著者
榎田 翼 若槻 尚斗 水谷 孝一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.96, no.5, pp.197-204, 2013-05-01

本論文は,金管楽器において吹鳴圧力に加え唇のアパチュアを変化させたときの吹鳴音高を計測することで,吹鳴圧力とアパチュアが吹鳴音の音高に与える影響を明らかにすることを目的とする.具体的にはアンブシュア可変機構を有する人工吹鳴装置を用いて,吹鳴圧力とアパチュアの大きさを制御しながら吹鳴音の計測を行った.結果として吹鳴圧力とアパチュアの相互関係により励起される吹鳴音の周波数が決定されることを確認した.また,アパチュアの大きさを徐々に大きくしていく場合と小さくしていく場合では吹鳴音の周波数が遷移するアパチュアの大きさが異なるという結果が得られた.更に,アパチュアを小さくすれば吹鳴音の周波数が高くなるという奏者の見解とは逆に,人工吹鳴においてアパチュアを大きくしたときに吹鳴音の周波数が高くなるという興味深い結果が得られた.
著者
加藤 栄一 佐藤 吉信 堀籠 教夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.247-255, 1999-02-25
参考文献数
11
被引用文献数
38

機能安全の国際規格であるIEC61508が作成されつつある. そのドラフトの基本的な方法論の一つは安全関連系(SRS)に対して目標機能失敗尺度, すなわち安全度水準(SIL)を設定することである. SILは, 電気/電子/プログラマブル電子(E/E/PE)技術を用いたSRSに割り当てるべき安全要求事項を規定するため, 四つの確率的水準から構成されている. 目標のSILを選定するために, この規格案はE/E/PE SRSを二つ作動モード「低頻度作動要求」及び「高頻度作動要求/連続」モードに区分している. これらの作動モードは作動要求頻度のみから定義されている. しかし, 作動要求状態の継続時間及び疑似作動要求を考慮するとE/E/PE SRSにどちらの作動モードを適用すべきか明確になっていない. 本論文は上述した論点について、規格案で行われている仮定とアルゴリズムの妥当性を検証し, 作動要求の継続時間及び疑似作動要求の考え方を含むSIL作動モード選定のためのフォールトツリーモデルと, そのモデルを定量化して, 平均危険事象頻度を推定するアリゴリズムを導入し, 新しい作動モードを提案する.
著者
翠 輝久 水上 悦雄 志賀 芳則 川本 真一 河井 恒 中村 哲
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.16-26, 2012-01-01
参考文献数
22
被引用文献数
1

ユーザの自然な聞き手反応を喚起する対話システムの構築を目指して,人が対話を行う際に表出する韻律表現を生成する対話スタイルのテキスト音声合成器(TTS)の構築を行う.構築した対話スタイルのTTSを利用してユーザに情報を提示する音声対話システムを実装し,システムに対するユーザの聞き手反応に基づいてTTSの評価を行った.評価の結果,我々が構築したTTSにより,ユーザの感情を判定可能な自然な聞き手反応を引き出すことができることを確認し,自然な対話スタイルの音声を生成することは,ユーザからシステムにとって有益な情報を引き出す効果があることが分かった.
著者
厳島 行雄 内藤 佳津雄 臼井 信男 岡部 康成 小泉 昌司 横田 正夫 原 富夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.80, no.8, pp.1285-1292, 1997-08-25
参考文献数
22

精神分裂病患者の一つの特徴に認知的機能の障害が挙げられる. 本研究では精神分裂病患者の顔認識メカニズムに注目し, その機能的特徴を検討することを目的とした. 使用した方法は, 健常者の顔認識研究で有効な研究方法として採用されている反復プライミングである. 実験1では先行課題として有名人の同定課題(職業若しくは人名)を行い, その後主課題として既知性判断課題を行った. その結果, 精神分裂病患者では, 反応時間が健常者と比較的同程度の速さを示す群とそれより遅い群に分かれた. 健常者と類似した速さを示した精神分裂病患者群では, プライミング量も健常者と同程度であったが, 反応時間の遅い群ではプライミング量が大きいという結果であった. 実験2では長期の反復プライミング効果を検討した. ここでも長期のプライミング効果が健常者と共に観察されたが, 精神分裂病患者のプライミング効果は健常者のそれと比較しで大きいものであった. これらの結果は, 精神分裂病患者の顔認識システムにおける顔認識ユニットと人物同定ノードとの結合の活性化抑制機能の低下によって起こると解釈された.
著者
梶川 嘉延 野村 康雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.79, no.11, pp.1808-1816, 1996-11-25
参考文献数
18
被引用文献数
51

