の結果,訓練偽筆を含む学習用データセットを用いて学習した場合と同程度の精度の署名照合が実現できた.
著者
嵯峨山 茂樹 板倉 文忠
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.83, no.11, pp.1244-1255, 2000-11-25
参考文献数
26
被引用文献数
3

線形予測符号化(LPC)分析と複合正弦波モデル化(CSM)分析の間にあるエレガントな関係(ここではこれを対称性と呼ぶ)について述べる.目的は, LPC, PARCOR, CSM, 線スペクトル対(LSP)などの音声スペクトルモデル化の理論に統合的な視点を与えることにある.これらの分析法はいずれもモデルの自由度に等しい個数の低次の自己相関関数を与えられたとき, モデルのパラメータを求める問題となっているが, LPCもCSMも、直交多項式の理論の観点から見ると, 音声のパワースペクトル密度関数を重み関数として定義される単位円周上の直交多項式の理論(LPCの場合)及び実軸上の直交多項式の理論(CSMの場合)であり, 定式化, 各種のパラメータの定義, 解析アルゴリズムなどに関して美しい対称性が成り立つ.また, 直交多項式の観点からLSPに対して新しい解釈を与える.
著者
趙 奇方 島村 徹也 高橋 淳一 鈴木 誠史
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.745-758, 2001-06-01
被引用文献数
7

本論文では, 自己相関関数の雑音低減能力を利用し, 線形予測分析に基づくホルマント周波数抽出法の雑音耐性の改善を考える.自己相関関数は, 白色雑音が混入した音声信号に対して, 雑音成分を遅延の低い部分に集中させる性質がある.これを利用し, 音声信号の代わりにその自己相関関数をホルマント周波数の抽出に用いることにより, ホルマント周波数抽出の雑音耐性を改善することが可能であると考えられる.本論文では, まず自己相関関数からホルマント周波数を抽出するための原理を解析し, その問題点及び可能な解決策を詳細に検討する.そしてこれらの解析に基づき, 音声信号の自己相関関数に線形予測分析を施す提案法1を提案する.実験結果より, 提案法1を用いることによってクリーンな音声に対しては従来法と同程度の抽出精度が得られ, 雑音の混入した音声に対しては従来法より抽出精度が大幅に改善されることが確認される.しかし一方で, 強雑音環境下においては抽出精度が十分でない点も指摘し, その原因を解析した上で, 自己相関関数の引き算を利用する改善法を提案法2として提案する.実験結果は, SN比が15dB以下のとき, 提案法2ではホルマント周波数抽出誤差(Average Absolute Error)が従来法の3分の1程度に, また提案法1の2分の1程度に抑えられることを示す.
著者
松村 和仁 中村 康弘 松井 甲子雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.271-278, 1996-02-25
被引用文献数
5

この論文では, 感性情報処理のために, 2次元顔画像から人の表情を生成する関数を抽出している. 人間は他人の表情からいかなる情報を得て, 個人の識別や感情の分析をしているかという問題に対して, いまだ解答が得られていない. 顔による個人識別や表情の認識に関する研究では, その特徴をどのような方法で, どのように記述するかが大きなテーマである. その一案として, 薄板スプラインを用いたメタモルフォシスにより, 表情の変化を平面顔画像上で追跡し, その変化を表情関数という形で定量的に抽出する. 更に, この表情関数を用いて, 1枚の無表情の顔画像から人間の代表的な6種類の感情を表す顔画像を生成する. この表情関数は顔を対象としたセキュリティチェックシステムの基礎となる概念である.
著者
住谷 正夫 安久 正紘 大口 國臣
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.77, no.12, pp.1787-1790, 1994-12-25
参考文献数
7
被引用文献数
2

48個のホトダイオードを並列接続して測定系自身より発生する雑音の影響を除去し,2系統の独立な光測定回路で測定光の揺らぎデータの有効性を確かめ,蛍光灯などの人工光や太陽などの自然光の時間的な照度揺らぎの特性を明らかにした.各光の揺らぎをパワースペクトルによって解析し比較検討した結果,固形燃料やアルコールランプなどの燃焼を伴う光の揺らぎには,10Hz前後にピークをもつことを見出し,また,0.1〜10Hzの周は数帯域でパワースペクトルがほぼ1/f形に成ることを見出した.自然光は0.1〜10Hzの周波数帯域で1/f形の揺らぎをもっていることなどを見出した.
著者
松村 幸輝
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.870-880, 1998-05-25
被引用文献数
4