本論文では線形ひずみおよび非線形ひずみを同時に除去する非線形逆システムの適応Volterraフィルタを用いた時間領域でのオフライン設計法を提案する.従来の線形フィルタによる線形ひずみの除去法では,線形ひずみの除去は行えるが,それに伴い非線形ひずみが増大するという欠点を有していた.本論文では,まず線形ひずみの除去によって非線形ひずみが増大するメカニズムをVolterra理論を用いて理論的に明らかにする.また,非線形システムの縦列接続によって生じる信号成分をVolterra理論を用いて導出することにより,非線形ひずみを除去する非線形逆システムの設計法を与える.提案法では非線形ひずみを最大70dB低減でき,更に設計時間の短縮化も実現している.
著者
林 健一郎 大坪 昭文 白仁田 和彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.82, no.7, pp.1180-1184, 1999-07-25
参考文献数
11
被引用文献数
5

本論文では, ファジー推論法による非線形なPID制御と線形なPID制御の, 従来法と比較してより簡便で実用的な実現法について提案を行う. ここでの提案は, 簡略化することで推論計算の高速化を図ったファジー推論法の簡略化直接法を, わずか6個の簡単な構造を有するファジー制御規則に適用することにより, PID制御器に準拠した非線形なPID制御のみならず, 線形なPTD制御をも容易に実現できるという方法である.
著者
菅野 恒雄 長橋 宏 安居院 猛
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.86, no.12, pp.1510-1519, 2003-12-01
参考文献数
16
被引用文献数
1

人間の顔は大変興味深い研究対象であり,人間の顔に関する研究は古くから心理学,認知科学の分野で行われてきた.顔と年齢に関する研究は幼児期から老年期までの幅広い年齢層について,顔の形状変化,年齢認知,計算機による識別などが行われてきた.本論文では顔骨格形状が大きく変化し,顔の印象が子供から大人へ変わる児童期から青年期までの顔面像を対象とした.実験に用いた平均顔は,実年齢がほぼ特定できる卒業記念アルバムから男女とも12歳,15歳,18歳,22歳の顔画像群から作成された.これらの平均顔を刺激とした年齢推定心理実験結果から,これらの年齢の顔特徴と年齢認知との関係を示した.また,平均顔作成と同様な手法によって作成された分散顔と実験に使用した男女顔画像群の特徴から,女性顔の年齢認知が難しい要因を検討した.更に,800枚の顔画像群を刺激とした年齢推定心理実験を行い,被験者による評価結果をもとに得られた平均顔とそれらの顔特徴について検討した.
著者
関川 宗久 稲葉 直彦 吉永 哲哉 川上 博
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.213-222, 2003-03-01
参考文献数
19

本論文では,強制レイリー方程式の分数調波引込領域の分岐の構造を系の対称性と関連づけて解析する.系の対称性により,状態空間上において原点について対称な形状をしたアトラクタが発生する場合と,原点について非対称な形状をした二つのアトラクタが互いに原点対称な位置に発生する場合の2種類の分数調波周期解の引込領域が存在する.それらの分岐集合のパラメータ平面上での形状を調べたところ,前者と後者の分数調波引込領域は基本調波周明解のネイマルク・サッカー分岐曲線の近傍で異なった構造をもっていることが明らかになった.
著者
藤井 健作 大賀 寿郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.314-322, 1995-03-25
参考文献数
16
被引用文献数
30

学習同定法を適応アルゴリズムとするエコーキャンセラにおいてダブルトークは,適応フィルタの係数を乱し,ハウリング発生の危険を増大させる.その対策としてエコーキャンセラでは通常,ダブルトークの発生を検出する回路を別に設け,検出時には適応フィルタ係数の更新を休止してその乱れを小さく抑える構成をとる.このダブルトーク検出には,エコーに埋もれたダブルトーク成分の検出が可能となる残留エコーの増加を監視する方法が有効である.しかし,その増加はエコー経路変動によっても生起するため,同検出法においてはエコー経路変動検出の併用が必須となる.本論文では,エコーを含む入力と疑似エコーの相関の大小からダブルトークとエコー経路変動を識別する方法を提案する.すなわち,疑似エコーとエコーの相関はダブルトークのときに大きく,エコー経路変動のときに小さくなることが利用される.更に,残留エコーと疑似エコーのパワー比をパラメータとするダブルトーク検出法も併せて提案し,係数更新演算に遅延を前置する構成によってエコー消去量が全く減少しないダブルトーク検出が可能となることを示す.
著者
志沢 雅彦 磯 俊樹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.261-269, 1995-02-25
参考文献数
24
被引用文献数
1

多重スケール局所微分フィルタの集合から,各点に複数の方向性をもつ多重方向場を検出するための基礎理論を提案する.異なる指向性をもつ多数のフィルタを用いる従来法や,Freeman & Adelsonの可操舵フィルタ(Steerable Filter)と異なり,本理論では,多重方向場を1個の基本拘束方程式で表現する.従来法において必要であった,出力の大きい指向性フィルタの選択処理は不要である.可操舵フィルタにおける出力の極大値探索も不要である.その代わり,多重方向を陽に求める解析解が導出される.本理論は,演算子形式の線形重ね合せの原理から導かれる.従来法においては,複数の方向性信号成分が,個々のフィルタの検出方向範囲内にある場合に,信号間の干渉作用の悪影響を受ける.そのため,鋭い指向性をもつフィルタが必要であった.本理論から導かれるアルゴリズムは,この干渉作用に影響されない.アルゴリズムを用いると,画像の多重スケール表現において,交差などの特徴的画像構造を低次の輝度微分情報から抽出できる.本理論は,脳内の1次視覚野のハイパコラム構造における多重スケール・多重方向画像表現に新たな理論的基礎を与えると期待される.
著者
佐々木 整 竹谷 誠
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.81, no.11, pp.1564-1574, 1998-11-25
被引用文献数
1

対象を要素の集合, その順序関係を技で表現したマルチレベルグラフ(階層構造グラフ)は認知マップをはじめ, 多くの構造表現として活用されている.一般にグラフは同じ構造でもその描画法が異なると, 人間のとらえ方や理解のしかたも変化する.本論文では, 筆者が提案した2要素官の重要度の概念を応用した要素の重要度の概念をもとに, 構造的な関連性を考慮したマルチレベルグラフの図解的表示法であるIllustrative Mapping法の提案を行う.また, 従来手法との比較評価を, 被験者による理解のしやすさの定性的評価とグラフ描画の見やすさの定量的尺度に基づいた評価の両面から行い, 提案手法の有効性と実用性を示す.
著者
稲葉 晶子 枷場 泰孝 岡本 敏雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.207-215, 1996-02-25
参考文献数
11
被引用文献数
33

現在, 協調作業/学習を支援するシステムの研究が, 活発に行われている. 協調作業/学習を支援するためには, ユーザにコミュニケーションの手段を提供することは不可欠であり, 更にシステムが作業/学習状態を同定し, 支援する機能が望まれる. しかし, それらの実現を目指すシステムにおいても, ユーザが状態を把握することを容易にするための機能を提供するに留まり, 実際に判断を行うのはユーザ自身であることが多い. 本研究では, 協調学習の状態を同定し, それを支援するシステムの構築を目的とする. 具体的には, 協調学習場面で行われるコミュニケーションを分析し, 議論という観点からグループの状態をとらえ, 議論を支援することにより協調学習の促進を図る. 議論場面で交わされる発言は, 多様な情報を有する. それらを以下の二つに分類した. すなわち, 1)対象領域における問題解決に関連した解法知識に関する情報, 2) Speech・Act理論に基づく, 問題解決とは独立な発言の種類に関する情報である. 本研究では, 後者の情報を用いることにより, 領域知識を用いない議論支援を実現する.
著者
村田 恵介 古川 利博 久保田 一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J96-A, no.5, pp.278-282, 2013-05-01

本論文では,NMRにおける極推定の問題に対し,帯域抽出を用いた極推定法における抽出帯域幅がAR係数推定誤差と求根誤差に与える影響を議論し,適切な抽出帯域幅に関する検討を行っている.また,これを計算例によって確認している.
著者
佐古 和恵
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J96-A, no.4, pp.139-148, 2013-04-01

IDを使わずにユーザの正当性を認証する匿名認証技術を紹介する.IDをひもづける名寄せによるプライバシー侵害を防止できるとして,実用化に向けたプロジェクトが欧州でスタートし,ISO/IECでは標準化が進められている.匿名認証技術はグループに基づく方式と,それを一般化した属性に基づく方式,そしてブラインド署名に基づく方式の三つに大別される.それぞれを紹介するとともに,匿名認証に特有な無効化についても言及する.
著者
吉井 訓史 中野 眞一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.88, no.8, pp.945-952, 2005-08-01
被引用文献数
9

グラフを, 各面が方形(長方形)であるように, かつ, 辺が交差することなく平面に描画したものを, 方形描画と呼ぶ. 内面の個数がたかだかn個であるすべての方形描画を, 重複も抜けもなく高速に列挙するアルゴリズムが知られている. 本論文では, この列挙アルゴリズムを改造することにより, 方形描画を列挙することなく, これらの個数のみを高速に数え上げるアルゴリズムを提案する. また, この数え上げアルゴリズムを実装することにより, 方形描画の個数の値をn≤13について求めた. 更に, 従来の列挙アルゴリズムも実装し, 方形描画の個数の値を求めた. 方形描画の個数は, 上記二つの結果において一致することを確認した. これにより, これまで未解決であった方形描画の個数の値がn≤13まで新たに確定した. 今回提案する数え上げアルゴリズムは, 従来の列挙アルゴリズムより約200倍高速であった.
著者
大内 智 金川 明弘 太田 宏
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.76, no.12, pp.1805-1807, 1993-12-25
被引用文献数
1