本論文は間欠性カオス写像を用いた移動障害物回避問題について検討している.本手法は, カオス的ゆらぎを利用して軌道制御を行うエージェント指向のロボットのモデル化を提案するものである.具体的には, 間欠性カオス写像を発生させる変形ベルヌーイ系のパラメータを変えることにり, ランダム性の強い制御から局所的に収束する制御まで容易に実現でき, より適切な軌道制御が可能になるものと考えられる.本論文では, この手法によるロボットの移動障害物回避のための軌道制御のモデリングについて述べると共に, シミュレーション結果からこの方法の有用性について検討した.この結果, (1)移動距離と消費エネルギーに関してロスが小さくなるような経路を通って障害物を回避する効率のよい軌道修正が可能となる, (2)複数の障害物で構成される複雑な環境においても簡単なアルゴリズムで適切な回避処理を実現できる, こと等を得た.
著者
寺崎 健 池口 徹 合原 一幸 田中 智
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.78, no.12, pp.1601-1617, 1995-12-25
被引用文献数
6

本論文では,従来主として確率的な不規則現象としてとらえられてきた経済時系列データに対して,決定論的非線形ダイナミカル特性に関する解析を行う.解析の対象としたのは,対ドル円の為替レートおよび日経平均株価である.これらのデータの決定論的非線形ダイナミカル特性を定量的かつ客観的に評価するため,相関積分を用いた相関次元解析,ヤコビ行列推定法によるリヤプノフスペクトラム解析および決定論的非線形(区分線形)予測による解析を行った.相関次元解析では,いずれの場合にも相関積分から求められる局所的な傾きが収束せず,少なくとも次元が1けた程度の低次元のアトラクタを形成していないことが示唆された.リヤプノフスペクトラム解析では,いずれの場合でも最大リヤプノフ指数が正となり,決定論的カオスの特徴の一つでもある軌道不安定性を示唆する結果が得られた.最後に,決定論的非線形予測の解析結杲では,その予測精度と予測時間との関係は典型的な低次元カオスとは定性的に異なる.以上の結果により,本論文で解析した経済データは,少数自由度の力学系によって記述される典型的な決定論的カオスではない可能性が高く,軌道不安定性をもつ,より複雜な対象であることが示唆される.
著者
谷 賢太朗 伊藤 尚 前田 義信
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J98-A, no.3, pp.274-283, 2015-03-01

災害時に教室から多数の生徒が避難する場合,被害を小さくするには全員が避難を終えるまでの時間(避難完了時間)を最小にすることが重要である.そのための方法は,1)避難者自身の行動方法を変えること,2)教室の空間構造を変えること,の2点である.本研究では,前者の観点から避難者が進路を譲り合うことを考慮し,理論計算によって2人の避難者の衝突状態が解消されるまでの時間を最小にする譲り合い確率が=-1であることを示した.続いてマルチエージェントシミュレーションによる2人以上の避難者の教室からの避難について考察し,避難完了時間が最小となるのが近傍であることを示した.更に後者の観点から教室の出口の広さや数を2ヶ所に変えた場合についても調べ,避難時間が短縮されることを示した.出口の数を2ヶ所にした場合,出口間の距離が近すぎると避難時間が増加することが示唆された.
著者
松井 唯 生藤 大典 中山 雅人 西浦 敬信
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J97-A, no.4, pp.304-312, 2014-04-01

パラメトリックスピーカは振幅変調した超音波を利用する超指向性スピーカであり,鋭い音響ビーム(可聴領域)によりオーディオスポットを実現している.しかし,特定の受聴者のみに音を届けたい場合,可聴領域は直線状となるため,壁や床などの反射,非対象者の割り込みにより対象者以外にもオーディオスポットが形成される問題点があった.ここで,振幅変調波は周波数領域においてキャリア波と側帯波の重ね合わせであり,その相互作用により可聴音が復調されることに着目する.本論文では,複数のパラメトリックスピーカよりキャリア波と側帯波をそれぞれ分離放射し,キャリア波と側帯波が重なる領域のみでオーディオスポットを形成する手法を提案する.また,提案手法では,側帯波を帯域分割して複数のパラメトリックスピーカからそれぞれ分離放射,ある領域でのみ交点を結ぶことで,側帯波同士の差音により発生する混変調ひずみを低減させ,多数のパラメトリックスピーカを利用してオーディオスポットを形成することによって再生音圧レベルの向上を行った.実環境における評価実験の結果,提案手法によるオーディオスポット形成の有効性を確認した.
著者
松田 三恵子 杉山 博史 土井 美和子
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.132-139, 2004-01-01
被引用文献数
20

携帯電話の普及により,道案内サービスが幅広く利用されるようになってきた.道案内サービスの普及につれ,従来の最短距離経路のみの案内ではなく,よりきめ細かい経路案内,特に歩行者の身体能力や子供などの同伴者や荷物の有無に対応した経路案内への要求が高まっている.本論文では,歩行者の経路への嗜好性を取り入れた経路生成について述べる.歩行者の身体状況などに応じて変化する歩行者の経路への嗜好性を経路生成に反映できるようにするために,延べ269名に対し,計2回のアンケートを行った.これらのアンケート結果から,歩行者は「距離」以外に「安全性」や「快適性」を重視していること,特に60歳以上のユーザは「安全性」と「快適性」双方を重視していること,また「男性」より「女性」の方が階段を避ける「快適性」を重視していることも判明した.また経路への嗜好性を取り入れるには,従来の道路データ以外に,歩道や坂道などの詳細な経路探索条件が必要であることが判明した.これらの経路探索条件を反映した経路探索パラメータを導入し,身体状況などに応じて変化する歩行者の嗜好を反映した経路案内生成方法を実現した.実際に渋谷駅周辺の歩道や坂道などの詳細情報を収集し,歩行者の嗜好に合わせた経路を生成できることを確認した.
著者
林 勇吾 井上 智雄
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J98-A, no.1, pp.76-84, 2015-01-01

本研究では,学習者ペアが協同で行う説明構築活動においてPedagogical Conversational Agent (PCA)をアドバイザとして用いた際の効果的なインタラクションのデザインについて検討する.過去の研究では,学習者の認知的負荷の増大に伴ってPCAへの注意が低下するという点やPCAの存在感の欠如の問題点が指摘されている.そこで本研究では,PCAに対する社会的存在感を促進させる方法として,複数のPCAの利用が説明活動におけるインタラクションを活性化できるかを実験的に検討した.実験の結果,複数のPCAを用いた学習者は,単独のPCAを用いた学習者よりも概念に対する深い理解を構築することができていた.更に,複数のPCAを用いた場合,(1)ポジティブな励ましを行うエージェントと(2)具体的な説明の仕方を教示するエージェントに役割を分散させた場合において,インタラクションが活性化することが明らかになった.異なる役割を担う複数のPCAを利用した本研究の結果は,協同学習支援システムの設計におけるデザイン手法に重要な示唆を与える.
著者
武川 直樹 佐々木 寛紀 木村 敦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J98-A, no.1, pp.93-102, 2015-01-01

本論文では,会話の順番交替時の沈黙場面において見られる音声フィラー(「えーと」,「うーん」など)と動作フィラー(髪にさわる,顎に触るなど)に着目し,これらのフィラーが沈黙の状況を修復するための役割を調べる.人同士の会話の観察結果に基づきCGキャラクタの会話シーンを作成し,作成した動画シーンを刺激として沈黙中のフィラーが伝える意味を第三者が主観評価し,沈黙におけるフィラーの役割を明らかにする.評価の結果,フィラーの表出は会話の継続に向けての誠意を示すとともに,次の話者が誰になるかを予測させることが示唆された.この成果は会話エージェント・ロボットが人と会話を行うときにより適切で丁寧な応対をするための動作デザインの第一段階として寄与するものである.
著者
杉山 弘晃 南 泰浩
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J95-A, no.1, pp.74-84, 2012-01-01