信頼性受入れ試験に関して,試験時間ならびにサンプルアイテムの個数といった観点から,効率の良い検査方式として,ロットの合否判定領域を多段に設けるマルチステージ方式が考えられている.しかしながらこの方式は,たとえアイテムの寿命分布に指数分布を仮定したとしても,ロット合格確率の表現が複雑で,目標とする検査方式を得ることは一般には困難である.本論文では,マルチステージ検査方式において,判定保留となったときに,故障した試験サンプルをすべて取り替える方式を採用することにより,合格確率を陽な形式で与えた.その結果,マルチステージ検査方式の容易な設計を可能とした.
著者
深江 誠司 相川 直幸 佐藤 正光
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.80, no.7, pp.1192-1196, 1997-07-25
被引用文献数
31

逐次射影法は, 周波数領域や時間領域に制約のある実係数直線位相FIRフィルタの設計問題のような実近似問題を解くことができる. しかしながら, インパルス応答に対称性のない実係数FIRフィルタや複素係数FIRフィルタの設計問題は複素近似問題となり, 従来提案されている逐次射影法では直接解くことができない. そこで本論文では複素近似問題をそれと等価な実近似問題に変換することにより, 逐次射影法を用いてそれらのフィルタを設計する方法を提案する.
著者
尾知 博 貴家 仁志 山田 洋士 高良 吉立 神林 紀嘉
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.810-817, 1993-06-25
被引用文献数
14

最近,フィルタバンクを用いたサブバンド適応フィルタが研究されている.しかし,エリアジングをキャンセルして完全再構成を実現している通常のフィルタバンクを用いると,エリアジングやサブバンド間のクロス項の影響を回避できないという問題がある.この問題を回避するために,離散周波数点でエリアジングの影響を回避し,クロス成分をもたない周波数サンプリングフィルタ(FSF)バンクが提案されている.本論文では,最初にFSFバンクのDFT(discrete Fourier transform)による効率的な実現法を示す.次に提案した実現法によるフィルタバンクを用いた,周波数サンプリング定理に基づく適応フィルタを提案する.提案した適応フィルタは,サブバンド間のクロス成分およびエリアジングの影響を受けていない,離散周波数における周波数サンプル値による未知システムの同定を実現している.更に,周波数領域適応アルゴリズムと提案したアルゴリズムの比較を行い,離散周波数点における情報から未知システムを推定する本手法の有効性を示す.
著者
上田 哲史 川上 博
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.1450-1456, 1993-10-25
被引用文献数
6

ジョセフソン接合素子を含む回路の回路方程式や,回転方向に弾性復元力の働く振り子の運動方程式などは,状態に関する三角関数の項と線形項の和を含んだ2階の常微分方程式で記述される.このような力学系は,平衡点の数がパラメータの値によって変わり,平衡点の位置に関して周期性をもたなくなるため解析が難しい.本論文では,この力学系の例としてジョセフソン接合素子を含む回路を取り上げ,平衡点の接線分岐による分類および相平面上に生じるヘテロクリニック軌道に着目した解析の結果を述べる.ヘテロクリニック軌道は,その構造不安定性により,相平面上での大域的な分岐を表す.この軌道の生じるパラメータを分岐の値として,パラメータ平面で分岐集合を求めた.その際,分岐曲線によって囲まれる一つのパラメータ領域に,唯一決まるまつわり数を定義した.これは,軌道の相平面での回転の指標として用いることができ,更に分岐集合と組み合わせることによって,安定平衡点の引力圏の分類を可能にした.
著者
土肥 正 海生 直人 尾崎 俊治
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.213-220, 1997-01-25
被引用文献数
2 1

データフロッピーディスクの最適1/Nバックアップ手続きに対する一般的方法について議論する. 最初に障害発生時間が一般分布に従う場合において, 期待費用関数を最小にする最適バックアップ方策が唯一存在するための条件を解析的に導出する. 次に障害発生時間分布が未知の場合において, 故障データから直接最適バックアップ方策を推定する2種類のノンパラメトリックな方法を提案する. 最後に数値例において, 推定されたバックアップ方策の漸近的な性質を比較し, 故障データ数と最適方策の推定精度との関係について調査する.