本研究では,ユーザへ情報を提示するシステムのための,ユーザの潜在的な情報要求の推定に基づく新たな情報提示タイミング決定方策を提案する.この方策により,システムは早過ぎる情報提示を抑制し,ユーザへ煩わしさを感じさせることなく主体的に情報提示することが可能になる.本研究ではこの方策におけるマルチモーダル情報の寄与を検証するため,最初に人と人のインタラクション実験を行い,利用可能なモダリティが変化したときの人が行う情報要求推定精度の変化について分析する.分析を通して,人はマルチモーダル情報を利用できないときは対話の流れを利用し,利用可能なときはマルチモーダル情報を利用することが示された.この結果をもとに,人の情報要求推定を実現するためのモデルを提案し,ユーザの潜在的な情報要求を表出させるよう設計した連想クイズ対話実験を通してその有効性を示す.
著者
梶原 志保子 徳永 隆治 松本 隆
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.408-419, 1994-03-25
被引用文献数
4

本論文は,「いかにして時系列データのみから未知力学系の分岐係数を推定し,その分岐図を再構成するか」というカオス的力学系のための新しい逆問題を設定し,非線形短期予測手法およびKarhunen-Loeve変換に基づく一つの解法を提案する.本手法は,推定対象となる力学係の情報は系数を含めすべて未知と仮定する.また,その有効性および可能性は2係数エノン写像族および3係数ロジスティック・ディレイドロジスティック写像族への適用結果で示される.最後に,この逆問題を基礎にしたいくつかのカオス応用を議論する.
著者
池上 宗光 田中 衞
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.77, no.7, pp.954-964, 1994-07-25
被引用文献数
25

符号化において,もとの信号が自然画像のように近傍で強い相関をもっている場合には,より少ないビット数でもとの信号を表現できることが期待される.本論文では,送信側において局所的に相互接続された離散時間型セルラニューラルネットワーク(DTCNN)のダイナミックスによるA-D変換でアナログ画像をディジタル画像に符号化し,受信側でそのディジタル画像を低域フィルタに通すことによりもとのアナログ画像を復号する低ビットの符号化方式を提案する.本方式では,静止画像の符号化を原画像と復号画像間の誤差を最小化する最適化問題に帰着させ,符号化により発生する雑音を画像全体で抑えるようにひずみ関数を定義する.そして,ニューロンの出力を多値に拡張した多値ニューロンのダイナミックスにより高品質な復号画像を得るようにしている.本方式は,単純なデバイスから複雑な機能を実現する並列処理的なダイナミックスを用いているので,網膜のように光などでまとまって入力されたアナログ情報をリアルタイムにディジタル変換することが可能であると期待される.
著者
大出 訓史 安藤 彰男 谷口 高士
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J97-A, no.4, pp.323-331, 2014-04-01

近年,様々な音響再生方式が提案されており,評価手法の確立が求められている.著者らは,体験品質という観点から,体験の肯定的な評価に使われる“感動”という言葉に着目し,感動評価尺度を提案した.これまでに著者らが実施した音楽聴取実験の結果,感動の評価値が高い評価者群と低い評価者群の印象の差が,感動評価尺度では大きく,音楽の感情価では小さいことがわかった.これは,感動の要因となる印象が,音楽の感情価とは異なることを示唆する.そこで,本研究では,音楽聴取時の感動の要因を探るため,感動の度合いに応じて差が生じる音楽や音響の印象を調べた.まず,感動評価尺度の一般化を目的に,118名による評価実験に基づいて感動評価尺度の再構成を行い,次に,音楽や音色,音響機器の評価に用いられる評価語80語を用いた音楽聴取実験を行った.その結果,感動の度合いによる評価者間の印象の差は,「音色がよい」や「艶がある」などの音響の印象で大きいことがわかった.感動の種類によって相関の高い音楽や音響の印象が異なることから,音楽の印象と音響の印象の組み合わせによって感動が促進される可能性が示された.